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「こっち」
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教育実習に来ていた小学校で、受け持つ授業の準備がはかどら無かった私は、夜遅くまでパソコンと睨めっこしていた。
気付けば職員室には私一人。
窓の外は暗闇に包まれている。
「そろそろ帰ろうかな♪」
一つ伸びをして、職員室の戸締りを始める。
と、何気に窓の外に目を向けると、向こうのに見える、旧校舎の二階の窓に人影が見えた気がした。
消灯されていて、ハッキリ見えなかったけれど、あの小さな人影は…。
「もしかすると、生徒かも」
忘れ物を取りに来たとか、もしかすると肝試し、とか…。
「とにかく念の為、確認した方が良さそうね」
消灯された暗い廊下を、窓から差し込む月明かりを頼りに向かう。
正直、暗く人気の無い校舎は、気味が悪かった。
ようやく、人影を見たあたりにたどり着く。
でも…。
そこには人の気配は無かった。
「誰かいるの?」
そう声を掛けて辺りを見回したけれど、やっぱり誰も居ない。
キャハハハ♪
と、その時、微かな笑い声。
咄嗟に、声の方を向くと、廊下を走り去る小さな人影。
そして、
「こっち♪」
と子供の声が、月明かりの廊下に小さく響く。
イタズラか鬼ごっこのつもりなのかしら…。
叱るかどうかはともかく、捕まえて親御さんに連絡しなくちゃ!
「待ちなさい!」
と、後を追う。
前を走る影との距離は中々縮まらない。
時折、
「こっち♪」
という声。
「完全にバカにされてるわ…」
でも、ようやく、追いついて来た。
前を走る影は、女の子だと解る。
「ソッチは行き止まりよ! いい加減に止まりなさい!」
すると、少女は諦めた様に足を止める。
「ダメでしょ、こんな時間に学校に忍び込んじゃ!」
そして、名前と連絡先を聴こうと、歩み寄ろうとしたその時、少女がゆっくりとこっちを振り向く。
月明かりが、その顔を照らす。
「きゃっ!」
私は思わず小さな悲鳴を上げた。
少女の顔は、石膏の様に白く、漆黒の眼窩。
そして、苦悶に喘ぐ歪んだ口元…。
私は恐怖のあまり、硬直した。
少女の姿をしたソレが、ゆっくりと近付いて来る。
と、その時、右腕の袖を軽く引っ張るような感触。
「こっち!」
その声に、フッと硬直が解けて振り返ると、少年の走る後姿。
「こっち!」
少年は振り返らずに手招きする。
考える余裕が無かった私は、迷わず少年を追う様に走り出した。
背後からは、追って来る足音は聞こえなかったけれど、真後ろに何か居る気配が消えない。
不意に少年が、理科準備室のドアを開け中に飛び込む。
私もそれに続いて、急いでドアを閉めた。
それと無く、外を伺う様に聞き耳をたてる。
外に誰かが居る気配は無い。
「はぁ~…」
と、一つため息をつく。
ふと、少し、考える余裕が出来た。
突然の事に驚かされたけど、冷静に成って考えれば、あの少女が幽霊とか妖怪とか、そういう得体の知れないモノと考えるより、子供のたちの悪いイタズラって考えた方が自然だわ。
だとすると…。
「ねえ、どうしてこんなイタズラをするの?」
と、今も背中を向ける少年に声を掛けた。
アハハハハ♪
微かに少年の笑い声が聞こえる。
全く、バカにしているわ!
「いい加減にしなさい!」
と、少し声を荒げると、少年がゆっくりとこっちを向く。
「ヒッ!!」
少年の顔もまた、石膏の様に白く、そして、白濁した目と血に塗れた異様な形相…。
アハハハハ♪
と感情の無い笑い声を上げながら、ゆっくりと近付いて来る。
さらに、背後の扉が開く気配。
アハハハハ♪
キャハハハ♪
「キャーーーーー!」
私は恐怖のあまり、悲鳴を上げしゃがみ込んだ。
「あ、あのー、どうかしましたか?」
と、男性の声が聞こえる。
私は恐る恐る顔を上げると、見知らぬ男性が懐中電灯を手に立っていた。
ゆっくりと、周りを見回すが、あの少年も少女も、居ない。
男性の手を借りてどうにか立ち上がる。
少し落ち着いて男性を見ると、作業着姿をしている。
多分、用務員さんかしら。
「いったい、こんな時間に、どうされたんですか?」
と再度尋ねる彼に、少し息を整え、ゆっくりと今までの話をする。
「ハハハ、成るほど、それは生徒のイタズラでしょう。まあ、田舎の学校ですからやんちゃな子も多くてね、全く困ったもんだ」
「でも、私が見たあれは…」
「まあ、ここの怪談話に、戦争で亡くなった生徒の幽霊が出るとかそういう話も無いわけじゃないですが…。まあ、コワイおもいもされたようですし、先生は今日のところはお帰り下さい。もう逃げたでしょうが、万が一、生徒がまだ残ってる様でしたら私が注意しときますんで」
憔悴した私は、その言葉に甘えることにした。
翌日の朝、ろくに眠れないまま職員室の自分の席に着く。
「ねえ、アナタ大丈夫? ずいぶん顔色悪いわよ」
受け持つクラスの学級担任が、そう声を掛けてくれた。
「ええ、昨日はあまり寝れなかったもので…」
「寝れなかったって、何か有ったの?」
「ええ、実は…」
何となく促されるまま、昨夜の出来事を掻い摘んで話した。
「あははは♪ それは随分たちの悪いイタズラされちゃったわね」
昨日の用務員さんも、先生もそう言うけれど、正直、あんな特殊メイク、子供達にできるとは思えない…。
「でも、チョットおかしいわね、その話」
「じゃあ、やっぱりあの子供達って…」
「そうじゃ無いわ。その用務員さんよ。ここの用務員をされてた斎藤さんは、先月、事故で亡くなって、まだ新しい人は決まって無かった筈なんだけど…」
-------------------------------------------------------
動画のURLこちら:
https://youtu.be/HkY4_w6YPvY
気付けば職員室には私一人。
窓の外は暗闇に包まれている。
「そろそろ帰ろうかな♪」
一つ伸びをして、職員室の戸締りを始める。
と、何気に窓の外に目を向けると、向こうのに見える、旧校舎の二階の窓に人影が見えた気がした。
消灯されていて、ハッキリ見えなかったけれど、あの小さな人影は…。
「もしかすると、生徒かも」
忘れ物を取りに来たとか、もしかすると肝試し、とか…。
「とにかく念の為、確認した方が良さそうね」
消灯された暗い廊下を、窓から差し込む月明かりを頼りに向かう。
正直、暗く人気の無い校舎は、気味が悪かった。
ようやく、人影を見たあたりにたどり着く。
でも…。
そこには人の気配は無かった。
「誰かいるの?」
そう声を掛けて辺りを見回したけれど、やっぱり誰も居ない。
キャハハハ♪
と、その時、微かな笑い声。
咄嗟に、声の方を向くと、廊下を走り去る小さな人影。
そして、
「こっち♪」
と子供の声が、月明かりの廊下に小さく響く。
イタズラか鬼ごっこのつもりなのかしら…。
叱るかどうかはともかく、捕まえて親御さんに連絡しなくちゃ!
「待ちなさい!」
と、後を追う。
前を走る影との距離は中々縮まらない。
時折、
「こっち♪」
という声。
「完全にバカにされてるわ…」
でも、ようやく、追いついて来た。
前を走る影は、女の子だと解る。
「ソッチは行き止まりよ! いい加減に止まりなさい!」
すると、少女は諦めた様に足を止める。
「ダメでしょ、こんな時間に学校に忍び込んじゃ!」
そして、名前と連絡先を聴こうと、歩み寄ろうとしたその時、少女がゆっくりとこっちを振り向く。
月明かりが、その顔を照らす。
「きゃっ!」
私は思わず小さな悲鳴を上げた。
少女の顔は、石膏の様に白く、漆黒の眼窩。
そして、苦悶に喘ぐ歪んだ口元…。
私は恐怖のあまり、硬直した。
少女の姿をしたソレが、ゆっくりと近付いて来る。
と、その時、右腕の袖を軽く引っ張るような感触。
「こっち!」
その声に、フッと硬直が解けて振り返ると、少年の走る後姿。
「こっち!」
少年は振り返らずに手招きする。
考える余裕が無かった私は、迷わず少年を追う様に走り出した。
背後からは、追って来る足音は聞こえなかったけれど、真後ろに何か居る気配が消えない。
不意に少年が、理科準備室のドアを開け中に飛び込む。
私もそれに続いて、急いでドアを閉めた。
それと無く、外を伺う様に聞き耳をたてる。
外に誰かが居る気配は無い。
「はぁ~…」
と、一つため息をつく。
ふと、少し、考える余裕が出来た。
突然の事に驚かされたけど、冷静に成って考えれば、あの少女が幽霊とか妖怪とか、そういう得体の知れないモノと考えるより、子供のたちの悪いイタズラって考えた方が自然だわ。
だとすると…。
「ねえ、どうしてこんなイタズラをするの?」
と、今も背中を向ける少年に声を掛けた。
アハハハハ♪
微かに少年の笑い声が聞こえる。
全く、バカにしているわ!
「いい加減にしなさい!」
と、少し声を荒げると、少年がゆっくりとこっちを向く。
「ヒッ!!」
少年の顔もまた、石膏の様に白く、そして、白濁した目と血に塗れた異様な形相…。
アハハハハ♪
と感情の無い笑い声を上げながら、ゆっくりと近付いて来る。
さらに、背後の扉が開く気配。
アハハハハ♪
キャハハハ♪
「キャーーーーー!」
私は恐怖のあまり、悲鳴を上げしゃがみ込んだ。
「あ、あのー、どうかしましたか?」
と、男性の声が聞こえる。
私は恐る恐る顔を上げると、見知らぬ男性が懐中電灯を手に立っていた。
ゆっくりと、周りを見回すが、あの少年も少女も、居ない。
男性の手を借りてどうにか立ち上がる。
少し落ち着いて男性を見ると、作業着姿をしている。
多分、用務員さんかしら。
「いったい、こんな時間に、どうされたんですか?」
と再度尋ねる彼に、少し息を整え、ゆっくりと今までの話をする。
「ハハハ、成るほど、それは生徒のイタズラでしょう。まあ、田舎の学校ですからやんちゃな子も多くてね、全く困ったもんだ」
「でも、私が見たあれは…」
「まあ、ここの怪談話に、戦争で亡くなった生徒の幽霊が出るとかそういう話も無いわけじゃないですが…。まあ、コワイおもいもされたようですし、先生は今日のところはお帰り下さい。もう逃げたでしょうが、万が一、生徒がまだ残ってる様でしたら私が注意しときますんで」
憔悴した私は、その言葉に甘えることにした。
翌日の朝、ろくに眠れないまま職員室の自分の席に着く。
「ねえ、アナタ大丈夫? ずいぶん顔色悪いわよ」
受け持つクラスの学級担任が、そう声を掛けてくれた。
「ええ、昨日はあまり寝れなかったもので…」
「寝れなかったって、何か有ったの?」
「ええ、実は…」
何となく促されるまま、昨夜の出来事を掻い摘んで話した。
「あははは♪ それは随分たちの悪いイタズラされちゃったわね」
昨日の用務員さんも、先生もそう言うけれど、正直、あんな特殊メイク、子供達にできるとは思えない…。
「でも、チョットおかしいわね、その話」
「じゃあ、やっぱりあの子供達って…」
「そうじゃ無いわ。その用務員さんよ。ここの用務員をされてた斎藤さんは、先月、事故で亡くなって、まだ新しい人は決まって無かった筈なんだけど…」
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動画のURLこちら:
https://youtu.be/HkY4_w6YPvY
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