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思いがけぬ縁談
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「テンペルホフ閣下、お久しぶりでございます」
「うむ、久しいな。ポラーブの賊徒の殲滅に対して、陛下は貴殿の報告書を喜んで閲覧し、金にモノを言わせた騎士道も何もない戦いに苦笑いしておったぞ。私としては、砲兵の理想的な使い方をしていると感じたから気にしないでくれ。
それと、公式ではない場では、前のように先輩と呼んでも構わないのだぞ?」
実は、俺もテンペルホフも同じく七年戦争で貴族号を手に入れたという経緯がある。兵学校の先達と言ったが、それは正確ではなく…まぁもっとめんどくさいことを言うと、当時の数学は一種の軍事技術に等しく、俺は彼の論文を引用して砲兵に付いて論じたこともあり。また、兵学校という存在自体が、砲兵や騎兵将校などを育成する関係上、そう言った数学学校などの人材を呼んでくることもあり、俺と彼は交流したこともあるのだ。
ちなみに、俺の論文は半ばSF小説と化していることもあり、軽い閲覧注意がつけられているだけであるが、テンペルホフ閣下の砲兵運用に関する論文は軍事機密に関わるほどの価値を大王から見出されたが故に禁書指定を受けるほどの代物であった。
そう言った意味では、俺は兵学校の先達と呼んだのは正解ではないが、間違いではない…と、史実の経歴の参照所を間違えてしまった作者のポカの言い訳にさせていただきたい。
俺は兵学校(軍大学)に進学するには少々若すぎたわけだが、彼は砲兵の運用に関する数学的知見を得るために講義を開いてくださったこともあり、その時に論文の参考にさせていただいたこともある。
そう言った意味で、俺はテンペルホフ閣下に頭を下げることしかできない先輩であり、助けてくれた軍人であり、教授でもある。
「ハッ。あくまで此度は砲兵の演習も兼ねた演習のため故。本来ならば死者を0にしたかったのですが…このような小競り合いで死なせてしまい、痛恨の限りです…テンペルホフ先輩ならばもっと巧みに砲兵を使いこなせると思うのですが」
「グラウスは生真面目であるな。しかし、君は全力を尽くし計略を立て、兵はそれに応えた。私から見れば、君の部隊の死傷者は非常に少ない。それを誇りたまえ。
それに…ヴァルハラに旅立った彼らは雄々しく戦ったのであろう?きっと、手厚く遇されていることだろう。グラウス、君は理想的な戦い方で、部下を雄々しく戦わせたのだ。むしろ、誇ってやらねば、旅立っていった部下たちに申し訳ないだろう?自らの不手際で殺してしまったと嘆くより、感謝された方が嬉しいものだ」
成る程、確かに言われたとおりだ。テンペルホフ閣下に御礼を言いながら、彼らに報いるためにも戦い続けますと宣言した。
「ふむ、思ったより落ち込んでなくてよかったというべきだね。そうだ、私から君に是非とも頼みたいことがあってな」
「何なりと」
「ふむ、君には申し訳ないのだが。私の親戚の娘を貰い受けてくれないだろうか?勿論、貴族同士の婚姻となるよう、彼女を養子に取ってからの話になるが…」
「……!?」
テンペルホフは1734年生まれであり、それはこの世界でも変わりなく。今は30と言ったところだろう。勿論、すでに婚姻を済ませており、1人の息子と娘を抱える家族であり、息子はすでに10に近く、娘は7とのことだ。
しかし、7の娘を15になるまで、つまりは8年間待たせて居れば俺はテンペルホフの年齢を超えてしまう。そのため、親戚の20近い娘を引き取り、これを以てテンペルホフと俺に姻戚関係を成立させ、いわば優秀な軍人の家を何が何でも残す心づもりのようだ。
「国王陛下から、信頼できる者と婚姻してもらえると有難いということで、気の合いそうな私の家と君が友誼を結ぶことを陛下は期待しておられてな…苦肉の策ではあるが」
正直な話、渡りに船な話だろう。俺の未来の子孫たちは、恐らくはユンカーとして名を残すことになるだろう。
しかし、史実のことを考えると、帝政崩壊後に極貧生活を送ったり、ナチに利用され、最終的にその利権を《ドイツ民主共和国》によって…この世界なら、ライヒ民主共和国とでもいおうか、それによってユンカーたちの土地を失う可能性すらあり得る。
もし、世界が史実通りに転がるのであるとして、俺がそれを覆すことができるのであれば、テンペルホフとの家系との繋がりは是非ともほしい所だ。《些細な抵抗》で、今俺が生きている祖国に対する恩返しができるかもしれないのだから。
「承知いたしました、テンペルホフ閣下。父上もようやく安堵してくださると思います」
「婚約者に操を立てることは素晴らしいことだ。それだけ、君が信頼できるということだ。しかし、少ししか年が離れていない君を義息と呼ぶのか…少し、いやかなり困惑するな」
「今からでも義父様とお呼びしましょうか?」
「勘弁してくれ。君のような優秀過ぎる息子を持ったら父としての威厳が暴落してしまうじゃないか。軍人トークを子供にせがまれたらどうなる?私の威厳は暴落だ」
互いに苦笑し、その後、少しばかり軍人らしい下世話なジョークを互いに飛ばし合い、互いにガッシリと握手を交わす。
「では、そのように国王陛下にお伝えし、正式に段取りを組むとしよう。少しばかり時間はかかるが、御容赦願いたい…未来の義息よ」
「承知しました、テンペルホフ閣下。私としても、閣下を早く義父様とお呼びできる日が待ち遠しくて仕方ありません。では、詳細はまた後日ということで」
そうして、テンペルホフとユンガーの縁談が内密に成立することになり、実際にこの縁談によって、二百年後のライヒ帝国やハプストリア帝国のミッテルオイローパ同盟は、史上稀にみる規模の大戦争に勝利することになるのだが…それはまた、別の話である。
「うむ、久しいな。ポラーブの賊徒の殲滅に対して、陛下は貴殿の報告書を喜んで閲覧し、金にモノを言わせた騎士道も何もない戦いに苦笑いしておったぞ。私としては、砲兵の理想的な使い方をしていると感じたから気にしないでくれ。
それと、公式ではない場では、前のように先輩と呼んでも構わないのだぞ?」
実は、俺もテンペルホフも同じく七年戦争で貴族号を手に入れたという経緯がある。兵学校の先達と言ったが、それは正確ではなく…まぁもっとめんどくさいことを言うと、当時の数学は一種の軍事技術に等しく、俺は彼の論文を引用して砲兵に付いて論じたこともあり。また、兵学校という存在自体が、砲兵や騎兵将校などを育成する関係上、そう言った数学学校などの人材を呼んでくることもあり、俺と彼は交流したこともあるのだ。
ちなみに、俺の論文は半ばSF小説と化していることもあり、軽い閲覧注意がつけられているだけであるが、テンペルホフ閣下の砲兵運用に関する論文は軍事機密に関わるほどの価値を大王から見出されたが故に禁書指定を受けるほどの代物であった。
そう言った意味では、俺は兵学校の先達と呼んだのは正解ではないが、間違いではない…と、史実の経歴の参照所を間違えてしまった作者のポカの言い訳にさせていただきたい。
俺は兵学校(軍大学)に進学するには少々若すぎたわけだが、彼は砲兵の運用に関する数学的知見を得るために講義を開いてくださったこともあり、その時に論文の参考にさせていただいたこともある。
そう言った意味で、俺はテンペルホフ閣下に頭を下げることしかできない先輩であり、助けてくれた軍人であり、教授でもある。
「ハッ。あくまで此度は砲兵の演習も兼ねた演習のため故。本来ならば死者を0にしたかったのですが…このような小競り合いで死なせてしまい、痛恨の限りです…テンペルホフ先輩ならばもっと巧みに砲兵を使いこなせると思うのですが」
「グラウスは生真面目であるな。しかし、君は全力を尽くし計略を立て、兵はそれに応えた。私から見れば、君の部隊の死傷者は非常に少ない。それを誇りたまえ。
それに…ヴァルハラに旅立った彼らは雄々しく戦ったのであろう?きっと、手厚く遇されていることだろう。グラウス、君は理想的な戦い方で、部下を雄々しく戦わせたのだ。むしろ、誇ってやらねば、旅立っていった部下たちに申し訳ないだろう?自らの不手際で殺してしまったと嘆くより、感謝された方が嬉しいものだ」
成る程、確かに言われたとおりだ。テンペルホフ閣下に御礼を言いながら、彼らに報いるためにも戦い続けますと宣言した。
「ふむ、思ったより落ち込んでなくてよかったというべきだね。そうだ、私から君に是非とも頼みたいことがあってな」
「何なりと」
「ふむ、君には申し訳ないのだが。私の親戚の娘を貰い受けてくれないだろうか?勿論、貴族同士の婚姻となるよう、彼女を養子に取ってからの話になるが…」
「……!?」
テンペルホフは1734年生まれであり、それはこの世界でも変わりなく。今は30と言ったところだろう。勿論、すでに婚姻を済ませており、1人の息子と娘を抱える家族であり、息子はすでに10に近く、娘は7とのことだ。
しかし、7の娘を15になるまで、つまりは8年間待たせて居れば俺はテンペルホフの年齢を超えてしまう。そのため、親戚の20近い娘を引き取り、これを以てテンペルホフと俺に姻戚関係を成立させ、いわば優秀な軍人の家を何が何でも残す心づもりのようだ。
「国王陛下から、信頼できる者と婚姻してもらえると有難いということで、気の合いそうな私の家と君が友誼を結ぶことを陛下は期待しておられてな…苦肉の策ではあるが」
正直な話、渡りに船な話だろう。俺の未来の子孫たちは、恐らくはユンカーとして名を残すことになるだろう。
しかし、史実のことを考えると、帝政崩壊後に極貧生活を送ったり、ナチに利用され、最終的にその利権を《ドイツ民主共和国》によって…この世界なら、ライヒ民主共和国とでもいおうか、それによってユンカーたちの土地を失う可能性すらあり得る。
もし、世界が史実通りに転がるのであるとして、俺がそれを覆すことができるのであれば、テンペルホフとの家系との繋がりは是非ともほしい所だ。《些細な抵抗》で、今俺が生きている祖国に対する恩返しができるかもしれないのだから。
「承知いたしました、テンペルホフ閣下。父上もようやく安堵してくださると思います」
「婚約者に操を立てることは素晴らしいことだ。それだけ、君が信頼できるということだ。しかし、少ししか年が離れていない君を義息と呼ぶのか…少し、いやかなり困惑するな」
「今からでも義父様とお呼びしましょうか?」
「勘弁してくれ。君のような優秀過ぎる息子を持ったら父としての威厳が暴落してしまうじゃないか。軍人トークを子供にせがまれたらどうなる?私の威厳は暴落だ」
互いに苦笑し、その後、少しばかり軍人らしい下世話なジョークを互いに飛ばし合い、互いにガッシリと握手を交わす。
「では、そのように国王陛下にお伝えし、正式に段取りを組むとしよう。少しばかり時間はかかるが、御容赦願いたい…未来の義息よ」
「承知しました、テンペルホフ閣下。私としても、閣下を早く義父様とお呼びできる日が待ち遠しくて仕方ありません。では、詳細はまた後日ということで」
そうして、テンペルホフとユンガーの縁談が内密に成立することになり、実際にこの縁談によって、二百年後のライヒ帝国やハプストリア帝国のミッテルオイローパ同盟は、史上稀にみる規模の大戦争に勝利することになるのだが…それはまた、別の話である。
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