近世ファンタジー世界を戦い抜け!

海原 白夜

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旅団の再編成

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 さて、二週間ヴァルリン王宮に拘束され、冬風が吹き荒れる中旅団司令部に帰還するまで一ヶ月もかかってしまった。ただの旅団長がなんで政治家と顔を突き合わせてポラーブ立憲基本法なんて法典を整備することになるのか、政治家たちはどうして俺という軍人を受け入れてマトモに政治談議してくれているのか、小一時間ほどツッコミたい所はあるが、それはさておき。

「帰ってきた…帰ってこれた…俺はあの魔境から逃げ出せたんだッ!」
 男爵とか伯爵とか平然と歩き回り、俺に嫌味を叩き込んでくる魔境からようやく脱出した俺は、開放感から思わず叫んでしまった。

 そうして、ようやく旅団司令部に戻ってこれた俺はゆっくりと戦と政治談議で疲れた脳と体をリラックス…なんていわけにいかず、書類仕事に邁進しなければいけなくなった。

 旅団の兵士たちの2割が死傷したことで、俺たちは事実上の作戦実行の力量を失ったと東部方面軍からは判断され、駐屯地にて部隊の拡充と最編成が開始されたのだ。
 元々、お飾り旅団とされていたのがターネンベルクの戦いで有用性を見出されたこともあり、どうやら本格的に魔法使いたちの徴兵と編制を開始すると書類で通達して、内心でやっぱそうだよなぁ、やる気なかったもんなぁと思いながら、送られてきた新兵たちを睥睨し…練度はやっぱり新兵相応で、ガックリとしながらも兵力の再編成を開始する。

 1000名が、とりあえず1500名に。これでも旅団規模というには全く足りないが、急に兵力を二倍三倍にしたら、今度はウチらの参謀や書類仕事をする数少ない官僚たちが血を吐くことになる。
 しかも、帳簿の上で単純に500人増えただけではない。可能な限り、食い扶持を残すためにも傷病兵100名+戦争病PTSDになってしまった数十名を、今後拡大し続けるであろう軍規模を整理するための官僚機構として再編成。それに伴って、新たに東部方面軍にそう言った書類を整理するための教官枠を招致してもらったり。
 流石に1500規模になるとあの砦モドキじゃ使いものにならないから、東部方面軍から予算を申請して、利便性か高い川沿いに新しい駐屯地を設営。
 更に、拡大した軍規模を俺たちだけで処理するのは無理なため、形だけでも分業化を成し遂げるべく、新階級として新しく大隊長を3つ設定し、3名と中隊長たちで1500名の兵士を統率させることにした。
 更に、個人的に旅団内部で最も学があるレヴィーネ中隊長を秘書として昇進させる。

 こうして、軍隊というのは莫大な書類仕事によって構築される。俺のような小さな旅団でもそうなのだ、まさに強大な規模を誇る東部方面軍、最も兵力が多い西部方面軍、そしてそれらを管轄する中央司令部の書類の山は推して知るべし、だ。
 
「フリードリヒ、ウチに左遷されて大丈夫か?」
「むしろ僕が志願したのさ。この魔法使い旅団の潜在能力は高いからね。その方が僕も勲章に預かれるってものだろう?」
 
 人好きのする良い笑みを浮かべ、そう述べる魔法使い旅団の騎兵大隊長を務めることになったフリードリヒは、そう言って笑った。
 と、いうのも。東部方面軍曰く、偵察部隊としての騎兵部隊を設立するべきだという結論に至ったらしい。各旅団には騎兵が2個大隊配備されることが決定したのだ。
 
 …後、ポラーブに残った騎兵たちを収容する目的もあるという。

 ヴァルト方面にて、ヴェルーシ帝国と国境を接するようになった。今のピエトール皇帝が非常に親ヴァロイセン的なため問題ないが…それで国防を怠れるほど、我らヴァロイセン王国はたるんでいないのだ。

 ポラーブ立憲王国は、未だに経済はマヒした状態だ。
 自分が設定した多数決を前提に、貴族共和制を改良して設立した議会セイムは、現状戦後復興を目的に大規模な開発を開始することになっており。
 そのために軍事費を削減、生き残ったポラーブ騎兵の多くが解雇される事態を招いた…そして、それを東部方面軍が、馬賊化を恐れて雇用することになったわけだ。

 そして、それだけの騎兵を抱え込むことになった東部方面軍の仮想敵はポラーブからヴェルーシに変更され、大規模な拡充が認められることになった。
 俺たち魔法旅団にはターネンベルクの戦いの戦訓…いわば、機動防御的に使われた騎兵の新しい運用法を活かして新しい戦法を確立せよと無茶ぶりをされ、2個騎兵大隊…おおよそ50騎の騎兵が割り振られることになる。
 清々しいほどの無茶ぶりと過剰評価のオンパレードで、俺の胃は爆発する寸前だ。

 政治家たちも、高級軍人たちも、俺の能力をどうも見誤っているような気がしてならない。俺は去年までは中隊長だったんだぞ?それがあれよあれよと旅団長に左遷され、そうなったら今度は追放に使われていたハコモノ旅団をガキの旅団として再編する羽目になったりもう滅茶苦茶だ。

「何故だ、俺は木端な準男爵だぞ!?」
「そういうな、グラウス旅団長。あの練度の兵で見事に勝利に導いた貴方の実力なら、この旅団をきっと精鋭に育て上げられるだろう」
 そうして、ヴァロイセンに亡命した(ことになり)最終的にポラーブ騎兵を運用することになったヤン元旅団長…今はピウスツキ=フォン=スヴェスキだったか?
 俺と同じく土地なしユンカーに見事降格した所を王宮で騎兵部隊長として引き抜いた彼はそう宣う。
 こいつは領主としても、政治家としてもダメダメであるが。一方で軍人としてはかなり優秀だ。その才能を飼い殺しにするのは惜しいと言って《ターネンベルクの報酬はこいつにする!》と政治家が俺の無茶ぶりで白目をむく中、堂々と持ち帰ったのだ。

「違うんだよ。俺が危惧してるのは権力闘争なんだよ。第八師団長とかガチギレまったなしだぞ?あいつ一応なんだぞ、このままだと俺が難癖つけて粛清されるんだ!
 ってかポラーブ立憲基本法の草案作っちゃったせいで政治家どもからも目ぇつけられてんだよ、ふざけんな俺を昇格させようとすんじゃねぇよ!?このままだと色んな方面から暗殺者が送られるッ…!」

 半狂乱の有様になっているグラウスを見ながら(国家権力者たちから)モテる奴は大変だなぁとフリードリヒとピウスツキは思いながら、書類仕事の山の処理にかかる。

 この旅団は根本的な官僚不足のため、こうして貴族階級も書類仕事に取り組まなければ生きていけないのだ。
 それでも、戦いや行進から離れた平和な拠点暮らしをエンジョイしていた中……

「……父上に母上も!?」

 現在のユンガー家の家長を務める、この世界の父さんが来訪してきたのだった。
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