近世ファンタジー世界を戦い抜け!

海原 白夜

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家族との再会

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「失礼します、ユンガー閣下。閣下の御両親が面会したいとのことです」
「父上と母上が…?分かった、通してくれ」

 グラウス=リッター=フォン=ユンガーの父親であり、ユンガー家の家長を務めているアルブレヒト=フォン=ユンガー。転生先の俺から言えば、俺には勿体ないほどの器量が良い父親だと言えるだろう。
 レヴィーネが引率し、俺の部屋である執務室に入ってきた。

「お久しぶりです、父上に母上。忙しくて迎えられず申し訳ありません」
 実際に、俺とフリードリヒ、更にピウスツキの前に本当に小山を形成している書類の山を見て、父上と母上は「仕方ないなぁ」と悟ったようだ。

 家長に対してかなり失礼な態度だが、現に今もこうして俺は書類を確認し、決裁しながら作業をしている。そうでもしないと、俺が夜に眠れなくなるのだ。

「忙しい中押しかけてきて悪かったな、グラウス。ターネンベルクの戦いで活躍したことについて褒めたいと思ってな。ヴァロイセン中でお前の武名が轟いているんだ。
 お抱えの商人から興奮気味にお前の武勇伝を語られて驚いたぞ?お前の家長と付き合ってるだけで名が売れるってことだな、結構家計が楽になったんだ」
「王国に奉仕するのが騎士の務め故、そして王国貴族としての責務を果たしたのみです。ご安心ください父上。家長を乗っ取り、準男爵の地位を奪うつもりはありませんから」

 面倒くさい話だが、俺は準男爵家の所属であるが、だからと言って準男爵というわけではない。貴族性を名乗ることは許されているが、本質的に階級は存在しない。
 しかし、俺は最下級称号ではあるが騎士という称号をその身に帯びている。その意味が結構大きいのだ。家を継がずとも、分家を立てることができるほどの権力を持っているという証左でもあり、俺が伝統に頼らずとも生きていけることの証明になるのだから。
 だからこそ、俺が父上を病死させたり、まぁ後ろ暗い手段を取って強引に準男爵の称号を帯びることに対する正当性が多少はあるわけで。家父長制、長男継承がデフォルトと言っても、それでも実力が評価されるわけだ。

 十分に実現性がある政治的なジョークを飛ばすと、何故か皆がピシリと固まり…父上は数秒後、心底おかしそうにケラケラと笑う。

「ブッハ!ス、スマン。質の悪いジョークはやめろ。お前は苦労を背負うのが一番嫌いだったろうが!」
「ヒトを試すみたいな悪い冗談が好きよねぇ。あなたに似たのかしら?お母さんそんな子に育てたつもりはありませんよ?」

 父上は人目もはばからず爆笑し、母上は心底面白そうにクスクスと笑う。
 兄弟はともかくとして、父上と母上は俺に野心がないのを知っている。だからこそ、こうして平気で心にも思っていない野心がジョークになるのだ。

「フリードリヒにピウスツキ。紹介するよ…アルブレヒト=フォン=ユンガー準男爵閣下、俺の父上だ」
「お初にお目にかかります、アルブレヒト=フォン=ユンガー閣下。私はフリードリヒ=フォン=ハウサーと申します。閣下にお会いできて光栄であります」
「ピウスツキ=フォン=スヴェスキと申します。準男爵閣下、お会いできて光栄です」

 どうやら、俺の親がとても良い人だというのは見てわかったようで、躊躇なく父上が差し出してきたその手を握る二人。

「あぁ。色々と個性的な子だろう。よろしくやってくれ。こいつは頭の良いバカだからな。助けてくれると助かる」
「失礼ですね、頭の使い方が上手だと言ってください」
「いや、多分逆だと思うわ。頭が良いのに使い方はへたっぴなのよね~」

 家族でワチャワチャしている。結構懐かしい時間だ。俺は14で軍学校に通ってたからなぁ…あえて青春を過ごさせてくれているのだろう、本当にかけがえのない家族だ。

「……良い親だね」「羨ましいくらいだな」
 フリードリヒもピウスツキも羨ましそうな表情で我が家族を見ている。そうだそうだ、もっと羨ましがると良い。ウチの父さんと母さんは最高やぞ!
 体罰が当たり前の世界で体罰なんて選択肢が出てこないくらいには善性で溢れてる上に、俺の魔法使い雇って収穫量増やします宣言に《よしいってこーい!尻拭いは大人の仕事だからな!》ってしてくれるくらいには良い人たちだ。
  まぁあれよ。雷魔法を使って空気の窒素を土に叩き込んで、それで収穫量を増やしたんだ。窒素って肥料になるんだぞ?

 ちゃんと収穫量が1.5倍に増えたらその分を俺のキャリアのために積み重ねてたからな。マジで良い親だよ…最終的に教師たちが学費をカンパしてくれたから、その必要はなくなったけど。
 前世と違って、今世の俺はマジで人に恵まれて生きてこれている。世界は戦争真っ盛りなクソだが、それでも家族とか、教師とか、友人とかには恵まれて生きてこれているんだ。

「……ああ、スマン忘れてた。国王陛下からお前宛てに手紙が届いてな」
 一応は、親が最初に確認しなければいけない仕事だ。こうした国が絡む面倒な書類は、俺の庇護者である準男爵から経由されないといけない仕組みだ。一応、俺たちは封建領主って扱いだからな…兵隊王時代にそう言った、封建領主の特権は徹底的に叩き潰されて、今や名目上のモノだけど。

「……国王陛下から、褒賞として、ヴァルト総督府のリヴォニア領に1000エーカーの農地が与えられることになっている。勿論、扱いは下賜ということになるが、称号は騎士号から変更はナシだ。つまり封建契約はない…この意味が分かるな?」
「ファッ!?」

 封建契約にない農地ということは、つまりは私有農地ということになる。つまりは、最低限の税金を納めること以外1000エーカーの農地の収入がそのまま俺の収入になるワケだ。
 封建領主には、主君に契約内容次第にもよるが、領地を統治する責任と一緒に上納金を支払う必要があるわけで。騎士の俺には当然封建契約なんぞなく。

 500エーカーがどれくらいになるかというと、クマの絵本で100エーカーがうんたらってあったでしょ?そもそも、100エーカーは東京ドーム約8.5個分だ。それが10つである。当然、収穫量は期待できるだろう。
 国王陛下がどれだけ大盤振る舞いをしたのか、嫌でも理解できる。

 フリードリヒも、ピウスツキも「ちょっと何言ってるか分からない」という表情で完全にフリーズしている。

「というか、お前は何をしたんだ…?ポラーブ軍の奇襲を事前に見抜いたり、1000で3000のポラーブ軍に打ち破ったり、ポラーブ立憲王国の基本法の草案を作ったり…」
「アイエェエエ!?なんで、何で漏れてるの!?ってか誇張されてるんだけどぉ!」
「そりゃお前を英雄にするために話はあえて漏らすし誇張もするだろ、常識的に考えて」

 溜息を吐いた父上と母上は、さっきまでの愉快そうな表情と違って、すっごいなにか憂う表情になっていた。うん、大丈夫、言わないで。その先は俺でもわかる。

 フリードリヒとピウスツキに仕事を任せ、レヴィーネ秘書に別の部屋に案内させると、俺はそこに座って父上にズバリ本題を切り出した。

「次期家長が難癖ですか?」
「ああ、どうせバレるだろうからな。先に知らせてやった方がマシだと思ったんだ。お前が優秀なのが余程気に食わんようだな」
「あー、良くある奴ね。兄上は何が気に入らないのか…何不自由ない生活はできているでしょうに」

 前々から兄上が気に入らなかったんだ。そもそも大学に進学する時に資金難を理由に反対、更にそれが解決されても反対、挙句進学することに難癖をつけてきやがった畜生だ。家族には恵まれたと言ったが、唯一のケチがこいつだ。
 その癖、将来家から追放されたくなかったら金を払えと言ってくる始末だ。俺の収入からしたら別に問題ない額だから、それで兄のチッポケな虚栄心が満たされて、俺に難癖を言えなくなるくらいなら安いモノだと思っていたのだが。

「この歳でそう達観できているのはお前くらいだよ。お前くらいの時は権力や財産に妬むものさ」
「主は溜め込むべからず、強欲な者は裁かれると宣っておられるのに愚かなことです…国王陛下に頼み込んでみましょうか。流石に雲の上の人に圧をかけてもらえば、流石の馬鹿でもわかってくれるでしょう」
「お前、実の兄を…まぁ良いか。流石にあいつのことを庇いきれん」
「どうせ社交界で散々俺を虐げてることを自慢してたんでしょう?」

 噂くらいは俺の耳に届いてくるからなぁ。物資を運びこんでくれる商人は、父上の伝手の御用商人だし。そうなれば、必然的に家の情報がある程度入ってくるものだ。
 というか、一応何故か英雄と呼ばれている俺を虐げている発言をして人が集まってくると思ってくるのか、これが解せない。

「んまぁ、最悪家は分けますよ。少々名残惜しいですが…ヴァルト=ユンガー家とでもしましょうかね?」
「勘当が一番合理的なんだがな…」

 別室で、俺と父上の頭を悩ませながらの話は続いた。

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