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第七師団長との会談
しおりを挟む「やぁやぁ、御出迎えすまないね」
「いえ、第七師団長閣下がわざわざご来訪くださったのです。礼を尽くすのは当然のことです。何せ、私は旅団長までしか出世できる素養がありません」
「いやいや、王国の英雄にそう言われると少々おかしな気持ちになりそうだ。君ほど王国に貢献している者はいないだろう。まあ、それくらい言うならその言葉は受け取っておくとしようか」
師団長まで出世できないだろうという俺の言葉に対して、第七師団長閣下は苦笑いすると、応接室まで案内するように促してくる。
「レヴィーネ。御茶請けを用意しておいてくれ」
敬礼してスタスタとはしたない所を見せないで去っていった彼女を見て、第七師団長は少しばかり面白そうな表情になった。
「全ライヒ人の英雄が、シオン人を秘書にしているのか。これはスクープだな?」
「彼女も北ライヒ語を話し、王国に税金を納め、カントン制度の名の下に徴兵されているでしょう。ならば、彼女は立派なヴァロイセン王国人でございます。肌の色、瞳の色、宗教の違いはそこに関係はありません…大王陛下もそう仰り、確かモスクも建立したと思いましたが?」
「いやなに、君の名前を担ぎ上げる勇気のある若者が多くてね。そう言った者は君をライヒ人の英雄だと奉っている。そこにシオン人は存在していないのさ。愚かなことに、彼らの中では大王陛下の、北ライヒ人の英雄の御言葉はこれっぽちも残っていないらしい」
成る程、外国人排斥運動か?確かに、領内にはポツポツとヴァルト-リヴォニア人とヴァルト-ラトエン人が増えている。これまで、ポラーブという鎖に繋がれていた商人たちはポラーブよりも経済的に発展しているヴァロイセン地方で商売をする。見知らぬ者たちが商売をしている様子を、富をかすめ取っているように思えるのだろう。
「今や主食になりつつあるポテトも外国からの伝来品なのですがね。彼らは都合の悪いことはポンッと忘れてしまうようですな」
「第八師団長のようだな」
何とも言い難い、痛烈な第八師団長に対する暴言に俺はアハハ…と愛想笑いで返しながら、改築が進んでいるかつての砦の中を歩く。
「今は2500名を練兵中ですが、そのほとんどの練度が壊滅的です。正直、二度目で同じことをしろと言われて困るものを、この集団でやったら即座に全滅するでしょう」
何せ、まだ市民として暮らしていたのに徴兵された若者たちも多い。そう言った者たちは総じてモチベーションがない。カントン制度なら、確かに同郷出身の者たちで固められるから、相対的に士気は高くなるし、脱走も集団罰則対象だから起きにくい。
しかし、魔法使い旅団だとカントン制度の悪い部分だけを引き継ぎながら、同郷出身からも追い出されるという致命的な状況なのだ。暫く士気が上がらないのも致し方ないと思っているのだが。
シュヴァーベルク大公国の大公、そしてライヒ民族の統合者であるライヒ国の王にしてロマーニャ王、神聖帝国の指導者という立場は非常に厄介な性質を帯びる。
それは、軍事上や外交上はヴァロイセン王国と全く同質の力を持ち、対等な主権国家でありながら、ヴァロイセン王国を格下の立場と見なして扱うことができるのだから。
そして、皇帝は王より格上であり、帝国に属している以上は皇帝の言うことに対して一定の配慮が必要である。つまり、ヴァロイセン王国は《ブランタリア革命に対する兵の拠出》を求めているわけで。
王国の、東部方面軍は魔法使いという潜在的《国内不穏分子》を放逐してしまおうと目論んでいる可能性は否定できない。
だからこそ、事実でありながらも多少誇張して《練度は壊滅的》として《戦うことは難しい》と述べるわけだ。
「ふむ、そうかね?しかし、魔法使いの機動力は進軍に有利ではないか?報告書では、魔法使いだからこそ素早い進軍であったと記載されていたと思うが」
「何より、魔法使いは疎まれる存在でもあります。共和派という王権に対する非国民を鎮圧する派遣軍となれば、加熱した農村に対する恨みつらみをぶつけやすい相手でもあります。
そのため、ブラン語を話せる部隊を派遣するべきであるでしょう。第七師団は北ライヒ語しか喋れないものが多いため。不適格であります」
「ふむ……では、ヴェルーシ帝国の政変については、どう思うかね?」
「ピエトール帝に対する不満が蓄積していたからこその親衛隊を率いたクーデターでしょう?復権する可能性は極めて低いものであると推察できます。恐らくは、親衛隊を率いた皇后様が女帝として御即位遊ばされると愚考しますが」
「……相変わらず、君はどこからその情報を手に入れているのだね?」
「そうですね。機密とさせていただきましょう。インペリアル・スタウトとダルツィヒ・ウォッカをすでに送っており、皇帝陛下への信頼回復に努めております」
「……それを選んだ理由は?」
「エカテリーナ女帝陛下が愛飲したのが、ダルツィヒ・ウォッカ。ピエトール大帝が愛飲なされたのがインペリアル・スタウト故でございます」
「……すまん、頭が痛くなってきた。少し休ませてもらっても良いか?」
きっとこれはアレだろう。ひょっとしてやりすぎたのではないだろうか。俺の処遇について考えているに違いない。まぁきっとなんとかなるだろう。俺、英雄らしいし。それをこんな理由で更迭することはあり得ない…あり得ないよね?
———
——
―
(あの頭の良いバカは何を仕出かしているのか分かっているのか!?)
第七師団長は頭がいなくなり、胃がジワジワと何かに侵されているのを感じていた。本当に何をしてくれているのだ、ヴァロイセン王国でも最優秀な頭の良いバカは!
皇帝たちが愛飲した酒を送るとか正気か!?ピエトール3世がヴァロイセンに対して温和な姿勢を取っていたからこそ、それとは違う姿勢を示すためにヴェルーシとの関係は中立、最悪は敵対状況まで関係は悪化するだろう。
なんで慎重に慎重を期して動かなければいけない状況で、勝手に、独断で、皇帝たちが愛飲する酒なんて政治的メッセージが多分に含まれる酒を送り付けてるんだ、あのバカは!?
第七師団長の頭の中では無限にヴェルーシ帝国の関係悪化シナリオが幾つも想像され、胃袋と頭の両方がズキズキと悲鳴を上げ始めていた。
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