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番外編 少女、Vtuberを知る
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あまり配信をしないプリンセス・シンフォニィがゲーム配信を始めたのだ。
その配信を私はボーっと見ていると、配信中にも関わらず、コンコンと言うドアのノック音が聞こえ、がちゃっとドアが開く。
『もう、お姉!!晩御飯出来たって!!』
そう言って配信に乗った声は女の子の声だった。
その可愛らしい声に同接のリスナー達は盛り上がる。
だけど、彼女はプリンセスが配信をしているのを知らないのか、ガチャっとヘッドセットを取ったような音が聞こえたかと思うと再び声を出す。
『もう!!ご飯できたって!!遊んでないで早くきてよ!!』
『うわぁ、びっくりした!?』
『遊んでないで早く出てきなよ!!』
その声を聞いたプリンセスはじーっと言うと、しばらく配信が沈黙する。
それもそうだ。
配信に家族が入ってくる事は禁忌とされている。
稀にそのまま配信に参加させるVtuberもいるけど、それはその人が何をしているかを知っていて、家族もノリが良ければの時に限った時だけ。
今回に限ってはこの人は姉が配信をしている事を知らないらしい。
だけど、プリンセスは私の予想を覆す。
『はい、みなさん!!そうなのです!!この子がマイシスター、シスター・シンフォニィです!!』
『は、はい?』
プリンセスの言葉にリスナー達はざわつきを見せ、シスターシン・フォニィと呼ばれた子は戸惑いの声を上げる。
だけど、プリンセスは構わず言葉を続ける。
『そして、なんと!!シスター・シンフォニィのVtuber化計画も進めています!!』
『な、何ぃ!!』
『近日デビューするから、リスナーのみんな!!続報を待て!!それじゃあ、そろそろご飯を食べないと妹がうるさいので……、シーユーネクストステージ!!バイバイ!!』
初耳と言わんがばかりの妹が驚いているにも関わらず、プリンセスは配信を閉じてしまう。
彼女の反応から察するに、家族フラによる唐突なデビュー宣言はきっと彼女の意図しないものであったのだろう。
そんな棚ぼた的にVtuberとなった彼女にどこか反感を覚えたのを今でも覚えている。
私だって家族にVtuberがいればきっと……。
そう思いながら、シスター・シンフォニィの動向が気になってしまう。
デビューしたくても出来ない人間がいるのに、何の意思もない人間がどのような配信をするのかが気になったのだ。
立ち絵は茶髪と黒が基調の服を着た地味な女の子の絵で、ガチガチに緊張しているものだから最初の配信はグダグダだった。
これなら私の方が上手く配信できるのに。
配信をした事のない私だったけど、それくらい酷い配信に私の心に闘志が宿る。
高校ではしっかりとバイトをし、大学生になったらVtuberになろう……と。
だけど、ある日の彼女の配信で、私は衝撃を受けた。
シスター・シンフォニィ初の3D配信で、ピアノを弾きながら歌う、いわゆる弾き語りだった。
通常の配信では聴くことのできないシスターの力強い
歌声が私はおろか、全リスナーを魅了したのだ。
ピアノで音を奏でながら、彼女らしからぬ声で歌う声に魅了された私はその配信が終わるまでずっと見続けた。
その配信の一番最後に彼女はオリジナル曲を披露した。生演奏ではなく、前もって録音された音に彼女は立ち上がると身体を大きく動かしながら歌っていく。
Bメロが終わり、間奏が流れ始めると一瞬画面が暗転する。5秒にも満たない沈黙と暗転にリスナー達は機材トラブルかと動揺する。
が、暗転の中、静かな声で歌う声が聴こえてきたかと思った次の瞬間……、パッと画面に彩りが戻る。
そこに映った映像は今でも忘れられない。
今までは茶色のショートヘアに彩りや装飾の少ない衣装だったシスターの姿がかわったのだ。
猫耳にアイドルの様な衣装を身に纏った少女、フォニア・シンフォニィが薄紫の長いウェーブヘアを靡かせながら初めて姿を現したのだ。
その演出を目の当たりにした、私はコメントを打つ手が止まる。
いや、私だけではない。
全リスナーのコメントがあきらかに減ったのだ。
だけど、彼女はそんな事を気にする事なく歌い続ける。それどころかピアノという枷が無くなった事で、より大きな身振り手振りをし、全身で音を表現する。
その姿に私は彼女に自らが理想としたアイドル像を重ねた。
だけど、そんな感傷など時間は知った事じゃないと言わんばかりに彼女の歌を終幕へと導いていく。
じゃーん♪
最後の音が鳴り止み、彼女はステージの真ん中で静か
に右手を天に掲げる。
その様にコメント欄は静寂に包まれる。
歌い終えた彼女は掲げた手をゆっくりと下すと、閉じていた目を開けて前にあるであろうコメント欄を眺める。
そして、ゆっくり微笑むと、小さな声を発する。
『初めまして。ファイブハーフ所属のVtuber、フォニア・シンフォニィです』
そう言って天使のような笑顔を浮かべるフォニアを見た私は「すごい」と目を輝かせる。
プリンセスは彼女の歌の力を知っているから無理矢理にでもVtuberにしたと考えたのだとすれば納得がいく。
この日を境にプリンセス・シンフォニィは事務所、ファイブハーフを立ち上げ、フォニアは一番最初のメンバーになった。
「私もフォニアちゃんみたいになりたい」
そんな意識が芽生えた私は彼女が最推しとなり、同じ事務所に入りたいと言う思いが、燻っていた夢を爆発させる。
高校3年次、近所にその事務所があると知ったのは、別のお話し。
その配信を私はボーっと見ていると、配信中にも関わらず、コンコンと言うドアのノック音が聞こえ、がちゃっとドアが開く。
『もう、お姉!!晩御飯出来たって!!』
そう言って配信に乗った声は女の子の声だった。
その可愛らしい声に同接のリスナー達は盛り上がる。
だけど、彼女はプリンセスが配信をしているのを知らないのか、ガチャっとヘッドセットを取ったような音が聞こえたかと思うと再び声を出す。
『もう!!ご飯できたって!!遊んでないで早くきてよ!!』
『うわぁ、びっくりした!?』
『遊んでないで早く出てきなよ!!』
その声を聞いたプリンセスはじーっと言うと、しばらく配信が沈黙する。
それもそうだ。
配信に家族が入ってくる事は禁忌とされている。
稀にそのまま配信に参加させるVtuberもいるけど、それはその人が何をしているかを知っていて、家族もノリが良ければの時に限った時だけ。
今回に限ってはこの人は姉が配信をしている事を知らないらしい。
だけど、プリンセスは私の予想を覆す。
『はい、みなさん!!そうなのです!!この子がマイシスター、シスター・シンフォニィです!!』
『は、はい?』
プリンセスの言葉にリスナー達はざわつきを見せ、シスターシン・フォニィと呼ばれた子は戸惑いの声を上げる。
だけど、プリンセスは構わず言葉を続ける。
『そして、なんと!!シスター・シンフォニィのVtuber化計画も進めています!!』
『な、何ぃ!!』
『近日デビューするから、リスナーのみんな!!続報を待て!!それじゃあ、そろそろご飯を食べないと妹がうるさいので……、シーユーネクストステージ!!バイバイ!!』
初耳と言わんがばかりの妹が驚いているにも関わらず、プリンセスは配信を閉じてしまう。
彼女の反応から察するに、家族フラによる唐突なデビュー宣言はきっと彼女の意図しないものであったのだろう。
そんな棚ぼた的にVtuberとなった彼女にどこか反感を覚えたのを今でも覚えている。
私だって家族にVtuberがいればきっと……。
そう思いながら、シスター・シンフォニィの動向が気になってしまう。
デビューしたくても出来ない人間がいるのに、何の意思もない人間がどのような配信をするのかが気になったのだ。
立ち絵は茶髪と黒が基調の服を着た地味な女の子の絵で、ガチガチに緊張しているものだから最初の配信はグダグダだった。
これなら私の方が上手く配信できるのに。
配信をした事のない私だったけど、それくらい酷い配信に私の心に闘志が宿る。
高校ではしっかりとバイトをし、大学生になったらVtuberになろう……と。
だけど、ある日の彼女の配信で、私は衝撃を受けた。
シスター・シンフォニィ初の3D配信で、ピアノを弾きながら歌う、いわゆる弾き語りだった。
通常の配信では聴くことのできないシスターの力強い
歌声が私はおろか、全リスナーを魅了したのだ。
ピアノで音を奏でながら、彼女らしからぬ声で歌う声に魅了された私はその配信が終わるまでずっと見続けた。
その配信の一番最後に彼女はオリジナル曲を披露した。生演奏ではなく、前もって録音された音に彼女は立ち上がると身体を大きく動かしながら歌っていく。
Bメロが終わり、間奏が流れ始めると一瞬画面が暗転する。5秒にも満たない沈黙と暗転にリスナー達は機材トラブルかと動揺する。
が、暗転の中、静かな声で歌う声が聴こえてきたかと思った次の瞬間……、パッと画面に彩りが戻る。
そこに映った映像は今でも忘れられない。
今までは茶色のショートヘアに彩りや装飾の少ない衣装だったシスターの姿がかわったのだ。
猫耳にアイドルの様な衣装を身に纏った少女、フォニア・シンフォニィが薄紫の長いウェーブヘアを靡かせながら初めて姿を現したのだ。
その演出を目の当たりにした、私はコメントを打つ手が止まる。
いや、私だけではない。
全リスナーのコメントがあきらかに減ったのだ。
だけど、彼女はそんな事を気にする事なく歌い続ける。それどころかピアノという枷が無くなった事で、より大きな身振り手振りをし、全身で音を表現する。
その姿に私は彼女に自らが理想としたアイドル像を重ねた。
だけど、そんな感傷など時間は知った事じゃないと言わんばかりに彼女の歌を終幕へと導いていく。
じゃーん♪
最後の音が鳴り止み、彼女はステージの真ん中で静か
に右手を天に掲げる。
その様にコメント欄は静寂に包まれる。
歌い終えた彼女は掲げた手をゆっくりと下すと、閉じていた目を開けて前にあるであろうコメント欄を眺める。
そして、ゆっくり微笑むと、小さな声を発する。
『初めまして。ファイブハーフ所属のVtuber、フォニア・シンフォニィです』
そう言って天使のような笑顔を浮かべるフォニアを見た私は「すごい」と目を輝かせる。
プリンセスは彼女の歌の力を知っているから無理矢理にでもVtuberにしたと考えたのだとすれば納得がいく。
この日を境にプリンセス・シンフォニィは事務所、ファイブハーフを立ち上げ、フォニアは一番最初のメンバーになった。
「私もフォニアちゃんみたいになりたい」
そんな意識が芽生えた私は彼女が最推しとなり、同じ事務所に入りたいと言う思いが、燻っていた夢を爆発させる。
高校3年次、近所にその事務所があると知ったのは、別のお話し。
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