今のは勇者スキルではない、村人スキルだ ~複合スキルが最強すぎるが、真の勇者スキルはもっと強いに違いない(思いこみ)~

ねぎさんしょ

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第6話

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 ギルドのある町を出て、ほんのしばらく進んだ森の中。

――スキル 『村人』 水ランク7+地ランク12
――擬似的権限、狩猟スキル<ゲットだぜ>

「任務、完了……」

 木々から飛び立った数羽の鳥を合成スキルで捕まえ、俺は小さく肩を落とした。
 食糧になる鳥を捕まえてくる……
 ギルドでまかされた仕事が、たった今、終わってしまった。

 ハンターのスキル<スプラッシュキャッチ>をまねしたスキルを使って、ものの30分。
 これは……いったい……?
 村人だったときにしばしば請け負っていたものと、なんら変わりなかったのだが。

 本当に、区分的に依頼だったのか? 完全にただの案件では?
 俺はかねてからの目標を、夢のひとつを、叶えることができたのか……?

「それともやはり、勇者免許とやらがないからか……? いや、しかし……?」

 なにか、おかしい。
 気持ちとして納得できないわけではない。
 確かに俺はレベル2のなりたて、勇者として働くのもこれが初めてという未熟者だからな。

 けれども、どうも引っかかる。
 知らないことばかりではあるが、なにか……なにか決定的なことを知らない。
 そんな予感がある。

「それはそれとして……うむ。考えかたを変えよう。別に、いきなり魔界に乗りこむような戦いや、名誉を求めていたわけじゃない」

 個人的な夢はともかく、まずは目の前のことだ。
 ひとつひとつの依頼に真摯でなければならない。
 山を下りてきて、いきなり仕事があるというだけでも、ありがたいことだしな。

 今捕らえたのは、この時期ならそこらじゅうにいる渡り鳥。
 もっと大きくて、肉の多い鳥を捕まえたほうが、食糧を求めてギルドに仕事を頼んだ誰かがよろこぶだろう。
 となると行くべきは、森の向こうにある山かな。

 しばらく歩き続けると、やがて足もとが斜面になる。
 鳥のさえずりを聞き取るべく耳を澄ましていると、かすかに人の声が聞こえてきた。

「言い訳無用!」

 会話している……複数人?
 こんな人里離れた場所で?

 木の陰から覗き見てみると、ぽっかりとひらけた土地に粗末な小屋が建っていた。
 その前に立ち、にらみあうかたちで、数人の男女がもめている。
 もっと言えば、苦虫をかみつぶしたような顔の男たちを、たった1人の小柄な少女が糾弾している様子だった。

「あなたがたの悪事、この目でしっかりと見届けたであります! 王都に戻り、裁きを受けていただくでありますよ!」
「チッ……まさかここまでしつっこいとはな。騎士ってやつはひまなのか? それとも女だからかよ!」
「何を言っているのか、さっぱりわからんであります。これ以上の申し開きは牢獄でなさいませ!」
「まぁよう、じゃあわかった。今回の分け前、あんたにもやるよ。それで納得してくんねーか?」
「納得の意味をご存じないようでありますな! 言語道断!」
「そうかい。やっぱりダメか。でもなあ……」

 少女と会話する男が、ちらりと目配せした。
 控えていたごろつきのような男たちが、にやにや笑いながら少女を取り囲む。

「想像力が足りないとダメだねえ。パパのコネか何かで騎士免許買ってもらって、都から出たこともなかったんじゃねーの? ここで口封じしちまおうか、ってこっちが考えると思わなかったのか」
「ほう……」
「まぁ安心しろよ。死ぬ前に、お嬢ちゃんみたいなウブの想像力をたっぷり補う経験させてやるから」

 剣呑なやりとり。
 細かいことはどうあれ、状況は明らかだ。見過ごすことはできない。
 割って入るべく、俺は木陰から出ようとしたのだが。

「そちらこそ、想像力が足りないようでありますな」
「あ?」

 少女が、戦闘用というにはあまりにも軽装な鎧の背中から、細く長い剣を抜き放つ。

「あなたがたの愚行を想定した、その上で、私がここにいる。そう考える頭脳もないとは!」
「なにい……!?」
「問答無用、であります! はあッ!」

 男たちに襲いかかる少女の長剣が、風をまいてうなった。

 鋭い。
 強い。

 男たちもてんでばらばらに抵抗しているようだが、まるで相手になっていない。
 さっき、騎士と言っていたな……?
 おおかた、都で悪さをした盗賊団かなにかを追ってきた、といったところか。
 戦いかたも、正々堂々、力押し。
 実にかっこいい女の子だ。

「な、何やってんだてめーら! 囲んでやっちまえ!」
「あなたが! 自分で! 向かってきたまえ! だあッ!」
「ぐはっ!?」

 強烈な突きをおみまいされ、リーダー格らしい男が尻もちをつく。
 実力差は火を見るよりも明らか。
 けれど少女のほうに、相手を殺すつもりはないようだ。
 今の一撃も肩へのもの。もう男の右手は使えないだろう。

 勝負あった。
 剣を構えた少女が、つかつかと男に近づいてゆく。

「降参でありますか? 降参でありますね? 降参でありましょう!」
「く、そっ……! こ、こうなったらよぉ……!」
「切り札があるとでも? 使わせないであります!」
「うわたたた待った待った!? 違うよ、もう参った! こうなったら降参だよぉ、って言ったんだよ」
「なんだ。そうでありますか。わかってくれたなら、これ以上手荒なまねはしないであります」

 姿勢を戻した少女が、長剣を背中の鞘におさめる。
 ……おい。
 ちょっと、まずいんじゃあないか?
 男の、まだ動く左手が、ふところに入ってるぞ。

「――なんてなバカ女めッ! くらえスキル勇者!」

 ……なんだと?
 スキル、勇……
 勇者のスキル!?

「火攻技能・炎球<ゴアファイア>!」
「っだ!!」

 男が鎧の内側から、小さな何かを取り出したように見えた。
 光り輝くそれから、真っ赤な炎の渦が飛び出して、少女を襲い――
 気合いとともに振り抜かれた長剣によって、まっぷたつに斬り裂かれた。
 やはりこの少女、どこか幼さすら感じる見た目と裏腹に、かなりの場数を踏んでいる。

「っ……おのれ! 神聖な『免許証』を、よくも不意打ちに使ったでありますな――」
「スキル『罠師』、拘束技能・捕縛<スパイダーバインド>!!」
「なにっ……くッ!?」

 一難しのいで、虚をつかれたのか。
 男が放ったふたつめの攻撃が、少女の体にまとわりついた。
 投網にも似た粘度の高い液体が、細い体を地面に引き倒す。

「ふ……不覚! 複数の免許を……!?」
「ざまあみやがれ! 俺様の勇者スキルにかかりゃ、こんなもんだ!」
「何が勇者スキルでありますか!? たとえ免許を用いたとしても、こんなしょーもないスキルが勇者のものであるはずがないであります! というかめちゃめちゃ罠師って叫んでたでありましょうが!」
「しらねーよーだ! 勇者の免許から出たスキルだ、どんなのが出たってそれは勇者スキルだっつーの!」
「そんな道理などっ……! く、う、動けない……!」
「よくもやってくれたよなぁ! いやってほどたっぷり時間かけて、楽しいことをしまくってやるぜ! そりゃもういけないったらいやらしいったら……!」

 肩の痛みも忘れたのか、両手をわきわきうごめかして少女ににじりよる男の前に。

「気に入らん」
「あ?」
「気に入らんな……!」

 落ち葉を蹴立てて、俺は歩みを進めた。

「この……偽者め!!」

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