今のは勇者スキルではない、村人スキルだ ~複合スキルが最強すぎるが、真の勇者スキルはもっと強いに違いない(思いこみ)~

ねぎさんしょ

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第18話

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 魔界からの侵攻を退けたあと、世界は生活を取り戻すのに大わらわだったという。
 イルケシス家は、勇者の素養がある者を正しく育てる、ほとんど唯一の伝統機関でもあった。
 彼らが全滅してしまい、国家は計画的に勇者を得ることが不可能になってしまったのだ。

「だから、適性が勇者ではない者にも……あまつさえ、ゴロツキのような連中にも勇者免許を? 苦肉の策というわけか?」

 そうです、とパルルがうなずいた。

「特に戦後の10年くらいは、国の内外問わず混乱してしまって。最も魔物の被害を受けたのもこの国でしたけど、他の国も、よそを助けるよゆうはなかったですから……」
「治安回復が急務だったわけだ」
「当時も反対はあったみたいですけど、それでも勇者を免許制度に組み入れたことで、しばらくは大きな効果があったんです。戦争が起きる前よりも、人々が豊かに暮らせるようになるほど回復しました。なんというか、まだ勇者っていう言葉そのものの力を、みんなが知っていた時期というか」
「なるほどな」
「それが……だんだんと、勇者免許が珍しくなくなりはじめて。誰もが気軽に勇者を名乗るようになっていって、犯罪行為に手を染めるような者まで……。そんなの、もう勇者でもなんでもないですから!」

 その通りだ。
 もどき、とつけてもなお、おこがましい。

「似たようなことは、他のジョブでもしばしば問題になってきたことではありますが」

 己の細いあごを右手でなでつつ、セシエが難しくうめいた。

「こと勇者となると、確かにより深い懸念があるでありますな。100年前とはまた違う意味で、今の世は乱れていると言えるやもしれません」
「そういえば、いたな。騎士免許や魔法使い免許を悪用するやつは、昔にも」
「勇者免許のメリットが大きいでありますからなあ」
「メリット?」
「ええ。お見せしたでありましょう、免許にはスキルを記憶させられると」

 ああ。よく覚えている。
 セシエが自らの来訪を、爆音でパルルにお知らせぶちかましたアレだな。

「ふつう、騎士免許には騎士の、魔法使い免許には魔法使いのスキルしか記憶させられないでありますが」
「ああ。教えてもらった記憶があるな」
「それが、勇者免許は特殊でありまして、ジョブの制限がないのであります。クラス別による難易度の影響こそ受けますが、どのジョブのスキルでも記憶させられるでありますよ」
「なんと。それはー……便利だな」
「便利であります。まあ当然、勇者のスキルを覚えさせるのが、本来の使い方として最も有効なわけでありますが……」

 その優位性がまた、不届き者どもの数を増やす原因にもなっている、というわけか。
 ようやくわかってきたぞ。
 今のこの世界の、どういう部分が昔と違っていて、何が問題になっているのか。

「現代の勇者は、数こそ多い……しかし、その真贋を見極めるノウハウを持ったイルケシス家は、もうない」
「はい」
「そういった事態に危機感を持ち、パルルは真勇教を立ち上げたが……」

 じ、と俺は弟子を見つめた。
 じわじわとかつての調子を取り戻しつつあるらしいパルルが、にこりんと笑う。

「はいっ、お師匠さま!」
「ニセモノを叩き潰す力はあっても、本物を見出す力は、やはりパルルにもない」
「う゛。……は、はいぃ、お師匠さまぁ……」
「となれば、真勇教を解散することにも、異議はないな?」
「はい、それはもう、はい」

 こくこくうなずくパルルに、セシエがほっと安堵の息をついた。

「それはなにより! ではひとまず、自分の任務は完了でありますな。いやパルル殿、申しわけありませんでした!」
「……え? な、なにが……?」
「これほどの事情があるとはつゆ知らず、売り言葉に買い言葉で戦いをけしかけてしまったでありますからな。レジード殿がいてくださらなければ、どうなっていたことか」
「あ……い、いえ。それは、まあ、こっちも……その」
「王都には、うまく報告しておきますゆえ。ひとつ今後とも、よろしくであります!」
「……あ……、あ」

 煮え切らない反応に目を向けると、パルルは顔を真っ赤にしていた。

 しばらく離れていたというのに、またいじいじと俺のほうへ寄ってくる。
 そのまま背中に隠れて、肩口あたりからちらちらセシエをうかがっているようだ。
 ふむ……。これは。

「あの? パルル殿……? えー、レジード殿。自分なにか、おかしなことでも言ってしまったでありますか?」
「いや。違うな、これは。たぶんだが」
「はあ」
「パルルよ」

 ふぁい、と鼻から返事をするパルルに、俺は思わず微笑した。

「おまえ、友だちはできたか」
「……!」
「もともと、あまり得意ではなかったものな。俺の知らない長い間で、親しい相手はできたのか?」
「……よ……妖精さんとは、たまに」

 本当によけいなところだけ師に似る弟子だな。おまえも妖精を見る手段を得たのか。
 しかし、間違いない。
 この反応は、『初めて友だちになれるかもしれない相手を目の前にしたそれっぽい流れ』に、どぎまぎしているだけだ。

 いっときは矛を交えた相手とはいえ、セシエの素直な態度がこうさせたのだろう。
 なるほど見た目の年齢も近い。
 実年齢はまるで比較にならないが、事によれば精神年齢はパルルのほうが幼いかもしれないな。かなしいことに。
 そら、とパルルの背中を押して、セシエの前に座らせてやる。

「あっ……あ、あ! ……ぱ、パルル、です。姓は、昔捨てました……」
「セシエ・バーンクリルであります! セシエと呼んでくださいであります」
「あ、あの……あのっ……な」
「なかよくしてくださいであります!」
「なぐふぁっ」
「? パルル殿?」

 轟沈したか、パルル……
 勇気を振り絞って言おうとしたことを、「ちょっと雑貨屋行ってくる」レベルの気軽さで先に言われてしまったな。
 これはもう、なかよくなるより他ないだろう。

 はは。
 よかったな。

「さて……俺はもう、はらを決めたぞ、パルル」
「! は、はいっ、お師匠さま」
「これから俺は、王都へ行く。セシエに力添えしてもらって、勇者学校に入学し、免許を手に入れようと思う。いっしょに来るか?」
「はい!」

 即答か。
 今日の今日まで、勇者免許を目のかたきにしていたのだろうに、いいフットワークだ。

「今の世のシステムが、本当に間違っているのか。間違っているとすれば、それはどこがどう正しくないのか。身をもって確かめたい」
「このパルル、どこまでもおともいたしますう!」
「このセシエ、いくらでもご協力するであります!」
「2人ともありがとう。……そうだ、セシエ。王都へ着いたら、すまないが、まずできるだけ正確な魂色視鏡《ステータスミラー》のある場所に連れていってもらえないだろうか?」
「? 魂色視鏡《ステータスミラー》。それは、ええ、もちろんお連れするでありますが。できるだけ正確、とは……? 正確でない魂色視鏡《ステータスミラー》など、まずもって聞いたことないでありますよ?」
「うむ……。それがな」

 ここで話しておくべきだろう。
 セシエにも。そして、パルルにも。

「俺の適性は、今、村人じゃあないんだ」
「え……えぇーっ!? であります!」
「なおかつ、勇者というわけでも、ないかもしれないんだ」
「え……えぇーっ!? お師匠さまあ!」

 魂の双子か、おまえたちは。

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