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第23話
しおりを挟む特徴的な建物の中に、俺はじっと立っている。
天井の高い、屋根だけが丸みを帯びた、長方形のだだっ広い空間。
大勢の人間がたむろしているが、ざわめく声がやたらとこもる。
体育館、という特別ホールだそうだ。
「新入校者の皆さんは、端から順にイスに座ってくださいー!」
見通した奥にあるステージの上から、動きやすそうな服を着た女性が指示を出す。
学園の係員だろうか。
似たような服装の者たちが、ちらほらと見受けられる。
俺は言われるがまま、係員とは真逆に思い思いの格好をした連中がぞろぞろと移動するのにまざって、適当な椅子に腰を下ろした。
正直、戸惑いは大きい。
何がはじまるというのか。
いや。
はじまることの名前は知っている。
入学式だ。
(そろそろ、初体験の風習や慣習にも、ある程度は適応できなければな……。とはいえ、入学式は転生前にも経験がないが)
むしろ楽しもう、とイスの上で胸を張る。
そうしなければ、学校まで連れてきてくれたセシエとパルルに申しわけも経たない。
ここ、王都までの道のりは、いたく順調なものだった。
宿、足となる馬車、それらを含めた路銀。
すべてをセシエが手配してくれて、何不自由なく旅することができた。
騎士の任を受けて働いているこの国の中だからこそ、だと彼女は言っていた。
この国は今、タオガルン連邦という名であるらしい。
俺は初めて聞く国名だった。
片時も黙ろうとしないパルルに教えてもらったが、俺が転生前にいた王国は魔界の生物たちとの戦いで疲弊・消耗し、統治能力が弱まってしまったのだとか。
周辺諸国と協力した連邦国家に参加することで、国民の生活を立て直し、そのまま今に至っているという。
勇者制度はともかく、ほかのことや街並みにそこまで極端な変化がない理由がわかった。
しかし、人間社会の規模は、単純に大きくなったようだ。
100年以上の時を経た王都の発展した姿には、目を見張ったな。
旅の途中に通りかかったどの街よりも賑やかで、誰もが垢抜けた格好をしていた。
騎士も見かけたが、セシエのようなザ・戦闘系は少数派だった。
きらびやかなマントを羽織っていたり、そのマントより派手な帽子をかぶっていたり、わけのわからん形の靴をはいていたり……たまげる、とはあのことだ。
中でも、王都中央からやや外れた区域にある、この学園。
ヴァルシス〔勇〕学校――通称『勇者学校』の巨大さにも、それこそぶったまげた。王城より敷地が広いんじゃないか?
この体育館ひとつとっても、いちいち大きい。大きいことはいいことだ。
「全員着席! 着席でーす! そちらのトロル人種の方は、椅子をみっつ並べて座ってくださいー!」
ステージ上の係員もてんてこまいだな。
俺を含めた新入生は100名を下らないようだが、それでもずいぶん広さによゆうがある。
これからの生活に胸が躍るぞ。
「さて……。あ、あー。えへんえへん』
ようやく場をまとめ終えたらしく、係員が声の調子を変えた。
風のスキルをうまく使って、声を増幅しているのだろう。
さすがは勇者学校の職員。ただ者ではないのだな。
別にさっきまでの大声でじゅうぶん通っていたし、なんなら指示を出すときにこそ使うべきだった技能ではと思うが、無粋なことは言うまい。
『新入学生の皆さん、ご入学ありがとうございますー。勇者免許を持ち、世界平和に尽くさんという志を決して無駄にしない、そのためのカリキュラムを当校ではご用意しております。なお、おめでとうございますとは言いません。当校は入学申請者のほぼ全員を受け入れておりますのでー』
正直にもほどがあるな。
声を増幅してまで言うことだろうか。
『皆さんそれぞれ、理想の勇者像たるものがあると思いますー。そのイメージに少しでも近づけるよう、当校の授業を活用していただければなーと思っております』
「ふん……どうだかな」
ぽつりとした小声が耳に届いて、俺は視線を巡らせた。
誰だ……?
居並ぶ新入生の面々は、皆まじめに係員の話を聞いているようだが。
いや。
俺のとなりにいる男だけ、少し体勢を崩しているようだ。
なんというか、背もたれにふんぞり返って、初手からふてくされているかのように。
それだけといえば、まあ、それだけだな。
『いま、我々の暮らす人間界は、おおむね平和な時代に恵まれているといえるかと思います。しかし、いつ再び魔界から魔族の侵攻があるか、まったくわかりませんー。魔界の調査は困難を極め、土地、規模、生態、そのほとんどが謎に包まれています』
ふむ。いまだにそうなのか。
俺の生前から進展がないのだとすると、やはり魔界は人間界にとって、最大の脅威といえるな。
『魔族から市民を守るためにも! なるべく高位の勇者免許を取得し、その理念に基づいて活動されることを、皆さんには期待していますー』
「おためごかしにもほどがある……」
今度ははっきりと聞こえた。
俺の視線に気づいたのか、やはりとなりの男――長い足を乱暴に組みかえた青年が、こっちに顔を向ける。
黒い眼帯で左目を隠し、右の頬には大きな向こう傷。
長めの金髪をかきあげて、鋭い目つきは俺を値踏みしているかのようだ。
迫力のある男だな。
パッと見、勇者というよりは『海賊』だが。
「そう思わないか? 貴様も」
「……俺が? なにがだ?」
「この学校の、いいや、この国のやりかただ。人をおちょくっているとしか思えん」
「ふむ。俺は……俺は、そう、山奥の田舎から出てきたばかりで」
初対面の相手には、こういうふうに言い回すといいですう! とパルルに教わった口上を、さっそく試してみるとする。
「今の世相にはひどくうといんだ。差し支えなければ、詳しく教えてほしい」
「あん……? そんなやつが、なぜ勇者学校に」
「謎の邪教に洗脳されかけていた2人の妹を救い出すのに、長い時間がかかってしまったんだ。妹を助けることはできたが、この世にもっと正義が必要だと感じて、勇者免許を持ちたいと考えた」
作・パルル、監修・セシエの物語である。
最初、救い出す妹は1人だけの設定だったのだが、すなわちどちらが妹役なのかというポイントでキャッキャと楽しくもめて、最終的に2人とも妹で落ち着いた。
そんな細かい設定まで話さねばならない状況になど、できるだけならないでもらいたいが、さて。
「そうか……。貴様、なかなか苦労人だな」
なんと、概略だけであっさり納得してくれたか。
助かる。
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