24 / 59
第24話
しおりを挟む「なに、簡単な話だ。要するに茶番ということさ、この入学式とやらも含めてな」
「茶番」
「数あるジョブの中でも、勇者とはことさら特殊性が高い……素直に解釈すれば【勇気ある者】が勇者だが、ではそれを誰が判定するのか? 何をすれば勇気があることになるのか?」
「ふむ……」
「ひと昔前までは、精霊に丸投げしていた。いいや、勇気ある先人たちは、あえて自分たちで基準を定めなかったのだと、おれは考えている。勇者は精神的なんだよ。ある選ばれた血を除いてはな」
おお。
意外と、俺にもわかる話だな。
「それが今は、どうだ? 免許だと? まるでたちの悪い喜劇譚だ。免許で勇気が示せるか?」
「なるほど」
「真に魔を討ち倒せる者だけが、勇者にふさわしい。当たり前の話だ。その栄えある称号を、この学校は量産している。自覚があればまだいいさ、今はしょうがないのだ、とな。だが」
ステージで説明を続けている係員に、青年はあごをしゃくった。
ハスキーな声に、いかにも嘲るような調子がまざる。
「理想の勇者像、ときたもんだ。自分たちの発行している勇者免許が、大陸中で悪用されている現状を見て見ぬふりして。あきれるだろう」
「すべてがうまく回っているわけでは、確かにないようだな」
「聞かれる前に答えておこう、おれの今のジョブ適性は『槍兵』だ。勇者じゃない。だが、Sランクの勇者免許を手に入れるつもりでここへ来た。対魔界戦力の大量生産も、それ自体を悪いと言ってるわけじゃないぜ」
「ほう」
「いつまで勇者の名で釣り続けるつもりか……いつまでその名を汚し続けるつもりか。それがガマンならん。だから」
安物の椅子の上でわずかに背筋を伸ばし、青年は親指で自らを示した。
「おれ様が魔界を叩き潰してやるのさ。そうすれば、このバカバカしい免許のばらまきも、必要なくなるってもんだろう」
「すばらしい理屈だ」
「対魔界の戦力に選ばれるには、勇者免許がいる。けったくそ悪いがそこはどうしようもない、何事にもルールは必要だ。ちょちょいのちょいでやってやるさ。なぜ誰も、打倒魔界を第一に考えないのか、まったく理解に苦しむ」
過激だが、きっぱりした男だな。志にもうなずける。
だが、まあつまり、魔界に攻め込もうと言っているわけだからして。
「それは、簡単じゃないから、じゃあないか?」
「ふん! どいつもこいつも、修行が足りんのだ。いいや、修行のしかたを知ろうともしていない、と言うべきか」
「ふむ」
「どうせ貴様も知らんのだろう? 己の中の〔勇〕を育てる方法を」
「それは、アレじゃないのか? 精霊との一体化で」
「ほ。よくお勉強したな、と言ってやりたいところだが、その程度のことはモグリの免許屋でも知ってるぞ。そうじゃあない。古の勇者たちが、自らをどうやって鍛えていたか、という話だ」
ああ、それなら。
「滝に打たれていたんだろう」
「……なに?」
「感謝感謝と叫びながら」
「!!……貴様ッ!」
がたん、と椅子を蹴立てて、青年が立ち上がった。
当然、目立つ。
視線集中。
ステージの係員もきょとんとしている。
それらをまるで意に介さない様子で、青年は笑っていた。
「調べたのか! イルケシス〔勇〕家の伝統を!」
「調べた? いや、ああ、まあ」
「貴様! やるな! 本当に勉強してるじゃないか、驚いたぞ!」
笑顔のまま、勢いよく俺の両肩をたたき、つかみ、前後に揺さぶってくる。
テンションの乱高下がパルル級だな、この男。
「今どき、イルケシスの名すら知らぬまま勇者免許を振りかざす恥知らずどもも多いというのにな! 貴様も滝に打たれてきたのか!? おれも2年ほどがんばったんだ!」
『あのー、そちらの方、まだ説明中ですので。お静かに――』
「うるさい! 貴様が静かにしていろ! いや、滝はいいよな。申し遅れた、おれの名はファズマだ! ファズマ・ロンドーマ、Aクラス【槍兵】だ」
「レジードだ。適性は……村人だ」
この手の男に、いわば最底辺ともとれるこの紹介はよくないか、と一瞬思ったのだが。
「そうか! 村人では行動が限られるところも少なくないだろうに、よく努力したな。見上げたものだ!」
やはり良くも悪くも、きっぱりしているようだ。
変わった男だな、ファズマ・ロンドーマ。
俺が自らの適性を村人と答えることも、事前にパルルたちと話し合い、決めていた。
ジョブ適性が、外からは勇者に見えない……これはどうやっても、変えることができなかったからな。
腹をくくるよりほかない、と判断した。
「建前上、誰でも入学できるとこの学園も謳っているが、それでも村人は滅多にいないと聞くぞ。志が高いのだな」
「そんな大した人間じゃない。Aクラスの戦闘職のほうがよほどすごい」
「ふははは! そう言われると悪い気はしない! だがおれはもう、勇者として生きる覚悟を決めたつもりだ。免許を手に入れたら、必ず転職する。適性が得られるかどうかはわからんが、いずれにしろ元のジョブのまま、アミュレットのメリットだけ利用する気は毛頭ない!」
「なるほど」
ずいぶん熱い男だ。
もはや入学式のことなど、頭から消え去っているようだが……
にしても。
そうか。
この男も、滝に打たれたのか。
「確かに、滝はいい」
「ああ! 滝はいいな!」
わかってくれるやつがいるとはな。
俺も少し、うれしくなってしまった。
10
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
婚約破棄された令嬢ですが、帳簿があれば辺境でも無双できます ~追い出した公爵家は、私がいないと破産するらしい~
Lihito
ファンタジー
公爵令嬢アイリスは、身に覚えのない罪で婚約破棄され、辺境へ追放された。
だが彼女には秘密がある。
前世は経理OL。そして今世では、物や土地の「価値」が数字で見える能力を持っていた。
公爵家の帳簿を一手に管理していたのは、実は彼女。
追い出した側は、それを知らない。
「三ヶ月で破産すると思うけど……まあ、私には関係ないわね」
荒れ果てた辺境領。誰も気づかなかった資源。無口な護衛騎士。
アイリスは数字を武器に、この土地を立て直すことを決意する。
——追い出したこと、後悔させてあげる。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる