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第30話

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 E組の教室も、他の組と同様、広々としていた。
 並ぶ机やイスも同じ。ただし今は、うちいくつかが蹴倒されたかのように床に転がっている。
 学生同士のケンカか、と思ったが……

「俺が生徒だからどうだってんだ!? そういう問題じゃねーんだよ!」

 どうやら、変わった事態のようだな。
 室内には、10名足らずがたむろしている。
 誰も彼も、荒くれごとならおまかせ、といった風貌だ。まともにイスを使っている者は数名、机に腰掛けたり、壁にもたれたり。

 先ほどのA組とは、雰囲気からして別次元だな。
 それでも、人数がいるだけうらやましいが。

「いいか? 俺たちゃ免許がほしいだけだ!」

 中でもひときわ融通の利かなそうな大男が、教壇に立つ女性に向かって凄んだ。
 額の古傷が、いかつい顔に目立つ。
 本業は、戦闘職の冒険者であるようだな。

「授業でちんたら遊んでるひまぁねーんだよ! 授業料はもう、満額支払ってやったろ? どうせ卒業するときに免許よこすんなら、今出せっつってんだ」
「そう言われましてもねー」
「そのほうが早く勇者が増えて、魔物が倒せるだろが!? 人間の暮らしもよくなるってもんじゃねーか! そのためのこの学校だろうよ?」
「学園はそんなこと考えてませんよー」
「あ、ああん……!? おちょくってんのかテメエ!?」

 指導員を相手にテメエ呼ばわりの時点で、何を言っても差し引きマイナスではないか?
 それにしてもあの女性、動じないな。
 どこかで見覚えがある気がするが……、ああ、入学式のとき、ステージで仕切っていた係員じゃないか?

 なんと、先生だったのか。
 俺も他人のことをとやかく言えんな。

「学園はあくまで、定められた授業を行い、生徒に履修してもらうことのみが目的です。設立された理念にはあなたが言ったようなことも含まれていますが、だからといって勝手にカリキュラムを短縮するようなまねはできませんー」
「だから、さっさと免許配ったほうが、その理念だかも早く達成できるっつってんだろ!?」
「それは学園の知ったことではないのでー。ここは国立なので、国に申し立ててください」

 いや、やはり動じなさすぎる。
 というかその言い分もどうなのだ。
 この先生がクールすぎるのか、国が本当に冷たいのか、いまひとつわからないな。

「テメエ!」

 顔を真っ赤にした荒くれ男が、ずかずかと先生に詰め寄った。

「さっきからふざけてんのか!? この俺をなめんじゃねーぞ!」
「この俺と言われても、学園の中では1学生ですし。そんな言葉遣いはいけませんよー」
「だからなんだ!? いいか、勇者っつったって、つまり固有スキルが使えるかどうかってだけの話だろうが。免許がありゃ誰にだって使える、なら大事なのは本人の力だろ! 500人の盗賊団たばねてた俺様を甘く見んじゃねえ!」

 ふむ。
 おそらく、免許についての考えかたは、そこまで大きく間違ってはいない。
 だがそれ以外のだいたいが間違っている。
 先生もそう思ったのか、笑っている。
 しかしずいぶんと、こう、なんというか……赤子をあやすような笑顔だが?

「はいはい、やっぱりそのパターンですねー」
「ああ!?」
「当然もう、毎年毎年、時期問わずいっぱいいるんですよー、あなたみたいなタイプ。この学園は本当に、授業料さえ払えれば誰でもいつでも入学できますからね。実は春を一応の区切りとしているのは、あなたみたいな人がいちばん多い季節だからだったりしますー」
「ど、どういう……何の話だおい!?」

 ……まさかとは思うが、「浮かれたバカがいっぱいわいてお金払ってくれるから春スタート」と言っているのか?
 そうなのか?
 いやいや、さすがにあるまい。斜めに見すぎだろう。

 パルルよ、となりで「なるほど勉強になるです」とか呟くのはやめなさい。
 宗教団体運営の悲喜こもごもをまだ引きずっているのか。苦労をかけたな本当に。

「そもそも、前提を勘違いしているんじゃないですかー?」

 指導員は、ふところから免許を取り出し――いや、あれは仮免許だな。いきり立つ学生たちの前でひらつかせた。

「授業で行われる課題や実践訓練については、基本的に勇者スキルを使ってのクリアしか認められません。あなたが盗賊であれ騎士であれ、そのレベルやスキルは何の関係もないんです」
「し……知ってるわ、そのくらい!」
「もちろん熟達した腕前があれば、スキルが弱くとも課題はこなせるでしょう。でもその腕がないものだから、普段から免許証のスキルに頼り切り、もっと強いスキルがあればいいじゃんとか考えて入学してくる人たちも、そりゃもういーっぱいいるんですよねー」
「俺がそうだっつってんのか!?」
「え? どうだっていいです。別にそういうタイプの生徒をバカにしてるとか、そういうわけでもないですよー? ただ、スキルに頼るなら頼るで自覚を持って、ちゃんと授業で勇者スキルのことを学んでいかないと、正しい使用はできませーん」
「ぐむむ……!」
「まあもとから正しく使う気なんてなかったり、Eの判定を受けちゃったから、めんどうになって免許だけもらっておさらばしよう、なんて考えを持つ人も少なくないですけどー。さすがにそんな気持ちを察して制度を曲げることはできませんので、そうでないならしっかりと――」
「だああああああごちゃごちゃうるせえーっ!!」

 うーむ。キレたな、荒くれ男。
 キレる筋合いなど何ひとつないが、しかしキレるだろうなとわかっていた。
 見ているだけでも複雑な心境だ。

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