29 / 59
第29話
しおりを挟むさて。
こっそり、ゆっくり、しっかりと覗くぞ。
ここは緑濃き野山だ、と想定して進むのだ。
忍び歩きはいささか得意だ。
山ウサギなどをよく仕留めたものだが、しかしここは勇者になるべく学ぶ者たちがひしめく場所。
果たして通用するだろうか。
しかし、パルルの技術もなかなかのものだな。
まったく音もなくついてきている。イバラの痛みを忘れていないのは本当のようだな。
「よし……」
問題なく、目的のドアまでたどり着き、小さなはめこみ窓から中をうかがった。
昨日のF組教室と同様、個人用の机とイスが大量に並べられている。
Fと違うのは、その半分近くに人が座っていることだろう。
皆が教室正面に立った指導員に注目し、その言葉に耳を傾けているようだ。
「おお~……」
俺と頬をくっつけんばかりに覗きこんだパルルが、なにやら納得したようにうなずいている。
彼女にはなじみのある景色なのだろうか?
記憶にあるイルケシスの『修行』とは、ずいぶん勝手が違うが。
「ダンジョンにでも、いきなり放りこまれるものと思っていたが、そうでもないんだな……」
「そうですねえ。思ったよりずっと普通の授業風景です。なつかしいですう」
「こういう感じが、学校の『普通』なのか?」
「エルフの授業はだいたいこういう雰囲気でしたよ。魔法学校とか、弓術士の学校とか」
「なるほど……。ああ、そういえば……ふむ」
母上に、読み書きや計算を教わったときが、こんな感じだったかもしれない。
俺のための机に紙とペンを用意して、丁寧に教えてくれた。
他の家族……勇者の血をしっかりと継いだ者たちは、1人1人に専属の家庭教師が、両手の指では足りないほどもつけられていたが。
俺にはまったく縁のない人々だったからな。
あのとき母上は、何度か俺に謝罪していたような、そんな記憶がある。
そうだ。家庭教師をつけることもできず、イルケシス家の体面上、普通の学校に通わせることもできず、すまないと確かに言っていた。
俺はまるで気にしていなかったし、なんなら母上に教わる時間が楽しみですらあったのだが。
まさか転生後、このようなかたちで、学校に通うことになろうとは。
そう考えると、がんばらねばと期する気持ちがより強まるようだ。うむ。
すばらしいところではないか、勇者学校。
「指導員殿!」
パルルとともに覗き続ける窓の中で、ずいぶんとめりはりのきいた声がした。
えらい勢いで挙手した男が、自信満々の表情で起立する。
……立つなら挙手はいらんのではないか?
いや、それよりも彼は、確か……?
「ファズマ、とかいったか……」
「お師匠さまのお知り合いですか?」
「入学式で、少し話した。名前と、あとAクラス槍兵だということくらいしか知らないが」
「ほー、槍でもA」
印象としては、いささか変わった男だったように思う。
いや、山にこもってなどいた俺がそんなことを思うのは、失礼というものだな。
「つまるところ!」
ファズマは、まるで軍勢の先頭に立つ指揮官のごとく、指導員に向かって胸を張っている。
「生まれながらの勇者適性所持者、いわば天然の勇者は減少傾向にあり、ここ10数年は見つかってもいない! その原因もわからないということ!」
「そうですね」
「ゆえに勇者免許の発行は止めることができず、アミュレットの作成に莫大な予算が割かれている! ならばだ! このおれ様がその原因を突き止めることができたとして! するとどうなる!?」
「まあ、国家王宮勲章は間違いないのではないでしょうか」
「やはりかッ!! 古の勇者たちはみな持っていたというな! おお、やる気がみなぎってきたぞ! ちなみに指導員殿はなにが原因だと思われるか!?」
「わかりません」
「であるか! やはりぜんぜんだなこの学校、はっはっははは!」
どこからどう見ても変わった男だ。
彼をあっさり受け入れている(ように見える)指導員やA組の者たちも、やはりただ者ではなかろう。
誰もが静かに帳面に書き込んでいるが、今のやりとりのどこを、何を思ってメモしたのだ?
「勇者マニアみたいなお人ですねえ」
「言い得て妙かもしれんな。行くか」
彼らに気づかれず授業をうかがえただけでも、まあよしとしよう。
続く大部屋はB組だというが、室内には誰もいなかった。
屋外で実践授業と掲示板にあった、とパルルが教えてくれた。
俺も早く体験してみたいものだ。Fのままでは、ままならないかもしれないが。
B組をすぎると、大きく広い階段がある。
上階は後期クラスのテリトリーなので、もちろん行く必要はない。
……ふむ?
「外からは、3階建てのように見えたがな、この校舎は」
「ありますねえ、3階」
「そこも教室なんだろうか」
「んあーなんか、特A組だかいうのがあるらしいですう」
「特A?」
初耳だな。
AからF組でぜんぶではなかったのか。
「それはすごそうだ。行ってみるか?」
「いえいえ、あのーほら、そろそろF組行かなくっちゃですよお!」
「? 別に用事も授業もないが」
「いえいえ、まあまあ、いえまあまあ」
パルルにぺしぺし背中を押されて、階段を素通りする。
……まあ、むやみに探検のようになっても、アレか。パルルはけっこう方向音痴だからな、はぐれてもよくない。
C組、D組の教室も、B組と同様に無人だった。
入学から間もないというのに、どの組も活発で、うらやましいことだ。
残るはE組だが――
『かったりぃってんだよ!!』
大きな怒声が聞こえ、俺はパルルと顔を見合わせた。
続いて、物が倒れるような音もする。
どうやら、俺たちのつま先が向く先からのようだ。
E組……?
「おしょさま」
わくわく感を出すな、パルル。
俺は小さくうなずき、再び足音を忍ばせた。
10
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる