今のは勇者スキルではない、村人スキルだ ~複合スキルが最強すぎるが、真の勇者スキルはもっと強いに違いない(思いこみ)~

ねぎさんしょ

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第28話

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 入学式を終えて、翌日。
 俺は再び、ヴァルシス〔勇〕学園にやってきていた。

 学園自体は、基本的に毎日開校している。
 広大な敷地は見通しのよい小洒落た鉄柵で囲まれ、なかなか開放的な雰囲気だ。
 貴族の持ち家だったころはもっと武張っていて、水堀なども巡らされていたときくが、今の外見からではわからない。

 内部の構造などは、前にも見て取った通り、かなり強い武門の残り香を感じるがな。
 正面の門から入ってすぐの広場も、ちょっとした騎士団が整列するのに不都合がないほどの広さだ。
 もっとも、今ではベンチや池がしつらえられ、これまた優雅な空気。
 シンボル的な名物だという白い大きな木と、そのまわりに設置されたカラフルな掲示板群が、なんともいえない気楽さを生み出してすらいる。

 時代も変わったものだな。
 いや、結構なことだ。素直にそう思う。
 イルケシス〔勇〕家の修行場ときたら、武功ゆるぎなき戦士ですら冷や汗をかくほどの雰囲気だったからな。
 主に居住区の裏手にある岩山でやってたんだが。あれでは学校になどなりえん。

 そんなことよりも、そう、掲示板。
 これが大事である……らしいのだ。

「ふむ……なるほど」
「これが組別課業掲示板ですね、お師匠さま!」
「そのはずだな」

 同じく見上げるとなりのパルルに、俺は小さくうなずいた。
 この学校で勇者免許を取得するためには、ひとつだけ条件がある。
 簡単なことだ。

 授業に出て評価を受け、卒業することで達成できる。

 イルケシスの血を引く者として、思うところは山ほどあるが、今は考えない。
 この時代では、俺のほうが異物も同然なのだからな。
 A組で卒業すれば、ランクAの免許。
 F組で卒業すれば、ランクFの免許を手にできるというわけだ。

 ならば、その授業はいつ行われるのか。
 どこで、どんな内容なのか。
 そういった情報が、この掲示板――広場の中央にある大きな白い樹、その太い幹に据え付けられた12枚の看板に張り出される。

 はずなのだが。

「F組前期! F組前期ですね、お師匠さま!」
「ああ」
「板はたくさんありますが~……あっ、あれです! お師匠さま、あの不健康そうな青緑の板がF組前期ですう!」
「ああ」
「なんにも張られてません!」
「ああ」

 ただただ、事実にうなずくことしかできない。
 パルルもひたすら事実を口にしているだけなのだが、それでもなぜか楽しそうだ。
 まあ……わかってはいたけれどもな。
 今日、F組の授業がないことは。

「クラスメイトに教えてもらって、心得てはいたものの……しかし、張り紙そのものすらないとは。これいかに」
「ええと、掲示は直近10日までの分、らしいですう」

 樹のそばの立て札を読み読み、パルルが教えてくれる。

「順調に卒業したければ、最低でも10日に1回はここへ来て、予定を確かめろということか」
「のんびりしたシステムですねえ」
「まったくだ。……F組に限ってのことでもなさそうだな」

 AからFまでの6組、その前期と後期で合計12組。
 授業の張り紙でびっしり埋め尽くされているのは、Bから上の掲示板ばかりだ。
 C以降は、だんだん隙間が増え……さすがに何もないのはF前期だけだが。
 ふむ。

「早く卒業したければ、上の組に上がれ……ということでもあるのかもしれないな」
「そもそもお師匠さまがいちばん下のFとか、そこがまずありえないんですけどお」
「まだ気に入らないのか? しょうがないさ、数値が出なかったんだから」
「欠陥試験にもほどがありますう……!」

 ゆうべ、居候させてもらっているセシエの家で、F組に配属されたことを報告してから、パルルはずっとぶつくさ言っている。
 こういう評価には、俺が転生する前から慣れっこのはずなんだがな?
 どうして今回に限って、こうも怒り心頭なのか。

「そういえば、セシエは今日どうしているんだ?」
「セシエっちは、なんかやりたいことがあるらしいですう! 騎士団に副業許可を申請してくるって、朝早くに出かけていっちゃいました」
「なるほど。俺が起きたときにはいなかったから、気になって……、副業?」
「はい。こないだ、バイトの面接に合格したって言ってましたあ」

 アルバイト。
 ……Aクラス騎士とは、あまりもうからないのだろうか?
 俺たちのことが迷惑になっていないといいのだが。

 ともあれ、本日どころか、しばらくのあいだ授業がないことはいかんともしがたい。
 けれどせっかく、登校してきたわけだしな。

「教室に行ってみるか。この建物にも、少しでも早く慣れなければ」
「はい~!」
「今度はごきげんになったな、パルル」
「そりゃあもう! お師匠さまといっしょに学校生活なんて、パルル夢のようです!」

 そうか。
 パルルも学生の経験があると言っていたが、まあ、それでもずいぶんと久しぶりだろうしな。
 ……そういえば、まてよ?

「パルル、おまえ、クラス分け試験は受けたのか?」
「入学するときのですか? はい、受けましたよお」
「いつ?」
「昨日の夕方です。式には、残念無念ながら間に合いませんでしたけど」
「そうだったのか。何組になったんだ?」
「パルルはいつでも、お師匠さまといっしょですう!」

 Fか。
 ふむ。それはそれは。
 ……F組?
 今のパルルが?

 いや、ま、ハイエルフになっても、パルルはパルル……ということだろうか。
 なんとも相変わらずで、実家のような安心感ではある。
 というか俺に限っては、実家よりよほど安らぐというか。

「苦労するな、おまえも」
「ぜんぜんまったくちっともさっぱりそんなことないですう! お師匠さまがいない間にくらべたら」
「そういうものか? ……おい、教室棟はこっちだぞ」
「あっ、はいはい~」

 豪奢、豪壮、それでいて外観はレンガを横倒しにしたような建物の中を進む。
 前述の通り、F組の居場所はずいぶんと端っこだ。
 年季の入った見事な内装の廊下を、パルルと並んでゆっくりと歩く。
 これはこれで、散歩か観光でもしているようで、いい気分だな。

「……! おしょさま、おしょさまおしょさま」

 と、パルルが俺を呼んだ。
 この、気がはやるあまりの舌足らずぶりは、何かわくわくするものを見つけてしまったときのくせだな。

「どうした? そんな、壁にへばりついて。そうやって歩く修行か?」
「なんでもかんでも修行に結びつけるのは、山にいた時代からの悪いくせだと思うですう、お師匠さま」
「そうか……」
「ここから2馬身先のドア、あれはA組前期の教室ですう」
「そうか。……いや、そうなのか? よく知ってるな」
「どんな授業をしてるか、お師匠さま、気になりませんか?」
「む。……覗こうというのか」

 いいのか、それは?
 よくわからないが、組分けとはともに旅するパーティメンバーのようなものではないのか。
 他のパーティの日常生活を覗くようなまねは……
 よろしくないのでは……
 しかし。

「気になるな」
「さすがはお師匠さま。では参りましょう」
「待て。もっと慎重に歩くんだ。木の上で3日間すごした修行を思い出せ」
「やりましたねえ。真の勇者に1歩も2歩も近づく、実のある修行でした。ほんとに木の上で1歩2歩あるいたらイバラのヤブに落っこちた経験、パルル忘れません忘れたくとも」
「静かに」

 妙なことばかりよく覚えているところも、昔と変わっていないな、まったく。

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