今のは勇者スキルではない、村人スキルだ ~複合スキルが最強すぎるが、真の勇者スキルはもっと強いに違いない(思いこみ)~

ねぎさんしょ

文字の大きさ
49 / 59

第49話

しおりを挟む


 気がつくと、大きな広間の中心に、俺たちは立っていた。

 体育館ではない。
 石造りの床と、アーチ状の天井。まるで、かつてパルルが造っていた神殿のようだ。
 四方が土や岩石の壁に囲まれ、あちこちを漂う魔力の灯り以外にも光源があったならば、だが。

「ふむ……?」

 立派な雰囲気はともかくとして……
 妙ではないか? 明らかに。
 ここには、俺たちしか……
 モーデン副校長、パルル、俺の3人しかいないぞ。

「……これは」

 モーデンも、すぐさま現状を把握したようだ。
 すばやく――というか、年格好からすれば信じられない速度で石畳を駆け、神殿の先を調べる。
 やはりただ者ではないというか、尋常ではない。

 パルルも杖を構え、当たり前のように俺の背中を守ってくれている。
 頼もしくなったな、弟子よ。

「転送スキルにエラーが起きた模様です」

 戻ってきたモーデンが、珍しく険しい表情で言った。
 どうやら、ほかの学生は見つからなかったようだ。

「我々の現在地は、転送予定地点とは異なります。予定していた縁魔界のどこかではありますが、集団とはぐれてしまったようです」
「起こりうることなのですか?」
「正直……ありえません。しかし、スキルとて人の行うことですからな。魔法陣を介したとしても、100パーセントないとは……」
「なるほど」
「原因はあとで調べるとしましょう。まずは、目の前のトラブルを解決しなくてはなりませんね。これからお2人を、学園に戻します」

 ふむ?
 そうか。
 そもそも転移は魔法使いのスキル。Sクラスだというモーデンは、自ら行うこともできるのか。
 すごいな。転移は試してみたこともない。
 だが、状況が状況だ。

「なにか、自分たちにも手伝えることがあれば……」
「ええ。それが今、学園に戻って、誰か職員に事の次第を伝えていただくことです。なんらかの手違いで、おおごとにならず済むならそれでよし。もしも不可解な点が目立つようなら、誰かしら動いてくれるでしょう……校長先生まで報告がいくよう、取り計らっていただけますかな」
「承知しました」

 なるほど。
 事態を重く見ている……
 というより、最悪の場合を想定している、ということだろうか。

 間違いのない動きに違いない。
 山でパルルと2人だったときや、妖精たちといっしょだったときは、なかなかこういうことを学べなかったからな。すばらしい。

「ではお2人とも、いきますぞ」

 やわらかな口調は相変わらずだが、しかし。
 モーデンの雰囲気が一変した。
 スキル発動を助けるものなのだろうか、胸の前で両手の指を組み合わせている。
 凜とした表情は年齢を感じさせない。

 スキル、の声が聞こえたか聞こえないか――
 俺の視界が再び左右に激しくぶれ、
 まもなく元に戻った。

「……む……」
「お師匠さまっ」

 転移は成功したようだ。
 そばにパルルがいるし、見える景色がさっきまでと違う。
 本当に個人で転移スキルを操ったのか。さすがはモーデン副校長。
 ただ。

「ここは……学校? では?」
「ないです!」

 やはりか。
 どうも視界に茶色が多いと思った。

 土くれがむき出しの壁面に、やたらとでこぼこの目立つ地面。
 空は見えない、頭上は遠い闇だ。
 そのくせ謎の光源はあるようで、見たくもない茶色を見るのに不自由はしない。

 こういう環境。
 縁魔界でよくある、と学んだ。

「さっきの神殿があった場所と、そんなには離れてない気がしますう!」
「ふむ? それは……ああ、鼻か?」
「はい! 空気のにおいが同じなんです」

 パルルの、エルフ特有のこういう感覚は信憑性が高い。
 どういうことだ?
 モーデンが転移スキルを失敗した……のかもしれないが。

「そうでなかった場合のほうが、厄介か……?」
「お師匠さま?」
「パルル、今の転移のとき……それと、学校から転移したとき。なにか聞こえたか?」
「え? いいえぇ、なにも……? あっ」
「どうした?」
「学校からの転移の瞬間、誰かがおならしました。びっくりしたんでしょーかね?」

 そんなくだらないものが聞こえていて、ほかを聞き逃すなどとは考えづらいな。……パルルなら、よもやとも思ってしまうが。
 俺には聞こえたぞ。
 今の転移のときも、耳鳴りのようにそっと、けれど確かに。

 まっていたぞ

 という、ふしぎな声を。
 どこか震えるような……よろこびをこらえきれないような。
 そんなふうに聞こえたのは、気のせいか?

 声が聞こえたこと自体が気のせいだ、とは……
 すでに、考えなくなってきているな。

「なにかある……いや。なにか、いる・・のか……?」
「お師匠さま? なにかお心当たりでも……?」
「いいや、基本的にさっぱりだ。ただこの状況、つくられたものかもしれん」
「えっ。副校長さん、わざとパルルたちをこんな……!?」
「そうではなく。……まてよ、もしそうだったら怖いな。いろんな意味で」
「ですう。さも想定外だ、みたいなリアクションを自然に連発してましたですよ、あのお人」
「あれが演技だとしたらすごいが、そんなリアクションを見てわざとかもしれないと思えるおまえのほうがやはり怖いという結論に至った」
「えー」

 ともあれ、無駄話に時間を使うのが得策とも思えない。
 結局、ここはどこなんだ?

「見える範囲だけでいえば、自然地形を利用した地下ダンジョンのようだが……?」
「ですねえ。超巨大蚯蚓ミュータントワームの巣穴っぽいですう」
「高さが天井知らずなのは、そうか、これが縁魔界ゆえの現象か」
「そーゆーことですよね! 縁魔界すごいですう!」

 はしゃぐことでもない気がするが。

「空間が縦にゆがんでいるようだな。よくあるパターンだと授業で教わったが、やはり見ると聞くとでは大違いだな……」
「ですう。階段も普通にあるらしいですけど、ほんとですかね?」
「想像がつかんな……」
「あ、ほらほら、言ってるそばからありましたよお師匠さま!」

 パルルが指さす先に、確かに上へとのびる石段がある。どこまでも続いているのかと思いきや、壁を回りこむようにして闇にまぎれていて、上の景色はうかがえない。
 ねじれた魔力の影響を受けている、ということか。
 イルケシスの領地も、今こんなふうになっているのかもしれない……

「どうします? 階段、のぼってみちゃいますか?」
「まて、パルル。ダンジョンにおいては、まずフロア全体の把握が可能か試行すべし、というのを教わったはずだ」
「はっ。そうでした! さすがお師匠さま! ついついミステリアス階段に気がはやってしまったパルルをキライにならないでほしいですう」
「きらいになどならんが面倒くさいなおまえ。まずもって、階段がこの1カ所とも限らん。この――」

 響き渡った悲鳴に、俺は言葉を切った。


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は11/7、19時の更新になります。
→詳細は近況ボードにて
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...