今のは勇者スキルではない、村人スキルだ ~複合スキルが最強すぎるが、真の勇者スキルはもっと強いに違いない(思いこみ)~

ねぎさんしょ

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第52話

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 立ち止まっている俺に気づいて、パルルも振り返る。

「むッ……!? 何者ですかあ!?」

 影は怒声に応えない。
 ひょろ長く、真っ黒い体を左右にふらふら揺らしながら、じっとこちらを見ているようだ――馬のような細面の中心に、ひとつだけついている真っ赤な目を見開いて。
 こいつは。
 モンスター、いわゆる魔物じゃない。
 気配が、存在感が、すべてが異なっている。

「魔族、か?」
『ギギギゲゲゲゲゲ』

 錆びた鞘同士がこすれるような、金属音にも似た奇怪な声。
 魔族が振り上げた両腕の先で、赤い光が渦を巻いた。
 明らかに攻撃。しかし性質が定かでない。炎か? 衝撃波か? それともまったく別のなにかか?
 こういうときは……

――スキル 『村人』 風ランク85+火ランク85+水ランク85+地ランク85
――擬似的顕現・魔法使い技能<すべてをさらりと受け流す>

「<クリムゾン・ボム>!!」

 魔族の放ってきた光の軌道をそらし、そのふところにひと呼吸で入りこむ。
 至近距離で発動させた勇者スキルが、細長い魔族を吹き飛ばした。

 身構えていたパルルが、体の力を抜きながら、それでも警戒を続けながら、なおかつ笑顔になりながら拍手した。忙しいやつだ。

「すごーいお師匠さま! 魔族だろうが何だろうが、問題なしですう!」
「そんなことはないが、倒せてよかった」
「何がすごいって、ことここに至ってまだ仮免許使うあたりが!」
「授業中だからな」
「まさかの理由! もう関係なくないです!? でもそーゆーとこ! さすがそーゆーとこですう!」
「それにやはり、勇者スキルの威力はすばらしい。仮免許に封じることができるようなものでも、魔族を撃退できる。やはり人類に勇者は必要だな」

 パルルが、珍しく返事に間を置いた。
 小首をかしげて、ふーむなどとうなっている。

「どうかしたか?」
「いえ……。お師匠さま、我々ずいぶん、勇者スキルの再現にも取り組みましたよねえ」
「うん? 修業時代の話か?」
「ですう。いろんな村人スキルを複合させて、どの職業のスキルよりも繊細に調べて、がんばりましたよねえ」
「そうだな」

 しかし結局、再現することはできなかった。
 数多あるジョブ、それらのスキルの中で、勇者スキルだけが……
 スキルそのものは発動するのだが、勇者スキルの証でもある、あの青い燐光がどうしても現れなかったのだ。
 勇者スキルの最たる特徴は、対魔族特効。燐光が出ないということは、それが発揮されないことを意味している。
 やはり村人のまねごとでは届かぬかと、それはそれで納得していたのだが。

「それがどうかしたのか?」
「パルルはお師匠さまと違って、この仮免許で初めて勇者スキルを目にしまして……もっと言うと、実戦で使われるのを見たのも、今日が初めてで」
「そうか、そうなるか。俺も大して変わらないがな」
「いえ、まあ、なんていうかあ……ううーん、いえ。まだわからないかもですね……」

 ちら、とパルルが先ほどの魔族に目をやる。
 黒焦げ爆散したそいつの死体は、もう大半がちりになって崩れていた。
 体を構成しているもののほとんどが魔力である生き物は、死ぬとこうなる。

「いきなり出てこられてびっくりしましたけど、魔族としては低級みたいですし」
「こいつがか? そうだな。強くはなかったようだ」
「魔物の類いより全体的に格上とはいえ、魔族もピンキリですもんねえ」
「ピンのほうに出てこられてもたまらん。やはりこの縁魔界、学校側の見立て通りではないようだな」

 たとえば依頼を管理するギルドでも、魔族が出現する場所には警報が発せられ、一定以上、確かA級以上の免許持ちが1人は含まれているパーティでなければ、該当する場所に行くことはできない。
 つい先日の授業で、そう習ったばかりだ。
 事前にわかっていたならば、いくらA組の授業だからといって、魔族の出る場所を選ぶはずがない。

 どうやらトラブルは、転移ミスだけでなく――
 いいや、まさか、転移にも魔族が関わっているのか?

「早く全員を集めなければな。力を合わせてじっとして、助けを待つ。その状況を作ろう」
「言葉の感じはともかく、間違いなく最善手ですう」
「A組の総人数がわからんからな、ともかく知っている顔を見つけよう。それができたら、一度階層を戻るぞ」
「知ってる顔って、つまり――」

 ドズウウウウウンンン

 響いた轟音に、言葉を切ったパルルといっしょに見上げる。
 繰り返す反響。間違いなく、ダンジョンの中でした音だ。
 おそらくは攻撃スキル。
 誰かが戦っている。

「パルル。音は上から、で間違いないな?」
「はいぃ!」
「下にいるA組の集合者たちではない、か。行くぞ」
「ほうぇいぃ!」

 やる気に満ち満ちるのはいいが、舌が絡まりかけてるぞパルル。意気込みすぎてしくじらなければいいが。
 やわらかな土の地面を山猫のように駆け、俺たちは上の階層へと向かった。

 本来なら、どこにあるかもわからない階段を探し出すだけでもひと苦労だっただろうが、こういうときパルルの耳と鼻は本当に役に立つ。
 途中で遭遇する、多くのモンスター……加えて数体の、言葉を解さない魔族を打ち倒しつつ、ふたつの階段をのぼったところで。
 俺たちはひらけた空間にたどり着いた。

「む……ここは」
「あからさまに感じが違いますう!」

 パルルの言う通り。
 今まで、ふしぎな空間ながらもダンジョンの『中』感があった縁魔界だが、ここはもはや外にも等しい。

 地面はかたい石畳に変わり、ブロックの隙間という隙間から短い草が生えている。
 頭上に広がるのは天井ではなく空、しかし恐ろしく低い雲がどこまでも広がり分厚く、太陽などチラリとも見えはしない。
 石畳の先には、小高く作られた白い石の台座。

 そしてその手前に、無数のモンスターの死体。

 さらに手前には、人間が倒れている。

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