55 / 59
第55話
しおりを挟む「勇者セグオン」
改めて、俺は過去の因縁に向き直った。
「俺を待っていたと言ったな。学園の転移や、副校長の転移にちょっかいを出してまで。どういうつもりだ?」
『答える必要はない……と言いたいが。やはり、お前のようなできそこないでも、こうして向き合うと里心がつくものだな。なつかしいよ』
「何を言っている……?」
『イルケシスは全滅した』
…………。
ほかならぬイルケシスの者から、その言葉を聞くことになろうとはな……
『あの大戦末期。イルケシス総帥、我が偉大なる大叔父ダドリーは、魔族との戦局を決定的なものとするため、ある作戦を国に提案した。学校でお勉強したか?』
「いいや」
『いかんなア、できそこないの上になまけ者では……。あのとき戦線はすでに、人間側が押しはじめていた。しかし魔族が、乾坤一擲の大攻勢を準備していることもわかっていた。ダドリーはやつらの反撃を、すべてイルケシスが引き受けると言ったのだよ』
「……イルケシスの治めていた領土でか」
『そうだ。ダドリーは、領民を避難させ、土地一帯をわざと縁魔界と化した。この場所と同じような』
なんだと……そんなことができるのか。
勇者になせる技術を知り尽くしたイルケシス。やはりすさまじい。
『魔族は見事に引っかかり、主力のすべてをイルケシス領に差し向けた。そのあいだに、ほかの人間の軍勢が進撃し、多くの縁魔界や魔界を人間界に浄化することができた』
「おとりになったのか、イルケシスのすべてが」
『そう。ダドリーは雄々しく戦った。そして死んだ』
端的だ。腹立たしいほどわかりやすい。
しかし、わからないぞ。
なぜセグオンはずっと、こんな話のあいだ中ずっと、ずっと、
わらっているのだ。
『魔族は人間の知恵をあなどった。しかしイルケシスも、魔族の力を見誤った』
「魔王が来たのか……」
『100体単位でな。もっとも、その半数以上が討ち果たされた。ワタシもがんばったよ、1人で2体も魔王を倒した。しかしダドリーが死に、1人、また1人とイルケシスは減り、やがて総崩れとなった』
「貴様も死んだ」
『ははははは馬鹿を言うな! 生きているだろうが、ここにこうして』
そうか……
俺には、死んでいるように見えるんだがな。
「魔族に降ったわけか……自らも魔族になる条件で!」
『先ほども言ったように、魔族の戦力も致命的なダメージを受けた。あのまま戦い続けていれば、人間側の残存戦力に完全敗北していただろうな。勇者の大半がいなくなっただけで、ほかの戦闘ジョブ、騎士や魔法使いはほとんどが残っていた』
「胸がすっとする話だ」
『魔族は撤退を決めた。そのとき、生き残りのイルケシスたちに問うたのよ。ここで死ぬか、魔族となって魔界に至り、力を尽くすか、とな』
「胸がむかつく話だ。…………」
表情は変えないまま、俺はひとつの言葉を胸の奥に刻んだ。
イルケシス、たち。
セグオンはそう言った。
こいつ以外にも、魔界の軍門に降った勇者たちが、いる……?
『かんちがいするなよ? ワタシは死にたくなかっただけだ』
自らの触手を人間の手でなでながら、セグオンは笑みを深めた。
『生き物として、当たり前の感情。魔族も人間も、そこは同じ。できそこないだってそうだろう?』
「俺は一度死んだ」
『っははははそうだったそうだった! 知っているぞ。この体になってから、ちょっと遠くまで見えるようになってねエ。お前が転生したときは驚いたよ』
「……なぜだ? できそこないの俺など、眼中になかったんだろう」
『そう怒るな。今やお前は、ワタシたちのあこがれも同然』
気色の悪い。
ここまで本気でそう思ったのは、何十年ぶりのことか。
『肩身が狭いんだよなア。我々としてもね、いろいろと』
ずず、とセグオンの巨体が身じろぎする。
ばかでかすぎてよくわからないが、おそらく重心の位置が変わった。
『せっかく魔族になったってえのに、トップの大魔王は健在。イルケシスもびっくりの縦社会なんだよ、魔界は。人間から魔族化したワタシなんかは、純粋な魔族に白い目で見られてるってわけさ』
「ざまはないな」
『フン。立場を強めるには、強くなるしかない。さっきの男、まずまず目は良かったな。ワタシはいまや、れっきとした魔王だ』
「まったくざまはないな」
『黙れ。魔族としてこれ以上の力を得ることは、元人間であるワタシにはできん。……だがな。わかるのだよ。イルケシスだからこそわかるのだ』
さらに深くなったセグオンの笑みが、口元に長い牙をのぞかせた。
『イルケシスの血を濃くすれば……レジード、お前の血肉を我がものとすれば! どんな魔族も、勇者すらも敵わぬ、最強の存在になれるとな!!』
「そんなことだろうと思っていた」
『……お前な。できそこないの上にノリが悪いと、人の社会ではやっていけんぞ。魔界ならそれでもなんとかなるが』
「忠告痛み入る。だが必要ないな」
仮免許を右手に構える。
目の前の状況がどうであれ、今が課外授業中であることに変わりはない。
「俺は確かにイルケシスの血を引いている。転生しようとそれは変わらない。だが今、俺は勇者学校の生徒だ。勇者免許をめざす今の環境で、じゅうぶん満足している」
『勇者免許! 何度聞いても笑える冗談だ。そんな物をコレクションしたところで、勇者などと名乗れるものか!』
「魔王に言われる筋合いはない」
『そうか?』
「そうだろうが」
『そうかな』
セグオンが右手を掲げた。
その指先に灯っているのは、闇の粒――
まずい。
『<ヴリトラ・ヴァーミリオン>』
ゴドンッ!!
土くさい空気が、轟音に震える。
駆け抜けていった闇の本流は、巨大な台座の一部を消し飛ばしていた。
とんでもない威力……いいや。それよりも。
今の攻撃は。
「勇者スキル……!?」
『力の源は魔のものだがね。それもまた、オツなものだろう?』
「なぜまだ使える。魔族になったのだろう」
『わからん。本当にわからん。だが、世界がワタシに、こう言っているんだとは思わないか?』
セグオンの巨体が伸びた。
違う。立ち上がっただけだ。今まで座っていたのか。
カエルのような姿で、イノシシのごとく身構え、セグオンは指先に闇を宿した。
『ヒトでも魔でも追いつかぬ、圧倒的な存在になれと!!』
「思うか、このクソ野郎」
『はははははははは!!』
**********
予約設定を間違えて、投稿が遅れてしまいました。
失礼いたしました。
0
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる