今のは勇者スキルではない、村人スキルだ ~複合スキルが最強すぎるが、真の勇者スキルはもっと強いに違いない(思いこみ)~

ねぎさんしょ

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第55話

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勇者・・セグオン」

 改めて、俺は過去の因縁に向き直った。

「俺を待っていたと言ったな。学園の転移や、副校長の転移にちょっかいを出してまで。どういうつもりだ?」
『答える必要はない……と言いたいが。やはり、お前のようなできそこないでも、こうして向き合うと里心がつくものだな。なつかしいよ』
「何を言っている……?」
『イルケシスは全滅した』

 …………。
 ほかならぬイルケシスの者から、その言葉を聞くことになろうとはな……

『あの大戦末期。イルケシス総帥、我が偉大なる大叔父ダドリーは、魔族との戦局を決定的なものとするため、ある作戦を国に提案した。学校でお勉強したか?』
「いいや」
『いかんなア、できそこないの上になまけ者では……。あのとき戦線はすでに、人間側が押しはじめていた。しかし魔族が、乾坤一擲の大攻勢を準備していることもわかっていた。ダドリーはやつらの反撃を、すべてイルケシスが引き受けると言ったのだよ』
「……イルケシスの治めていた領土でか」
『そうだ。ダドリーは、領民を避難させ、土地一帯をわざと縁魔界と化した。この場所と同じような』

 なんだと……そんなことができるのか。
 勇者になせる技術を知り尽くしたイルケシス。やはりすさまじい。

『魔族は見事に引っかかり、主力のすべてをイルケシス領に差し向けた。そのあいだに、ほかの人間の軍勢が進撃し、多くの縁魔界や魔界を人間界に浄化することができた』
「おとりになったのか、イルケシスのすべてが」
『そう。ダドリーは雄々しく戦った。そして死んだ』

 端的だ。腹立たしいほどわかりやすい。
 しかし、わからないぞ。
 なぜセグオンはずっと、こんな話のあいだ中ずっと、ずっと、
 わらっているのだ。

『魔族は人間の知恵をあなどった。しかしイルケシスも、魔族の力を見誤った』
「魔王が来たのか……」
『100体単位でな。もっとも、その半数以上が討ち果たされた。ワタシもがんばったよ、1人で2体も魔王を倒した。しかしダドリーが死に、1人、また1人とイルケシスは減り、やがて総崩れとなった』
「貴様も死んだ」
『ははははは馬鹿を言うな! 生きているだろうが、ここにこうして』

 そうか……
 俺には、死んでいるように見えるんだがな。

魔族に・・・降った・・・わけか……自らも魔族になる条件で!」
『先ほども言ったように、魔族の戦力も致命的なダメージを受けた。あのまま戦い続けていれば、人間側の残存戦力に完全敗北していただろうな。勇者の大半がいなくなっただけで、ほかの戦闘ジョブ、騎士や魔法使いはほとんどが残っていた』
「胸がすっとする話だ」
『魔族は撤退を決めた。そのとき、生き残りのイルケシスたちに問うたのよ。ここで死ぬか、魔族となって魔界に至り、力を尽くすか、とな』
「胸がむかつく話だ。…………」

 表情は変えないまま、俺はひとつの言葉を胸の奥に刻んだ。
 イルケシス、たち。
 セグオンはそう言った。
 こいつ以外にも、魔界の軍門に降った勇者たちが、いる……?

『かんちがいするなよ? ワタシは死にたくなかっただけだ』

 自らの触手を人間の手でなでながら、セグオンは笑みを深めた。

『生き物として、当たり前の感情。魔族も人間も、そこは同じ。できそこないだってそうだろう?』
「俺は一度死んだ」
『っははははそうだったそうだった! 知っているぞ。この体になってから、ちょっと遠くまで見えるようになってねエ。お前が転生したときは驚いたよ』
「……なぜだ? できそこないの俺など、眼中になかったんだろう」
『そう怒るな。今やお前は、ワタシたち・・・・・のあこがれも同然』

 気色の悪い。
 ここまで本気でそう思ったのは、何十年ぶりのことか。

『肩身が狭いんだよなア。我々としてもね、いろいろと』

 ずず、とセグオンの巨体が身じろぎする。
 ばかでかすぎてよくわからないが、おそらく重心の位置が変わった。

『せっかく魔族になったってえのに、トップの大魔王は健在。イルケシスもびっくりの縦社会なんだよ、魔界は。人間から魔族化したワタシなんかは、純粋な魔族に白い目で見られてるってわけさ』
「ざまはないな」
『フン。立場を強めるには、強くなるしかない。さっきの男、まずまず目は良かったな。ワタシはいまや、れっきとした魔王だ』
「まったくざまはないな」
『黙れ。魔族としてこれ以上の力を得ることは、元人間であるワタシにはできん。……だがな。わかるのだよ。イルケシスだからこそわかるのだ』

 さらに深くなったセグオンの笑みが、口元に長い牙をのぞかせた。

『イルケシスの血を濃くすれば……レジード、お前の血肉を我がものとすれば! どんな魔族も、勇者すらも敵わぬ、最強の存在になれるとな!!』
「そんなことだろうと思っていた」
『……お前な。できそこないの上にノリが悪いと、人の社会ではやっていけんぞ。魔界ならそれでもなんとかなるが』
「忠告痛み入る。だが必要ないな」

 仮免許を右手に構える。
 目の前の状況がどうであれ、今が課外授業中であることに変わりはない。

「俺は確かにイルケシスの血を引いている。転生しようとそれは変わらない。だが今、俺は勇者学校の生徒だ。勇者免許をめざす今の環境で、じゅうぶん満足している」
『勇者免許! 何度聞いても笑える冗談だ。そんな物をコレクションしたところで、勇者などと名乗れるものか!』
「魔王に言われる筋合いはない」
『そうか?』
「そうだろうが」
『そうかな』

 セグオンが右手を掲げた。
 その指先に灯っているのは、闇の粒――
 まずい。

『<ヴリトラ・ヴァーミリオン>』

 ゴドンッ!!

 土くさい空気が、轟音に震える。
 駆け抜けていった闇の本流は、巨大な台座の一部を消し飛ばしていた。
 とんでもない威力……いいや。それよりも。
 今の攻撃は。

「勇者スキル……!?」
『力の源は魔のものだがね。それもまた、オツなものだろう?』
「なぜまだ使える。魔族になったのだろう」
『わからん。本当にわからん。だが、世界がワタシに、こう言っているんだとは思わないか?』

 セグオンの巨体が伸びた。
 違う。立ち上がっただけだ。今まで座っていたのか。
 カエルのような姿で、イノシシのごとく身構え、セグオンは指先に闇を宿した。

『ヒトでも魔でも追いつかぬ、圧倒的な存在になれと!!』
「思うか、このクソ野郎」
『はははははははは!!』


**********


予約設定を間違えて、投稿が遅れてしまいました。
失礼いたしました。
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