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第1章 支援術師
第7話
しおりを挟む眉間に小さなしわを寄せ、マロネは黙りこんだ。
話が見えていないのだろう。
無理もない。俺も理解にだいぶ時間がかかった。
「この世は闇が多すぎる」
イスに腰を下ろすと、アリーシャが酒を注ぎ足してくれた。
そういう役回りを与えたつもりはないんだが、進んでやってくれている。酒のまあうまいことよ。
今日はいくぶん、苦くも感じるがな。
「我ら魔の者と、人間と……この世界を牛耳る2大勢力は、長らく争い続けているが。その力は、おおむね拮抗している――と、人間は考えている。そうだな、マロネ?」
「およそ間違いなく」
「今現在も、そうのようだな」
「はい」
「無理もないことだが、残念だ。彼らには、闇の勢力の深さが……もっと単純に言うと、魔王の数が把握できていない。人間側が想定している数は、おそらく実際の半分にも及ぶまい」
「むちゃくちゃいますもんね、ゼルス様以外にも魔王」
「大半は、自分の領地で遊ぶのに夢中な、引きこもり連中だからな。俺も人のこと言えんが」
「ゼルス様もそうですけど、領地の場所的にそうなっちゃうことも多いですからね」
「うむ。他の大陸にいるやつも多い。全体数を把握しているのは、魔王の中でも俺と他数名だけだろう」
魔王は皆、闇の眷属ではあるが、それぞれ独立した存在だ。
誰が死のうが生きようが、基本的には知ったことではない。
人間の言うような絆もない。
皆が皆、この世に生物は己だけとでも言うように、我が物顔で生きている。
俺はやつらが、あまり好きではない。
同じ闇より出しものではあるがな。
「人間も、各国が勇者を募り、育て、魔王たちを倒そうとしているが……いかんせん、数が違いすぎる」
「人間もかなり多いんですけど、下手に国とかででっかくまとまっちゃってる分、うちらより連携悪いですもんね」
「ああ。たとえすべての勇者パーティが、魔王を1人ずつ倒したとしても、まったく足りない。だからこそ、俺なりに手助けしてきたつもりなんだが……」
アリーシャに目を向けると、彼女は小さくうなずいた。
「魔王様には、感謝しています。わたしの力だけでは、果たして勇者になれるかどうか」
「なれるさ。だが、今ほど対魔族に特化してはいなかっただろう、とは自信を持って言おう」
「はい」
「人間の勇者は大変だ。力を示すだけじゃない、魔王を倒したあとは、普通の人間としても生きていかなくてはならない。立派なものだ。だから人間は好きだ」
「はい……」
「戦いについてなら教えられる。対魔族についてなら鍛えられる。本当に、人間と魔王との力が拮抗すれば、世界はもっとよくなる!」
それが俺の考えだ。
……だからこそ。
今回のことは、まったく予想外なわけで。
「何人もの人間を、魔王城から送り出してきた。いずれ劣らぬ実力者、恥じることない勇者の候補。無論、ダクテムもその1人だ」
もちろんです、とマロネが大きくうなずく。
彼女もずっと、俺といっしょに人間たちを鍛えてきたんだ。
思い入れもあることだろう。
だからこそ……
そのダクテムが、パーティを追い出されたということに対して……
「やっぱり……」
「ええ」
「っスゴイもんなんだな~~~勇者っつーのは!!」
天井をあおいで、思いっきり嘆息する。
これでも覚悟は決めていたつもりだが、そうかあ~。
そうなのかあ~。
「ダクテムでも厳しいとはなあ~。やっぱすごいな勇者! 魔王を倒そうってだけあるよな!」
「案の定、そーゆー感想になるわけですねえ、ゼルス様は……」
「なんだよ、そうだろ!? 勇者スゲーだろがよ!」
「マロネとしては、ただただくやしい限りですよ。ダクっちもいい仕上がりでしたのに」
「出て行ったときより強くなってたぞ。でも足りないか~、そうか~。うーむ奥が深い」
「課題が山積み、ってことには間違いなさそうですけどね」
「その通り! 燃えてきたというわけだよマロネ!」
あの、とアリーシャが控えめに口を挟む。
細い眉毛が寄り気味で、珍しく戸惑っているようだ。
「その……魔王様は」
「おう?」
「先ほどのダクテム様が、勇者のパーティを追い出されたことを……なんというか、ダクテム様の実力不足、とお考えなのですか?」
「そりゃー……」
そうだろ?
**********
お読みくださり、ありがとうございます。
次は11/18、19時ごろの更新です。
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