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第2章 テイマー
第50話
しおりを挟む大量のプリンをいくつものカートに載せる。
俺たちは手分けして、魔王城1階にそれを運んだ。
運んだところでどうするのよ、とイールギットはいぶかしんでいたようだが――
「わあ~魔王さまだあ~!」
「魔王さまあそんでー!」
「きゃ~~~きゃ~~~!」
「うえええええええん」
魔王城1階、奥の奥。
ひっそりと設えられている裏門のほど近くに、その空間はある。
さっきの宵闇鶏たちに、勝るとも劣らないすさまじい声の渦……!
「なっ……!?」
イールギットも、たちまち頬を引きつらせていた。
大勢の魔族幼児たちに、360度を包囲されながら。
「なん、こ、ここはっ……!?」
「おねーちゃんだれー?」「アリーシャおねーちゃんのともだち?」「あそぼ~よ~!」
「え、ええっ……!?」
「あっ、プリンだあ~!」「スゴーイ! いっぱいあるよ~!」「うええええええん」
「ちょ、ちょっと魔王!? どーゆーことよ!?」
どういう、も何も。
見ての通りだ。
「魔王城保育園であずかっている、魔族たちの子どもだが?」
「あずかっ……え、ええ!?」
「おまえが修行してたときもやってたぞ。あのときはまだ、城とは別のところにあったが」
「それが普通でしょ!? いや待って、魔族の保育園ってだけでも普通じゃないけど!? ぜんぜん知らなかったわよ!」
「子どもの相手は大変だからな。修行の妨げになると思って……、いや、今にして思えば、それもまたいい修行だったか……?」
「なに言ってるかぜんぜんわかんない! わ、わああ、ちょっとちょっとっ……!?」
よじよじと、子どもたちがイールギットの体をのぼりはじめる。
みんな高いところが大好きだからな。
俺の右肩にもハーピーの子どもが、左肩にはアラクネの子どもが乗って、俺の髪の毛を引っ張り合っている。おやめたまえ。
「ひい、く、くすぐったいくすぐったい! ど、どうしたらいいのよ!?」
「どうにもならない。プリンをうまく使って、いっしょに遊んでやってくれ」
「そんなこと言われても! ちょっ、さっきの、あ、アリーシャは!? アリーシャどこ!? たすけて同じ人間のよしみで!」
「アリーシャはあそこだ」
「うわあーーー!?」
驚愕するイールギットの視線の先。
魔族ミノムシとでも言うべき状態になったアリーシャが、いつもの無表情で座っていた。
子どもたちに絡みつかれ、まとわりつかれ、てんこ盛りになったまま、冷静に絵本を読み聞かせている。
アリーシャは大人気だからな。
なぜかはわからんが、魔族の子どもがとてもよくなつく。
本人も、子どもが好きと言っていた。
そつなく面倒を見てくれるので、非常に助かっている。
「え……ええいもうっ!」
プリン~、とカートに群がる子どもたちの前に、意を決したらしいイールギットが立ちはだかった。
「みんなでいっぺんにとっちゃダメよ! 人数分あるかわかんないんだから! いやたぶんあるけど」
「プリン~!」「いいにお~い」「おねーちゃん、たべさせて~」
「ちゃんと並んで! 列を作りなさい! 列ってわかる!? 人間がやってるの見たことある!? ない!? じゃあみんなお手々つないで! 手ぇない子はなんか、それっぽいのつないで! そしたらはい、バンザーイ!」
バンザ~イ、と子どもたちがお遊戯感覚でイールギットに従う。
すごいな。
仕切りモードに入ったら、またたくまにこの場を掌握してしまったぞ。
多種多様な種族の子どもたちに、イールギットがひとつずつプリンを渡していく。
微笑ましい光景だが……ふむ?
「2個持ってっちゃダメよ! 1個だけ! ちょっとなによ何言ってるの、え、おいしい!? そりゃよござんした! こっちの子はなに!? ああもうわかったわよ、1回だけね! はいア~ン!」
「イールギットよ」
「待って待ってこらそこ、ケンカはいけませーん! ぬおっ、おいこら!? 誰よ今ひざかっくんしてきたの!? 人体の構造を熟知した魔族どもねっ!」
「イールギットよ」
「なによ魔王のくせにうっさいわねっ!? 忙しんだから、プリンほしいならアンタも列に並びなさいな!」
「なぜテイムしない? 言い聞かせて列を作らせなくとも、テイムして従わせればすむことじゃないのか?」
ぴた、としばし、イールギットは動きを止めて……
どこか複雑そうな表情で、少しくちびるをとがらせた。
「しないわよ。それは」
「なぜだ?」
「人間と魔族はそりゃ争ってるけど、自分の子どもに接するやりかたは、そんなに変わらないでしょ。テイムして、自分の思い通りにしていいのは……なんてゆーか……そういうんじゃないから」
「ふむ?」
「……アンタが教えてくれたんじゃない」
ぷいっ、とイールギットがそっぽを向き、子どもたちの相手に戻ってしまう。
なるほど。
イールギットは、本当に……この俺の手をはなれた今でさえ。
この魔族の子どもたちと、たとえばいつか、友だちにもなれる気でいるような。
そういうつもりで、いてくれているのか。
「見事……」
口の中で呟いて、俺は。
プリンをもらいに、列の最後尾に並んだ。
俺もはいア~ンってしてもらうぞ!
**********
お読みくださり、ありがとうございます。
次は12/26、19時ごろの更新です。
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