上 下
59 / 129
第2章 テイマー

第58話

しおりを挟む


「ゼルス様あ~~~」

 のこのこと、闇の精霊が短い歩幅で現れた。

「酔い覚まし持ってきましたよ~。いらないかもしれませんけど」

「そう言うということは、少なくともお茶作るあたりからは見てたということだな」

「まあ、はい」

「追いかけなくていいのか?」

「なんでマロネがそんな。うすらしこたまめんどっちー」

 ははは。
 ま、おまえはそう言うだろうな。言う分には。

「まー、考えたってどーしよーもないことをうじゃうじゃ考え続けるのは、人間の特権といえばそうですからね~。いいんじゃないスか、別に」

「どうしようもないことなのか?」

「はい。新たにわかったことですが、あいつ、勤めていた国の城にドラゴンとムーマク、手塩にかけた数頭ずつを置いてきています」

「……ほう? それは前に受けた報告の……」

「ええ。宮廷テイマーとして預かっていた魔獣を、ま、置いてきたっていうより、取り上げられたって感じですかね。ペガサスは、あいつが個人で世話してたみたいです」

「そうか。ペガサスは元気にしてるか?」

「スレイプニルに預けてあるんで、大丈夫でしょう」

 なるほど、それは適材適所だ。

「ドラゴンもムーマクも、慣れりゃおとなしいモンスターです。テイマーに高い給料払わなくてもいける、と踏んだみたいですね」

「それで追放か? いきなり? いわば国家公務員を?」

「……ヒッヒッ。若くてかわいくて人望あふれるマロネには、よくわかんないんですけどお。人間社会って、特にチカラがものを言う界隈って、そーゆーヤカラ・・・・・・・も多いみたいですねえ」

 マロネがわらっている。
 ああ。
 まさしく嗤っている。

「自分よりずーっと若くって、おまけにナマイキでちみっちゃいメス。そういうのめざわりでしょうがないってタイプが、その城にもいたみたいです」

「……マロネ。すごい顔・・・・してるぞ? 大丈夫か?」

「え? すごいかわいい? やだあ、知ってますよ~」

「難聴か。いやまあ、実年齢を考えるとやむなし」

「とりあえずマロネは気分がいいので、小川で足でも洗っちゃいますね」

「なぜ急に!?」

「え、だって、下流であのアホが顔洗ってるから」

「やめたげて! 油断も隙もないなおまえだけは!」

 そうそう、と本当に小川に向かいながら、マロネが森の向こうを指さした。
 西の方角。

「ラギアルドから報告です。ひとことだけ」

「……おう」

「『通しました』と。ゼルス様のご命令通りに」

「わかった」

「身を隠しているつもりらしいので進行はゆっくりですが、それでも2日はかからないでしょう」

「ふむ。なら、こちらから出向くか」

「仰せのままに」

 イールギットを関わらせずにすませたい。
 そう難しいことではないだろう。

「あっ、バカ精霊……っちょっと何やってんのよ!? 人の上流で!」

「ひょほほほほ、美人になるでえ! マロネの足のあいだ通った水で顔洗ったらのう!」

「ハンパな西言葉やめろ腹立つっ!」

 ははは。やはりイールギットはいいな。
 怒った顔も太陽のようだ。
 彼女がしっかり照らしたならば、おれなど存在できようもないだろう。

 その邪魔は。
 させん。


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は1/19、19時ごろの更新です。

少々トラブルがあり、更新が遅れてしまいました。
失礼いたしました。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:248pt お気に入り:305

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,583pt お気に入り:91

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:584

一般人がトップクラスの探索者チームのリーダーをやっている事情

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,321pt お気に入り:74

彼だけが、気付いてしまった

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:478

処理中です...