魔王だが、弟子の勇者たちが追放されまくってるそうだな? ~かわりに魔王自ら勇者パーティに潜りこんだら、なんか勇者が詰んだ~

ねぎさんしょ

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第2章 テイマー

第57話

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 大きな両目をぱちぱちさせて、イールギットがコップを受け取る。

「……あたしの?」

「ああ。好きだっただろ、甘いの」

「……まあね」

「飲むといい。酔いにも効くかもしれん」

「酔ってんのはアンタだけよ……」

 岩に腰掛けて、俺も茶を飲んだ。
 うむ。
 ほどよい甘みと、ふくらんだ香りが心地よい。

「結果、とんだピクニックになったなあ」

「誰のせいよ……」

「はっはっはっ、俺のせいかな! まことに楽しいじゃないか。前にもあったな、こんなこと」

「……! 知らない」

「あれだ、えーっと……そうだ。テイム修行の恒例、テイム1000体斬りの旅のときだ! あんな山奥に集落があるなんて思わなかったからな、ついテンション上がってしまって」

「…………」

「修行のはずが毎日村人とどんちゃん騒ぎで、朝から晩まで飲んで死んでたな、俺な」

 イールギットは、黙って茶を飲んでいる。
 せせらぐ小川に向けられたその表情は、俺からはうかがえない。

「ちゃんと修行を続けて、えらかったぞイールギット。まあ結果おまえも酔ってて、モンスターだけじゃなく集落の家畜までぜんぶテイムしてしまってたのには笑ったが」

「…………」

「あのとき馬が1頭だけ、最後までイールギットについてきちゃったんだよな。ははは。名前もつけてただろ? なんだったか、確か……」

「……レイベ」

「そうそう、そうだった。元気か、あいつは?」

「死んだわ」

「……そうか。そりゃ、そうだな」

 魔王城を出るイールギットが、あの馬に乗って行ったのも、もう何年も前だ。
 普通の馬だった、死んでいて当然だったな……

 !!

 いまだこちらを向かないイールギットの肩が、小さく震えている。

「す……すまん、イールギット。おかしな話をさせたな。悪かった」

「……も……、――様……」

「うん……?」

「もう……申しわけ、ありません。申しわけありません、魔王様……あたし……あたし、っは……!」

 イールギットの手が、マントのすそを強く握りしめている。
 震えた声。
 ……泣いているのか。

「あ、あたしっ……ゆ、勇者に、なって。必ず……、誓ったのに! あたし、あたしはっ……!」

「イールギット」

「楽しかった! 魔王城での修行を忘れたことなんて、たった1日もない! 耐えられたっ……思い出を支えにして、耐えなくちゃいけなかったのに。あたしっ……ど、どうしたらいいのか、わからなくなって」

「そうか……」

「どうせなら、死んでもいいなんて考えるくらいなら、せめて約束を……魔王様と戦って死にたいって。でも、そんな半端な志に魔物を付き合わせても、無駄死にさせちゃうだけだって、お、思っ……!」

 だから腹心のペガサス1頭と、ライトニングゴーストしか連れて来なかったのか。
 イールギットの覚悟とやさしさが、そうさせたのだ。

 ……この子を、そこまで。
 そこまで追い込んだのは。
 誰だ……?

「イールギット……」

 肩に触れようと伸ばした俺の手から、イールギットが遠ざかった。
 振り向かないまま立ち上がり、こしこしと手の甲で目をこすっているようだ。

「か……顔。洗ってくるから!」

 言い放つなり、小川に沿って小走りに去っていく。
 ……ふむ。
 覚悟は今も、並みではないようだな。

「ダクテムと同じ、か……」

 いずれ彼女も再び、魔王城ここを去ってゆくのだろう。


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は1月16日、19時ごろの更新です。
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