魔王だが、弟子の勇者たちが追放されまくってるそうだな? ~かわりに魔王自ら勇者パーティに潜りこんだら、なんか勇者が詰んだ~

ねぎさんしょ

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第3章 前衛タンク

第77話

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 俺は両手を広げ、集めた魔力を濃く、しかし薄く延ばした。
 こういう技は本来、マロネが得意なんだがな。
 えーと……
 スキル闇、フューチャリング精霊、みたいな。

「<奈落融縛ナイトメアヴァレイ>」

 ブォッ……

 小さな羽虫の群れが飛び立つような不快な音とともに、真っ黒い谷が現れた。
 俺と鎧の間に横たわり、直線進路を遮る。

 谷とはいうものの、底など見えない。
 というかない。
 どこまでもどこまでも、深さすら定かでない闇の空間が口を開けている。

 幅は3馬身ほど。奥行きは2馬身。
 サイズ的には、大したこともないが……

「底なし沼系スキル……」

 低い声で、鎧がつぶやいた。
 その通り。

「よく覚えていたな。おまえの動きに合わせて、この谷は動く。足を踏み入れた者に対し、落とす・沈む・溶かすを同時にこなしてくる、闇の落とし穴だ」

「…………」

「飛べるやつも沈ませる。浮けるやつも溶かされる。溶けないやつは落とされる。穴とは言ったが穴じゃない、この闇の上だけ別空間だ」

 もちろん限度はある。
 でないと、穴の真上の天井とかまで落ちてきちゃうからな。
 あと、飛べて浮けて溶けない、をぜんぶこなしてくる相手には手も足も出ない。ラグラドヴァリエとか、たぶんそうだ。

 だがそんなことまで、親切に説明してやるつもりはない。
 俺の目には、これでチェックメイトに見えるぞ?

「テミティよ。……なぜ仲間を作って来なかった?」

 過去の2人。
 ダクテムと、イールギット。
 彼らと同じく、勇者パーティなどから追い出されてきたのだとすれば……
 俺はずいぶん、ひどい質問をしていることになってしまうが。

「おまえはすばらしい能力を持っている。だがそれは、何かを守るためのものだ。壁となって立ちはだかるのがおまえだ。自ら向かってくるのは、得手だの不得手だのではなく、無謀だ」

「…………」

「俺とて、おまえたちを倒すつもりで臨む。しかしこれでは、あまりに意味がない。少なくとも、俺にとってはな……さあ、もういい。鎧を脱げ」

 鎧は応えない。
 巨大なハンマーを担いだまま、落とし穴の前で足を止めている。

「なぜ1人で来ることにしたのか、教えてくれ。そうだ、忍びこむ手際はすばらしかったぞ。ラグラドヴァリエに気を取られていたとはいえ、まったく気づかなかった。つーか足音どうしてたんだ」

「…………」

「ほら、兜を脱げ。久しぶりだな。すぐに食事を用意させよう、テミティの好きな宵闇鶏とキノコのキッシュを――」

 ――イールギットとの激闘は、ほんの2ヶ月ほど前のことだったか。
 そのときの感覚が。戦いの嗅覚が。
 わずか髪の毛ほどでも、俺の中に残っていてくれたのかもしれない。

 でなければ気づけなかった。
 バルコニーのほうを、きっと振り返れなかった。

「――ッ――!!」

 無言。
 無音。

 まるで気配もなくそこにいた、俺のひざ上少しくらいの背丈の女が、隼のごとく飛びかかってくる。
 その手の、白く輝く小刀を――
 俺はぎりぎり、身をよじってかわした。

「ぐっ……!!」

 額を薄く斬られたかもしれない。
 危なかった。
 頭を穿たれていたら、いかな魔王とてどうなっていたか。

 空中ですれ違う、彼女の目。
 そこに、存在のすべてを賭けた闘志と――
 満足げな諦観を見た気がした。

「――御見事。魔王様」

 小さな姿が、闇の穴へと落ちてゆく。
 音はせず、しかし水堀のように闇に波紋が走り、またたくまに彼女の体を呑みこんだ。

「御然らば……」

 闇の中に両手を突っこみ、俺は彼女をすくい上げた。
 閉じられかけていた鳶色の瞳が、ゆっくりと見開かれる。

「……なぜ」

「今のはどうやった!?」

「転移……」

「それはわかる! だがスキルや魔力攻撃を跳ね返すミスリル鎧は、着ている者の魔力も外に出さない! テレポートなどもってのほかだ! どうやって出てきた!?」

「……がんばった」

「がんばったか! そうか! がんばったか!!」

 みもふたもない。
 しかしそう言うしかないのだろうし、実際、どれほど努力したのか想像もつかない。
 そうか。がんばったか。
 テミティ・バドミ・ドワーフ!

「死なせるわけがないだろう!」

「……甘い……御人おひとだ」

 かく、と彼女は気を失う。
 ほんの数秒とはいえ、鎧の加護なく闇にまかれたからか……
 勇者よ。安心しろ。
 すぐに手当てしてやるぞ!


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は5/5、19時ごろの更新です。
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