魔王だが、弟子の勇者たちが追放されまくってるそうだな? ~かわりに魔王自ら勇者パーティに潜りこんだら、なんか勇者が詰んだ~

ねぎさんしょ

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第3章 前衛タンク

第78話

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 テミティが気を失っていたのは、ほんの数時間だけだった。
 夕飯前には起きてきて、顔を洗い、ぼさぼさだった髪を自らくしけずり、
 アリーシャに薄いシャツを所望し、借りたそれを洒脱なワンピースかのように着こなし、
 自分の倍ほども高さのあるイスを軽々と担ぎ、謁見の間までとことこやって来て、

「魔王様。空腹」
「なんてすばやく場になじむのだ、テミティよ……!」

 イールギットとは真逆の性格、ダクテムとも異なるタイプ。
 借り物衣装で当然のごとく、どこか優雅なまでにイスに腰掛けている、その自由な様子は――
 はちゃめちゃに愛い。

「ごはんだなっ、すぐに用意させよう! なにを食うっ? お子様ランチかっ?」
「魔王様。以前も」
「そうだな! 前にも何度もこーゆーこと言って、殴られたり蹴られたりしたな! 変わってなくてなによりだ、うんうん! 肉とビールでいいか!?」
「キッシュも」
「いっぱい持ってこさせようしばし待て!」

 ぱんぱんと手を叩くと、総務課|(と呼びはじめたのはアリーシャだったか誰だったか)のコボルトたちが食事用の長テーブルを運びこんできた。
 ついでにやってきたマロネが、ありゃ~、と珍しい顔をする。

「ほんとにテミっちだ。よく来たねえ」
「マロネ。幾久しく」
「うんうんおひさ~。なつかしいわ、そのバチクソに言葉足らずな感じ。てゆーかなじんでんねえ」
「実家のような安心感」
「んん~、勇者の襲撃があったって聞いてたんだけど、誤報でしたかにゃ~?」

 誤報、とテミティが細い眉をひそめた。
 物言いたげに小さな口を開き――
 つと振り向いてパチンと指を鳴らし、寄ってきたコボルトに「ワイン。常温の白」と告げて、改めてマロネを見やる。

「誤報。まさに。わたくしはもと・・勇者……」
「いやうんなんか、そーゆートコじゃなくない? もうこの城のヌシ、ゼルス様なんだかアンタなんだか」
「愚問。わたくしは客」
「せめて建前上捕虜とかの認識にしとけば? ほんと特権階級だわね、ドワーフのお姫さんは」

 姫? と、配膳を手伝っていたアリーシャが手を止めた。

「やはり、そうだったのですか……?」
「ありゃ? アリーシャたん、ゼルス様から聞いてないの?」
「さっきの今ですから」
「そーいやそっか。『気品と威厳を兼ね備えた振る舞いポジション』をテミっちに奪われて、ゼルス様すねてるのかと思っちった。キャハ」

 マロネよ……
 おまえのそーゆームダに鋭いとこ、普段は隠しといたほうがいいって、俺は思うな……

「お名前にドワーフ・・・・が入ってらっしゃるようですから、もしやと思ってはおりましたが」
「まさにそうだアリーシャ。ドワーフには王族やらの観念がないから、正確にはひとつの部族を束ねる血筋ということだがな。テミティはバドミ族の末娘だ」
「たいへんなお方ではないですか。……魔王様の、元弟子……?」
「ああ。比較的最近だが、それでももう10年ほど前になるか」
「……えっ。では」
「ん? どした?」

 珍しく両目をぱちぱちさせているアリーシャの前にも、コボルトたちが料理を並べていく。
 あー、とマロネが得心顔でうなずいた。

年齢としね。そだよ。テミっちは立派な成人女性」
「そうだったのですね……」
「イールギットのアホなんかより、よっぽど人生経験積んでるもん。ねーテミっち」

 否定、とグラスを受け取りながら、テミティが首を振る。

「単に長命。小娘は小娘」
「エルフほどじゃないにせよドワーフも長生きする種族だから、自分なんてまだまだっつってんのね」
「小娘なりに……。このワインは実に香りがい、まれにみる出来映えの物、まことに見事。わたくしは気に入った」
「マロネががんばって通訳してんのに、しゃべりたいことだけめっちゃ早口になるあたりも、こう、お姫さまって感じぃ」

 はは。
 いいな。俺も思い出してきた。
 テミティはマロネと相性がいいんだ。

 ぶっきらぼうなドワーフとおちゃらけた精霊なのに、ふしぎと2人でよくわちゃわちゃしてた。
 マロネはからかいたがりだから、イールギットみたいにやり合ったり、一方的におもちゃにされたりする弟子のほうが多いんだが。
 そういう意味じゃ、アリーシャとテミティは似てるな。

「ま……ともあれ。夕食が少しにぎやかで、うれしいじゃないか」

 用意ができた食卓に、俺は酒のグラスをかかげた。

「乾杯はおおげさか? いいやおおげさじゃないな? かわいいかわいいテミティと俺様の衝撃的再会を祝して――」
「魔王様」
「……な……なにかなテミティちゃん? 乾杯イヤ?」
「ひとつ、ある。わからぬことが」

 背の高いイスに腰かけ、ちみちみの両足を組み、老獪な猛禽のような深く鋭い眼光でもって、テミティは呟いた。

「なぜ、わたくしが……追放されたのか」

 しん、と広間が静まりかえる。
 顔をしかめる俺をはじめ、一同をぐるりと見回して……
 テミティはわずかに、グラスを持ち上げた。

「乾杯」

 おまえが言うんかい。


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は5/10、19時ごろの更新です。
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