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第3章 前衛タンク
第85話
しおりを挟むラグラドヴァリエ マエマエカラ
ウゴキノ アヤシキコト ハナハダシ
ユメユメ ゴユダンノ ナキヨウ
オサラバ
マロネにいわく、そういった書き置きを残して、テミティは姿を消したらしい。
なんというか、こう……文字になると、ひときわ増す距離感というか。
逆にやさしさを強く感じるというか。
うふふ。あの子ったらほんとにもう。うふふふ。
テミティが心配といえば、たいへんに心配だが……
もともと、とっくに独り立ちした子だ。
ついでに移動は大の苦手。マロネに追わせておけば、すぐに見つかるだろう。
……見つけたあと、どうするか指示してなかったな。
まあいい。
「これは……グルキオストラの足跡か」
馬上のセオリナ姫が、険しい声でつぶやいた。
岩場近くの、俺が発見した足跡。
彼女の言う通り、グルキオストラ――巨大なアゴを持つ、獰猛な四足魔獣のものだろう。慧眼だな。
「このあたりに目撃情報は?」
「報告にはありません。が、数ヶ月前より、家畜の被害届けが出ております」
同じく馬上で、革の巻物を確認しながら、騎士ロームンが姫に答えた。
「城まで報告は上がっています。警備隊が編成されているはずです」
「目撃されてはいないのだろう。この足跡が、最初の手がかりかもしれないな……」
「そうですね。急ぎ報せます」
「グルキオストラか……戦ったことはないが、確かにこのあたり、やつが好むという沼地も多い……」
「姫様……」
ロームンの声が、いささか曇った気がした。
セオリナ姫は馬をくるりとひと巡りさせ、強いまなざしで部隊を振り返る。
「進路変更! 周辺を警邏するぞ。あやしい気配や痕跡を見逃すな!」
「姫様! 帰らずの洞窟までも、まだ数日ありますぞ?」
「案ずるな、ユグス爺。どのみち、洞窟内の探索に時間をとられる。1日かそこら到着が遅れたとて、作戦のほうに大きな影響はあるまい」
「それはそうでしょうが……」
「こちらはそうはいかんかもしれん。グルキオストラは人も襲う。国民に被害が出ないよう、今できることをするぞ!」
「承知しました。全隊、駆け足じゃあ!」
いやはや、よく走る隊だな。
ひょっとしてテミティが追放されたのは、駆け足についていけなかったからでは……
と。
どうかしたのか騎士ロームン、馬とめたままで。
「前進しないのでありますか、ムーラン殿!」
「ああ――っロームンだ!! いいからお前は先に行け。隊列を乱すと、冒険者契約の者でもまた懲罰だぞ」
「おもしろいシステムでありますなあ」
ここ数日で何度も腕立てさせられたし。腹筋させられたし。サーキットさせられたし。
魔王けっこう慣れちゃったよ懲罰。わりかし楽しかったり。
「ふん! できることならお前など、さっさと放り出してやりたいが……入隊したばかりの者に連絡係はまかせられん。ったく、いまいましい」
「連絡係?」
「姫様の方針を本部に伝えねばな……よくあることだから本部も慣れてくれてるが、不測の事態が起きんとも限らん。備えるのも騎士の役目だ」
「よくあること……」
「お前にもわかるだろう? セオリナ姫様は、真におやさしい方なのだ」
ふむ? いいことだな。
そのわりに、騎士殿の表情が優れないが。
「国民のためならば、どんな魔物にも果敢に立ち向かってゆかれる。どれほどの武功を挙げようと、この小隊以上を任される望みはないというのに……」
「それは……! すばらしい勇気でありますサー!」
「勇気か。確かにな。……ゼルスン、貴様、生活のためにこの部隊にもぐりこんだと言っていたが」
「いえっさ」
「今からでもいい。ほかの勇者隊でがんばったほうがいいぞ」
ほう……?
セオリナ姫の信奉者に相違ないことを言いながら、裏腹にそのコメントか。
彼の真意も、気にはなるが。
今はうまく受け答えしなければな。
「よそのほうがお給金が良いのでありますかっ?」
「うん? いや。別にそんなことはないが」
「じゃあいいっスわここで」
「き……貴様な」
「ムートン兄貴をからかうのも楽しいでありますしサー」
「ロームンだッ!! からかうだと!? もういいっ、とっとと行け! 3倍給金の一番槍を受け取ってしまえ!!」
へへ~いっ、とロームンを置いて駆け出す。
ふ。なんというカンペキなひょうきん者。
部隊のムードメーカーとして重宝されてしまうに違いない……
が……
「アリーシャよ。3倍給金とはなんだ?」
隊列の最後尾でアリーシャと並ぶ。
小声の質問に、彼女は前を向いたまま、しばし考えたようだった。
「この部隊のものですか?」
「らしい」
「正しくはわかりませんが……およそこういった組織で、いただくお金が増えるパターンはふたつかと思います」
「ほう」
「めざましい活躍をしたときか、名誉の死を得たときです」
「……なるほどな」
一番槍、か……
人間はおもしろい表現をたくさん使うなあ。
「元気よくいくぞ! 行軍歌斉唱ッ!」
馬をいななかせ、檄を飛ばすセオリナ姫に向かって、俺も駆け出した。
……テミティが言ってたな。
真の勇者たるを知れるかもしれない……か。
その上で、失望するかもしれないと。
このセオリナ姫に。
「おもしろそうじゃないか……」
どうせ失望するならば、それすら派手なほうがいい……
今は大いに期待しておこうか!
**********
お読みくださり、ありがとうございます。
次は6/15、19時ごろの更新です。
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