魔王だが、弟子の勇者たちが追放されまくってるそうだな? ~かわりに魔王自ら勇者パーティに潜りこんだら、なんか勇者が詰んだ~

ねぎさんしょ

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第3章 前衛タンク

第89話

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「自分を、この隊では……?」

「ああ」

「預かれない……いてはいけない?」

「ああ」

 セオリナ姫は、何度もうなずいてくれる。
 騎士ロームンの指揮により、的確にトドメを刺されるグルキオストラに目を向けながら。

「我が国の有する、ほかの隊へも行かないほうがいい。強制ではないが、それもきみのためだ」

「……理由を、おうかがいしても? サー」

「きみが死ぬからだ」

 あら。
 はからずもなんだろう……アレか。
 無事を心配された、ってのは当たってたのかしら。

 ……いや~?

 この姫の、表情……パッと見、いつも通りかと思ったけど。
 引き結ばれた唇。かたい顔つき。
 まっすぐ伸びているようでいて、どこか動きの定まらない視線……
 少なくとも、俺のことを心配してる様子じゃあ、ない。

「ゼルスン……すまなかった」

「えっ?」

「わかっている。すべて私のせいだ……またやってしまった。やはり最初に言っておくべきだったんだ。すまない……」

 あや……
 謝られた!?
 なんで!? どした急に。

「また勘違いさせてしまったのだな、私は……」

 ふうーーー、とセオリナが長く吐息する。
 沈痛な表情の横顔が、ずいぶん、こう、絵にはなるけど。
 勘違い?

「きみは確かに、わたしの指示に従わなかった。だが、だから追放するわけではない。わたしがきみの死を望まないからだ」

「それは、なんか……ありがたくありますサー?」

「疑問符を感じるな?」

「自分、死んでいないので……」

「そうだな。今回は死ななかった。だが、客観的に考えてみてくれ……きみはさっき、たった1人で、大型モンスターの前に飛び出していったんだ。たまたまきみのほうが強かった、だから死ななかった、それだけのこと。もしも敵のほうが強ければ、きみは死んでいたんだ。死んでいたんだぞ?」

「それはー、まあ、はい。そういうものなのでは?」

「バカモノッ!!」

 大喝。
 馬から飛び降りたセオリナが、俺の両肩をつかんでがくんがくん揺さぶった。

「どうして冒険者はそうなんだ! 1人になればムチャをするし、不死隊に入れば勘違いする!」

「いやその。あばばば。脳に効果的な震動。……不死隊・・・?」

「私に憧れる気持ちはわかるッ!!」

 へ?

「しかしゼルスン! きみは普通の人間なんだ!! 多少スキルが強かろうとも、斬られれば死ぬ! 踏み潰されたらより深く死ぬんだ!」

「より深く」

「この隊に入ったから死ななくなるわけじゃない! そんな動きをされたら、いくら私とてカバーしきれないっ……あたら若い命を無駄にしてくれるな!!」

 なんか……その……
 え、えっと。
 あ、ダメだ。情報量がやばい。
 なんか涙ぐんでるしセオリナ姫。

 ひとつひとついこう。
 確かに俺は普通だ。
 普通の魔王だ。一般的な。常識的な。

 その上で今、なんかいろいろ言ったな?
 不死隊? 不死の、隊?
 セオリナが特別、ってのはなんだ?
 それよりなにより、

「アコガレ、って……それは、そのー、姫が勇者でありけり的な……?」

「悪かった。興奮してしまった。人の命の尊さを想うと、つい……」

「聞いて? あいや、聞いてくださいサー?」

「きみだって、死にたくはないだろう、ゼルスン?」

「ともかくも聞かれたことに答えますけど、そりゃあもちろん」

「私も死んでほしくない。私の指揮下に来たなら、なおさらだ。しかし、誰もが私のように……選ばれし勇者のように振る舞おうとする。ダメなんだ。私は勇者の中でも特別なのだから」

 !
 勇者の中でも……特別?

「私がこの隊の指揮官になって以来、ただの1人も死者を出していない。無論、知ってのことと思うが」

「!! ……なるほど」

「だから皆、勘違いしてしまうんだ。この隊に入れば死なないと。私のように、ただ1人でも巨大な敵に有効打を与えられると……」

「……もし、自分がさっきのように動かなかった場合、何人ほど死んだとお考えで?」

「ゼロ人だ」

 これか!!

 これだったか!
 セオリナの見解と、俺の見解と……
 そしておそらく、テミティの見解との違い。

 俺は何人か死ぬと見た。
 おそらくはテミティも、似たような局面で。

 セオリナ姫は死なないと見た。
 むしろ俺やテミティが死ぬと見た。

「最初に告げるべきだ、と私は言っているのだ」

 俺の肩から手をはなし、セオリナはどこか遠くを見ている。
 おお……英雄伝奇譚ヒロイック・サーガを謡う吟遊詩人の、竪琴の音が聞こえてくるようだぞ!
 遠くを見る必要性は今ひとつわからないけども!

「私に憧れぬように、と。惚れてもよいが気張らぬように、と。ユグス爺は賛成してくれるのだが、ロームンがそれだけはやめてくれといつも止めてきてな……」

「さすがは騎士ロームン……。あの、姫はなぜ、死者を出さずに戦い続けていられるので?」

「それが不死隊。それが私だ。しかし、あえて説明を選ぶなら……私の、この剣」

 腰の物を軽くゆすって、セオリナが久しぶりに思える微笑を浮かべた。

「この宝帯剣【アルリオン】だけが持つ固有スキル、スタンラード。たとえ相手が魔王であろうと、確実に一定時間スタンさせる力がある」

「ユグス殿に教わりました。凄まじいスキルですサー」

「ありがとう。しかしな、いかな有用とて、これもただのスキル……相手に食らわせなければ意味をなさない。そう、私はきみに謝らねばならないのだ、ゼルスン……」

「また??? あいやその、なぜでありますかサー? マジで」

「きみは兵士ではなく、冒険者契約。契約書を見ただろう?」

 うっ。
 見……たけど読んでません。
 だってチョー細かいんだもん! 字めっちゃ小さいし!
 人間の文化のおそろしさを垣間見たぜ。

「あれは私ではなく、国が作った契約でね。冒険者の行動そのものに、私が口を出すことはできない、とある……つまり、部隊の正規兵とは別扱いにして、死にたいやつは・・・・・・・勝手に死なせろ・・・・・・・という内容になっているのだ!」

「めっちゃ普通なのでは……?」

「すまないゼルスン!! 私がきみに対し、強く命令することができれば! 私が攻撃するまで黙って引っ込んでろこの凡人めがと強制することができれば!」

「姫?」

「それができれば、きみを部隊に残すことも、きっと可能だった。あるいは本当に、きみに私と同格の、選ばれし勇者たる力があれば……」

 あ~~~……なるほどなるほど。
 ようやくわかったぞ。
 テミティが俺に告げた、能力不足の意味が。

 40人からの部隊を率いて、ただ1人の兵士も死なせない。
 そんな能力、確かにテミティにはないな。
 俺にだってない。
 仮にさっき、俺が2匹目のグルキオストラの接近に気づかず、同じ状況に追い込まれていたとしたら……
 やはり、2、3人は死なせる決断をしていただろう。

「私はしょせん、9番目の王女だ。今さら愚劣な王宮闘争に明け暮れ、この国を手中に、などは考えていない」

 馬上に戻ったセオリナが、また遠いどこかに視線を投げる。

「それがまた、大衆に人気のようでな……私を慕って隊に来てくれる冒険者も、少なくはないのだが。やはり皆、勘違いをする。身の丈に合わないムチャをして、自ら死ににゆく。私の勇者たる部分が、そうさせてしまう……罪なことだ……」

「すごいでありますサー。みんなのアコガレでありますサー」

「気持ちはわかる。だが、誰が私のようになれるというんだ? この隊を率いて100戦以上、1人も死なせていない私のように……! ときに自分自身、己の才能が恐ろしくなるというのに!」

「いっぺん言ってみたいセリフでありますサー」

「ゼルスン。ああいう戦い方をしてしまうきみは、早晩命を落とすだろう。そのこと自体はきみの自由だ、契約を盾に止めることも私にはできない。だが、せめて……私の目の届かないどこかで……」

 なるほど。
 それで、三倍報酬の一番槍、か。
 セオリナ姫に従っていれば死なない、しかし冒険者をむりやり従わせることもしない……と。

「それだけだ。短い間だったが、ありがとう。達者でな」

 馬上に戻ったセオリナが、俺に背を向ける。
 ともかくも2体目の大戦果に勝ちどきをあげる部隊のほうへ、振り向かず去っていった。

 要するに……?
 誰も死なせたことがないし?
 誰も死なせたくはないから?
 いかにも死にそーなバカ行動に出たやつを、死ぬ前に部隊から取り除く?
 ってことだな。

「頭いいなあ……」

『ゼルス様はアホですね?』

「なんだマロネおまえ、聞いてたのか。聞いてるなら聞いてるっぽい雰囲気を出せ」

『えええ……どちゃくそ難しいことをおっしゃる……』

 魔王にアホとか言う度胸を身につけるよりゃ、はるかに簡単だと思うが……


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は7/5、19時ごろの更新です。
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