魔王だが、弟子の勇者たちが追放されまくってるそうだな? ~かわりに魔王自ら勇者パーティに潜りこんだら、なんか勇者が詰んだ~

ねぎさんしょ

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第3章 前衛タンク

第97話

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「ばかな……わ、私は……!」

 両腕を拘束されたまま、セオリナ姫が唇を噛みしめています。
 もがいていますが、ユグスの尾はビクともしないようです。

 斬り裂いてやりたいところですが……
 今となっては、わたしにもわかります。
 ラグラドヴァリエが、完全にわたしをマークしていることが。

「私はっ、セオリナ……! セオリナ・ラン・カロッド・ラリアディだぞ!! ラリアディ王国の正統な王女、正式な勇者だ!!」

「王女は王女じゃが第9王女、でもって勇者はかりそめじゃ」

「い、幾十も、幾百も魔物を倒してきたんだぞ! 魔族だって倒した! ドラゴンだってっ……! す、すべてうそだとでも言うのか!!」

「そう言うとろうが。すべてうそじゃ」

「だまれっ……!!」

「ワシが証拠よ」

 自分を見せびらかすように、ユグスは両手を広げました。

「出会ったばかりのころから、姫はおかわいらしゅうございましたぞ? 装備ばかり立派で、部下ばかり立派で。だのに本人には覇気がない、やる気もない、自分の立場にあきらめきっとる! そんな理想的な子・・・・・じゃったよ、お前さんは」

「誰の話ですか……セオリナ姫のことですか?」

「おおよ、アリーシャ。かわいいかわいいこの姫様はな、厄介払いされとったんじゃ。武門で鳴る王家ラリアディの娘、しかし才能はハンパで際立った腕もない。第9王女で継承権も望み薄、となれば使い道は政略結婚のエサよ。年頃に育つまで、アルリオンなんぞという見かけ倒しの聖剣をおもちゃにもらって、好きに放牧されとったというわけじゃ」

 ギリ、と姫の奥歯が音を立てました。
 血走った目で、ユグスをにらみつけていますが……何も言いはしません。
 本当の話、ですか。

「ワシャがんばったぞ? おだててやった! 実績も作ってやった! 勘違いの上に勘違いが積み重なるまで、丁寧に丁寧に育ててやったわ。誰も死なない正義の部隊、不死隊を率いるカリスマ勇者姫としてのう! かっこよかろうが、んん?」

「目的は何です? 勘違いさせておいて殺す、などというだけではあまりに悪趣味でしょう」

「もちろんそんなわけがあるかい。誤算じゃったのはラリアディ王よ! ワシがあれほど――」



「ユグスゾロニエ」



 と、甲高くも有無を言わせぬ、ラグラドヴァリエの声が響き渡りました。
 ち……
 やはり、舌先三寸でどうにかなるのはユグスまで、ですか。

「そのアゴちぎりとって、南の海にでも放り捨ててくれようか……?」

「っ、も、もっ……申しわけもございませんっ、ラグラドヴァリエ様……!!」

「ゆるそう。偶然とはいえ、貴様はふたつの功を立てておる……よくぞアリーシャ・・・・・を連れて参ったものよ……」

 今度こそ。
 まっすぐに視線で射貫かれて、わたしは背筋のこわばりを自覚しました。

 落ち着け……落ち着かなくては。
 わかっていたことです。
 魔王様の居城にて、わたしは姿を、顔を見られております。
 忘れていてくれるはずなど、ありません……

「? ラグラドヴァリエ様……?」

「貴様らの用はすんだ。ね」

「は、ははっ! ……あ、あの……この姫については、そのう、ワシの望みは……」

「好きにせよ」

「はは! ありがたき幸せ!!」

 叫び散らすセオリナ姫を引きずって、ユグスが大広間から出てゆきます。
 いよいよ危ういです。
 よもや、このようなことになろうとは。
 わたしに……このアリーシャにとって……

 願ってもないこと。
 この上もない修行の場となるでしょう。
 生きて帰ることができれば、ですが。

「さて。小娘よ」

 ふわふわと漂う珠の上で、ラグラドヴァリエが笑っています。
 さすがにどうも、美しく。
 ユグスなど比にならぬほど禍々しく。

「魔王ゼルスは何を企んでおる?」

「お答えいたしかねます」

「貴様に選択権はない。こうやって問うてやることも、わらわの恩情ぞ? 手足を1本ずつ引きちぎられて、自分からなにもかもをしゃべりたいか?」

「どうぞ」

 ぞ、を言いかけたあたりで、反射的に剣を上げていなければ、どうなっていたでしょうか。
 ガルマガルミアが小さくきしむほどの衝撃。
 7、8馬身ほども弾き飛ばされ……転ばずに着地できたのは奇跡でしょうか。

 なにをされた?
 どんな攻撃を?
 なぜラグラドヴァリエは、床に立っているのでしょう?
 いつ珠から降りた……? どうやって?

「やばいですね……」

「わらわは龍族序列1位――」

 改めて戦闘態勢に入るわたしに、ラグラドヴァリエはなぜか力を抜いたようでした。

「ではない」

「……?……」

「正しくは、世界第2位と呼ばれるべきであろう。わらわをしのぐ力の持ち主など、龍族はもとより、この世に存在せぬのだからな」

「ツッコみどころが多すぎますが……なら、まず、第1位はどなたなのですか?」

「人間」

「……!」

「きゃつらが群れたときの力。群が集となり個に至ったときの力。それは見誤るわけにいかぬ。人間の力はすさまじい」

 その点においては……
 魔王様と同じ考えですか。

「凡百の魔族は、それを認めたがらぬ。個としては魔族が上、それもまた当然のことよの。それゆえ、勇者パーティなどに後れを取る」

「なるほど……」

「ゼルスめは、その力を利用しようとしておるのではないのか?」

「……!」

「人間の力を我がものとする。あるいは、人間の考え方を魔族に浸透させる。そうして新たな力を作ろうとしておるならば……ゼルスの治める領土の力は、わらわを上回るやもしれん」

「いけませんか?」

「なんだと」

「魔王同士、馴れ合いもしないが、反目し合う必要もない。あなたはそうおっしゃっておられたはず。魔王ゼルス様が、とても強い力を得られたとして、それがいけませんか?」

 沈黙は、ほんのわずかでした。
 しかしそのあいだで、変化したラグラドヴァリエの表情。

 今まで見たこともないような笑顔、
 深く、
 清々しく、
 まっすぐな憎悪に満ちた、
 この世のなにもかもが血の海に沈むことを願いやまないような、

 そんな笑顔が。
 わたしの目の前、剣を上げれば刃が当たる程度の距離に、あります。

 見え――ましたよ。
 どうやって、近づいてきたのか……!

「食い殺しづらくなるであろ?」

「……!」

「のう? そんな力を持たれたら……わらわがいずれ、すべての魔王を喰らい尽くすというのに。邪魔になるであろうよ!!」

「心配無用」

 ラグラドヴァリエに応えたのは。
 わたしではありません。

 まったく突然に、少し離れた床の中から、
 どぱんっ
 と木の板を叩くような音とともに、ハンマーを持った『鎧』が飛び出してきました。

 にぶい銀色。
 極めてミニマムなサイズ。
 兜のフェイスガードが下りてはいますが……
 こんなヒト、この世に1人しかいません。

「喰うことはない。おまえは。もうなにも」

「テミティ様……!」

「ラグラドヴァリエ」

 自分の体積の何倍あるのかわからないほど巨大なハンマー。
 ドワーフ族の女戦士は、両手で軽々とそれを振り回し――
 ぴたりと、正面の魔王へと向けました。

「覚悟」


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は8/10、19時ごろの更新です。
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