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第3章 前衛タンク
第109話
しおりを挟む「まあ冗談はともかくとして」
「マロネは冗談なんてひとことも言ってませんが? 思ってませんが?」
「勇者の存在を、単なる脅威としか認識していない……そんな魔王ばかりだったから、俺もある意味のんびりしていられたが」
「ませんが?」
正確に言えば、「勇者は脅威だが自分だけは負けない」と考えている魔王、だな。
マジで魔王はそんなやつばっかだ。
だからこそ、これほどの量的な差がある状況で、魔族と人間が形ばかりでも均衡してきたんだが……
「このままほっとくとまずい、と考える魔王が今後も出てくるとなると……うまくないな」
「ラグラドヴァリエは2人組の勇者に倒された、ってうわさも広まっちゃいましたしね」
「あれはあのままでいいぞ? めんどくさいからな、俺の名前が出ると」
「心得てます。アリーシャたんのほうはできるだけ謎にして、テミっちに魔界のお尋ね者になってもらうよう、うわさを追い打ちしていきますよ」
「頼む」
テミティにこのことを話したら、望むところだと言ってくれた。
もともとの性格かもしれないが……なりゆきとはいえ、アリーシャと戦場をともにして、テミティにも思うところができたのかもしれない。
そう。そうだ。
アリーシャ……アリーシャなあ。
「手元に置きすぎかなあ……」
「なにがです?」
「アリーシャはもう、そこらの勇者なぞ比較にならない……巣立っていった元弟子たちと比べても、まるで見劣りしなくなってきた。……いや、それどころか……」
「ラグラドヴァリエの遠距離攻撃をしのぎきったんですから、そりゃあ、ねえ、はい」
「ひとかわむけたよな」
「今はもう勝てる気しないですねえ」
「ははは。じゃあアリーシャが俺の前に立つときは、マロネが先に戦ってくれるわけだ?」
マロネは数秒、口をつぐんだ。
微笑は消さず、しかし何事か考えを巡らせている。
「……アリーシャたんには、今しばらくゼルス様の教えを受けさせていただければ、とは思いますね。アリーシャたんがどうこうじゃなくて、マロネの個人的希望ですけど」
「ほう」
「このまま巣立たれると、どっかでとんでもない化けかたされて……対策を思いつけない可能性があるので」
……ほ~……
勝てる気がしない、というのは冗談だろうが。
本気でアリーシャの腕を認めはじめている……つまり将来的には、冗談ではなくなる可能性が高い、ということか。
こういうところだ。
人間のすばらしさ。
俺もマロネも、どれほど生きたとて、今より見違えるほど強く成長することなどない。
勇気を持つことも。
きっと、ない。
「命乞いの練習でもしとくか……」
「マロネそーゆーのうまいですよ!」
「うそこけ。おまえは謝ることで相手を逆上させるタイプだ」
「そんなことないですし!? 闇の精霊族に受け継がれし伝統のドゲザ作法もありますし!」
「おまえのドゲザはイールギットゆずりだろうが!」
「ああああんなやつのきったないドゲザ、参考にしたこともないですしい!」
「しろとも言わんが」
きゃんきゃん吠えるマロネの向こう、謁見の間の通路に人影が現れた。
うわさをすれば、か。
「おはよう、アリーシャ。体力のほうは戻ったか?」
「おはようございます。ずいぶん良いと思います」
「ラグラドヴァリエとあれだけ戦ったんだ。魔力にも瘴気にも中てられてるだろう、無理はするなよ」
「はい。ですが、わたしよりも無理を通す御方が」
「うん?」
「起床したときから、テミティ様の姿が見えません」
顔を見合わせる俺とマロネに、アリーシャが畳まれた紙片を差し出した。
「荷物もなく、ベッドの上にこのような物だけが置いてありました」
「……手紙か?」
「そのようです。夜のうちに旅立たれたものかと」
「地精操作だな。言いたいことはあるかマロネよ?」
ゼルス様だってゼルス様だってっ、とじたばたするマロネの顔面を握りこみながら、アリーシャにうなずく。
「開けてみてくれ」
「はい。……ドワーフの文字ですね」
「読めるか?」
「少しでしたら。……ですが、ええと……これは? 意味が合っているものかどうか……?」
「はは、テミティのことだからな。手紙でも言葉足らずなのは知ってる。なんて書いてあるんだ?」
「はい。『アードランツを倒しに行く』、と読めます」
ぴく、
と、俺の手の中でマロネが反応した。
俺も同じく腕の力をゆるめ、頭の中で反芻する。
アードランツ、
を、
倒しに行く……?
「……どういう……ことだ?」
「魔王の名でしょうか? アードランツ、聞き覚えはありませんが」
「その名は知っている」
「左様ですか」
「元弟子の名だ」
「……え?」
立ち上がり、俺は空に目を向けた。
今日も変わらず、どこまでも青いが……
テミティよ。
おまえの見ているどこか遠くで、いったい何が起きている?
元弟子が。
元弟子を倒しに行くだと?
「マロネ」
「御意」
即座に姿を消した右腕が、そう時間をかけずに情報を持ってくるだろう。
しかし。
……だからな。
何度も言ってるだろ。
テミティ・バドミ・ドワーフ!
「もうちょっと、いろいろ……わかるように、こう……! ああもう」
愛いやつめ!
**********
第三部完結です。
お読みくださり、ありがとうございました。
今回もおまけがございます。
今話と同時に更新しておりますので、
よろしければそちらもお楽しみください。
次回更新は、11/1を予定しております。
その際に、近況報告も更新させていただく予定です。
しばらく間が空くことになりますが、
今後ともゼルスたちをよろしくお願いいたします。
(2021/10/31追記)
次回更新予定を12/1に変更とさせていただきます。
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