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第3章 前衛タンク
おまけ
しおりを挟む「なるほど……」
ラリアディ王国、その王城。
豪奢でありながら剛健にしつらえられた大広間で、セオリナ・ラン・カロッド・ラリアディは片ひざをついていた。
正面の玉座。
厳めしい顔つきを崩さない父王を、まっすぐに見つめる。
――半年前までは、そんなことすらも容易にはできなかった。
自分はなにひとつ期待されていないのだと。
そのことに気づかないふりをする、それだけで本当に必死だった。
今は違う。
「ロームンの報告と合致するな」
「はい」
「余としても、うかつであったわ……あのユグスめが、そのような魔の手先だったとは。信用などしておらなんだが、疑いもしていなかった」
「御身に近づけてしまったこと、このセオリナ一生の不覚です」
「よい。それより、任を解かれたいと言ったな?」
はい、と答えつつ、視線を下げてしまいそうになる。
胸の中の気持ちを、いまだ説明できない。
考えをそのままぶつければいいのだと、ここへ来るまでは勢いこんでいたが……
いざこの父王を前にすると、やはり怖じ気づいてしまう。
(いいや……実の父だぞ。なにも恐れることなどない)
あの魔王たちとは違うのだ。
セオリナのことを、羽虫ほどにも認識していなかったラグラドヴァリエや。
近くにいながらにして、あの強大な力をつゆほども感じさせなかったゼルスとは。
「恐れ多くも、我が王から賜りし第3勇者隊隊長の責務ではありますが、このたび――」
「形式はよい。頭の中を聞かせろ、セオリナ」
「……はい。……私は、……まがい物であります」
「…………」
「第9王女。王族たる才覚も、勇者たる資質もなし。もともと落ちこぼれであったのみならず、かりそめの栄誉に手もなく飛びついた、愚か者であります」
セオリナ姫様、と王のかたわらに控える側近が口を挟む。
「なんという申されようか。あなた様は、偉大なる陛下の血を引いておられるのですぞ。そのようにご自分を卑下なさることは、陛下のご威光をも曇らせることに――」
「よい」
「……陛下?」
「続けろ、セオリナ」
セオリナは、薄く自嘲的に笑み、床に置いたアルリオンを一瞥した。
「聖剣をもらったから勇者だ、だの。武功を立てたから英雄だ、だの。踊らされるべくして踊らされ、救われた気持ちにすらなっておりました。私は……私のやるべきことを、いちどたりとも考えようといたしませんでした」
「何をやるべきだというのだ?」
「まだわかりません。私は、私が何者か、わかっていないからです」
「ほう……」
「隊長の任から離れ、1兵卒として、なにもかも経験し直したく思います。もういちど剣と向き合って、父上の娘ということとも向き合って……その上で、何を為すべきか。この人生を賭して考えたいと思っています」
じろ、と王の視線がセオリナを貫く。
かつては、恐ろしくもわずらわしく、怯えながらも苛立っていた父のこの眼が――今となっては、頼もしくてしかたがない。
自分の愚かさを見抜いてくれていた。
ならば、賢くなったなら。もしも気高くなったなら。
きっと気づいてくれるに違いない。
見ていてくれるに、違いない。
「……まだ勘違いしておる」
「!」
「セオリナよ。第3勇者隊はおまえの『力』だ。離れることはならん。成長したいなら、隊とともに成長しろ」
「父上……」
「なぜ勇者たる者がおらんのに、勇者隊と名乗ることをゆるしたか。それがわからんなら、立場を変えたとて同じことよ」
勇気は1人で手に入れなければならないものではないからだ。
セオリナは、すぐにうなずくことができた。
抱えて産まれてくるものではない。誰かに与えられるものでもない。
逆に、抱えて産まれたならそれは幸運だ。誰かに与えられたなら2人分の勇気だ。
1人で手に入れたっていい。
けれどセオリナには、第3勇者隊がいる。
「しかと心得ました」
「うむ……だが、わかっていような? 隊を率いるのならば、為すべきことがわからないなどという自侭な理屈は通らぬぞ」
「はい。うそはつけません、為すべきことはじっくりさがしますが……やりたいことならば、あります」
「なんだ?」
「戦いたい魔王がいます」
「龍魔王ラグラドヴァリエは、滅んだようだぞ」
「はい。私は……やつを倒したのは、別の魔王ではないかと考えているのです」
「魔王ゼルスとやらか」
「はい」
ふふふ、と王が笑った。
彼の笑顔など、ついぞセオリナの記憶にもないというのに。
「確かに聞く限り、なかなかおもしろい魔王だ……ふふふふ、元2等兵の魔王か」
「はい」
「そやつを相手取るなら、第3勇者隊が小隊のままでは、おそらく話にならんぞ。人の資質もあるが、単純な数だ。大隊でも足りるかどうか」
「……第1勇者隊の兄上は、大佐のお立場になられたとか」
「ああ。あれには連隊をまかせておる」
「ならば、私は将軍になります」
ひよっこの姫君が何を言うのか。
国内で過保護に戦ってばかりのくせに。
そういうまわりの視線を受け止め、その上でセオリナは父を見つめた。
「第3勇者隊を、第3勇者師団とし……かの魔王を討伐してみせます」
「…………。おい、大臣よ。あれを」
近くの壁にかかっていた剣を取り寄せ、王がセオリナにそれを差し出した。
「これをもて、セオリナ。12聖剣がひとつだ」
「! ……なんと……!」
「これはひいきだ。我が不出来な娘であるがゆえのな。しなくともよいことだ。だが、今のおまえなら、これを手にしようとも揺らぐことはあるまい。そう判断したからこそだ。少しでも早く成長する道具としろ」
「ありがたき幸せ! ……ですが、父上。重ねてお願いがございます。このまま宝帯剣を、アルリオンを使い続けることをお赦しください」
「なに……?」
「私は、アルリオンで……、いえ。アルリオンが良いんです」
愛剣を手に取り、セオリナは立ち上がった。
鞘の中で、きっとわずかに明滅してくれているだろう、苦労の剣。
いまだ、その声を聞くことはできていないけれど。
「必ずや……この剣を持たせて良かったと。父上に言わせてみせます」
あの魔王にも、きっと。
胸の内でも、そう言い切ってから――
急激に不安になり、セオリナは結局目を伏せた。
「こ……これも勘違い、でしょうか?」
「勘違いだな」
「う……」
「よい。正しき道が必ず通ずるとは限らん」
「……!」
「誤った旅が必ず惑うわけでもない。征く者の眼が、おまえの眼が明いているかどうか。それが肝要だ……。ふふ……余も会うてみたいな、魔王ゼルスとやらに」
「父上……?」
「さぞかし見惚れる闇なのであろう。おまえが両眼を見開くほどの」
「……はい!」
「下がってよいぞ」
一礼してきびすを返し、セオリナは歩き出した。
やるべきことはたくさんある。
不死隊の名をかなぐり捨てて。
あの不名誉な称号に未練などない……しかし――
こわい。
荷が重い。
逃げ出したい。
それでも。
「だからこそ……戦うぞ……!」
まずは、かつて所属した冒険者たちに、できる限り連絡を取らなければ。
特に、そう――いつかまた会えるだろうか?
あの頑丈すぎるドワーフと。
無表情すぎる女剣士に。
**********
第三部のおまけでありました。
お読みくださり、ありがとうございます。
次回更新は、11/1を予定しております。
(2021/10/31追記)
次回更新予定を12/1に変更とさせていただきます。
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