魔王だが、弟子の勇者たちが追放されまくってるそうだな? ~かわりに魔王自ら勇者パーティに潜りこんだら、なんか勇者が詰んだ~

ねぎさんしょ

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第4章 魔法使い

第110話

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 今日の魔王城には、戦いの華が咲き乱れていない。

「クククク……」

 しかし響くは昏い声。
 ころころと、にぶい鈴を転がしたかのような。
 すなわち正確には、昏い声を意識して出そうとしたものの、単にくちの中に大きなあめ玉を含んだまましゃべる感じになっただけの、甘く甲高い声――

「この世は闇が多すぎる……」

「あの、マロネ様……? まさか魔王様のモノマネを、それもちょいと小バカにした気味のモノマネをなされていらっしゃるわけでは……」

「お黙りんりん、馬オッサン」

「スレイプニルにございます!」

「ならば答えるがよい……」

「……は」

「戦いの華って……どんな花……?」

「マロネ様のテンションがわかりませぬ!」

「そんなのマロネにだってわかんないもん」

 ずりりり、と金髪の少女が、大きな玉座からすべり落ちた。
 もともとだらけて腰掛けていたところ、今は軟体の海洋生物もかくやの有様である。

「ゼルス様のイキリモノマネでもしてなきゃ、やってらんないっつーの~」

「それをしていればやっていられるというのも、なんともはやな話ではありますが……」

「つーか馬ジャマ。外の景色が見えないでしょ~。ゼルス様と違って風光明媚を解するココロがあんのよ、このマロネには」

「そもそもなぜ、マロネ様が玉座に……不敬では……」

「バカお言いでないよっ!」

「ぐはあッ!?」

 ぎゅいんっ、と細長く伸びたマロネの右足が、スレイプニルを軽々と蹴り飛ばす。
 コキコキ鳴らされた裸足の指が、サイズの大きすぎるローブのすそ下にしゅるしゅると戻っていった。

「マロネほどゼルス様を尊敬して敬愛して愛して愛して愛してるラブリーエンジェル、他のどこにいるってのさ!? 言葉えらばねーとバドマトスに食わすぞ馬ぁ!!」

「い、いたたたた……ならば玉座からはおりたほうが……」

「ゼルス様の残り香を吸収中なの!」

「残り香」

「あとマロネのにおいをすりつけ中」

「すりつけ。……マロネ様。おヒマで?」

 うん、とマロネは頬をふくらませる。
 横にどいたスレイプニルの向こうに見える空は、今日もアホのように青い。
 魔王ゼルスも、見上げているだろうか?

「また連れてってもらえなかった……また連れてってもらえなかったあー」

「マロネ様はこの城の要でございますから……」

「マロネ分身もできるのに。1万体くらいに」

「お疲れになってしまわれるでしょう」

「ゼルス様のにおいかげないほうが疲れるもん」

「毎夜毎夜、ここぞとばかりに魔王様の寝所でお休みになられているのに、それは……」

「ナマは違うじゃん! ナマゼルスがいいじゃん!」

「せめて様を」

「んもぉ~~~やっぱマロネも行こっかな!? 押しかけ女房しちゃう!? やっちゃう!?」

「そのまま駆け落ちなどしてしまわれなければ、もうなんでもいい気もして参りますな……。いえ、マロネ様、そんなことよりも」

「そんなことだとう!?」

「お手紙が届いておりますぞ」

「っ!? 誰から!? ゼルス様!? ラブレター、違うか結婚のなんか書類か! 書きます書きます書き尽くします!」

「テミティ様からかと思われます・・・・・・・

 マロネは両目を細めた。
 くちびるを横一文字に引き結び、スレイプニルから手紙を受け取る。
 書状とも呼べない――草の茎で結んだぼろぼろの紙。魔物にでも運ばせたか。

「いやあしかし、テミティ様、おなつかしゅうございましたなあ」

「そーねー」

「このごろは、元お弟子様方が相次いでおたずねになられて、よろしいことですな。アードランツ様やウェスティリカ様なども、そのうちお見えになるでしょうか」

「さーねー」

 蹴られたにもかかわらず、スレイプニルは機嫌よさげだ。
 彼をはじめ、この城の者たちは、主が今どこに何をしに行っているのか、まったく知らない。

「テミティ様たちにもお世話になりましたが、とりわけアードランツ様にはなにかと勉強させていただきました。あの独特の口上もなつかしゅうございますな」

「ありゃ独特ってんじゃなくて病気よ。ちゅーにびょーっつーの」

「マロネ様のお好きなレーズンパンも、アードランツ様のおかげで導入されたのでしたな」

「……ふん。そだっけ?」

「そうですとも。いつか戦うことになるとも思うと……なんとも楽しみですな!」

 いかにも魔族らしい感想。
 戦いを是とする魔の者がゆえ、逆に彼のような純朴な者も多い。竹を割ったような、とでも人間はいうのだろうか。だからこそ、策を弄する人間にしてやられるのだが。
 今も同じだ。
 スレイプニルは当然に、アードランツが勇者となってやって来ると信じているようだが――

「まさかあんなことになっていようとは……」

「……あの……マロネ様。あの。あの」

「なによ? ひとが気分良くモノローグしてるときに」

「そのモノローグにぜんぶ垂れ流されておりましたが!? な、なんですか、アードランツ様は勇者ではないのですか!? あんなこととは!?」

「教えてほしい?」

「なにとぞ!」

「ゼルス様だったら教えてくれると思う?」

「魔王様でしたらばきっと! 悪ふざけに腹筋1000回はさせられるやもですが」

「じゃ2000回やって」

「ぐおおおおおおおおお!!」

 半人半馬でどう腹筋するのかと思ったが、ばったり横倒しになって器用にがんばっている。回数を数えてあげるつもりもないが。
 マロネは手紙に視線を落とした。

 ――なにも。
 1文字も、書かれていない。


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は12/5、19時ごろの更新です。
しばらくは1の位が0と5の日に更新して参ります。
また作者多忙+カクヨムコン作品も執筆したいため、
お休みをいただくことも多くなる予感がしております。
まことに申しわけございませんが、
今後とも暖かい応援のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。
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