115 / 129
第4章 魔法使い
第112話
しおりを挟む魔王アードランツ討伐隊。
ここらの沿岸部一帯を占める国が、公に募集して組織された、約50人の集団だ。
こういうこと自体は珍しくない。
魔王ゼルス領には滅多に来ないけどな。
ただ、アードランツの討伐は、今回初めて行われるらしい。
そのへんのことを、部隊の長あたりに詳しく聞くタイミングをうかがってたんだが……
「順調だっ! 順調だっ!」
「ふむ、ふむ」
「やれるぞっ、やれるぞっ、やれるぞっ!」
「ほう、ほう」
「倒すのだっ! ぜったいに倒すのだっ!」
場所はすでに、岩山を覆うようにして造られている、魔王城の中。
スキルの光に照らされた広い通路に、でっぷり太った部隊長の声が延々と響き続けている。
俺のすぐ前をゆく、明らかに特注サイズのぽっちゃり鎧を身につけた男がそれだが……
「順調だっ! すこぶる順調だっ!」
「そうだな。まったくだ。ところで隊長殿」
「おうっ! なんだっ! ゼルスンだったなっ、順調だなっ!」
「そうだな。ところで」
「このままいけば無傷でいける! あのにっくきアードランツの野郎を、ギタギタにしてくれるわっ! なあ! 順調だぞっ!」
「うむ、うむ。ところでそのアードランツは――」
「順調だっ! 順調なのだっ!」
うわあい、やっぱりすんごいやる気。
謎のエネルギーがほとばしりすぎて、まったく会話ができていない。
俺の対人間話術も……まだまだだな……
いや!
学べ! これは学ぶチャンスだ!
「このくらいつばをまき散らすほどでなくちゃ、昨今の勇者は務まらんということだな! 熱意だぜ……!」
「いかがなものかと」
「うむ? どうしたアリーシャたん、さっきから隊の後ろのほういて。おなか痛いか?」
「ありがとうございます、健勝です。ゼルスン様、少し……」
アリーシャはひそひそと声を抑えるのではなく、ぼそぼそと低くこもるようにしゃべっている。
このほうが会話を聞き取られづらい。
ぞろぞろ進む討伐隊に知られたくない話か?
「隊長殿は順調とおっしゃっていますが、魔王城の門をくぐってから今まで、魔物に出遭っておりません」
「そうだな。おかげで部隊がまったくの無傷だ」
「これは順調なのでしょうか?」
「そりゃあ……順調だぞ? 少なくとも、俺にとってはな」
討伐が成功するかどうか、という話であれば知らん。
俺はそれには興味がない。
いや、ないというか、なんというかな……
彼らがアードランツに勝てないことは、もうわかっている。
「勇者ならまだしも、『討伐成功したら国家公認勇者になれるかもしれない』程度のエサで集まった連中じゃ、城の中だろうが外だろうが戦いがはじまった時点で以上終了だろうよ」
「まったくおっしゃる通りですが……逆にまだ、期待してらっしゃるのですね?」
「うん?」
「勇者なら、と……あれほど何人も、御目でがっかり勇者たちを見てこられましたのに」
「そりゃ当たり前だ。俺ごときが、どれほどの経験をしたという? 世の魔王にいろいろいるように、勇者たちにも様々あるだろう」
「見習うべきお考えと思います」
はは。アリーシャもアレだな、こういうところがきっと人間なんだな。
マロネと通信が繋がってたら、闇の長としての自覚がうんぬん、とか説教かまされてたところだ。
「それに、アードランツは……あいつはなー。おもしろいやつだからな」
「とおっしゃいますと」
「勇者大好き人間なんだ。俺の弟子の中で、誰よりも強く勇者に憧れていた。かわいかったなー」
場合によっては、俺よりもずっと強く……
いや、いっしょにしたらいかんな、アードランツに悪い。
やつの想いは、勇者になりたい。
俺のは……よくわからんからな、自分でも。
「魔法使いとして勇者パーティのリーダーになるんだ、っつってなあ。勇んで俺のもとを巣立っていった。珍しいパターンだが、実現したらおもしろいよな」
「……ゼルスン様。この討伐隊の隊長殿ですが」
「おう?」
「アードランツ様の、元パーティメンバーであるとのことです」
……ほう?
あの勢いおデブちゃんが……
「このような形で、国から派遣される部隊としての討伐は初めてのことらしいですが、隊長殿が個人的にあの魔王城へ攻め入ったことは、幾度もあるのだとか」
「ふむ……確かか?」
「うわさの範疇ではあります。事情を直に知る者は部隊におりませんでしたが、情報通と自称する者がまことしやかに。それに……隊長殿の様子を見ていると、あながちでまかせとも思えません」
「そういうものか……」
てっきり隊長は、魔王討伐に気がはやっているのだとばかり……
まてよ?
元パーティメンバー、って言ったか……?
「嫌な予感がするな……」
「アードランツ様の優秀さを妬んだか理解できなかった隊長殿が、理不尽なこじつけで勇者パーティからアードランツ様を追放したため、激おこ化していっそ魔王になってやると思い立ったがゆえの現状、というのはわたしの勝手な想像ではありますが」
「嫌な予感をまるっと言語化されてしまった……。ん……?」
つと、俺は耳を澄ませた。
なにか聞こえる……いいや、実のところしばらく前から聞こえていた。
それが徐々に大きく、まわりの人間たちにまで聞き取れるほどになっている。
「なっ……なんだっ……?」
足を止めた部隊長にもわかったようだ。
うめき声……とも、笑い声、とも。
なんともつかない遠い叫びが、通路にも漂う潮の香りにのって地の底から湧き出ているような。
「うっ……うっ、うろたえるなっ!」
ざわつく傭兵たちを、隊長が一喝した。
その声もけっこう震えているが。
「こ、こけおどしだ! 我らの陣容におそれをなし、遠くから吠えかかっているだけだ! わはっ、わはははははっ!」
「そうかなあ……」
「しかし油断するなっ、やはり魔物どもはいるぞ! い、いつ襲いかかってくるかわからん、気をつけろ! 全隊、前へ! 急げっ、なおかつゆっくり進めっ!」
「人間は器用だなあ……」
「こらそこぉ!? やかましいぞゼルスン、いちいち文句言うな! 黙って歩けっ!」
やべやべ。つい、人間はとか言っちった。
隊長の言う通り、気をつけないとなあ……
……しかし……
「この城……なんか……」
「いかがなさいましたか、ゼルスン様」
「うむ、いや……」
「今回は隊長殿の言う通り、確かに魔物の気配は遠いかと。おどしの意味するところはわかりませんが……」
「おどしとは少し違うな。演出だろ」
「演出?」
この城の主にもわかってるってことだ。
討伐隊など、自分の相手にはならないと。
「ふ~~~む……」
薄暗い通路。
壁にかかった松明……そう、部隊がスキルの灯りで照らしてはいるが、それがなければ松明が唯一の光源だ。逆に言えば、それが用意されてはいる。
さらによくよく見れば……遠く高い天井に刻まれた、なんらかの悪魔を象ったらしい紋様。
「なあ……アリーシャたん。この城……」
「はい」
「良くね?」
「……はい?」
魔王がいたぞおー! という声が響いたので、それ以上の応答はできなかった。
通路の先、城のおそらくいちばん奥になるんだろう。
獅子の頭を模した巨大な扉が、自動的に中心から分かたれて、内向きに開いてゆく。
部隊のそこかしこから、オォとどよめきが上がった。いきなり気圧されてどうする……
「でもなんか……イイな……!」
「ゼルスン様……?」
薄暗かった通路に光が差す。
いわゆる謁見の間であるらしいそこは、右側一面の壁がなかった。
よく凪いだ、青い青い海がどこまでも広がる――いきなりのどかな景色だが、しかし、なんだ?
なにかおかしいぞ……?
「いぃいいっ、いたぞっ! 魔王だああーっ!!」
隊長の雄叫びが教える通り。
海面の反射光に満ちあふれた広間に、ただひとつぽつんと据えられた小高い玉座。
男が1人、長い足を組んで腰かけている。
枯れ木のような細身、加えて座っていてもわかるほどの長身。
怜悧な表情に冷めた知性をたたえ、なだれこむ部隊をじっと見つめている。
その薄いくちびるが、かすかに動いた。
「ようこそ……飼われた豚に従えられし、哀れで歪なモノどもよ」
……確かに。
声まで含めて、確かにおまえだ。
なにも変わっていないな、アードランツ!
ていうか!
「セリフ……めっちゃそれっぽい……!」
「魔王様……」
魔王って言っちゃダメだってばアリーシャたん。
**********
お読みくださり、ありがとうございます。
次は12/15、19時ごろの更新です。
0
あなたにおすすめの小説
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる