18 / 27
3章:脚光
3-6:仮面の下
しおりを挟む自然と距離が近付く。アズールはセレスの頬に手を添え、唇を重ねるよう促した。
浅く何度か啄んだ後、舌を潜り込ませて貪る。お互いの吐息の音だけが耳の内で反響し、身体の熱を上げていく。
堪らない気持ちでセレスの首に腕を回せば、すぐに身体が持ち上がった。
寝室へ向かうのかと思いきや、セレスは深呼吸をして会話の体勢を作った。
「バルト殿と仲直りできたのなら一度家に戻るのも良いのでは?」
このまま流れに任せてしまえば、明日の朝に聞くか、暫く忘れて後日になるかのどちらかだ。
幸せに水を差されたくない。大好物を最後に取っておく子供のような理論でセレスは尋ねて来た。
「いやいや、戻れないよ」
愛らしくて唇に噛みつきそうな衝動を抑えつつ、アズールは首を振った。
「戻るとしたら、兄さんが経営者としても一人前になってからだ。
その時になったら商売を手伝うために、ちょっと戻るかもしれない。
……ようやく苦手を克服する気になったんだから、今は絶対に戻れないよ」
やる気になったバルトは強い。職人気質と負けず嫌いを遺憾なく発揮して、それなりの結果を出していくだろう。
劣等感や対人のストレスにより、彼のやる気を削ぐような事はなるべく避けるべきだ。
またオンディール家の商売に携われるのは嬉しいが、バルトに余裕が出来て、自分に声を掛けてくれるその時を楽しみに待ちたい。
「だから……その、改めて、ここにいさせてくれないか?」
考えて悲しくなってきたが、バルトの事を考えると、どこにも行く当てがない。
真相こそ判明したが、アズールはまだ囚人であり、フィンレイ公爵の所有物という肩書のまま。
社会復帰のために新しい商売を始めるとしても、セレスの許可や後押しが必要になる。
今までは牢獄へ戻る前提で生活していたが、今後は変わって来るのだ。
「……っ、勿論です!」
二つ返事で了承してくれるという事はわかっていたはずだが、アズールは改めて安心してしまう。
死神商人の仮面を剝ぎ取られれば、自分はこんなにも弱いのかと突き付けられているようだ。
「ここは貴方を迎えるために、手に入れた家ですから」
「ははは……」
乾いた笑みが出てしまうも、今はセレスの重さが嬉しい。素直に受け止めて、不安を打ち消していく。
申し訳ないと思いながら、欲に任せてセレスの唇に噛みつく。
「君には恐れ入った」
絞り出した強がりの言葉を最後に、2人は寝室へともつれ込んだ。
転移魔法の不思議な浮遊感も慣れてしまったと思う暇はなく、手早く服が取り払われていく。
大きな手が身体中を這い、優しく甘やかされ、アズールの身体が跳ねる。
「久しぶりなので、お辛いかもしれませんが」
「うぅ……いいから……早く」
恥を忘れ、太い指を求めてしまった。
潤滑油をまとわせたセレスの指が、ゆっくりとアズールの後孔へ潜り込み、柔く解していく。
内壁の中のしこりを探り当てれば、一際悩ましい声を上げてしまう。身を捩ろうとするが、セレスの腕が邪魔をして来た。
「……っああぁ!」
呆気なく達してしまったが、それでも指は責め立てて来る。1本から2本に増やされ、バラバラと動かす刺激がまたアズールを苛む。
(あ、あぁまた、いっ……!)
再び達しそうになった瞬間、何故か指が引き抜かれてしまった。
どうしてと尋ねる前に、硬いものが尻に当たり、息を呑む。
熱く、太い。凶悪な存在感。
「え、あ……?」
「一緒に住まうのなら、伴侶という形が良いのですが」
いつぞやかは「伴侶にできない」という理由で、指だけで終わった。
今は違う。市民に戻れる兆しは見え、感情も――。
「い、や、そうだね。そういう事でいい……のかな」
だが、アズールには自信が無かった。王国が誇る白銀の騎士の相手は、本当に自分で良いのかと、今この瞬間も悩んでいる。
周囲からとやかく言われる事に関しては、特に気にしていない。
仲直りした兄や女王は、祝福してくれるだろう。非常にこそばゆいが、それだけで衆目などいくらでも我慢できる。
一番苦しい事は、セレスの子供を産めない事だ。
ちゃんとどこかの貴族の令嬢を娶っていれば、セレスの血を引いた未来の勇者が産まれたかもしれない。輝かしい未来を潰す事が、特に苦しい。
「第二夫人だとかを設ける気は……」
「この期に及んで何を」
「すまない……私は、どうにも臆病者でね」
情けない姿を晒している。仮面の下を暴かれてしまった以上、今更強気に振舞う事は難しい。
セレスの愛は信じているが、ただ踏ん切りがつかないだけ。
「幻滅しただろう? 私の正体は、こんなものだよ」
「むしろ惚れ直したくらいです」
「言い切るじゃないか……」
「えぇ、とても愛おしく思います」
光の下で強かに振舞う貴方の、繊細で柔らかな心の発露。
セレスはうっとりと目を細め、アズールの頬に手を触れる。
汗に紛れて青い瞳から零れる一筋の涙を掬う。
「……私を、君の隣にずっと置いて?」
アズールは精一杯の感情をセレスの耳に囁いた。
勇気を出して、あり得た未来を蹴り飛ばす。
「伴侶になって頂ける……?」
「うん、それで、間違いないかな……」
あれだけ逃げ道を塞ぎまくっておいて何ぽかんとしているんだと、頬を摘まんでしまおうかと思ったが――。
「お、おい、セレッ――⁉」
後孔にぴたりと、熱く脈打つものが突き付けられ、ゆっくりと中をこじ開け侵入してきたのだ。
酷い圧迫感と強烈な幸福感で息が出来なくなる。
追うようにじわじわと快楽が沸き上がり、挿入し切った時には、アズールは震えて動けなくなってしまった。
「あッ……ふぅ……ぅ」
「嬉しい……アズール殿、アズール殿……っ!」
後ろから掻き抱かれ、怒張が更に奥へと進んでいく。
嬉しい時の仕草や反応は、相変わらず少年時代のまま愛らしい。だが、暴力的に腹の中が擦れ、突かれ、止まらない。
パンッ、パチュと、水音が混じりつつ、腰を打ち付けられる音が鳴り響く。
「ガッ、アッ、セレッ……もッ、ダメッ」
「ぐっ……ぅぅ……」
ずっと、こうしたかった。
積年の想いが全て熱に置き換わった獣のような交わい。
腹の中に熱いものが放たれた感覚を感じながら、アズールは酷く幸福で泣きそうになってしまった。
1
あなたにおすすめの小説
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない
天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。
「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」
――新王から事実上の追放を受けたガイ。
副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。
ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。
その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。
兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。
エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに――
筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。
※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。
つがいごっこ~4歳のときに番ったらしいアルファと30歳で再会しまして~
深山恐竜
BL
俺は4歳のときにうなじを噛まれて番を得た。
子どもがたくさんいる遊び場で、気が付いたらそうなっていたとか。
相手は誰かわからない。
うなじに残る小さな歯型と、顔も知らない番。
しかし、そのおかげで、番がいないオメガに制限をかけられる社会で俺は自由に生きていた。
そんなある日、俺は番と再会する。
彼には俺の首筋を噛んだという記憶がなかった。
そのせいで、自由を謳歌していた俺とは反対に、彼は苦しんできたらしい。
彼はオメガのフェロモンも感じられず、しかし親にオメガと番うように強制されたことで、すっかりオメガを怖がるようになっていた。
「でも、あなただけは平気なんです。なんででしょう」
首を傾げる彼に、俺は提案する。
「なぁ、俺と番ごっこをしないか?」
偽物の番となった本物の番が繰り広げるラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる