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3章:脚光
3-6:仮面の下
自然と距離が近付く。アズールはセレスの頬に手を添え、唇を重ねるよう促した。
浅く何度か啄んだ後、舌を潜り込ませて貪る。お互いの吐息の音だけが耳の内で反響し、身体の熱を上げていく。
堪らない気持ちでセレスの首に腕を回せば、すぐに身体が持ち上がった。
寝室へ向かうのかと思いきや、セレスは深呼吸をして会話の体勢を作った。
「バルト殿と仲直りできたのなら一度家に戻るのも良いのでは?」
このまま流れに任せてしまえば、明日の朝に聞くか、暫く忘れて後日になるかのどちらかだ。
幸せに水を差されたくない。大好物を最後に取っておく子供のような理論でセレスは尋ねて来た。
「いやいや、戻れないよ」
愛らしくて唇に噛みつきそうな衝動を抑えつつ、アズールは首を振った。
「戻るとしたら、兄さんが経営者としても一人前になってからだ。
その時になったら商売を手伝うために、ちょっと戻るかもしれない。
……ようやく苦手を克服する気になったんだから、今は絶対に戻れないよ」
やる気になったバルトは強い。職人気質と負けず嫌いを遺憾なく発揮して、それなりの結果を出していくだろう。
劣等感や対人のストレスにより、彼のやる気を削ぐような事はなるべく避けるべきだ。
またオンディール家の商売に携われるのは嬉しいが、バルトに余裕が出来て、自分に声を掛けてくれるその時を楽しみに待ちたい。
「だから……その、改めて、ここにいさせてくれないか?」
考えて悲しくなってきたが、バルトの事を考えると、どこにも行く当てがない。
真相こそ判明したが、アズールはまだ囚人であり、フィンレイ公爵の所有物という肩書のまま。
社会復帰のために新しい商売を始めるとしても、セレスの許可や後押しが必要になる。
今までは牢獄へ戻る前提で生活していたが、今後は変わって来るのだ。
「……っ、勿論です!」
二つ返事で了承してくれるという事はわかっていたはずだが、アズールは改めて安心してしまう。
死神商人の仮面を剝ぎ取られれば、自分はこんなにも弱いのかと突き付けられているようだ。
「ここは貴方を迎えるために、手に入れた家ですから」
「ははは……」
乾いた笑みが出てしまうも、今はセレスの重さが嬉しい。素直に受け止めて、不安を打ち消していく。
申し訳ないと思いながら、欲に任せてセレスの唇に噛みつく。
「君には恐れ入った」
絞り出した強がりの言葉を最後に、2人は寝室へともつれ込んだ。
転移魔法の不思議な浮遊感も慣れてしまったと思う暇はなく、手早く服が取り払われていく。
大きな手が身体中を這い、優しく甘やかされ、アズールの身体が跳ねる。
「久しぶりなので、お辛いかもしれませんが」
「うぅ……いいから……早く」
恥を忘れ、太い指を求めてしまった。
潤滑油をまとわせたセレスの指が、ゆっくりとアズールの後孔へ潜り込み、柔く解していく。
内壁の中のしこりを探り当てれば、一際悩ましい声を上げてしまう。身を捩ろうとするが、セレスの腕が邪魔をして来た。
「……っああぁ!」
呆気なく達してしまったが、それでも指は責め立てて来る。1本から2本に増やされ、バラバラと動かす刺激がまたアズールを苛む。
(あ、あぁまた、いっ……!)
再び達しそうになった瞬間、何故か指が引き抜かれてしまった。
どうしてと尋ねる前に、硬いものが尻に当たり、息を呑む。
熱く、太い。凶悪な存在感。
「え、あ……?」
「一緒に住まうのなら、伴侶という形が良いのですが」
いつぞやかは「伴侶にできない」という理由で、指だけで終わった。
今は違う。市民に戻れる兆しは見え、感情も――。
「い、や、そうだね。そういう事でいい……のかな」
だが、アズールには自信が無かった。王国が誇る白銀の騎士の相手は、本当に自分で良いのかと、今この瞬間も悩んでいる。
周囲からとやかく言われる事に関しては、特に気にしていない。
仲直りした兄や女王は、祝福してくれるだろう。非常にこそばゆいが、それだけで衆目などいくらでも我慢できる。
一番苦しい事は、セレスの子供を産めない事だ。
ちゃんとどこかの貴族の令嬢を娶っていれば、セレスの血を引いた未来の勇者が産まれたかもしれない。輝かしい未来を潰す事が、特に苦しい。
「第二夫人だとかを設ける気は……」
「この期に及んで何を」
「すまない……私は、どうにも臆病者でね」
情けない姿を晒している。仮面の下を暴かれてしまった以上、今更強気に振舞う事は難しい。
セレスの愛は信じているが、ただ踏ん切りがつかないだけ。
「幻滅しただろう? 私の正体は、こんなものだよ」
「むしろ惚れ直したくらいです」
「言い切るじゃないか……」
「えぇ、とても愛おしく思います」
光の下で強かに振舞う貴方の、繊細で柔らかな心の発露。
セレスはうっとりと目を細め、アズールの頬に手を触れる。
汗に紛れて青い瞳から零れる一筋の涙を掬う。
「……私を、君の隣にずっと置いて?」
アズールは精一杯の感情をセレスの耳に囁いた。
勇気を出して、あり得た未来を蹴り飛ばす。
「伴侶になって頂ける……?」
「うん、それで、間違いないかな……」
あれだけ逃げ道を塞ぎまくっておいて何ぽかんとしているんだと、頬を摘まんでしまおうかと思ったが――。
「お、おい、セレッ――⁉」
後孔にぴたりと、熱く脈打つものが突き付けられ、ゆっくりと中をこじ開け侵入してきたのだ。
酷い圧迫感と強烈な幸福感で息が出来なくなる。
追うようにじわじわと快楽が沸き上がり、挿入し切った時には、アズールは震えて動けなくなってしまった。
「あッ……ふぅ……ぅ」
「嬉しい……アズール殿、アズール殿……っ!」
後ろから掻き抱かれ、怒張が更に奥へと進んでいく。
嬉しい時の仕草や反応は、相変わらず少年時代のまま愛らしい。だが、暴力的に腹の中が擦れ、突かれ、止まらない。
パンッ、パチュと、水音が混じりつつ、腰を打ち付けられる音が鳴り響く。
「ガッ、アッ、セレッ……もッ、ダメッ」
「ぐっ……ぅぅ……」
ずっと、こうしたかった。
積年の想いが全て熱に置き換わった獣のような交わい。
腹の中に熱いものが放たれた感覚を感じながら、アズールは酷く幸福で泣きそうになってしまった。
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