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バー『モウカハナ』へようこそ
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いらっしゃいませ、お客様。
当店は初めてのご来店ですか?
ここバー「モウカハナ」ではお酒と寛げる時間を提供させていただいております。
古今東西あらゆるお酒の提供を信条としておりますが、モウカハナのお客様のほとんどが当店の名物ばかりをご所望されます。
お酒なら米から作ったジュンマイシュ、お食事なら皮付き豆を茹でて塩をまぶしただけのエダマメ。
以前この国にいた異世界人が好んだ料理で、バー「モウカハナ」の名物として親しまれております。
私は当店のバリスタ、名をキーノスと申します。宜しければお見知り置きを。
心を落ち着ける音楽と、少し暗めの照明。ダークオークのカウンターテーブル、奥にはソファ席の用意もあります。
現在はカウンターにて四名のお客様がご来店されてます。
皆様顔なじみで、並んで当店自慢のレイシュをお召し上がりになっております。
「しかし、あの異世界人はあっちで箱入りのお嬢様だったのかな……どうにも世間知らずな印象が強すぎる」
静かにボヤいたのは、王国の行政機関が集まる庁舎で働くカズロ様。
統計局で局長をなさっております。
目つきの鋭さから怖がられることも多いですが、低く落ち着いた口調の紳士です。
硬質な雰囲気と論理的な思考で、部下からの信頼も厚い方です。
……ただ、最近入ってきた局員に頭を抱えていらっしゃいます。
「彼女が公務員になって……希望の内政局に入って。それから短期間で移動してばっかだよ……防衛、経済、農産、聖獣……ついに統計局に……」
「毎回新聞に載りますね、段々掲載面積が小さくなってますが」
ボヤキに答えた方はシオ様と呼ばれております。
柔和な口調と笑みで、場の雰囲気をいつも和やかにしてくださいます。
高級家具店の店長様です。この店の奥のソファセットはシオ様のお店で購入したものです。
「食堂でお釣りの計算間違えるような算術能力だから、ウチは安全だと思ってたのに……」
「あれだろ? 払った金額より高い釣り銭を要求したとかいう。あれは笑ったな~、異世界流のギャグ? 詐欺? って! チンピラでもやんねーよな」
先程からカズロ様の話を笑いながら聞いていたミケーノ様が、先月の珍事件を楽しそうにお話されます。
とにかく明るい方で、彼が笑うと場の空気が明るくなります。
ミケーノ様は港にあるリストランテ・ロッソを経営なさっており、料理もお作りになられます。
「その詐欺紛いの時になんで公務員失格にならないんだよ……庁舎じゃなくて牢屋だろ行くべきだ」
「たしか『普段現金なんて持ってるわけないでしょ!』とか言ったらしいわねぇ、普段どうやって買い物してるのかしら、借金?」
クスクスと笑いながら、カーラ様が少し首を傾げながら付け加えます。
仕草や口調だけなら素敵な淑女なのですが……視界には素敵な紳士四名しか映りません。
衣類品をデザインなさる方だからか、女性の気持ちもわかるのかもしれませんね。
「先日聞いたのですが、私の系列店の方が庁舎に請求書送ったそうですね」
「……そうなんだよ、来るんだよ請求書。『ルームフレグランス代 5000リルラ』って……ここの一回の支払いの3倍はするじゃないか……」
「5000リルラ!! ふ、フレグランス……!」
クックック……と大声で笑いそうなのを我慢して、ミケーノ様が顔を伏せます。
「えっそんなのも経費で落ちるの? 公務員羨ましいわぁ~」
「落ちるわけないだろ、毎月彼女の給料から天引きされてるよ。本人気づいてないみたいだけど」
「まさか気付かないだなんて。フレグランスに5000リルラ出すような方なら、他からの請求もあるのではないですか?」
「彼女給料日の度に言うんだよ、『こっちの公務員の給料って安い!』とか。明細見れば理由分かるだろうし、なら辞めれば良いのに……」
王国のために働く公務員の皆様は、有事の際には責任を追うことのある立場です。
異世界での給金は存じませんが、この王国では金銭的にも他職種と比べかなり優遇されているはずです。
さて、先程から話題に上がっております「異世界人」。
彼女の名前はユメノ・ブランカ。
二年ほど前、王都に強い光を放ちながら突如出現した20歳の女性です。
ここオランディ王国では過去に何度か異世界から訪問者が現れております。
ユメノ様の前はサチ様という女性がおり、ここのメニューは彼女のおかげで存在しています。
サチ様は大変聡明で親しみやすい人柄で国民からの人気が高く、知らない国民などほとんどいないのではないでしょうか。
ただの小さな漁村の集落だったオランディが、常に諸外国からのお客様が絶えない国家まで成長できたのは、間違いなくサチ様のお力です。
なので、異世界からの訪問者は国に富をもたらす存在として、半ば神格化した存在と扱われております……が。
どうもここで噂されるユメノ様は、違う形で有名になりつつあるようです。
「今日は……ここで、誰かに聞いてもらいたい事があってね。みんなが居てくれて正直救われるよ」
「構わないわよ、吐き出して楽になるならいくらでも話して!」
「ウワサのユメノの話なら是非聞かせてくれ」
「私も是非聞きたいですね、普段関わることがありませんから」
彼女の起こす騒動は王都の中では珍しい噂として、ひとつの娯楽になりつつあります。
私も最近は噂に興味を持つようになってきております。
今夜はどんな話が聞けるのでしょうか。
当店は初めてのご来店ですか?
ここバー「モウカハナ」ではお酒と寛げる時間を提供させていただいております。
古今東西あらゆるお酒の提供を信条としておりますが、モウカハナのお客様のほとんどが当店の名物ばかりをご所望されます。
お酒なら米から作ったジュンマイシュ、お食事なら皮付き豆を茹でて塩をまぶしただけのエダマメ。
以前この国にいた異世界人が好んだ料理で、バー「モウカハナ」の名物として親しまれております。
私は当店のバリスタ、名をキーノスと申します。宜しければお見知り置きを。
心を落ち着ける音楽と、少し暗めの照明。ダークオークのカウンターテーブル、奥にはソファ席の用意もあります。
現在はカウンターにて四名のお客様がご来店されてます。
皆様顔なじみで、並んで当店自慢のレイシュをお召し上がりになっております。
「しかし、あの異世界人はあっちで箱入りのお嬢様だったのかな……どうにも世間知らずな印象が強すぎる」
静かにボヤいたのは、王国の行政機関が集まる庁舎で働くカズロ様。
統計局で局長をなさっております。
目つきの鋭さから怖がられることも多いですが、低く落ち着いた口調の紳士です。
硬質な雰囲気と論理的な思考で、部下からの信頼も厚い方です。
……ただ、最近入ってきた局員に頭を抱えていらっしゃいます。
「彼女が公務員になって……希望の内政局に入って。それから短期間で移動してばっかだよ……防衛、経済、農産、聖獣……ついに統計局に……」
「毎回新聞に載りますね、段々掲載面積が小さくなってますが」
ボヤキに答えた方はシオ様と呼ばれております。
柔和な口調と笑みで、場の雰囲気をいつも和やかにしてくださいます。
高級家具店の店長様です。この店の奥のソファセットはシオ様のお店で購入したものです。
「食堂でお釣りの計算間違えるような算術能力だから、ウチは安全だと思ってたのに……」
「あれだろ? 払った金額より高い釣り銭を要求したとかいう。あれは笑ったな~、異世界流のギャグ? 詐欺? って! チンピラでもやんねーよな」
先程からカズロ様の話を笑いながら聞いていたミケーノ様が、先月の珍事件を楽しそうにお話されます。
とにかく明るい方で、彼が笑うと場の空気が明るくなります。
ミケーノ様は港にあるリストランテ・ロッソを経営なさっており、料理もお作りになられます。
「その詐欺紛いの時になんで公務員失格にならないんだよ……庁舎じゃなくて牢屋だろ行くべきだ」
「たしか『普段現金なんて持ってるわけないでしょ!』とか言ったらしいわねぇ、普段どうやって買い物してるのかしら、借金?」
クスクスと笑いながら、カーラ様が少し首を傾げながら付け加えます。
仕草や口調だけなら素敵な淑女なのですが……視界には素敵な紳士四名しか映りません。
衣類品をデザインなさる方だからか、女性の気持ちもわかるのかもしれませんね。
「先日聞いたのですが、私の系列店の方が庁舎に請求書送ったそうですね」
「……そうなんだよ、来るんだよ請求書。『ルームフレグランス代 5000リルラ』って……ここの一回の支払いの3倍はするじゃないか……」
「5000リルラ!! ふ、フレグランス……!」
クックック……と大声で笑いそうなのを我慢して、ミケーノ様が顔を伏せます。
「えっそんなのも経費で落ちるの? 公務員羨ましいわぁ~」
「落ちるわけないだろ、毎月彼女の給料から天引きされてるよ。本人気づいてないみたいだけど」
「まさか気付かないだなんて。フレグランスに5000リルラ出すような方なら、他からの請求もあるのではないですか?」
「彼女給料日の度に言うんだよ、『こっちの公務員の給料って安い!』とか。明細見れば理由分かるだろうし、なら辞めれば良いのに……」
王国のために働く公務員の皆様は、有事の際には責任を追うことのある立場です。
異世界での給金は存じませんが、この王国では金銭的にも他職種と比べかなり優遇されているはずです。
さて、先程から話題に上がっております「異世界人」。
彼女の名前はユメノ・ブランカ。
二年ほど前、王都に強い光を放ちながら突如出現した20歳の女性です。
ここオランディ王国では過去に何度か異世界から訪問者が現れております。
ユメノ様の前はサチ様という女性がおり、ここのメニューは彼女のおかげで存在しています。
サチ様は大変聡明で親しみやすい人柄で国民からの人気が高く、知らない国民などほとんどいないのではないでしょうか。
ただの小さな漁村の集落だったオランディが、常に諸外国からのお客様が絶えない国家まで成長できたのは、間違いなくサチ様のお力です。
なので、異世界からの訪問者は国に富をもたらす存在として、半ば神格化した存在と扱われております……が。
どうもここで噂されるユメノ様は、違う形で有名になりつつあるようです。
「今日は……ここで、誰かに聞いてもらいたい事があってね。みんなが居てくれて正直救われるよ」
「構わないわよ、吐き出して楽になるならいくらでも話して!」
「ウワサのユメノの話なら是非聞かせてくれ」
「私も是非聞きたいですね、普段関わることがありませんから」
彼女の起こす騒動は王都の中では珍しい噂として、ひとつの娯楽になりつつあります。
私も最近は噂に興味を持つようになってきております。
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