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悩める局長の受難
#1
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カズロ様からレイシュの追加の注文を受け、私は保冷庫から取り出した冷えたジュンマイシュを小さなデキャンタに注ぎます。
トックリを使う事もありますが、レイシュの時はガラスで出来たデキャンタでお出しします。
カズロ様は新しいデキャンタを受け取り、グラスを皆様に振る舞われました。
「少し長い話だし、良かったら飲んでほしい」
あまり人に甘えるような事に慣れていない、カズロ様らしい振る舞いです。
皆様はここ最近のカズロ様の落ち込みようを知っているため、カズロ様に同意を示します。
それから振る舞われたレイシュを口にし、カズロ様が話しやすい空気を作ります。
少し重い口調で、カズロ様は口を開きました。
「今日は食堂で鉢合わせたんだけど……」
───────
それは庁舎の食堂での事。
庁舎の食堂は職員以外の人も利用出来る国営の大衆食堂である。
庁舎の職員は格安で利用出来るため、昼食時はかなり混雑する。
かなり広く、収容人数は七百人を超える。
カズロは騎士団の副団長と昼食を兼ねた簡単な会議をすべく、昼休憩の鐘を聞いてから食堂へ向かった。
元々仲がいい二人は、たまに会議と銘打って昼食をとる。
わざわざ会議にする理由は、この副団長のネストレだ。
ネストレは屈強な騎士団所属にも関わらず中性的な顔立ちから男装の麗人だと言われている男だ。
紳士的な立ち振る舞いも相まって『一度はデートしてみたい男性ランキング』で不動の一位を獲得し続けているような美男である。
とにかく目を引くので、街の飲食店などに行くと必ず女性に囲まれる。
なので二人の昼食は基本庁舎の食堂で、更に事前に会議室を兼ねたテーブル席と昼食を予約する。
二人は食堂の入口付近で合流し、案内の職員に連れられ薄い壁で区切られたテーブル席の前まで到着したところ、そこにはなぜか先客がいた。
案内の職員が先に気付き、カズロたちを待たせ、先客に移動するよう打診に行ったが……
───────
「それが、ユメノだったんだな?」
「いっそ知らない人だと言えれば良いのに……上司となるとそうもいかないからね」
「席移動するだけでしょ? 何か問題でもあるの?」
「だいたい全部が問題だったね……」
───────
「失礼します、お客様。こち」
「ちょっと! 来るのが遅いじゃない! 客が席に着いたら注文取りに来るのが当たり前でしょ!?」
「申し訳ありません。しか」
「も~ぉここにきて十分は経ったわ! こんな本だけじゃ暇で仕方ないし! その分なにかサービスとかあるわよね?」
「お客様、大変失礼ですが」
「謝るのはもう良いから! とりあえずメニュー見せてくれる? 持ってるんでしょ?」
「メニューは今手元になく、お手数ですがカウンターの」
「ハァ!? じゃああんた何しにここに来たのよ! 待たせた上に必要なもの持ってないとかダメすぎじゃない!? 異世界だろうと常識とかないのは嫌なのよ、なってないわね!」
「お手数おかけ致します、お客様」
「ふん、まぁ良いわ。とりあえずさっさとオムライス作ってきてよ! 卵は半熟で~」
「お客様、こちらのお席は予約が必要な席でして、い」
「は!? 食堂如きで予約!? 意味わかんないんですけど! 誰もいなかったじゃん!」
「そうなのですが、い」
「しょーがないわね、じゃあ十分前から予約してたって事でいいわよ!」
「ですが、本日そちらの席を予約していたお客様がいらっしゃいまして」
「えー、そんなの分かるわけないじゃん! その人別のテーブルでも良いでしょ? どうせ空いてるじゃんここ以外も」
「ですが」
───────
案内の職員が「移動してくれ」という間もない上に大声量の文句に次ぐ文句、聞いたカズロ様が青くなる傲慢な物言い……だったそうで。
「多分腕組んでふんぞり返りながら言ってたんだろうなぁ、見たことあるし」
───────
この辺りで案内の職員を哀れに思い、ネストレが職員の横から会話に参加した。
「すまない、ここの予約をしたものだが……あまり時間もないので困っているんだ」
するとユメノは今までの態度を逆転させ、途端に上機嫌でネストレに声をかける。
「えっまさか! ネストレ様! ネストレさま!!」
「私をご存知ですか? 光栄です」
「えーうそー! 超嬉しいですー! ネストレ様とこんな場所で会えるなんて!」
「それは光栄ですが、私はここの予約をしていて」
「じゃあランチご一緒しましょ! それが良いわ! これは運命よ!」
「とりあえず場所を移してくれませんか? 友人も待っているので」
「ネストレ様のお友達!? 尚更ご一緒したいです! 遠慮しないで座ってください!」
彼女は更に奥の椅子へ移動し、隣の椅子をばしばしと叩く。
「ここへ座れ」ということなんだろう。
ネストレもカズロも、ユメノよりかなり高い立場の局員なのだが……。
───────
「人の話を聞かないというか、なんていうか」
シオ様が呆れたように呟きました。
これでもかなり控えめな言い方でしょう。
今まで出回った噂から気性が荒い方なのかと思っていましたが、想像以上です。
話を聞いているお客様と私は「また新しい噂が出来たな」と考えておりました。
「すごいわね、『遠慮しないで』って彼女が言うのね。逆でしょ普通」
「よくあるよ。仕事がなってないから代わりにやった後で注意したら、遠慮しないでやっていいって言われたり」
「……カズロって、局長でしたよね?」
「一応そのはずなんだよね……」
カズロ様はレイシュを煽り、長いため息をつきます。
「最終的には移動させたけど、この話はまだ続きがあるんだ」
トックリを使う事もありますが、レイシュの時はガラスで出来たデキャンタでお出しします。
カズロ様は新しいデキャンタを受け取り、グラスを皆様に振る舞われました。
「少し長い話だし、良かったら飲んでほしい」
あまり人に甘えるような事に慣れていない、カズロ様らしい振る舞いです。
皆様はここ最近のカズロ様の落ち込みようを知っているため、カズロ様に同意を示します。
それから振る舞われたレイシュを口にし、カズロ様が話しやすい空気を作ります。
少し重い口調で、カズロ様は口を開きました。
「今日は食堂で鉢合わせたんだけど……」
───────
それは庁舎の食堂での事。
庁舎の食堂は職員以外の人も利用出来る国営の大衆食堂である。
庁舎の職員は格安で利用出来るため、昼食時はかなり混雑する。
かなり広く、収容人数は七百人を超える。
カズロは騎士団の副団長と昼食を兼ねた簡単な会議をすべく、昼休憩の鐘を聞いてから食堂へ向かった。
元々仲がいい二人は、たまに会議と銘打って昼食をとる。
わざわざ会議にする理由は、この副団長のネストレだ。
ネストレは屈強な騎士団所属にも関わらず中性的な顔立ちから男装の麗人だと言われている男だ。
紳士的な立ち振る舞いも相まって『一度はデートしてみたい男性ランキング』で不動の一位を獲得し続けているような美男である。
とにかく目を引くので、街の飲食店などに行くと必ず女性に囲まれる。
なので二人の昼食は基本庁舎の食堂で、更に事前に会議室を兼ねたテーブル席と昼食を予約する。
二人は食堂の入口付近で合流し、案内の職員に連れられ薄い壁で区切られたテーブル席の前まで到着したところ、そこにはなぜか先客がいた。
案内の職員が先に気付き、カズロたちを待たせ、先客に移動するよう打診に行ったが……
───────
「それが、ユメノだったんだな?」
「いっそ知らない人だと言えれば良いのに……上司となるとそうもいかないからね」
「席移動するだけでしょ? 何か問題でもあるの?」
「だいたい全部が問題だったね……」
───────
「失礼します、お客様。こち」
「ちょっと! 来るのが遅いじゃない! 客が席に着いたら注文取りに来るのが当たり前でしょ!?」
「申し訳ありません。しか」
「も~ぉここにきて十分は経ったわ! こんな本だけじゃ暇で仕方ないし! その分なにかサービスとかあるわよね?」
「お客様、大変失礼ですが」
「謝るのはもう良いから! とりあえずメニュー見せてくれる? 持ってるんでしょ?」
「メニューは今手元になく、お手数ですがカウンターの」
「ハァ!? じゃああんた何しにここに来たのよ! 待たせた上に必要なもの持ってないとかダメすぎじゃない!? 異世界だろうと常識とかないのは嫌なのよ、なってないわね!」
「お手数おかけ致します、お客様」
「ふん、まぁ良いわ。とりあえずさっさとオムライス作ってきてよ! 卵は半熟で~」
「お客様、こちらのお席は予約が必要な席でして、い」
「は!? 食堂如きで予約!? 意味わかんないんですけど! 誰もいなかったじゃん!」
「そうなのですが、い」
「しょーがないわね、じゃあ十分前から予約してたって事でいいわよ!」
「ですが、本日そちらの席を予約していたお客様がいらっしゃいまして」
「えー、そんなの分かるわけないじゃん! その人別のテーブルでも良いでしょ? どうせ空いてるじゃんここ以外も」
「ですが」
───────
案内の職員が「移動してくれ」という間もない上に大声量の文句に次ぐ文句、聞いたカズロ様が青くなる傲慢な物言い……だったそうで。
「多分腕組んでふんぞり返りながら言ってたんだろうなぁ、見たことあるし」
───────
この辺りで案内の職員を哀れに思い、ネストレが職員の横から会話に参加した。
「すまない、ここの予約をしたものだが……あまり時間もないので困っているんだ」
するとユメノは今までの態度を逆転させ、途端に上機嫌でネストレに声をかける。
「えっまさか! ネストレ様! ネストレさま!!」
「私をご存知ですか? 光栄です」
「えーうそー! 超嬉しいですー! ネストレ様とこんな場所で会えるなんて!」
「それは光栄ですが、私はここの予約をしていて」
「じゃあランチご一緒しましょ! それが良いわ! これは運命よ!」
「とりあえず場所を移してくれませんか? 友人も待っているので」
「ネストレ様のお友達!? 尚更ご一緒したいです! 遠慮しないで座ってください!」
彼女は更に奥の椅子へ移動し、隣の椅子をばしばしと叩く。
「ここへ座れ」ということなんだろう。
ネストレもカズロも、ユメノよりかなり高い立場の局員なのだが……。
───────
「人の話を聞かないというか、なんていうか」
シオ様が呆れたように呟きました。
これでもかなり控えめな言い方でしょう。
今まで出回った噂から気性が荒い方なのかと思っていましたが、想像以上です。
話を聞いているお客様と私は「また新しい噂が出来たな」と考えておりました。
「すごいわね、『遠慮しないで』って彼女が言うのね。逆でしょ普通」
「よくあるよ。仕事がなってないから代わりにやった後で注意したら、遠慮しないでやっていいって言われたり」
「……カズロって、局長でしたよね?」
「一応そのはずなんだよね……」
カズロ様はレイシュを煽り、長いため息をつきます。
「最終的には移動させたけど、この話はまだ続きがあるんだ」
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