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悩める局長の受難
#2
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食堂で余念の無い非常識アピールを済ませたユメノ様ですが、しかしそれにカズロ様は慣れたご様子でした。
「彼女の中の常識があるみたいでね、この世界の常識とズレがあるんだとは思うよ」
「俺達は異世界の知識は本の中の話くらいしか知らないしなぁ、常識となるとちょっとわからねぇよな」
「でも、彼女王国に住み始めて二年は経つでしょ? いくらなんでも非常識の域だわ」
「現金を持ち歩かない常識……一体どういう常識なんでしょうね」
皆様各々思うところがおありのようです。
バリスタの身としては……食堂の職員に対しての態度を聞くと、こちらへの来店は御遠慮いただきたいと考えてしまします。
「色々気になるとこはあるが、どうしても上司として注意しちゃいけないんだよね。ネストレへの態度もそうなんだけど」
───────
カズロはネストレの一歩前に出て、自分の部下に対して言う。
「ところで、このテーブルを『十分前から予約で良い』と言っていたが、どういう事か?」
突如現れた上司に表情が一気に凍る。
「ぇ、カズロさん……?」
ネストレはちゃんと様付けなのに上司は「カズロさん」……これだけで普段の職場での様子も透けて見える。
カズロは構わず言葉を重ねる。
「私は昼休憩の鐘が鳴ってすぐ職場を出て、ネストレと合流し予約をしていたのでカウンターに列に並ぶことなくここにいる」
「え? はい」
「この食堂は入口のカウンターで注文し、数字の刻まれた木札を渡され、呼ばれるのを別カウンターで待つ仕組みだ」
「はぁ」
「私達は昼休憩の鐘のあと、あらゆる意味で最短でここに来てるのは分かるか?」
「すごいですねー」
この反応は分かってないな、と思い大きくため息をつく。
カズロは続ける。
「なぜ昼休憩が開始して五分しか経っていない今、十分前からここにいたんだ?」
少し焦ったように目線を反らしたが、ユメノはすぐにカズロ様を見てにっこり笑った。
「お仕事はやく終わらせたんです~! やっぱアタシ異世界人で優秀だし?」
「ついでに言えば、ここに来る直前総務課の人間が私の元へ来たぞ。君が何処にいるのか聞きに」
「へぇーそうなんですね」
「席に行って君がいなかったからだそうだが」
「あのオバサンですよね? もぉーホント困ってるんです~、よく席に来てはアレ出せコレ出せって!」
「それはそうだろう。いつも必要な書類を提出していないのだから」
「あれって職場イジメじゃないすか~? アタシの能力を妬んで、毎回イビりにわざわざ」
「仕事を終わらせたんだよな? ならなぜわざわざ総務課の人間が局員を探しに局長の元へ来るんだ?」
カズロは局長、統計局のトップ。
部下のことで他部署の人間がトップに話しかける、本来なら肝が冷える話だ。
「アタシくらいになると、やっぱ部長レベルじゃ動かせないの分かってるんでじゃないですか~?」
彼女の直上長は部長、彼女は統計局の総務部にいる。
「やっぱ異世界人ってなるとそれなりに優遇すべきだし~」
「良いか、ミス・ブランカ」
咳払いを一つして、カズロが彼女の言葉を遮る。
「総務課の人間が君が席に居ないから私の元に来た」
「みたいですねー」
「君は仕事を切り上げ十分前からここにいた」
「切り上げたんじゃなくて~」
上目遣いでカズロを見る。
「十分前ならどう考えても鐘が鳴る前に昼休憩に入っている」
「そうなんですよねー、鐘の音鳴ってから十分くらいだと思ったんですが間違えました、五分だったんですね!」
少し斜め上を見て、何かを考えてる様子を見せる。
「……総務課の人間が私の所に来た時間と理由を考えると、君が昼休憩の五分より前から席にいなかったとしか考えられない。君はいつから席にいなかったんだ?」
「あ、そういう事ですか!」
ぱっと表情を明るくして、彼女はこう答えた。
「お昼休みの三十分前からです! オバサン来るかも~! って思って! ナイス直感ですよね!」
───────
「あなた局長よね? ただのヒラ職員じゃなかった気がしたけど」
「……合ってるよ」
「なんかイイとこ先輩と後輩って感じね」
「ネストレに対してはアイドルとそのファンだったよ……本当に恥ずかしい……」
どうにも、カズロ様は昼休憩の前からユメノ様がいなかったのは既にご存知でしたが、ネストレ様との約束があったため昼休憩の間に限り保留にしようとしたようです。
頭の片隅に追いやっていた頭痛のタネが、予想外のとこから現れたようなものですね。
深くて長いため息をつきながら、カズロ様は両手で顔を覆ってしまいました。
仕事中は気を張っていらしたのでしょうけど、気が緩んだ状態で今日の出来事を思い返してのため息でしょう。
そんなカズロ様を見て、ミケーノ様が明るい声で話し出します。
「っと、酒が減ってきたな! キーノス、辛口のレイシュをデキャンタで! グラスは四つだ!」
「あら、ミケーノのクセに気が利くわね。ありがとう」
「あと俺にヒヤヤッコくれ」
「それ私も! 二つちょうだい、一つはカズロに!」
「……ありがとう、カーラ。気を使わせちゃったね」
「良いのよ、話を聞かせてくれたお礼よ!」
「私も軽く食べたいと思っていたんです。キーノス、私もヒヤヤッコと追加でタコワサ一つお願いします。」
「ヒヤヤッコと辛口レイシュ四人前、タコワサを一つですね」
「俺も追加でー……今日の作り置きでなんかないか?」
「本日のオススメは肉じゃがです」
「じゃそれ一人前! 肉多めで!」
「かしこまりました」
夜も深くなりましたが、今宵もモウカハナの夜はまだまだ続きそうです。
明日も皆様お仕事ですので、お帰りの前には二日酔いに効くお茶をお出ししておきましょう。
「彼女の中の常識があるみたいでね、この世界の常識とズレがあるんだとは思うよ」
「俺達は異世界の知識は本の中の話くらいしか知らないしなぁ、常識となるとちょっとわからねぇよな」
「でも、彼女王国に住み始めて二年は経つでしょ? いくらなんでも非常識の域だわ」
「現金を持ち歩かない常識……一体どういう常識なんでしょうね」
皆様各々思うところがおありのようです。
バリスタの身としては……食堂の職員に対しての態度を聞くと、こちらへの来店は御遠慮いただきたいと考えてしまします。
「色々気になるとこはあるが、どうしても上司として注意しちゃいけないんだよね。ネストレへの態度もそうなんだけど」
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カズロはネストレの一歩前に出て、自分の部下に対して言う。
「ところで、このテーブルを『十分前から予約で良い』と言っていたが、どういう事か?」
突如現れた上司に表情が一気に凍る。
「ぇ、カズロさん……?」
ネストレはちゃんと様付けなのに上司は「カズロさん」……これだけで普段の職場での様子も透けて見える。
カズロは構わず言葉を重ねる。
「私は昼休憩の鐘が鳴ってすぐ職場を出て、ネストレと合流し予約をしていたのでカウンターに列に並ぶことなくここにいる」
「え? はい」
「この食堂は入口のカウンターで注文し、数字の刻まれた木札を渡され、呼ばれるのを別カウンターで待つ仕組みだ」
「はぁ」
「私達は昼休憩の鐘のあと、あらゆる意味で最短でここに来てるのは分かるか?」
「すごいですねー」
この反応は分かってないな、と思い大きくため息をつく。
カズロは続ける。
「なぜ昼休憩が開始して五分しか経っていない今、十分前からここにいたんだ?」
少し焦ったように目線を反らしたが、ユメノはすぐにカズロ様を見てにっこり笑った。
「お仕事はやく終わらせたんです~! やっぱアタシ異世界人で優秀だし?」
「ついでに言えば、ここに来る直前総務課の人間が私の元へ来たぞ。君が何処にいるのか聞きに」
「へぇーそうなんですね」
「席に行って君がいなかったからだそうだが」
「あのオバサンですよね? もぉーホント困ってるんです~、よく席に来てはアレ出せコレ出せって!」
「それはそうだろう。いつも必要な書類を提出していないのだから」
「あれって職場イジメじゃないすか~? アタシの能力を妬んで、毎回イビりにわざわざ」
「仕事を終わらせたんだよな? ならなぜわざわざ総務課の人間が局員を探しに局長の元へ来るんだ?」
カズロは局長、統計局のトップ。
部下のことで他部署の人間がトップに話しかける、本来なら肝が冷える話だ。
「アタシくらいになると、やっぱ部長レベルじゃ動かせないの分かってるんでじゃないですか~?」
彼女の直上長は部長、彼女は統計局の総務部にいる。
「やっぱ異世界人ってなるとそれなりに優遇すべきだし~」
「良いか、ミス・ブランカ」
咳払いを一つして、カズロが彼女の言葉を遮る。
「総務課の人間が君が席に居ないから私の元に来た」
「みたいですねー」
「君は仕事を切り上げ十分前からここにいた」
「切り上げたんじゃなくて~」
上目遣いでカズロを見る。
「十分前ならどう考えても鐘が鳴る前に昼休憩に入っている」
「そうなんですよねー、鐘の音鳴ってから十分くらいだと思ったんですが間違えました、五分だったんですね!」
少し斜め上を見て、何かを考えてる様子を見せる。
「……総務課の人間が私の所に来た時間と理由を考えると、君が昼休憩の五分より前から席にいなかったとしか考えられない。君はいつから席にいなかったんだ?」
「あ、そういう事ですか!」
ぱっと表情を明るくして、彼女はこう答えた。
「お昼休みの三十分前からです! オバサン来るかも~! って思って! ナイス直感ですよね!」
───────
「あなた局長よね? ただのヒラ職員じゃなかった気がしたけど」
「……合ってるよ」
「なんかイイとこ先輩と後輩って感じね」
「ネストレに対してはアイドルとそのファンだったよ……本当に恥ずかしい……」
どうにも、カズロ様は昼休憩の前からユメノ様がいなかったのは既にご存知でしたが、ネストレ様との約束があったため昼休憩の間に限り保留にしようとしたようです。
頭の片隅に追いやっていた頭痛のタネが、予想外のとこから現れたようなものですね。
深くて長いため息をつきながら、カズロ様は両手で顔を覆ってしまいました。
仕事中は気を張っていらしたのでしょうけど、気が緩んだ状態で今日の出来事を思い返してのため息でしょう。
そんなカズロ様を見て、ミケーノ様が明るい声で話し出します。
「っと、酒が減ってきたな! キーノス、辛口のレイシュをデキャンタで! グラスは四つだ!」
「あら、ミケーノのクセに気が利くわね。ありがとう」
「あと俺にヒヤヤッコくれ」
「それ私も! 二つちょうだい、一つはカズロに!」
「……ありがとう、カーラ。気を使わせちゃったね」
「良いのよ、話を聞かせてくれたお礼よ!」
「私も軽く食べたいと思っていたんです。キーノス、私もヒヤヤッコと追加でタコワサ一つお願いします。」
「ヒヤヤッコと辛口レイシュ四人前、タコワサを一つですね」
「俺も追加でー……今日の作り置きでなんかないか?」
「本日のオススメは肉じゃがです」
「じゃそれ一人前! 肉多めで!」
「かしこまりました」
夜も深くなりましたが、今宵もモウカハナの夜はまだまだ続きそうです。
明日も皆様お仕事ですので、お帰りの前には二日酔いに効くお茶をお出ししておきましょう。
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