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悩める局長の受難
#3
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お出しした料理を召し上がりながら、皆様がユメノ様に関しての推理をしております。
「ユメノさんの証言だと、普段より三十分早く昼休みに入ってたんですね、無断で」
「よくある事なんだけど、普段は部長がそれとなく気づいてるんだよね」
「今日はそうではなかったのですか?」
「部長は普通の統計局員だしね、昨日から泊まりがけでブルネラ領の実地調査に行ってるんだ」
肉じゃがのシラタキを食べ終え、何かを思い出したようにミケーノ様が問います。
「ん? そもそも統計局に総務部なんてあったか?」
「……仕方なかったんだ」
「え?」
「……どこを探しても総務部なんてないよ」
カズロ様のお話によると。
ユメノ様の統計局への内示が出た時には既に「釣銭かさ増し詐欺」の話は一部では有名になっていたようで、国内のあらゆる数字を取り扱う統計局の仕事はまず無理だと確信していたそうです。
なので「統計局員の業務管理」という名目で、統計局員の雑用をする部署を急遽でっち上げたそうです。
部長となっている局員はユメノ様の世話係、今の統計局の中で一番世話焼きな男性が選ばれました。
「なかなか強引な策だな」
「統計局は二十人で少人数だけど、統計の仕事に関わらせないためにはなんとか隔離するしか思いつかなくて……一応上からの認可は降りてるよ」
「そこまでしなくても良かったんじゃないか? 仕事振らないで座らせとくとか」
「経済局でそうしたら、気の弱い職員の横に座ってずーっと見当違いなアドバイスし続けて……そのターゲットになった職員が移動希望だしたんだよね……」
「へぇ、じゃあそれで経済局から移籍になったのかしら?」
「うーん、理由の一つではあるだろうね」
カズロ様はレイシュをぐびりと飲み、小さくため息をつきます。
ミケーノ様は何かを察してか、話を戻します。
「あーじゃあ、つまり統計局の総務部ってのは学園の『生き物係』みたいなもんか?」
とても単純な例えに、タコワサをつついていたシオ様が参加なさいました。
「ユメノさんを珍獣扱いするのは流石にいかがかと……」
「シオ、俺はそのユメノと部長が生き物係って意味で言ったから、珍獣扱いしてるのはお前だぞ」
「…!!」
誤魔化すようにタコワサをひとつまみ食べ、滲んだ涙を拭いつつシオ様は私が気になっていた事をカズロ様に聞きました。
「食堂での話の続きですが、ユメノさんには総務課の人が来るタイミングが分かったようですね。もしかしてそれが彼女の異世界人としての能力なのですか?」
以前いたサチ様も異世界人特有の能力をお持ちでした。
豊富な知識、聡明な人柄……それだけでも素晴らしいのですが、それに加え彼女は千里眼がありました。
この国にも稀に術の素養を持って生まれる子供はいますが、サチ様の千里眼は規模がケタ違いでした。
とはいえ、サチ様を著名人たらしめていはのは能力ゆえのものではないので、あまり注目されません。
ユメノ様の能力も何かあるのだろうと国民からの期待は大きいですが、未だに新聞を賑わすのは彼女の噂ばかりです。
「いや、そこはすごく単純な話なんだ。やるかやらないかは別だけど」
「そうなのですか? 相手の行動を先読みしたような動きだなと思いましたが」
興味を示したシオ様とは対象的に、カーラ様とミケーノ様は違う話題に花を咲かせています。
「……彼女の席にメモがあったんだ」
「メモ、ですか」
「総務課のから『書類を直接取りに行く』って内容のメモ。どうも昨日の夜にはピンで止められていたみたいなんだ」
「しかしそれなら、いつ来るかまでは分からないと思いますが」
「ウチの総務課、朝にメモがあったら昼休み前に、昼休み明けにメモがあったら終業前に来るんだよ。『総務課が行く前に済ませてね』っていう事なんだろう」
「なるほど、一種の予告状なのですね」
レイシュを口にし、グラスを置きながらシオ様は続けます。
「なんというか、想像してたものより陳腐ですね……」
「多分シオが言うような特殊な能力とかではないよ」
「そうですね……」
シオ様はタコワサをつつきながら、もうひとつの疑問を口にしました。
「しかし、なぜ呼び出されるまで提出さなかったのでしょう? 統計局の総務部員が書類を用意できないほど忙しいとは思えないんですよね」
カズロ様は少し思案しながら答えます。
「確かに時間に余裕はあったけど、面倒だったから用意してなかったんだろうね」
「用意が大変な書類なんですか?」
「今回のは少し面倒だね、査定に関わる自己申告書なんだよ。その上書いたものを局長の確認とハンコがないと受理されないんだ」
「カズロは彼女の書類を見ていなかったんですか?」
「急な移動のあった職員はハンコ貰う局長を選べるんだよね。彼女の場合は三つくらい選択肢があるし……あ」
そこでカズロ様は何かに気付かれました。
「そうか、多少なりクビになった気まずさがあったのかと思ったけど、急かされるまで書いてなかっただけか……だからあんな時間に……」
カズロ様は項垂れてしまいました。
その様子を見たシオ様がカズロ様のグラスにレイシュを注ぎます。
カズロ様は顔を上げ、その親切に少し笑顔を取り戻されました。
そしてまだ残っていた料理を食べつつ空いた食器を片付け、一息ついたところ。
「今日の晩酌の最後に、ワタシからのシャンパーニュをご馳走するわ」
カーラ様からの提案に皆様それぞれ感謝を述べ、私は四つのグラスをカウンターに並べました。
「ねぇカズロ。ユメノは食堂で見つかったあとどうしたの? まさかそのまま一緒にランチ~なんてないわよね?」
カーラ様は話の顛末が気になっているようです。
グラスにシャンパンが注がれる音を聞ながら、カズロ様は続けました。
「結局今日あった事の決着は明日に持ち越しになったよ、更に他の問題も出てきちゃってね……」
四杯のシャンパーニュを皆様にお配りし、使用済の食器を洗いに流しへと移動しました。
そしてカズロ様は、本日の肴として最後のお話をはじめました。
「ユメノさんの証言だと、普段より三十分早く昼休みに入ってたんですね、無断で」
「よくある事なんだけど、普段は部長がそれとなく気づいてるんだよね」
「今日はそうではなかったのですか?」
「部長は普通の統計局員だしね、昨日から泊まりがけでブルネラ領の実地調査に行ってるんだ」
肉じゃがのシラタキを食べ終え、何かを思い出したようにミケーノ様が問います。
「ん? そもそも統計局に総務部なんてあったか?」
「……仕方なかったんだ」
「え?」
「……どこを探しても総務部なんてないよ」
カズロ様のお話によると。
ユメノ様の統計局への内示が出た時には既に「釣銭かさ増し詐欺」の話は一部では有名になっていたようで、国内のあらゆる数字を取り扱う統計局の仕事はまず無理だと確信していたそうです。
なので「統計局員の業務管理」という名目で、統計局員の雑用をする部署を急遽でっち上げたそうです。
部長となっている局員はユメノ様の世話係、今の統計局の中で一番世話焼きな男性が選ばれました。
「なかなか強引な策だな」
「統計局は二十人で少人数だけど、統計の仕事に関わらせないためにはなんとか隔離するしか思いつかなくて……一応上からの認可は降りてるよ」
「そこまでしなくても良かったんじゃないか? 仕事振らないで座らせとくとか」
「経済局でそうしたら、気の弱い職員の横に座ってずーっと見当違いなアドバイスし続けて……そのターゲットになった職員が移動希望だしたんだよね……」
「へぇ、じゃあそれで経済局から移籍になったのかしら?」
「うーん、理由の一つではあるだろうね」
カズロ様はレイシュをぐびりと飲み、小さくため息をつきます。
ミケーノ様は何かを察してか、話を戻します。
「あーじゃあ、つまり統計局の総務部ってのは学園の『生き物係』みたいなもんか?」
とても単純な例えに、タコワサをつついていたシオ様が参加なさいました。
「ユメノさんを珍獣扱いするのは流石にいかがかと……」
「シオ、俺はそのユメノと部長が生き物係って意味で言ったから、珍獣扱いしてるのはお前だぞ」
「…!!」
誤魔化すようにタコワサをひとつまみ食べ、滲んだ涙を拭いつつシオ様は私が気になっていた事をカズロ様に聞きました。
「食堂での話の続きですが、ユメノさんには総務課の人が来るタイミングが分かったようですね。もしかしてそれが彼女の異世界人としての能力なのですか?」
以前いたサチ様も異世界人特有の能力をお持ちでした。
豊富な知識、聡明な人柄……それだけでも素晴らしいのですが、それに加え彼女は千里眼がありました。
この国にも稀に術の素養を持って生まれる子供はいますが、サチ様の千里眼は規模がケタ違いでした。
とはいえ、サチ様を著名人たらしめていはのは能力ゆえのものではないので、あまり注目されません。
ユメノ様の能力も何かあるのだろうと国民からの期待は大きいですが、未だに新聞を賑わすのは彼女の噂ばかりです。
「いや、そこはすごく単純な話なんだ。やるかやらないかは別だけど」
「そうなのですか? 相手の行動を先読みしたような動きだなと思いましたが」
興味を示したシオ様とは対象的に、カーラ様とミケーノ様は違う話題に花を咲かせています。
「……彼女の席にメモがあったんだ」
「メモ、ですか」
「総務課のから『書類を直接取りに行く』って内容のメモ。どうも昨日の夜にはピンで止められていたみたいなんだ」
「しかしそれなら、いつ来るかまでは分からないと思いますが」
「ウチの総務課、朝にメモがあったら昼休み前に、昼休み明けにメモがあったら終業前に来るんだよ。『総務課が行く前に済ませてね』っていう事なんだろう」
「なるほど、一種の予告状なのですね」
レイシュを口にし、グラスを置きながらシオ様は続けます。
「なんというか、想像してたものより陳腐ですね……」
「多分シオが言うような特殊な能力とかではないよ」
「そうですね……」
シオ様はタコワサをつつきながら、もうひとつの疑問を口にしました。
「しかし、なぜ呼び出されるまで提出さなかったのでしょう? 統計局の総務部員が書類を用意できないほど忙しいとは思えないんですよね」
カズロ様は少し思案しながら答えます。
「確かに時間に余裕はあったけど、面倒だったから用意してなかったんだろうね」
「用意が大変な書類なんですか?」
「今回のは少し面倒だね、査定に関わる自己申告書なんだよ。その上書いたものを局長の確認とハンコがないと受理されないんだ」
「カズロは彼女の書類を見ていなかったんですか?」
「急な移動のあった職員はハンコ貰う局長を選べるんだよね。彼女の場合は三つくらい選択肢があるし……あ」
そこでカズロ様は何かに気付かれました。
「そうか、多少なりクビになった気まずさがあったのかと思ったけど、急かされるまで書いてなかっただけか……だからあんな時間に……」
カズロ様は項垂れてしまいました。
その様子を見たシオ様がカズロ様のグラスにレイシュを注ぎます。
カズロ様は顔を上げ、その親切に少し笑顔を取り戻されました。
そしてまだ残っていた料理を食べつつ空いた食器を片付け、一息ついたところ。
「今日の晩酌の最後に、ワタシからのシャンパーニュをご馳走するわ」
カーラ様からの提案に皆様それぞれ感謝を述べ、私は四つのグラスをカウンターに並べました。
「ねぇカズロ。ユメノは食堂で見つかったあとどうしたの? まさかそのまま一緒にランチ~なんてないわよね?」
カーラ様は話の顛末が気になっているようです。
グラスにシャンパンが注がれる音を聞ながら、カズロ様は続けました。
「結局今日あった事の決着は明日に持ち越しになったよ、更に他の問題も出てきちゃってね……」
四杯のシャンパーニュを皆様にお配りし、使用済の食器を洗いに流しへと移動しました。
そしてカズロ様は、本日の肴として最後のお話をはじめました。
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