王都のモウカハナは夜に咲く

咲村門

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悩める局長の受難

#8

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「罠っていっても大したものじゃないよ。捏造とかはしてないけど、ちょっと嘘はついたかな」
「嘘?」
「ネストレにはちゃんと事前に謝罪はしたよ」

​───────

「そういえば、机にメモが貼られていることはあったよね」
「はい、いつも7~8枚くらいあって本当に邪魔でした!」
「……どんな内容だったんだ?」
「あんまりよく見てないんです~、どうせ大したことじゃないと思ったので!」

 ふぅーー……と長いため息をカズロさんがつきます。
 アタシ、変なこと言ってないよね?

「まず共同テーブルの補充だが、終わったら棚に掛かっている使用記録に使った分を記載する。それが今日の分は記載がなかった」
「そーなんですね、それも初めて知りました」

 かかってたわね、そういえばなんか変な板。

「君の席のメモの大半は統計局員か総務課長が貼ったものだ」
「へぇーアタシが統計局のアイドルですからね~」
「内容はほぼ『共同テーブルの補充をお願いします』だ。共同テーブルは私の机の上に目の前にあるが、君が補充してる所は見たことがない」
「そ、そんな事はないです!」

 カズロさんが袋を取り出し、ひっくり返して中身を出す。
 ……アタシの机にあったメモだ。

「な、なんでこれがここに!?」
「これは君がここへ入る前の物を回収したものだ」
「えぇっ、いつそんな事したんですか?」
「……ゴミ箱の中身の回収は本来君の仕事だが、実際は部長がやっていた。写真機を置いたことは言ったね」
「えっ? はい、だからそれは」
「その記録の中で、一時間前の写真にはあった大量のメモが次の写真では無くなっていたことがあった」
「それは補充が済んだので捨てたんです!」
「メモは読んでなかったんじゃないのか?」
「その日は読みました!」
「本当に?」
「もちろんです! 今日のも読んでます」
「なら、よく見てみろ」

 カズロさんがゴミのメモを指さす。
 丸まったメモをいくつか広げてみた。

『共同テーブルにお菓子があるよ』
『備品棚のインクにピンク色を納入したよ!』
リンゴメーロオレンジアランチャのマーマレード配布中!』
『局長が今日奢りでのみ連れてってくれるって!』
『副団長が会いたいって言ってたよ』
『備品棚のメモに君宛てのラブレターがあったみたいだけど……』

「なっ……」
「補充依頼なんてひとつもないだろ?」
「こ、このメモ! 本当なんですか?」
「君がここへ来る前に貼ってあった物だ、部長が持ってきてくれた」
「うっそ! じゃあ急がないと」
「何を?」
「お菓子にピンクのインクにマーマレード!ラブレターも回収しなきゃ!」
「メモを読んでたんだよね?」
「読んでません! 捨ててました!」

 いつもこんなメモなら大歓迎なのに!

「そのくらい、仕事熱心なら良かったんだけどね…」

 カズロさんのつぶやきに、我に返った……

「い、いやあの」
「最初に伝達した内容は事実だが、殿下がサチ様のファンでね……異世界人の君が書類通りの人だなんて信じられないと……」
「そ、そうです! デタラメです! 信じてください王子様!!」

 王子様はニコッと笑ってくれた。
 分かってくれた?
 笑顔のまま王子様は分厚い封筒を出してきた。

「これは君に関しての陳述書だよ。陳述書これだけでも処分は決定してたんだけど、サチ様みたいに聡明で堅実な方なら、減給と局の移動だけで済ませようと思った。」
「減給と移動なんて酷いです! こんなに頑張ってるのに!」
「何を頑張ってるのかな? 僕には全く伝わってこないよ。それにさっきから僕やカズロに対しての態度が本当に酷い。君は異世界人だけど、同じく公務員ってこと忘れてない?」
「忘れるはずありません!」

 ぺらっと、一枚の紙をテーブルに置いた。
 見覚えがあった……アタシが書いた意見書だ!

「それ! 読んでください! アタシがいかにこの職場で酷い目にあっていたか書いてあります!」
「そうなのかい?」
「そうです! それに書かなかったけど、最近はいつもビヒンのホジューホジューって! アイドルに対して酷い扱いなんです!」
君の意見書コレ、最後に『新聞社で話したのに全然記事にしてもらえなかった』ってあるけど?」
「そうなんです! ずーっと新聞社に行って記者さんに言ってるのに、移動になった事しか記事にしてくれないんです!」
「『公務員の行動理念』、知ってる?」
「えっ? なんですかそれ?」
「『公務員の資格を持つものは、仲間の品格を落とすような行動は避けるべし』」
「はぁ…あ! それだと、アタシってすごい被害者ですよね! さっきのみんなからの意見書とか!」
「新聞社に情報をリークするのは、この理念から完全に外れている」
「ほとんど記事にしてもらえてません!」
「だから? 内部リーク、新聞社の方にも問い合せたけど機密事項も多数あった。当然だけど即懲戒処分だよ」
「えっ、何もそこまで酷い話じゃ……」
「そうだね。君は異世界から迷い込んで、この王国で右も左も分からない状態で過ごしてきた。そんな中で懲戒処分と罰金を課すのは心苦しいよ」
「ば、罰金!?」
「公務員資格で情報の管理の必然性は常に重要視される、よね?」
「そ、そんなの聞いてない!」
「……この後に及んでそれを言えるなら、やはり君の公務員資格を剥奪するしかないね」
「剥奪って…! そんな、あんなに面倒な試験受けたのに! それを剥奪だなんて!」

 王子様がトントン、と指で封筒を叩きます。



「この分厚い封筒なんだけどさ、陳述書以外にも君が買ったものの請求書が入ってるんだよ」

 請求書……! サインで買ったものだ! 請求書にしてたなんて!
 でも認める訳にはいかない……!

「なんですかそれ? アタシの名を騙ってるんじゃ?」
「筆跡鑑定、店舗への確認、商品の存在確認、全て済んでいる」
「いやでも」

 王子様は小さくため息をつき、立ち上がる。

「サチ様は本の中と両親から聞いた話でしか知らなくてすごく憧れてたんだ。だから君もきっと素晴らしい人なんだろうと、過剰な期待をしてしまったのは謝るよ。だけどもう庁舎には置いておけない。申し訳ないが、公務員資格を置いて出ていってくれ」

 王子が小さく頭を下げた。

「だっ……」

「誰がこんな場所にいてやるものですか!!! いいわ、いいわよ! 今までの事全部ぶちまけるわ! それを聞いて考えを改めるタイミングくれてやるからよくききなさいよ!!」

​───────

「で、これまでの『努力』を語ったのか……」
「そういう事」
「王太子殿下によくもまぁ、あんなイイ男の前ですごい醜態ね……」
「録音してたから、そこも公務員資格剥奪に役立ったよ」
「罰金って、話を外に漏らすことは罰金になるのですか?」
彼女ユメノの場合は、予算費とか聖獣の種類とか……機密事項が多数あったんだよ。それをこういう空間でもかなりグレーだし、新聞社にリークは完全にアウトだよ」

 カズロ様はレイシュをぐいっと飲み、グラスを明けました。

「僕は王太子殿下が異世界人に対して強く憧れを抱いているのを知ってた。王妃様もサチ様と仲が良かったから、今までの事も飲んでいたような節があった。
だから、統計局ウチから移動させる為にはら彼女の強い移動希望と王太子殿下の彼女への失望が必要だったんだ」

 カズロ様はデキャンタからグラスにレイシュを自ら注ぎます。

「移動希望はほっとけば言い出したんじゃない?」
「言わないと思うよ……統計局ウチは僕以外は厳しいこと言わないし。僕が言ってもなんだか通じてないし」
「王太子殿下の失望はなくても良かったのでは?」
「なかったら、殿下の中で統計局ウチが彼女を悪く言っている可能性を捨てきれなかったと思うんだ。性善説の鏡のような方だからね、申し訳なかったけど、殿下の前で彼女ユメノが普段の調子を見せるのが早いと思って」

 王国の鷹の呼ばれるだけありますね、一時的な感情で動いたわけではなく計算ずくだったようです。

「僕はあくまで殿下に統計局ウチ彼女ユメノに迷惑してるのをわかってもらえたら良かったんだ。だから、あの分厚い封筒の登場はびっくりしたよ」
「陳述書と請求書だっけ?」
「それだけじゃなくて、実はほとんどが被害報告書なんだよ……」

 どうも、前期の評価では聖獣局長が整え、マナーの悪さに目眩を起こした王妃様に追求されなかった部分が、改めてこのタイミングで各所から被害届という形で上がってきたようです。
 しかも庁舎内をはじめ、王都各所から届いたものらしく、王太子殿下は看過できるものではなかった様子です。

「じゃあなおさら失望させなくても良かったんじゃねーの?」
「そう思うんだけど、面談の前とかなんかウキウキしてたんだよね殿下」
「なるほどね、サチ様への憧れで目が狂ってたのね……」
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