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凍る道化の恋物語
#2
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お食事を終えた三名のお客様は、ラム酒をソーダ水で割ったものを召し上がっております。
マルモワの方はラムがお好きのようです。
引き続き例の留学生に関してのお話をなさっているようです。
「ケータさんは勉強は出来るのですが、好戦的な性格でして」
「随分小柄だし細いのに言動とアレは、まぁ……」
「鍛えてないんですけど、都合が悪くなると今日みたいにすぐ氷柱を出すんです」
その話が本当なら、彼は術に関してきちんと教わっていないのかもしれません。
そのような使い方は同じ術士からは蔑視される事が多いです。
「ウチの坊が養子なのは知ってるすよね?」
「あぁ、実際に会うとマルモワの特徴ないしな。それが何だ?」
「田舎で子供が氷で害獣倒しまくってる噂が首都まで届いたんす。それでちょうどマルモワって術士いないから養子にして囲ったんす」
「ルト、術士の件は」
「ビャンコさんみたいに普通は有名な人いるっしょ、どこの国も。ウチにいないのなんてどこも察してるって」
ハーロルト様の仰るとおり、諸外国では誰かしら有名な術士の名は知られています。
ビャンコ様はグリフォンを従える白い術士として有名ですし、他にも雷を扱う流浪の手品師のマーゴ・フィオリトゥーラ、闇を扱う優しい眠りの魔女としてフレドリカ様……など、国が持つ対抗手段の一つとして有名な方は多くいます。
「確かにマルモワは軍事国家で兵士の質が良いとは聞くが、術士は聞かないな」
「まぁ、その……そうなんですよね、ウチには常駐してる術士はおりません」
「ぶっちゃけオレはわかるなー。マルモワ寒いしね、引っ越すかって聞かれたらオレは悩む」
「お前な……色々言葉がすぎる」
「酒の席の話ってことで聞き流してやる」
確かにマルモワにいる術士は聞いたことがございませんが、兵士が酒の席で他国の防衛のトップを担う騎士団長と話す事ではないように思えます。
「ま、害獣倒しまくってる強い術士だったんで養子になったんすよ」
ギュンター様が深いため息をつき、話を引き継ぎます。
「彼は元々害獣を駆除するのが半ば趣味と言いますか、魔獣の噂が出ればすぐに討伐に向かおうとする癖のようなものがありまして」
「随分と悪趣味だな……」
「国としては助かることも多いので黙認してますが、留学中に行動を起こされるのは問題になりますので……」
「今日みたいにすーぐ氷柱で脅すんすよ。オレら三人には無駄なんでやらないっすよ、いつもは」
「留学の人選ってアレの抑止力か?」
「はい。あの氷柱を破壊できる若い兵士だからです」
学生が来る予定が兵士に変わったのはこういう経緯があったようです、が。
こちらに留学する前にケータ様の癖を治す方が先なのではと思ってしまいます。
イザッコも同じことを考えているのか、少し苦々しいものを見るような目で彼らを見ます。
「氷柱な、俺の家ん中でやったらウチのカミさんに追い出されるからな」
「うっ……姉と団長殿がいる間は出さないと思うので大丈夫かと」
「俺は分かるが、ゾフィも?」
「女性に好かれたくて空回りする傾向がありまして」
「それならむしろ自慢げに出しそうなもんだが」
「昔それで姉に手酷くフラれて……それで学習したのか、女性がいる前ではケータさんは意味無く氷柱を出すような真似はしないと思われます」
なんとも不純な理由と言いますか、もう少しマシな動機であって欲しいものです。
「随分情けない理由だが、氷柱か? モテない理由」
「……言動にも大きく問題はあるかとは思います」
「言動ってか言い回しっすよね? 『闇に溺れた天使』とか『踊り狂い彷徨う』とか。術士ってあんなもんかと思ってたんすけど、ビャンコさんそんな事無いっすよね」
「ビャンコも流石にあそこまで意味のわからんこと言う奴じゃねぇな」
「ま、自画自賛か女の人口説く時だけ言うみたいっすけど」
「姉は確か……狂い咲きのバラとか言われてたような」
「季節外れって事か? そんなこと言って好かれるわけないだろ」
一年中、あるいは寒いマルモワの冬でも咲き誇っていると言いたかったのではないでしょうか?
イザッコが眉間に皺を寄せて何かを考えております。
その内容はどうやら先程の言葉の意味ではなく別の事のようです。
「あと、聞いていいのか悩むんだが」
「? はい」
「あの留学生の化粧は……いや、個人の趣味をどうこう言うつもりもないが……」
「あー言っちゃうすか? じゃああの服も気になるんじゃないすか?」
「なんだアレ、マルモワの流行りって訳でもねぇよな?」
「……俺は着たいとは思いませんね」
私は初日のパレードの新聞の記事で少し拝見したくらいですが、ケータ様は今いる彼らとは違いかなり個性的な服装をなさっておりました。
反射の強い革素材のコートに過剰にベルト装飾が施され、銀色のアクセサリを多く身につけていたのが新聞記事にあった写真からも見てとれました。
確かに強い印象の目元だった記憶はありますが、あれが化粧によるものなのでしょうか?
「髪型とか化粧で毎朝早起きっすよ、すごいっすよねアレ」
「風呂上がりと朝で顔違うからな、何かと思ったぞ最初」
「姉より身支度に時間をかけますが、それが原因で遅刻などはありませんので」
「ダリアが引いてたぞ、『私よりちゃんと化粧してる』って」
「ダリアさん可愛いから化粧なんかいらないっすよ」
「娘はやらんぞ」
「大丈夫っす! そこまで身の程知らずじゃないっすよ、オレもウチの坊も」
「俺より強い奴にしかやらんぞ、増してやあんな化粧する男なんかには絶対にやらん」
ビャンコ様が前に思春期の娘がと仰ってましたが、本当にいらっしゃったようですね。
そんな思春期の女性よりしっかり化粧をなさるケータ様は、大分容姿にこだわりがある方のようです。
色々目を引く方のようですね、この三名で外に飲みに来た理由が少し分かった気がしました。
それから少しして、マルモワからのお客様が二人だけで話始めました。
それを確認してからイザッコは残っていたラムソーダを一気に飲み干し、私に空いたグラスを突き出します。
「おい、ウィスキー。ロックで」
「かしこまりました」
私がイザッコの注文に応じ、彼が好むウィスキーを棚から選びました。
新しいグラスに氷を加えようと、カウンター内の小さな保冷庫から氷を取り出します。
「お前は最近どうなんだ? 怪我の方は治ったのか?」
「特に変わりありません、怪我はまだ治療中です」
「全く軟弱だな、さっさと治せ」
「ご心配ありがとうございます」
私は応えながらウィスキーグラスをイザッコに差し出します。
隙を見ては私に絡むのはやめて欲しいものです。
今は初めてのお客様がいらっしゃいますので皮肉は控えますが、面倒なので怪我が治っていないことにして適当にあしらいます。
まだ何か言いたそうなイザッコを遮り、ハーロルト様が私に話しかけてきました。
「そういえばマスターさん、知ってたら教えて欲しいんすけど」
「はい、何でしょうか?」
「この辺で銀髪で眼光の鋭い……って」
「どうなさいました?」
「もしかして名前キノスさんすか?」
「いえ、私はキーノスと申します」
「! 昔火傷した女の人助けたことありませんか?」
「心当たりがありませんが、いつ頃の事でしょうか?」
「確か五年前です」
「人違いかと思われます、私の名前はオランディで珍しくありませんし」
火傷を負った女性に遭遇したら流石に覚えているかと思います。
ですが、リモワに来てから一度もありません。
「なんだ、人探しか?」
「バーのマスターなら顔広いって思って聞いたんすけど、途中で本人? って思えて」
「俺からも言うが多分違うぞ。コイツは人助けなんぞ早々しねぇよ」
「名前と容姿の特徴、それとここの人としか聞いてなくて。性格とかは詳しく知らないんです」
「俺の推測だが、ビャンコだと思うぞ。アイツの事だから偽名でも使ったんじゃねぇか?」
私もイザッコに同意です、あの人ならやりそうな事です。
「それが本当なら、姉の放蕩癖が治るかもしれません。たまにその方を探しに消えるんですよ」
「今日もギュンターが付き添いだったのもそのせいだしね」
「帰ったらすぐ姉に伝えます、良い情報ありがとうございます!」
「なんか知らんが良かったな」
マルモワのお客様がソワソワしだしたのを察し、イザッコがウィスキーを空けて会計をして帰っていきました。
皆様が思ったよりは早い時刻にお帰りになって良かったです。
イザッコがここへ連れて来たのは、ここの立地条件の悪さと私が知り合いだからだとは思います。
彼らを知った今ならその意図や考えはよくわかる気がしますが、気軽にマルモワの内情を話されるので聞いて良いのか少し不安になってしまいます。
……日付が変わるまであと一時間。
メカブの準備でもしておきましょうか。
マルモワの方はラムがお好きのようです。
引き続き例の留学生に関してのお話をなさっているようです。
「ケータさんは勉強は出来るのですが、好戦的な性格でして」
「随分小柄だし細いのに言動とアレは、まぁ……」
「鍛えてないんですけど、都合が悪くなると今日みたいにすぐ氷柱を出すんです」
その話が本当なら、彼は術に関してきちんと教わっていないのかもしれません。
そのような使い方は同じ術士からは蔑視される事が多いです。
「ウチの坊が養子なのは知ってるすよね?」
「あぁ、実際に会うとマルモワの特徴ないしな。それが何だ?」
「田舎で子供が氷で害獣倒しまくってる噂が首都まで届いたんす。それでちょうどマルモワって術士いないから養子にして囲ったんす」
「ルト、術士の件は」
「ビャンコさんみたいに普通は有名な人いるっしょ、どこの国も。ウチにいないのなんてどこも察してるって」
ハーロルト様の仰るとおり、諸外国では誰かしら有名な術士の名は知られています。
ビャンコ様はグリフォンを従える白い術士として有名ですし、他にも雷を扱う流浪の手品師のマーゴ・フィオリトゥーラ、闇を扱う優しい眠りの魔女としてフレドリカ様……など、国が持つ対抗手段の一つとして有名な方は多くいます。
「確かにマルモワは軍事国家で兵士の質が良いとは聞くが、術士は聞かないな」
「まぁ、その……そうなんですよね、ウチには常駐してる術士はおりません」
「ぶっちゃけオレはわかるなー。マルモワ寒いしね、引っ越すかって聞かれたらオレは悩む」
「お前な……色々言葉がすぎる」
「酒の席の話ってことで聞き流してやる」
確かにマルモワにいる術士は聞いたことがございませんが、兵士が酒の席で他国の防衛のトップを担う騎士団長と話す事ではないように思えます。
「ま、害獣倒しまくってる強い術士だったんで養子になったんすよ」
ギュンター様が深いため息をつき、話を引き継ぎます。
「彼は元々害獣を駆除するのが半ば趣味と言いますか、魔獣の噂が出ればすぐに討伐に向かおうとする癖のようなものがありまして」
「随分と悪趣味だな……」
「国としては助かることも多いので黙認してますが、留学中に行動を起こされるのは問題になりますので……」
「今日みたいにすーぐ氷柱で脅すんすよ。オレら三人には無駄なんでやらないっすよ、いつもは」
「留学の人選ってアレの抑止力か?」
「はい。あの氷柱を破壊できる若い兵士だからです」
学生が来る予定が兵士に変わったのはこういう経緯があったようです、が。
こちらに留学する前にケータ様の癖を治す方が先なのではと思ってしまいます。
イザッコも同じことを考えているのか、少し苦々しいものを見るような目で彼らを見ます。
「氷柱な、俺の家ん中でやったらウチのカミさんに追い出されるからな」
「うっ……姉と団長殿がいる間は出さないと思うので大丈夫かと」
「俺は分かるが、ゾフィも?」
「女性に好かれたくて空回りする傾向がありまして」
「それならむしろ自慢げに出しそうなもんだが」
「昔それで姉に手酷くフラれて……それで学習したのか、女性がいる前ではケータさんは意味無く氷柱を出すような真似はしないと思われます」
なんとも不純な理由と言いますか、もう少しマシな動機であって欲しいものです。
「随分情けない理由だが、氷柱か? モテない理由」
「……言動にも大きく問題はあるかとは思います」
「言動ってか言い回しっすよね? 『闇に溺れた天使』とか『踊り狂い彷徨う』とか。術士ってあんなもんかと思ってたんすけど、ビャンコさんそんな事無いっすよね」
「ビャンコも流石にあそこまで意味のわからんこと言う奴じゃねぇな」
「ま、自画自賛か女の人口説く時だけ言うみたいっすけど」
「姉は確か……狂い咲きのバラとか言われてたような」
「季節外れって事か? そんなこと言って好かれるわけないだろ」
一年中、あるいは寒いマルモワの冬でも咲き誇っていると言いたかったのではないでしょうか?
イザッコが眉間に皺を寄せて何かを考えております。
その内容はどうやら先程の言葉の意味ではなく別の事のようです。
「あと、聞いていいのか悩むんだが」
「? はい」
「あの留学生の化粧は……いや、個人の趣味をどうこう言うつもりもないが……」
「あー言っちゃうすか? じゃああの服も気になるんじゃないすか?」
「なんだアレ、マルモワの流行りって訳でもねぇよな?」
「……俺は着たいとは思いませんね」
私は初日のパレードの新聞の記事で少し拝見したくらいですが、ケータ様は今いる彼らとは違いかなり個性的な服装をなさっておりました。
反射の強い革素材のコートに過剰にベルト装飾が施され、銀色のアクセサリを多く身につけていたのが新聞記事にあった写真からも見てとれました。
確かに強い印象の目元だった記憶はありますが、あれが化粧によるものなのでしょうか?
「髪型とか化粧で毎朝早起きっすよ、すごいっすよねアレ」
「風呂上がりと朝で顔違うからな、何かと思ったぞ最初」
「姉より身支度に時間をかけますが、それが原因で遅刻などはありませんので」
「ダリアが引いてたぞ、『私よりちゃんと化粧してる』って」
「ダリアさん可愛いから化粧なんかいらないっすよ」
「娘はやらんぞ」
「大丈夫っす! そこまで身の程知らずじゃないっすよ、オレもウチの坊も」
「俺より強い奴にしかやらんぞ、増してやあんな化粧する男なんかには絶対にやらん」
ビャンコ様が前に思春期の娘がと仰ってましたが、本当にいらっしゃったようですね。
そんな思春期の女性よりしっかり化粧をなさるケータ様は、大分容姿にこだわりがある方のようです。
色々目を引く方のようですね、この三名で外に飲みに来た理由が少し分かった気がしました。
それから少しして、マルモワからのお客様が二人だけで話始めました。
それを確認してからイザッコは残っていたラムソーダを一気に飲み干し、私に空いたグラスを突き出します。
「おい、ウィスキー。ロックで」
「かしこまりました」
私がイザッコの注文に応じ、彼が好むウィスキーを棚から選びました。
新しいグラスに氷を加えようと、カウンター内の小さな保冷庫から氷を取り出します。
「お前は最近どうなんだ? 怪我の方は治ったのか?」
「特に変わりありません、怪我はまだ治療中です」
「全く軟弱だな、さっさと治せ」
「ご心配ありがとうございます」
私は応えながらウィスキーグラスをイザッコに差し出します。
隙を見ては私に絡むのはやめて欲しいものです。
今は初めてのお客様がいらっしゃいますので皮肉は控えますが、面倒なので怪我が治っていないことにして適当にあしらいます。
まだ何か言いたそうなイザッコを遮り、ハーロルト様が私に話しかけてきました。
「そういえばマスターさん、知ってたら教えて欲しいんすけど」
「はい、何でしょうか?」
「この辺で銀髪で眼光の鋭い……って」
「どうなさいました?」
「もしかして名前キノスさんすか?」
「いえ、私はキーノスと申します」
「! 昔火傷した女の人助けたことありませんか?」
「心当たりがありませんが、いつ頃の事でしょうか?」
「確か五年前です」
「人違いかと思われます、私の名前はオランディで珍しくありませんし」
火傷を負った女性に遭遇したら流石に覚えているかと思います。
ですが、リモワに来てから一度もありません。
「なんだ、人探しか?」
「バーのマスターなら顔広いって思って聞いたんすけど、途中で本人? って思えて」
「俺からも言うが多分違うぞ。コイツは人助けなんぞ早々しねぇよ」
「名前と容姿の特徴、それとここの人としか聞いてなくて。性格とかは詳しく知らないんです」
「俺の推測だが、ビャンコだと思うぞ。アイツの事だから偽名でも使ったんじゃねぇか?」
私もイザッコに同意です、あの人ならやりそうな事です。
「それが本当なら、姉の放蕩癖が治るかもしれません。たまにその方を探しに消えるんですよ」
「今日もギュンターが付き添いだったのもそのせいだしね」
「帰ったらすぐ姉に伝えます、良い情報ありがとうございます!」
「なんか知らんが良かったな」
マルモワのお客様がソワソワしだしたのを察し、イザッコがウィスキーを空けて会計をして帰っていきました。
皆様が思ったよりは早い時刻にお帰りになって良かったです。
イザッコがここへ連れて来たのは、ここの立地条件の悪さと私が知り合いだからだとは思います。
彼らを知った今ならその意図や考えはよくわかる気がしますが、気軽にマルモワの内情を話されるので聞いて良いのか少し不安になってしまいます。
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