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凍る道化の恋物語
#11
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少し気まずい空気になったのを解消しようと、ミケーノ様がレイシュをご注文なさいました。
今年に入って初めてモウカハナでレイシュをお出ししました。
そろそろヒヤヤッコの用意もした方が良さそうです。
「なんか変な空気になっちゃったし、さっきの模擬戦の話聞いてもらっても良い?」
「それ言っちゃダメなんだろ?」
「そうなんだけどさ、もう手品師の話知られちゃったし。本音を言えば僕が話したい」
「別にオレは構わねぇけど、キーノスは?」
「……良いとは言い難いですね」
他ならぬ私は快諾する訳にはいきません、他の話題なら大体は許容いたしますが。
「なんだ珍しいな、別に良いんじゃねぇの?」
「先程のギュンター様の様子を考えると、聞いて良いものか悩んでしまいまして」
「へぇ、お前もそんな事気にすんだな」
やはりここで話を止めるのは私らしい振る舞いではないと、私も思います。
「……この場だけ、という前提なら」
「うん、そうだよな!」
ミケーノ様なら大丈夫だろうとカズロ様はお考えなのでしょう。
ここで私が変に止めても違和感が増すばかりです。
「キーノスの気遣いは嬉しいけど、庁舎の関係者の間だともう有名でね。あの日は中庭に手品師がいるって昼前から庁舎で噂になってたんだよ」
「中庭って、じゃあ職員以外も知ってるやついたんじゃねぇの?」
「……と思うよ。しかもビャンコさんに食堂に連れてかれたらしいから、すごく目立ってたと思うし」
「箝口令って手品師が理由って言ったよな?」
「うん、中庭と食堂みたいな人が多い場所にいたのに箝口令も何も……って思ってたんだよね」
あの時はマルモワの兵士たちが術士を探している事を知りませんでしたから、あの格好だけなら私と気付かれないと考えてました。
イザッコもそこまで真面目に箝口令を出さなかったようですね。
「いつもは騎士団の演習は見ないんだけど、あの日は留学生が出るからみんな気になってて。しかも中庭に手品師がいた訳でしょ? 昼休み前から盛り上がってたよ」
「その手品師って、そんなに目立つのか?」
「目立つっていうか有名だからね。マーゴ・フィオリトゥーラって知ってる?」
名前を聞いたミケーノ様が咳き込みます。
「フィオリトゥーラ!? 嘘だろ!?」
「たまたまリモワに遊びに来てたみたいで……ミケーノ、ファンだったの?」
「ファンってか、超有名人じゃねぇか!」
「実物は割と地味だったよ、仮面以外は」
「見たのか? その模擬戦」
「見た見た、もう誰か自慢したくて。すごかったよ……指を鳴らすと花が咲いて、その度に会場が湧いてたね」
「花? 騎士団の模擬戦だよな?」
「騎士団長が花まみれになったり、大量の氷が拍手一つで花になったり」
「へぇ、なんか花ばっかだな」
「そうかもね。最初と最後はカラスだけど、花がパァって広がるのが綺麗だったなぁ」
「指を鳴らすと花が、ねぇ……」
ミケーノ様がこちらを見るのが分かります。
「たまたま遊びに来てた手品師が模擬戦、か。随分と都合よくいたもんだな」
私は目を合わせないよう、視線をミケーノ様からずらします。
「キーノスは知ってるか? マーゴ・フィオリトゥーラって手品師」
「……はい」
「そうだよね、有名人だし」
カズロ様がレイシュを一口飲んで、視線をグラスに向けます。
「留学生の彼が変わったのも分かる気がするよ。あれは完全に手品師のショーにだったよ」
「留学生も災難だったんだな」
「僕からすると、仕事の合間に有名人の手品が見れたわけで。ネストレに言われて昼休みずらして良かったよ」
「だってよキーノス」
「左様ですか」
「あれ、キーノスは興味無い? 手品とか」
「いえ……」
ミケーノ様が笑顔でこちらを見ていますが、からかう雰囲気を感じ取るのは邪推でしょうか。
気付かれてますよね、これは。
正直にこのお二人に話しても、不都合はないでしょう。
知られない方が良いに決まってますが、イザッコやビャンコ様のように利用しようとはなさらないでしょう。
他言するような人達ではないのは、私が術士と知られていない事からも証明されています。
「……悩ましいですね」
「え、何が?」
「……困る事ではないのですが」
「ごめん、何か気に障ること言ったかな?」
「気にすんな、言ってるのはオレだから」
ミケーノ様が気付かなかったら当たり障りなく躱すつもりでした。
ただ、正体を知っているのが喜んでいるカズロ様ではないこの状況に、私が後ろめたさを感じています。
……自分に言い繕っても仕方ありません。
ただ私がこの後ろめたさを解消するために、言ってしまいたいだけです。
「……ミケーノ様はもう察しがついてますよね?」
「まぁな。リモワにいる指を鳴らして花を咲かす術士なんて言われりゃな」
「え、二人とも誰か知ってんの!?」
「カズロ様には直接お見せした事がありませんでしたね」
私は背後の棚から未使用のショートグラスを取り出し、カウンターに置きます。
左手の指を鳴らし、グラスの中に氷のバラを出現させました。
術士流の自己紹介を一応させていただきます。
「事の経緯をお話させていただいても良いでしょうか? その上で胸の内に秘めていただけるとありがたいなどと、おこがましい要求だとは思いますが」
「是非聞かせてくれ!」
カズロ様が呆気にとられていますが、当日私が鳩を発見してから模擬戦終了までの事を簡単に説明しました。
「やむを得なかったと言いますか、世間で知られてる有名な手品師が私でもないのです」
グラスの中のバラが少し溶けてきています。
「……話はだいたい分かったけど、一応確認しても?」
ずっと黙って聞いて下さっていたカズロ様が口を開きました。
「演習場で見た手品師は、キーノスなんだね?」
「はい、あれは私です。本物のマーゴ・フィオリトゥーラではなく申し訳ありません」
「オレも見たかったな、色んな意味で」
「……師匠の公演予定を調べてください」
「氷柱を全部避けてたね、あれも術?」
「いいえ」
「つまり、普通に避けていただけ?」
「はい」
「ん? 花以外になんかあったのか?」
「飛んでくる二メートル近くある大量の氷柱を全部無傷で避けてたんだ」
「は、なんだそりゃ」
カズロ様が眉間のシワをほぐして伸ばそうとしますが、全く伸びていません。
「……よく分かった、マルモワの兵士に知られない方が良いね。もしかしてさっきはカマかけなの?」
「その可能性も考えてます」
「バレちゃまずそうなのは分かるが、そんなにやばいのか?」
「軍事国家が手品師の正体探ってるんだろうね。あわよくば連れ帰るつもりかもね」
「えっ、キーノス、マルモワに行っちまうのか?」
「今の生活を崩すつもりは全くありません」
「はぁ、なら良かった……」
「ギュンター君はどうしてここに? ここって簡単には見つからないよね」
「騎士団長が息抜きにと連れてきたのがきっかけです」
「なるほど、知り合いの店なら安心という訳か」
カズロ様の眉間のシワが伸びることも無く、そのまま目を閉じて腕を組んで考え込んでしまいました。
「情報収集にきてる印象はあったけどよ……おっかねぇな」
「軽率にお話ししてしまい申し訳ありません」
「キーノスが気にするとこじゃねぇだろ。お前大変だな、あいつ最近よく来るみたいだし」
「今のところ探られているだけで、それほど問題にはなっておりません」
店単位で見れば、です。
実際に彼らがマルモワの言葉で会話してる内容を聞くとその単位では収まらない内容も多いですが。
ミケーノ様が小さくため息をついた時、カズロ様の目が開きました。
「うん、ネストレが良い」
「え、なんだよ急に」
「キーノスが手品師という疑惑を解いて、尚且つ彼らの動向が追いやすくするなら、騎士団の中に囮をたてれば良い。あの氷柱を軽く回避出き、あの手品師の正体で違和感がなく、探っても何も出ない騎士ならネストレが良い」
「いやいや、無理だろ。術士じゃねぇんだろ?」
「本当に術士かどうかは問題じゃないんだよ、むしろ違う方が無駄な努力が増えるから好条件だ」
「だとしても、どうやって……」
「簡単だよ、ギュンター君がここに来た時に僕らがそれらしい話をすれば良いんだよ」
「オレそんな演技力自信ないぞ?」
「僕らはただネストレの話をしてれば良い」
「ネストレさんの事、オレはランキングの事くらいしか知らねぇぞ」
「あと一人、模擬戦の噂だけでも既に知ってそうな人がいれば……」
カズロ様の中で何か計画が形成されているようです。
今のところ、ここで何か噂話をするようですが……。
「それなら、シオ辺りなら知ってそうだが」
「確かに良さそうだね。後は上手く居合わせるためにどうするか」
「そんなに上手くいくのか?」
「ネストレなら無い腹を探られても笑うだけだと思うよ」
ここまで話すと、カズロ様がこちらを何かを期待する目で見ます。
「彼らの疑惑晴らす協力するから、もう一回見せてほしい……その、花を」
「そのくらいでしたら構いません」
私は先程のショートグラスに水を注ぎ、小さく指を鳴らします。
水が緩やかな螺旋を描いて上昇し、そのまま広がるように鳩へ形状を変化させ店内を飛び回ります。
「すごい、こんな近くで!」
「何度見ても見事なもんだなぁ……」
「ミケーノ、何回も見たことあったの?」
「あぁ、だから手品師の正体気づいたんだよ。カーラも知ってるが、アイツをさっきの作戦に参加させるのは無理だと思うぞ。性格的に」
「二人して……」
私は水を再びグラス内に移しました。
カズロ様の言う作戦はよく分からないのですが、どんな物なのか興味があります。
それに、お気遣い頂けたことを純粋に嬉しく思います。
こんな手品で喜んで頂けるなら、先程お話した価値はあったようです。
今年に入って初めてモウカハナでレイシュをお出ししました。
そろそろヒヤヤッコの用意もした方が良さそうです。
「なんか変な空気になっちゃったし、さっきの模擬戦の話聞いてもらっても良い?」
「それ言っちゃダメなんだろ?」
「そうなんだけどさ、もう手品師の話知られちゃったし。本音を言えば僕が話したい」
「別にオレは構わねぇけど、キーノスは?」
「……良いとは言い難いですね」
他ならぬ私は快諾する訳にはいきません、他の話題なら大体は許容いたしますが。
「なんだ珍しいな、別に良いんじゃねぇの?」
「先程のギュンター様の様子を考えると、聞いて良いものか悩んでしまいまして」
「へぇ、お前もそんな事気にすんだな」
やはりここで話を止めるのは私らしい振る舞いではないと、私も思います。
「……この場だけ、という前提なら」
「うん、そうだよな!」
ミケーノ様なら大丈夫だろうとカズロ様はお考えなのでしょう。
ここで私が変に止めても違和感が増すばかりです。
「キーノスの気遣いは嬉しいけど、庁舎の関係者の間だともう有名でね。あの日は中庭に手品師がいるって昼前から庁舎で噂になってたんだよ」
「中庭って、じゃあ職員以外も知ってるやついたんじゃねぇの?」
「……と思うよ。しかもビャンコさんに食堂に連れてかれたらしいから、すごく目立ってたと思うし」
「箝口令って手品師が理由って言ったよな?」
「うん、中庭と食堂みたいな人が多い場所にいたのに箝口令も何も……って思ってたんだよね」
あの時はマルモワの兵士たちが術士を探している事を知りませんでしたから、あの格好だけなら私と気付かれないと考えてました。
イザッコもそこまで真面目に箝口令を出さなかったようですね。
「いつもは騎士団の演習は見ないんだけど、あの日は留学生が出るからみんな気になってて。しかも中庭に手品師がいた訳でしょ? 昼休み前から盛り上がってたよ」
「その手品師って、そんなに目立つのか?」
「目立つっていうか有名だからね。マーゴ・フィオリトゥーラって知ってる?」
名前を聞いたミケーノ様が咳き込みます。
「フィオリトゥーラ!? 嘘だろ!?」
「たまたまリモワに遊びに来てたみたいで……ミケーノ、ファンだったの?」
「ファンってか、超有名人じゃねぇか!」
「実物は割と地味だったよ、仮面以外は」
「見たのか? その模擬戦」
「見た見た、もう誰か自慢したくて。すごかったよ……指を鳴らすと花が咲いて、その度に会場が湧いてたね」
「花? 騎士団の模擬戦だよな?」
「騎士団長が花まみれになったり、大量の氷が拍手一つで花になったり」
「へぇ、なんか花ばっかだな」
「そうかもね。最初と最後はカラスだけど、花がパァって広がるのが綺麗だったなぁ」
「指を鳴らすと花が、ねぇ……」
ミケーノ様がこちらを見るのが分かります。
「たまたま遊びに来てた手品師が模擬戦、か。随分と都合よくいたもんだな」
私は目を合わせないよう、視線をミケーノ様からずらします。
「キーノスは知ってるか? マーゴ・フィオリトゥーラって手品師」
「……はい」
「そうだよね、有名人だし」
カズロ様がレイシュを一口飲んで、視線をグラスに向けます。
「留学生の彼が変わったのも分かる気がするよ。あれは完全に手品師のショーにだったよ」
「留学生も災難だったんだな」
「僕からすると、仕事の合間に有名人の手品が見れたわけで。ネストレに言われて昼休みずらして良かったよ」
「だってよキーノス」
「左様ですか」
「あれ、キーノスは興味無い? 手品とか」
「いえ……」
ミケーノ様が笑顔でこちらを見ていますが、からかう雰囲気を感じ取るのは邪推でしょうか。
気付かれてますよね、これは。
正直にこのお二人に話しても、不都合はないでしょう。
知られない方が良いに決まってますが、イザッコやビャンコ様のように利用しようとはなさらないでしょう。
他言するような人達ではないのは、私が術士と知られていない事からも証明されています。
「……悩ましいですね」
「え、何が?」
「……困る事ではないのですが」
「ごめん、何か気に障ること言ったかな?」
「気にすんな、言ってるのはオレだから」
ミケーノ様が気付かなかったら当たり障りなく躱すつもりでした。
ただ、正体を知っているのが喜んでいるカズロ様ではないこの状況に、私が後ろめたさを感じています。
……自分に言い繕っても仕方ありません。
ただ私がこの後ろめたさを解消するために、言ってしまいたいだけです。
「……ミケーノ様はもう察しがついてますよね?」
「まぁな。リモワにいる指を鳴らして花を咲かす術士なんて言われりゃな」
「え、二人とも誰か知ってんの!?」
「カズロ様には直接お見せした事がありませんでしたね」
私は背後の棚から未使用のショートグラスを取り出し、カウンターに置きます。
左手の指を鳴らし、グラスの中に氷のバラを出現させました。
術士流の自己紹介を一応させていただきます。
「事の経緯をお話させていただいても良いでしょうか? その上で胸の内に秘めていただけるとありがたいなどと、おこがましい要求だとは思いますが」
「是非聞かせてくれ!」
カズロ様が呆気にとられていますが、当日私が鳩を発見してから模擬戦終了までの事を簡単に説明しました。
「やむを得なかったと言いますか、世間で知られてる有名な手品師が私でもないのです」
グラスの中のバラが少し溶けてきています。
「……話はだいたい分かったけど、一応確認しても?」
ずっと黙って聞いて下さっていたカズロ様が口を開きました。
「演習場で見た手品師は、キーノスなんだね?」
「はい、あれは私です。本物のマーゴ・フィオリトゥーラではなく申し訳ありません」
「オレも見たかったな、色んな意味で」
「……師匠の公演予定を調べてください」
「氷柱を全部避けてたね、あれも術?」
「いいえ」
「つまり、普通に避けていただけ?」
「はい」
「ん? 花以外になんかあったのか?」
「飛んでくる二メートル近くある大量の氷柱を全部無傷で避けてたんだ」
「は、なんだそりゃ」
カズロ様が眉間のシワをほぐして伸ばそうとしますが、全く伸びていません。
「……よく分かった、マルモワの兵士に知られない方が良いね。もしかしてさっきはカマかけなの?」
「その可能性も考えてます」
「バレちゃまずそうなのは分かるが、そんなにやばいのか?」
「軍事国家が手品師の正体探ってるんだろうね。あわよくば連れ帰るつもりかもね」
「えっ、キーノス、マルモワに行っちまうのか?」
「今の生活を崩すつもりは全くありません」
「はぁ、なら良かった……」
「ギュンター君はどうしてここに? ここって簡単には見つからないよね」
「騎士団長が息抜きにと連れてきたのがきっかけです」
「なるほど、知り合いの店なら安心という訳か」
カズロ様の眉間のシワが伸びることも無く、そのまま目を閉じて腕を組んで考え込んでしまいました。
「情報収集にきてる印象はあったけどよ……おっかねぇな」
「軽率にお話ししてしまい申し訳ありません」
「キーノスが気にするとこじゃねぇだろ。お前大変だな、あいつ最近よく来るみたいだし」
「今のところ探られているだけで、それほど問題にはなっておりません」
店単位で見れば、です。
実際に彼らがマルモワの言葉で会話してる内容を聞くとその単位では収まらない内容も多いですが。
ミケーノ様が小さくため息をついた時、カズロ様の目が開きました。
「うん、ネストレが良い」
「え、なんだよ急に」
「キーノスが手品師という疑惑を解いて、尚且つ彼らの動向が追いやすくするなら、騎士団の中に囮をたてれば良い。あの氷柱を軽く回避出き、あの手品師の正体で違和感がなく、探っても何も出ない騎士ならネストレが良い」
「いやいや、無理だろ。術士じゃねぇんだろ?」
「本当に術士かどうかは問題じゃないんだよ、むしろ違う方が無駄な努力が増えるから好条件だ」
「だとしても、どうやって……」
「簡単だよ、ギュンター君がここに来た時に僕らがそれらしい話をすれば良いんだよ」
「オレそんな演技力自信ないぞ?」
「僕らはただネストレの話をしてれば良い」
「ネストレさんの事、オレはランキングの事くらいしか知らねぇぞ」
「あと一人、模擬戦の噂だけでも既に知ってそうな人がいれば……」
カズロ様の中で何か計画が形成されているようです。
今のところ、ここで何か噂話をするようですが……。
「それなら、シオ辺りなら知ってそうだが」
「確かに良さそうだね。後は上手く居合わせるためにどうするか」
「そんなに上手くいくのか?」
「ネストレなら無い腹を探られても笑うだけだと思うよ」
ここまで話すと、カズロ様がこちらを何かを期待する目で見ます。
「彼らの疑惑晴らす協力するから、もう一回見せてほしい……その、花を」
「そのくらいでしたら構いません」
私は先程のショートグラスに水を注ぎ、小さく指を鳴らします。
水が緩やかな螺旋を描いて上昇し、そのまま広がるように鳩へ形状を変化させ店内を飛び回ります。
「すごい、こんな近くで!」
「何度見ても見事なもんだなぁ……」
「ミケーノ、何回も見たことあったの?」
「あぁ、だから手品師の正体気づいたんだよ。カーラも知ってるが、アイツをさっきの作戦に参加させるのは無理だと思うぞ。性格的に」
「二人して……」
私は水を再びグラス内に移しました。
カズロ様の言う作戦はよく分からないのですが、どんな物なのか興味があります。
それに、お気遣い頂けたことを純粋に嬉しく思います。
こんな手品で喜んで頂けるなら、先程お話した価値はあったようです。
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