王都のモウカハナは夜に咲く

咲村門

文字の大きさ
66 / 185
夏の湖畔と惨劇の館

#6

しおりを挟む
 ビャンコ様が晩酌に参加してからしばらく、料理にも満足して今は各々好きなお酒を飲みながらババ抜きジョリ・ジョーコをしております。
 私はトランプカルテの遊びが比較的得意なためか、先程から勝ち続けています。
 それが面白くないビャンコ様が私の動揺を誘おうとしています。

「キーちゃんは不意打ちと押しに弱いよ」
「人が良いですからね」
「それだけ聞くとビャンコさんが悪いヤツに聞こえるな」

 私は隣のシオ様から手札を取ります。
 スペードピッケの七、手札が揃ったので場に出します。

「んな、術禁止でしょ?」
「使ってない」
「なんで揃うの?」
「揃うからだ」

 不満そうなビャンコ様を無視してミケーノ様へ手札を向けます。
 今度はミケーノ様が私から手札をとる番です。

「うーん……顔色読めねぇんだよなぁ」
「一枚はジョーカージョリだ」
「まじかよ」

 ミケーノ様は勘が良いのですよね。
 手札のジョーカージョリを引かせるには一筋縄ではいかなそうです。

「よく俺に聞くが、ミケーノさんは恋人はいるのか?」
「オレは一度離縁してるからな、しばらくいらねぇな」
「離縁?」
「嫁さんに浮気されて出てかれて、向かねぇんだろうなぁ……」

 知らなかったとはいえ、失礼なことを聞いてしまったようです。

「すまない、辛いことを聞いた」
「気にすんな、今じゃ笑い話だからな」

 私の差出した手札を見ながら、笑って手を鷹揚に振ります。
 それから私の手札から一枚を取りました。

「お、揃った!」

 ミケーノ様がペアでそろった手札を場に出します。
 そのままメル様が引く順番になります。

「ミケーノの場合、離縁した後が大変でしたからね」
「何があったんですか?」
「嫁さんが売上持ってっちまってな、仕事増やすか悩んでた時いつもより客が来てくれて……あの時は助かったなぁ、本当に」
「女の人がたくさん通ったんですよ、私はダシによく使われました」
「シオとはその頃知り合ったんだよな」
「そうですね、私達も長い付き合いですね」

 そう言えば、お二人は初めてモウカハナにご来店された時からお知り合いでしたね。

 メル様はカードを引き、一度手札をシャッフルさせてからビャンコ様へカードを差し出します。

「はい、どうぞ!」
「んんー、これかな?」

 カードの一枚に手を触れます。

「さぁ、どうでしょうか?」

 メル様が得意げに笑って見せます。
 ビャンコ様は少し迷った後で、手を触れたものの隣の手札を引きます。
 どうやら揃わなかったようで、そのまま手札をシオ様へ向けます。
 シオ様は横目で私をちらりと見てから、ビャンコ様のカードに注目します。

「そういえば、どうしてキーノスは寝室の部屋割りであなたとの同室を拒んだんですか?」
「そういやなんでだろ? お泊まり会した事あんのに」
「なるほど、知らないんですね」

 シオ様が手札を引き、揃った手札を場に出します。
 ビャンコ様に微笑みで答え、私の方へ手札を向けます。

「理由を聞いてもよいですか?」

 そう言って私の方へ笑顔を向けます。
 答えても良いのですが、また部屋割りで揉めるのは正直避けたいです。

「……ご想像にお任せします」

 私は手札を引きます。
 クラブスートの二です、揃ったので場に出します。
 残る手札は一枚だけです。

「おい、なんでいきなり敬語になった?」
「どうぞ」
「待て待て、気になるぞ?」
「本人に聞けば良い」

 ミケーノ様は困惑した表情で私の最後の手札のジョーカージョリを引きます。
 私はこのゲームでは一抜けしましたが、夜中のババ抜きジョリ・ジョーコはもう少し続きそうです。


 夜も深け、メル様、シオ様……と眠気を我慢出来なくなった方から順に離脱していきました。
 残りの三人で食器類を片付け、場をお開きにすることにしました。

「ミケーノさん、さっきはすまなかった」
「離縁の話か?」
「それもだが、寝室の割り振りを代わってくれて」
「? 別にどっちでも俺はかまわねぇよ。じゃ、おやすみキーノス」
「……おやすみなさいませ。何かありましたら隣の寝室へいらしてください」
「……なんだよ急に。明日も敬語なしでな」

 部屋割りは私、メル様、シオ様で三人部屋、ミケーノ様とビャンコ様が二人部屋です。
 最初は私とビャンコ様が親しいから同室にする話もありましたがお断りしました。
 先に寝てしまえば問題ないのですが、夜型の私には難しいかと思います。
 ミケーノ様には申し訳ないですが、何事もない事をお祈りしておきます。

​───────

 二人部屋の二人はベッドに潜り込んだものの、二人ともまだ眠くないのかそのまま雑談をしている。

「ビャンコさんて寝相でも悪いのか? いやそんな事ねぇか……」
「あーさっきの? なんでだろうね」
「心当たりないのか?」
「あったら一階にしてもらうよう頼むよ」
「だよなぁ。前にモウカハナ泊まった時何も無かったし、オレが寝てる間に何かあったのか?」
「あん時はオレが最初に寝てミケさん先に起きてたし、ホントなんだろうね」

 ふと何かを思い出したのか、ビャンコが寝返りをうちミケーノの方へ向く。

「ところでさ、なんで年末にキーちゃん飲み会に誘ったの?」
「あーあれなぁ」

 ミケーノが前髪をかきあげながら答える。

「リモワの飲食店ってなんかしら繋がりあるんだけどよ、モウカハナだけはそれがなくてな。別に誘ったのはあれが初めてじゃないぞ、前から声は掛けてた」
「じゃあたまたま?」
「そうなるかな、まぁ途中で帰りそうだから色々用意はしたけどな」
「……なるほどね」

 ミケーノから視線を外し、何かを思案しているようだ。

「気になることならオレもあるぞ」
「なーに?」
「アイツ、なんでバリスタやってんだ? ……色々おかしいだろ」
「オレもそう思う」
「森入って少ししたら鳥じゃなくてイノシシ担いで帰ってくるとか、騎士団のが向いてんじゃねぇか?」
「だよねー」
「誘わないのか?」
「誘ってるよずーっと。前にリモワ出てきそうになってからはやめたけど」

 最近また誘ったら久しぶりに本気で怒らせたのは黙っておく。

「色々あったんだな」
「あったねぇ、すんごく進歩したんよアレで」
「最近まで自分の話しなかったから、まぁ……」
「普通に誰かと話すだけでもすごいんよ、ホント」
「うーん……なんだかなぁ」
「あれよ? 自分が気持ち悪いっての、本気だからね」
「それはねーだろ」
「あるんだよねぇ。前に喫茶店に変装して入ったらすんごい笑顔で『この対応が良いんです、やっぱりこの顔が気持ち悪かったんですね』とか言うんよ?」
「いや、えー……」
「それから『見たくないほどでもないみたいだし』みたいな謎の結論出して少しずつ外に出るようになったっつーか」
「意味がわからん……」

 ミケーノの様子を見て、ビャンコがクスクスと笑う。

「明日何する?」
「そうだなぁ、野外で焼肉でもするか」
「良いね、キーちゃんのイノシシあるし!」
「あとは、この辺ってなんか無いか? 遺跡とかそういう何か」
「寺院があるよ、エテルノ教の」
「悪くねぇな、朝にでも聞いてみるか」

 ミケーノは布団に入り直す。

「ミケさんは優しいね」
「そうか? 普通だぞ」
「オレよりキーちゃんに構おうとする人初めて見たわ」
「なんかなぁ、アイツ知らねぇ間にいなくなりそうな気しねぇか?」
「……そうだね」
「やなんだよな、そういうの。オレ嫁にやられてるから」
「あー、実体験か」
「当然いると思ってた奴がいきなり居なくなるのって、結構くるぞ」
「……うん」
「単純に面白いからってのもあるけどな……寝るか、そろそろ」
「……そだね、おやすみミケさん」

 このままなら元に戻るかもなぁ、などと思いながらビャンコが眠りに落ちる。
 その一時間もしないうちにミケーノはキーノスの言葉の意味を理解して、隣の部屋に逃げ込む事になる。

​───────

 寝室のドアから、控えめではありますが緊急性を感じるノックが聞こえてきます。
 ドアに一番近い位置にいたシオ様が目を覚ましてしまわれました。
 私は口元に人差し指をあて、シオ様にそのままでいるようにお願いします。

 サイドテーブルに置いていた灯りを手にドアへ歩み寄ります。
 ドアを開けると、案の定青い顔をしたミケーノ様が立ってらっしゃいました。

「リビングに行くか?」
「……悪い」
「何かありました? リビングに行くなら私も一緒に行きますよ」

 シオ様もベッドから降りドアの前までいらっしゃってます。
 三人で一階のリビングへ向かい、スタンドライトを灯してからソファに腰掛けました。
 少し落ち着いてから、ミケーノ様が話し始めました。

「ウトウトしてたらよ、隣からずっと何かと話してる声して……寝言かと思ったら段々『許さない』とか『どこだ、返せ』とか、ビャンコさんじゃない声で言い出して……」
「例の幽霊の声だろう」
「お前知ってたな……」
「前に見た」
「言えよ」
「必ず起きるわけではない」
「とりあえずビャンコさん起こしますか?」
「いやいい、寝れそうもないしここにいるわ」
「俺も夜型生活で寝れそうもないから付き合う」
「分かりました。では明日にもう一部屋の寝室の用意をしますので、ビャンコさんにはそちらを使って頂きましょう」

 その後紅茶を入れ、三人で少し話しておりましたが。
 気分が落ち着いたのか、ミケーノ様はソファで眠ってしまわれました。
 シオ様はそれを確認してから寝室へ戻られ、私はそのままリビングで手記を読むことにしました。

 外の空が白み始めて来た頃、私の元にも睡魔が訪れました。
 ミケーノ様を起こさないように静かに寝室へ移動し、私もベッドで眠ることにしました。
 皆様が起きてくるのはもう少し遅い時間でしょう。
 眠りの浅い私なら同じくらいの時刻に目を覚ますだろうと考え、そのまま眠りに落ちていきました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...