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花を愛する残暑の雷鳴
#7
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師匠がマルモワの小隊を母国へ送ったらしいその後、私は霧雨の中何も無い平地に一人取り残されました。
師匠は女性を拘束していた部屋に転移で移動しましたが、私を一緒に連れて行きませんでした。
問題は、ここは今大きな落雷があった現場です。
しかも怪しげな痕跡もあります。
あの轟音で騎士が数名来てもおかしくはありません。
急ぎ術で姿を隠してこの場から早々に立ち去るのが良さそうです。
しかし間が悪く上空にグリフォンが飛来するのが見え、少し離れた場所に着陸します。
グリフォンの上にはビャンコ様が乗っています。
どうやら、不自然な落雷の確認にいらした模様です。
……これは、してらやれたかもしれません。
ビャンコ様が鋭く口笛を吹き、広範囲で術を展開します。
割れるような音がし、私に掛けていた術があっさり解けました。
この方が現れた段階でこうなるのは予想できました。
「え、キーちゃん!?」
私を見つけたビャンコ様はかなり驚いています。
「一応言っておきますが、落雷は私が原因ではありません」
こうなったら正直に今あった事を話すのが良さそうです、師匠はここまで計算して私をここに置き去りにしたのでしょう。
───────
「……あのさ、そういう大事な話教えといてくんない?」
「私も先程知りましたので」
「そこじゃなくて、ヴァローナの筆頭術士がオランディに来るの分かってたんでしょ!?」
「以前から時々いらしてましたので」
ビャンコ様に見つかったあと、グリフォンに乗せられリモワへ帰ってまいりました。
そのまま食堂の会議室に連れてこられました。
昼のピークを過ぎた時間だったせいか、予約をしなくても空いていたようです。
「はぁ……じゃあ今は何もないの? てかオランディ関係なくない?」
「全てはあの模擬戦による影響かと思います」
「まぁそうだけどさ……じゃあ何、本当に出演料の請求に来て遊びに来ただけなの?」
「そのようです」
「うーん、これ以上面倒起こさないで欲しいなぁ」
私達は二人とも冷たい紅茶を注文しました。
蒸し暑い季節にちょうど良いです。
「何もしなければ大丈夫でしょう。彼が襲われるような事が無ければ、先程のような事をしなかったと思います」
「本当に? あの落雷大騒ぎだったよ?」
突然鳴り響いた轟音はリモワの庁舎まで届いたようです。
天気が霧雨だったため普通の落雷だと考えた方が多かったそうですが、師匠が来ている事を知っているイザッコがビャンコ様に確認してくるように頼んだそうです。
「ハーロルト様次第でしょうね。追加の部隊をこちらに派遣するような事がなければ、私も師匠も何もしません」
「ったく……アイツら本当に困るなぁ。上には報告するけどさ、アイツらに忠告してやめてくれるかなぁ」
「師匠が直談判しに行くとか言ってましたが」
「それも困るなぁ、オランディの外でやってほしいわ」
「精鋭を一瞬で消すような相手に、ハーロルト様も喧嘩を売るとは思えません」
「まぁ、そこまでバカじゃないと信じたいなぁ……」
直談判、そう言えば私は師匠に今ハーロルト様がどこにいるか教えています。
「今、ハーロルト様はどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
「ここに来る前に庁舎で見たよ、今頃カズロんの作った算術問題やってるんじゃない?」
「……カズロ様とご一緒なのですか?」
「いると思うけど、なんで?」
「師匠に彼がどこにいるか聞かれて、庁舎か学園だと教えてまして……まさかとは思いますが」
「ちょっと! だからそういうの早く言えって!」
ビャンコ様が勢いよく立ち上がりました。
カズロ様の所へ向かうのでしょうか? この隙に帰らせていただきましょう。
それに気付いたのか、ビャンコ様が中空に何か話しかけています。
私の手首に光る輪のような物が現れました。
「そこにいろ! 帰るな!」
ビャンコ様はそれだけ言い残してどこかへ走っていきました。
その輪の先には何か光るものがあります。
精霊でしょうか、どうやら私の見張りのようです。
しばらくして、ビャンコ様が再び食堂の会議室に戻ってまいりました。
険しい表情のカズロ様も一緒にいます。
「その様子ですと、現れたようですね」
「……とりあえずハーロルト君とギュンター君はイザッコに預けてきたよ」
お二人は会議室の椅子に座り、ビャンコ様が中空に声をかけます。
会議室に幻術をかけたようです。
「これも取ってください」
手首を指しながらビャンコ様に言いますが、無視されてしまいました。
そのまま深いため息をつきます。
「ねぇ、あの人ホント何なの? マジで気軽に観光しに来ただけとか、立場分かってんの?」
「ビャンコさん、なぜキーノスがここに?」
「あの人の弟子で、さっきの落雷の時一緒にいたから」
「……あぁ、そういう事か」
「何があったのですか?」
「雷落とされたくなかったら黙ってろ、だってさ。さっきの落雷の事とか、ハーロルト君がした事とか全部報告するなだってよ」
「余計な事されて休暇短くされたくないんだって。ハーロルト君にマルモワに都合よく報告させろって言って帰ったよ」
……そうでしょうね、想像ができます。
「何もすんなってお前が何もすんなっての! あぁーー! 腹立つ!」
「なんか独特な人だね、キーノスの師匠さん」
「かなり目立つ方ですからね」
「そこもだけど、話し方がすごかったね」
「『白いのもちゃんと仕事するんだねぇ、えらいえらい』って、なぁにあれ!」
「想像に容易いですね」
「あんなんが師匠ならキーちゃんもひねくれるわ!」
色々言われたようですね。
どういった訳か、師匠はビャンコ様をあまり好いておりません。
カズロ様はビャンコ様の素の姿に驚いていらっしゃるのでしょうけど、それ以上の出来事があったせいかそちらに言及なさる様子がありません。
「とりあえず言う通りにすれば大人しくしてるって言ってたけど、その辺りは信用できる人なの?」
「大人しくの定義にもよりますが、オランディに危害を加えることはしないと思います」
「定義ってどういう事?」
「あの話し方や振る舞いで、人付き合いで問題を起こす可能性はあります」
「あぁ、そうだね……」
カズロ様がビャンコ様を見て納得されたようです。
「でも、こっちも何もしないのも考えものだよね」
「いえ、本当に何もなさらない方が良いと思います」
「キーノスは巻き込まれた被害者でしょ? このままで良いの?」
「ご心配ありがとうございます。確かにオランディの国内で起きている事ですが、基本に戻ればヴァローナとマルモワの問題です。あちらで何とかしていただくのが良いと思います」
師匠の話と合わせれば、彼の手によって術士に対抗出来る部隊がいくつかあっさりと潰されてるようです。
ケータ様の護衛のためとは言え、師匠がいる間はまた新しく小隊を送り込むようなことは無いと思います。
「無責任な言い方だけど、分からない所でやってくれたら良いのにね……」
「恐らくですが、庁舎に現れたのはハーロルト様にマルモワに連絡する隙を与えない為でしょう。学園だったら騒ぎはもっと大きくなっていたと思います」
会議室という閉鎖された場所で、他のマルモワ兵がいたのを知って現れたと推察できます。
カズロ様はオランディへの伝達役として巻き込んだのだと思います。
「あーもー! 観光にも来んなって言いたいわ、ウチ全然関係ないじゃん!」
「模擬戦を止めていればこうはならなかったはずです」
「キーちゃんがそのまま出れば良かったじゃん!」
「バリスタが出たらおかしいでしょう」
「騎士になんなよ、なんでバリスタやってんの?」
「団長と同じ事を言わないで下さい」
私は温くなった紅茶を飲み干します。
そろそろ帰りたいのですが、駄目でしょうか。
「あの時はこんな大事になるなんて予想出来ないよね」
「いーやカズロん、それは違うよ!」
「か、カズロんって……」
「キーちゃんはこうなるの分かってたでしょ!」
「師匠が請求に来るだろうとは思ってました。リモワが好きなのに弟子の私が手品師としての活動をしない事をとても不満に思ってたそうですから」
「なんで庁舎の中庭であんな格好してたんだろ? って思ってたけどさ、狙ってたよね絶対」
「箝口令を真面目に出さないからですよ」
「それキーちゃんが言う?」
「師匠が来るきっかけと今の落雷は関係ありません」
そもそもの話はいくつもありますが、オランディとの関係はあの模擬戦でしょう。
ヴァローナと戦争しようとしていたから彼らが術士を探していたなど、分かるはずもありません。
結果として今被害がほぼない状態で済んでいるのは、運が良かったとしか言いようがありません。
「殿下は大丈夫かなぁ、何も無ければ良いけど」
「手紙送っとこうか、一応」
「そうだね……」
「何と送るのですか?」
「うーん、留学どうですか、こっちは平和です、とか? あれ、送る意味なくない?」
「返事を貰えるだけでも安心できるし、こっちからの内容は無難でも良いんじゃないかな」
万に一つでも殿下に危害を加えるような事は無いと思いますが、確かに心配ではあります。
交換留学も残すところ二ヶ月と半月。
これ以上に面倒な事が起きないことを願うばかりです。
師匠は女性を拘束していた部屋に転移で移動しましたが、私を一緒に連れて行きませんでした。
問題は、ここは今大きな落雷があった現場です。
しかも怪しげな痕跡もあります。
あの轟音で騎士が数名来てもおかしくはありません。
急ぎ術で姿を隠してこの場から早々に立ち去るのが良さそうです。
しかし間が悪く上空にグリフォンが飛来するのが見え、少し離れた場所に着陸します。
グリフォンの上にはビャンコ様が乗っています。
どうやら、不自然な落雷の確認にいらした模様です。
……これは、してらやれたかもしれません。
ビャンコ様が鋭く口笛を吹き、広範囲で術を展開します。
割れるような音がし、私に掛けていた術があっさり解けました。
この方が現れた段階でこうなるのは予想できました。
「え、キーちゃん!?」
私を見つけたビャンコ様はかなり驚いています。
「一応言っておきますが、落雷は私が原因ではありません」
こうなったら正直に今あった事を話すのが良さそうです、師匠はここまで計算して私をここに置き去りにしたのでしょう。
───────
「……あのさ、そういう大事な話教えといてくんない?」
「私も先程知りましたので」
「そこじゃなくて、ヴァローナの筆頭術士がオランディに来るの分かってたんでしょ!?」
「以前から時々いらしてましたので」
ビャンコ様に見つかったあと、グリフォンに乗せられリモワへ帰ってまいりました。
そのまま食堂の会議室に連れてこられました。
昼のピークを過ぎた時間だったせいか、予約をしなくても空いていたようです。
「はぁ……じゃあ今は何もないの? てかオランディ関係なくない?」
「全てはあの模擬戦による影響かと思います」
「まぁそうだけどさ……じゃあ何、本当に出演料の請求に来て遊びに来ただけなの?」
「そのようです」
「うーん、これ以上面倒起こさないで欲しいなぁ」
私達は二人とも冷たい紅茶を注文しました。
蒸し暑い季節にちょうど良いです。
「何もしなければ大丈夫でしょう。彼が襲われるような事が無ければ、先程のような事をしなかったと思います」
「本当に? あの落雷大騒ぎだったよ?」
突然鳴り響いた轟音はリモワの庁舎まで届いたようです。
天気が霧雨だったため普通の落雷だと考えた方が多かったそうですが、師匠が来ている事を知っているイザッコがビャンコ様に確認してくるように頼んだそうです。
「ハーロルト様次第でしょうね。追加の部隊をこちらに派遣するような事がなければ、私も師匠も何もしません」
「ったく……アイツら本当に困るなぁ。上には報告するけどさ、アイツらに忠告してやめてくれるかなぁ」
「師匠が直談判しに行くとか言ってましたが」
「それも困るなぁ、オランディの外でやってほしいわ」
「精鋭を一瞬で消すような相手に、ハーロルト様も喧嘩を売るとは思えません」
「まぁ、そこまでバカじゃないと信じたいなぁ……」
直談判、そう言えば私は師匠に今ハーロルト様がどこにいるか教えています。
「今、ハーロルト様はどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
「ここに来る前に庁舎で見たよ、今頃カズロんの作った算術問題やってるんじゃない?」
「……カズロ様とご一緒なのですか?」
「いると思うけど、なんで?」
「師匠に彼がどこにいるか聞かれて、庁舎か学園だと教えてまして……まさかとは思いますが」
「ちょっと! だからそういうの早く言えって!」
ビャンコ様が勢いよく立ち上がりました。
カズロ様の所へ向かうのでしょうか? この隙に帰らせていただきましょう。
それに気付いたのか、ビャンコ様が中空に何か話しかけています。
私の手首に光る輪のような物が現れました。
「そこにいろ! 帰るな!」
ビャンコ様はそれだけ言い残してどこかへ走っていきました。
その輪の先には何か光るものがあります。
精霊でしょうか、どうやら私の見張りのようです。
しばらくして、ビャンコ様が再び食堂の会議室に戻ってまいりました。
険しい表情のカズロ様も一緒にいます。
「その様子ですと、現れたようですね」
「……とりあえずハーロルト君とギュンター君はイザッコに預けてきたよ」
お二人は会議室の椅子に座り、ビャンコ様が中空に声をかけます。
会議室に幻術をかけたようです。
「これも取ってください」
手首を指しながらビャンコ様に言いますが、無視されてしまいました。
そのまま深いため息をつきます。
「ねぇ、あの人ホント何なの? マジで気軽に観光しに来ただけとか、立場分かってんの?」
「ビャンコさん、なぜキーノスがここに?」
「あの人の弟子で、さっきの落雷の時一緒にいたから」
「……あぁ、そういう事か」
「何があったのですか?」
「雷落とされたくなかったら黙ってろ、だってさ。さっきの落雷の事とか、ハーロルト君がした事とか全部報告するなだってよ」
「余計な事されて休暇短くされたくないんだって。ハーロルト君にマルモワに都合よく報告させろって言って帰ったよ」
……そうでしょうね、想像ができます。
「何もすんなってお前が何もすんなっての! あぁーー! 腹立つ!」
「なんか独特な人だね、キーノスの師匠さん」
「かなり目立つ方ですからね」
「そこもだけど、話し方がすごかったね」
「『白いのもちゃんと仕事するんだねぇ、えらいえらい』って、なぁにあれ!」
「想像に容易いですね」
「あんなんが師匠ならキーちゃんもひねくれるわ!」
色々言われたようですね。
どういった訳か、師匠はビャンコ様をあまり好いておりません。
カズロ様はビャンコ様の素の姿に驚いていらっしゃるのでしょうけど、それ以上の出来事があったせいかそちらに言及なさる様子がありません。
「とりあえず言う通りにすれば大人しくしてるって言ってたけど、その辺りは信用できる人なの?」
「大人しくの定義にもよりますが、オランディに危害を加えることはしないと思います」
「定義ってどういう事?」
「あの話し方や振る舞いで、人付き合いで問題を起こす可能性はあります」
「あぁ、そうだね……」
カズロ様がビャンコ様を見て納得されたようです。
「でも、こっちも何もしないのも考えものだよね」
「いえ、本当に何もなさらない方が良いと思います」
「キーノスは巻き込まれた被害者でしょ? このままで良いの?」
「ご心配ありがとうございます。確かにオランディの国内で起きている事ですが、基本に戻ればヴァローナとマルモワの問題です。あちらで何とかしていただくのが良いと思います」
師匠の話と合わせれば、彼の手によって術士に対抗出来る部隊がいくつかあっさりと潰されてるようです。
ケータ様の護衛のためとは言え、師匠がいる間はまた新しく小隊を送り込むようなことは無いと思います。
「無責任な言い方だけど、分からない所でやってくれたら良いのにね……」
「恐らくですが、庁舎に現れたのはハーロルト様にマルモワに連絡する隙を与えない為でしょう。学園だったら騒ぎはもっと大きくなっていたと思います」
会議室という閉鎖された場所で、他のマルモワ兵がいたのを知って現れたと推察できます。
カズロ様はオランディへの伝達役として巻き込んだのだと思います。
「あーもー! 観光にも来んなって言いたいわ、ウチ全然関係ないじゃん!」
「模擬戦を止めていればこうはならなかったはずです」
「キーちゃんがそのまま出れば良かったじゃん!」
「バリスタが出たらおかしいでしょう」
「騎士になんなよ、なんでバリスタやってんの?」
「団長と同じ事を言わないで下さい」
私は温くなった紅茶を飲み干します。
そろそろ帰りたいのですが、駄目でしょうか。
「あの時はこんな大事になるなんて予想出来ないよね」
「いーやカズロん、それは違うよ!」
「か、カズロんって……」
「キーちゃんはこうなるの分かってたでしょ!」
「師匠が請求に来るだろうとは思ってました。リモワが好きなのに弟子の私が手品師としての活動をしない事をとても不満に思ってたそうですから」
「なんで庁舎の中庭であんな格好してたんだろ? って思ってたけどさ、狙ってたよね絶対」
「箝口令を真面目に出さないからですよ」
「それキーちゃんが言う?」
「師匠が来るきっかけと今の落雷は関係ありません」
そもそもの話はいくつもありますが、オランディとの関係はあの模擬戦でしょう。
ヴァローナと戦争しようとしていたから彼らが術士を探していたなど、分かるはずもありません。
結果として今被害がほぼない状態で済んでいるのは、運が良かったとしか言いようがありません。
「殿下は大丈夫かなぁ、何も無ければ良いけど」
「手紙送っとこうか、一応」
「そうだね……」
「何と送るのですか?」
「うーん、留学どうですか、こっちは平和です、とか? あれ、送る意味なくない?」
「返事を貰えるだけでも安心できるし、こっちからの内容は無難でも良いんじゃないかな」
万に一つでも殿下に危害を加えるような事は無いと思いますが、確かに心配ではあります。
交換留学も残すところ二ヶ月と半月。
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