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疑惑の仮面が踊るパレード
#7
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賑わう夜の王都の中を歩き、噴水広場の前まで来ました。
そこでは数名で構成された楽隊と踊り子が芸を披露しています。
美しい曲と詩と共に踊り子が舞う様子が噴水広場の前の人たちの視線を奪っています。
その中に黒い羽飾りを付けた小柄な男性を見つけました。
今日の私の待ち合わせの相手の一人です。
「ケータ様ですか?」
私は彼の背後から声を掛けます。
彼はくるりとこちらに振り向き、口元しか見えませんが笑顔になります。
「キーノスさんですね! 本当に来てくれたんだ!」
カーラ様から事前に私の衣装に関して聞いていたのでしょう。
待ち合わせの相手に喜んで頂けるのは嬉しいものですね。
「お待たせ致しました、ご無沙汰しております」
「はは、カレーの時以来です! 最後にお会いできて嬉しいです!」
「それは何よりです」
彼が楽しそうにしているのは純粋に嬉しいです。
私達が様子に気づいて、そばに居た黒い騎士と雪の女王がこちらへ近付いてきます。
仮面を付けていても誰だか想像がつきます。
何より、先程から長身の二人はこの辺りにいる人から少し注目されています。
「キーノスさん、来てくださって本当にありがとうございます」
「こちらこそお誘いありがとうございます」
「あ、あの……」
丁寧にご挨拶して下さった黒い騎士の背後から、雪の女王が控えめな様子でこちらに声をかけてきます。
ギュンター様の服はオランディの騎士団の衣装を黒くしたものにファーのついたマントを羽織ったようなもので、ゾフィ様は長い手袋と肩が露出した細身のドレスです。
どちらもよくお似合いですが、ゾフィ様はこの季節にしては少し薄着のように思えます。
「本当に来てくださったのですね、ギュンターから聞いていましたが、その……」
「姉は照れてるだけですので気にしないでください」
「照れてるだなんて、だってこんな……」
なるほど、普段男性的な服を着慣れているせいで慣れていないのでしょう。
また、ケータ様とギュンター様が黒い装いなのに対して真っ白なのも気後れされている原因に思えます。
「よくお似合いですよ」
ただ雪の女王とはいえ、この季節に袖のない装いは少し寒そうに見えます。
マルモワのご出身なので寒くは無いのかもしれませんが、この辺りにいる方の中で踊り子以外で彼女より露出の多い方はいません。
「もし宜しければですが、こちらを」
私はカーラ様に最後に付けていただいたショールを外し、彼女に手渡します。
薄着の彼女に対して、私は少し着込んでいる量が多いです。
試着の時にはなかったものですし、お貸ししても差支えはないと思います。
「あ、それ」
「カーラ様から追加で頂いたものです、私もゾフィ様も白い衣装ですので問題ないかと」
「いや、そうでしょうけど」
ギュンター様と私がゾフィ様の方を見ますが、ゾフィ様は受け取ろうとなさいません。
仕方がないので私は肩にかけ直そうとした時、ショールをギュンター様が受け取って下さいました。
「ほら、姉さん寒がってたでしょ?」
「いや、そんな事はないけど」
「良いからホラ」
「悪いわこんな……」
押し問答を初めてしまわれました。
返って気を使わせてしまったようで申し訳なく思えてきます。
ギュンター様が短いため息をつき、ショールを私に渡してきました。
「お手数ですが、コレ姉にかけて下さい」
「私で良いのですか?」
「はい、ここで待ってる間もずっとこうでしたのでお願いします」
「? よく分かりませんが承知いたしました」
私は小さく一礼して、ショールをゾフィ様の肩へお掛けしました。
出来るだけ彼女に触れないように注意を払います。
「問題ありませんか?」
「はい、ありがとうございます」
ゾフィ様は俯いてしまわれ、特に反応を示してくださいません。
仮面を付けているので顔は見えないだろうと思っていたので大丈夫かと思っていましたが、やはり女性には私は怖く思われてしまうのかもしれません。
「では、海岸の近くまで歩きませんか? 途中で大道芸などが多く見られると思います」
「大道芸! 手品もありますか?」
「ございますよ。ケータ様がお好きかと思いましたので、いくつか目星をつけて参りました」
「途中屋台で食べ物を買っても良いですか? 俺たち今日晩飯抜いてるんです」
「構いません、何か希望がありましたらご案内します」
私達は港の方面に向かって歩き出しました。
放っておくとどこかへ走って行ってしまいそうなケータ様が心配なため、彼の手を引いて歩くことにします。
───────
「あなたが選んだカードは……スペードのキングですね!」
「すごい! 正解だ!」
ケータ様が小さめの手品師のテーブルでトランプの手品を堪能中です。
私達三人はそれを隣から見ています。
ケータ様はもちろんですが、間近で見る手品にギュンター様とゾフィ様も目を離せないようです。
「ではお客様に記念にこのカード差し上げます!」
手品師がケータ様にスペードを手渡しました。
テーブルの下に予備があるのでしょう、おそらくお土産用の分をこうして配布しているの物と思われます。
仮面の上からでも分かるくらいケータ様が喜んでいるのが分かります。
私達は今港の近くまで来ており、一通り海岸周りの大道芸を見終わっております。
途中食べ物と飲み物を買い、これから薬草問屋の店主様の温室へ向かおうと考えております。
師匠のショーまでまだ時間はありますので、予定は順調に進んでいるようです。
「良かったですね、ケータさん」
「あぁ、色々お土産は買ったけどこれが一番になりそうだ!」
「最近練習してますしね、前より分かりにくくなってますし」
「まだまだだけどな、さっきの人くらいにはならないと!」
温室へ向かう途中、背後でギュンター様とケータ様が楽しそうに話されています。
私はゾフィ様と並んで歩いておりますが、ゾフィ様の装いが華やかな為私への男性からの視線が少し痛いです。
「今日は楽しめましたか?」
「はい、良い思い出になりそうです」
「それは何よりです」
「あと、すみません。リモワで自由に出来る時間がこれで最後だから、お店に行くことが出来ませんでした……」
「いいえ、またこちらにいらした時にでもお立ち寄り下さい」
「良いのですか?」
「もちろんです、お待ちしております」
機会があればです、簡単に来ることは難しいでしょう。
そうなるとゾフィ様と話すのはこれが最後になるかもしれませんね。
「本当に、夢みたいです」
「何がですか?」
「ずっとお会いしたかったあなたとこうして歩いて、普通に話せるなんて」
「それは光栄です」
「あの時の会話覚えてますか?」
「すみません、実はよく覚えておりません」
「ふふ、そうかもしれませんね。私が『天使様ですか?』と聞いたら『違います』としか答えてくださいませんでしたから」
「他には何も?」
「ええ、ご一緒にいた方が『あの人はキーノスさんだよ』って教えてれたんです」
「ビャンコ様ですね」
「あの方と仲が良いのですね」
「どうでしょうか、長い付き合いではあります」
彼と知り合ったのは、彼が十代の頃です。
同じリモワに住んでいながら実際に会うまでかなり期間があったので、仲が良いかと言われると複雑な気持ちになります。
「今日のお召し物が白くて彼のようですけど、全然違いますね」
「私のはクラウンですから、彼とは違って見えるでしょう」
「あなたの方が素敵です……」
「ありがとうございます、カーラ様にお伝えしておきます」
「え、いやそういう意味じゃ……」
会話をしている内に温室の前に着いたようです。
「こちらです、ここの二階のテラスからの眺めが良いですよ」
「手入れがされていないように見えますが」
「全て薬草です、雑草ではありませんのでお気をつけ下さい」
「え! これ薬なんですか!?」
「はい、踏まないでくださいね」
温室の鍵を開け、中へ入ります。
中は小さな花を付けているものもあり、外観とは違いとても穏やかな雰囲気になっています。
「ここから更に奥です」
温室内を通過し、奥にある小さな庭へ向かいます。
ここにもテーブルと椅子がありましたが、今は移動させております。
こちらの庭には薬草は生えておりません、植え替えなどの作業に使用している場所なのでしょう。
ゾフィ様とケータ様をそちらに案内し、温室内に残ります。
「ギュンター様、これで手紙のご依頼には対応させていただきました」
「……ありがとうございます、ここなら問題無さそうです」
「交換条件に関してお忘れなきようお願いします」
「もちろんです、ルトと合わせて二度も脅迫する形になり申し訳ありません」
「……あれは脅迫だったのですか」
五枚の便箋には何度も謝罪の言葉が並び、提示された条件を拝見する限りただの依頼だと考えておりました。
師匠のショーまであと一時間ほどとなりました。
彼からの依頼の本番はこれからです、何事もなく終われば時間には間に合うと思います。
そこでは数名で構成された楽隊と踊り子が芸を披露しています。
美しい曲と詩と共に踊り子が舞う様子が噴水広場の前の人たちの視線を奪っています。
その中に黒い羽飾りを付けた小柄な男性を見つけました。
今日の私の待ち合わせの相手の一人です。
「ケータ様ですか?」
私は彼の背後から声を掛けます。
彼はくるりとこちらに振り向き、口元しか見えませんが笑顔になります。
「キーノスさんですね! 本当に来てくれたんだ!」
カーラ様から事前に私の衣装に関して聞いていたのでしょう。
待ち合わせの相手に喜んで頂けるのは嬉しいものですね。
「お待たせ致しました、ご無沙汰しております」
「はは、カレーの時以来です! 最後にお会いできて嬉しいです!」
「それは何よりです」
彼が楽しそうにしているのは純粋に嬉しいです。
私達が様子に気づいて、そばに居た黒い騎士と雪の女王がこちらへ近付いてきます。
仮面を付けていても誰だか想像がつきます。
何より、先程から長身の二人はこの辺りにいる人から少し注目されています。
「キーノスさん、来てくださって本当にありがとうございます」
「こちらこそお誘いありがとうございます」
「あ、あの……」
丁寧にご挨拶して下さった黒い騎士の背後から、雪の女王が控えめな様子でこちらに声をかけてきます。
ギュンター様の服はオランディの騎士団の衣装を黒くしたものにファーのついたマントを羽織ったようなもので、ゾフィ様は長い手袋と肩が露出した細身のドレスです。
どちらもよくお似合いですが、ゾフィ様はこの季節にしては少し薄着のように思えます。
「本当に来てくださったのですね、ギュンターから聞いていましたが、その……」
「姉は照れてるだけですので気にしないでください」
「照れてるだなんて、だってこんな……」
なるほど、普段男性的な服を着慣れているせいで慣れていないのでしょう。
また、ケータ様とギュンター様が黒い装いなのに対して真っ白なのも気後れされている原因に思えます。
「よくお似合いですよ」
ただ雪の女王とはいえ、この季節に袖のない装いは少し寒そうに見えます。
マルモワのご出身なので寒くは無いのかもしれませんが、この辺りにいる方の中で踊り子以外で彼女より露出の多い方はいません。
「もし宜しければですが、こちらを」
私はカーラ様に最後に付けていただいたショールを外し、彼女に手渡します。
薄着の彼女に対して、私は少し着込んでいる量が多いです。
試着の時にはなかったものですし、お貸ししても差支えはないと思います。
「あ、それ」
「カーラ様から追加で頂いたものです、私もゾフィ様も白い衣装ですので問題ないかと」
「いや、そうでしょうけど」
ギュンター様と私がゾフィ様の方を見ますが、ゾフィ様は受け取ろうとなさいません。
仕方がないので私は肩にかけ直そうとした時、ショールをギュンター様が受け取って下さいました。
「ほら、姉さん寒がってたでしょ?」
「いや、そんな事はないけど」
「良いからホラ」
「悪いわこんな……」
押し問答を初めてしまわれました。
返って気を使わせてしまったようで申し訳なく思えてきます。
ギュンター様が短いため息をつき、ショールを私に渡してきました。
「お手数ですが、コレ姉にかけて下さい」
「私で良いのですか?」
「はい、ここで待ってる間もずっとこうでしたのでお願いします」
「? よく分かりませんが承知いたしました」
私は小さく一礼して、ショールをゾフィ様の肩へお掛けしました。
出来るだけ彼女に触れないように注意を払います。
「問題ありませんか?」
「はい、ありがとうございます」
ゾフィ様は俯いてしまわれ、特に反応を示してくださいません。
仮面を付けているので顔は見えないだろうと思っていたので大丈夫かと思っていましたが、やはり女性には私は怖く思われてしまうのかもしれません。
「では、海岸の近くまで歩きませんか? 途中で大道芸などが多く見られると思います」
「大道芸! 手品もありますか?」
「ございますよ。ケータ様がお好きかと思いましたので、いくつか目星をつけて参りました」
「途中屋台で食べ物を買っても良いですか? 俺たち今日晩飯抜いてるんです」
「構いません、何か希望がありましたらご案内します」
私達は港の方面に向かって歩き出しました。
放っておくとどこかへ走って行ってしまいそうなケータ様が心配なため、彼の手を引いて歩くことにします。
───────
「あなたが選んだカードは……スペードのキングですね!」
「すごい! 正解だ!」
ケータ様が小さめの手品師のテーブルでトランプの手品を堪能中です。
私達三人はそれを隣から見ています。
ケータ様はもちろんですが、間近で見る手品にギュンター様とゾフィ様も目を離せないようです。
「ではお客様に記念にこのカード差し上げます!」
手品師がケータ様にスペードを手渡しました。
テーブルの下に予備があるのでしょう、おそらくお土産用の分をこうして配布しているの物と思われます。
仮面の上からでも分かるくらいケータ様が喜んでいるのが分かります。
私達は今港の近くまで来ており、一通り海岸周りの大道芸を見終わっております。
途中食べ物と飲み物を買い、これから薬草問屋の店主様の温室へ向かおうと考えております。
師匠のショーまでまだ時間はありますので、予定は順調に進んでいるようです。
「良かったですね、ケータさん」
「あぁ、色々お土産は買ったけどこれが一番になりそうだ!」
「最近練習してますしね、前より分かりにくくなってますし」
「まだまだだけどな、さっきの人くらいにはならないと!」
温室へ向かう途中、背後でギュンター様とケータ様が楽しそうに話されています。
私はゾフィ様と並んで歩いておりますが、ゾフィ様の装いが華やかな為私への男性からの視線が少し痛いです。
「今日は楽しめましたか?」
「はい、良い思い出になりそうです」
「それは何よりです」
「あと、すみません。リモワで自由に出来る時間がこれで最後だから、お店に行くことが出来ませんでした……」
「いいえ、またこちらにいらした時にでもお立ち寄り下さい」
「良いのですか?」
「もちろんです、お待ちしております」
機会があればです、簡単に来ることは難しいでしょう。
そうなるとゾフィ様と話すのはこれが最後になるかもしれませんね。
「本当に、夢みたいです」
「何がですか?」
「ずっとお会いしたかったあなたとこうして歩いて、普通に話せるなんて」
「それは光栄です」
「あの時の会話覚えてますか?」
「すみません、実はよく覚えておりません」
「ふふ、そうかもしれませんね。私が『天使様ですか?』と聞いたら『違います』としか答えてくださいませんでしたから」
「他には何も?」
「ええ、ご一緒にいた方が『あの人はキーノスさんだよ』って教えてれたんです」
「ビャンコ様ですね」
「あの方と仲が良いのですね」
「どうでしょうか、長い付き合いではあります」
彼と知り合ったのは、彼が十代の頃です。
同じリモワに住んでいながら実際に会うまでかなり期間があったので、仲が良いかと言われると複雑な気持ちになります。
「今日のお召し物が白くて彼のようですけど、全然違いますね」
「私のはクラウンですから、彼とは違って見えるでしょう」
「あなたの方が素敵です……」
「ありがとうございます、カーラ様にお伝えしておきます」
「え、いやそういう意味じゃ……」
会話をしている内に温室の前に着いたようです。
「こちらです、ここの二階のテラスからの眺めが良いですよ」
「手入れがされていないように見えますが」
「全て薬草です、雑草ではありませんのでお気をつけ下さい」
「え! これ薬なんですか!?」
「はい、踏まないでくださいね」
温室の鍵を開け、中へ入ります。
中は小さな花を付けているものもあり、外観とは違いとても穏やかな雰囲気になっています。
「ここから更に奥です」
温室内を通過し、奥にある小さな庭へ向かいます。
ここにもテーブルと椅子がありましたが、今は移動させております。
こちらの庭には薬草は生えておりません、植え替えなどの作業に使用している場所なのでしょう。
ゾフィ様とケータ様をそちらに案内し、温室内に残ります。
「ギュンター様、これで手紙のご依頼には対応させていただきました」
「……ありがとうございます、ここなら問題無さそうです」
「交換条件に関してお忘れなきようお願いします」
「もちろんです、ルトと合わせて二度も脅迫する形になり申し訳ありません」
「……あれは脅迫だったのですか」
五枚の便箋には何度も謝罪の言葉が並び、提示された条件を拝見する限りただの依頼だと考えておりました。
師匠のショーまであと一時間ほどとなりました。
彼からの依頼の本番はこれからです、何事もなく終われば時間には間に合うと思います。
応援ありがとうございます!
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