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疑惑の仮面が踊るパレード
#8
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ギュンター様から頂いた手紙で大きく以下の二つの内容を頼まれました。
「姉、俺、ケータさんの三人を一時的に隔離された場所に案内してほしい」
「姉と過ごしてもらいたい」
彼は国と直接関係なく、事情に詳しい人間が私くらいしか思いつかなかったのでしょう。
加えて、彼は私に対して交渉材料も持ってました。
私が彼からの依頼に応えた理由はその交渉材料もそうですが、このままケータ様と別れるのが惜しいと思ったのが大きいです。
私は彼に叶うはずのない願いを叶えて頂いたように思えてならなかったからです。
もちろん彼にその意図がないのは分かっていますが、彼のためになるならと普段はしないような事をいくつもしております。
私は温室の中でカーラ様が作って下さった衣装を脱ぎ、予め用意しておいたハンガーにかけます。
靴も履き替え、普段出かけるような簡素な服になりました。
この状態で問題が起きた時にすぐに対応出来る準備だけしておこうと思います。
「キーノス殿、事が済みました……と、何故服が変わっているのですか?」
「何事もありませんでしたか?」
「……まぁ、一応は」
温室に入ってきたギュンター様が何か口篭ります。
彼も仮面だけは外し、メガネと交換されています。
私は地面に腰を下ろしていたので立ち上がり、温室の外に出ました。
「あれ、なんでアンタ普段着なの?」
先程まで居なかった猫の仮面を被った長髪の男がいます。
それに、先程までは楽しそうだったケータ様が落ち込んでいらっしゃるようですし、ゾフィ様の表情もかなり冷たい物になっています。
……地面に落ちている何本かのナイフで、何があったかは想像できます。
「姐さんの店行ったら、アンタが自腹で払ったっていうからオレ着ちゃったよ。どう? 似合う?」
軽薄な口調の男は長めのブーツと短めのマントが特徴的な装いをしております。
屋外に出たのを良いことに、私はタバコに火をつけます。
「話には聞いてたけど、タバコ似合うねー。こりゃゾフが惚れるのも分かる気がするわ」
「口を慎みなさい」
「せっかくデートのお膳立てしてあげたのにその言い方なくない?」
彼はこちらの様子を伺っておりましたが、私が反応を示さないことに溜息ついて仮面を外しました。
「ったく、無視はねーだろ無視は」
何か言ってますが、ギュンター様からの手紙の内容から考えると彼はもう無関係のはずです。
せっかくのマスカレードの最終日に衣装を着ているのですから、温室の外の市場で楽しんでくれば良いと思います。
「じゃお別れ会しよっか! 上行こ!」
彼はそう言い、温室の二階へ続く階段に向かおうとします。
立ち去るまで無視するつもりでしたが、流石にこれは看過できません。
「帰れ」
「やっとなんか返してきたよ、最後だし大目に見なよ」
「見るか、帰れ」
「オレこれからあと一ヶ月はここにいるんだし仲良くしようよ」
「お前店は出禁だ」
「えっ、嘘でしょ?」
嘘なわけないでしょう……楽観的すぎませんか?
私達の関係性が思ったより悪いことに気付いたギュンター様が間に割って入ります。
「既にコイツの辞職は了承されてますのでご安心下さい」
「そうは言われましても」
「えー反省はしてるよ? あん時はごめんねー悪い悪い」
「……とりあえずお前はさっさと帰れ」
ギュンター様の手紙によれば。
彼は店で飲み明かした後、本当にマルモワの軍から除隊することにしたそうです。
ただ彼は有能な暗部で父親が軍の上層部におり、簡単にはいかないためいくつか策を用意したそうですが……
「ネウゾロフさんの休暇中は行くつもりだったんだけど、出禁とかマジ?」
彼は師匠と共にヴァローナへ行く事にしたそうです。
師匠は彼が気に入っていましたし、暗部なら情報を多く持ってると睨んだのでしょう。
「用件は済んだのですか?」
「ナイフが失敗の良い証拠です、これでルトの任務は一応済んだとされるはずです」
「本当に良かったのですか? 無関係な私が言うことでもありませんが」
「はい。ルトの愚痴はいつも聞いてましたし、必要であればどこかへご報告して頂いても構いません。どの道俺たちは明日にはマルモワへ帰ります」
もう一つが彼の最後の任務の失敗とその報告をさせる事です。
オランディで問題を起こしすぎている自覚のあったギュンター様は、このもう一つの条件を秘密裏に満たす方法に頭を悩ませたそうでした。
とはいえ……この内容をカズロ様経由で私に手紙で頼むのですから、本当に良い神経をしています。
「ルトはもう何もしませんよ、安心して下さい」
「それは彼が言っているだけでしょう」
「いや……オレも、なんか別に良い……」
ケータ様が悲しそうに呟きます。
「ギュンターから聞いてはいたけど、本当にこんな事になるとは思わなかったから、なんかもう、どうでも……」
仮にも仲間だった方から暗殺の対象にされていたのが余程ショックだったのでしょう。
やはりこのまま暗殺者を置いておくのは悪影響です。
「とりあえずそこの長髪さっさと帰れ」
「えー、じゃあ帰っても良いから出禁解除してよ」
「してやるから帰れ」
「ホント!? あ、ついでにお願いしていい?」
「なんだよ、早く帰れ」
ケータ様が心配です。
彼には本物のマーゴ・フィオリトゥーラのショーを見て欲しいですが、暗殺者と一緒にでは楽しめないでしょう。
「ちょっと笑って見せてよ、アンタの笑顔見たら今日は帰るよ」
「はぁ?」
「いやさ、ネウゾロフさんに『キー坊の笑顔の一つでも拝めるなら大したもんだけどねぇ』とか言われててさー、ゾフとのデートで見れるかと思ったのにマジ顔動かねぇの」
「笑顔を見せたら帰るんだな?」
「お、やってくれる?」
この面倒な男がこの場から消えてくれるなら安いものです。
表情筋の動かし方なら知っています、私の顔ではさぞかし恐ろしい物になるでしょう。
ただこの男にそんな気遣いは不要なので遠慮なくできます。
私は師匠に教わった通りの作り笑顔を見せます。
「帰れ」
彼は私の笑顔を見て硬直しています、夏の別荘での出来事でも敵わない物を目にしている事でしょう。
笑顔を消し、彼が立ち去るのを待ちます。
「いやいやいや、それだけ!? もっとなんかあるでしょ!」
この人本当に面倒ですね、少し嫌がらせをしたくなりました。
そういえば、彼は師匠と共に一ヶ月過ごすとか言ってましたね。
私は再び笑顔を作り彼に告げます。
「朝はまず香水と酒のニオイの換気と消臭、脱ぎ捨てられた服を洗う事から始まる」
「え?」
「昼頃連れてきた女性が帰るから料金を支払うが、たまに延長を強請られる」
「何、どういう」
「夕方頃に起きてくるから飯と特定の銘柄のジンを出す、しばらくしたらまた出かけるがついて行ってもろくな事は無い」
「待て、それまさか」
「話したぞ、帰れよ」
私は再び笑顔を消して彼に言います。
今話した内容は、リモワに来た時の師匠の行動の一部です。
私の部屋を体のいい宿にしたため、今の部屋に引っ越す理由になりました。
今の大家さんと仲良くできているので結果としてはプラスですが。
「いやオレ、別の部屋借りたし」
「同じ宿でか?」
「まーね、面倒だったし」
「なら、お前の部屋が女性を連れ込む部屋になる」
「え」
「話はここまでだ」
とりあえず彼にはさっさとご退場頂きましょう、ケータ様とゾフィ様が心配です。
「オレ、昨日から同じ宿なんだけど……」
「なら明日の朝からか」
彼の顔が分かりやすく青くなります。
一度庁舎で脅されているはずです、結果が分かるのでしょう。
「ギュンター、また連絡する!」
「あ、あぁ。明日以降はマルモワの方に」
「じゃあまた!」
この時期リモワで宿をとる事の難しさに気づいたのでしょう、彼はやっとここから立ち去りました。
ケータ様とゾフィ様の様子を伺います。
「ケータ様、大丈夫ですか?」
「はい……なんか今はルトに同情してます」
「お優しいですね、お気に病む必要はございません」
ケータ様はサチ様と同じように優しい心根の持ち主のようです。
ゾフィ様は……なんとも捉えにくい表情をなさってますが、先程の険のある表情とは違う様子です。
事が済んだようなので、ギュンター様に向き直ります。
「一応ネウゾロフ様に一言相談しておきますのでご安心下さい」
「そこまでしていただかなくても」
「今日はこれからのショーが一番の目玉ですから、明るい気持ちになっていただけるなら安いものです」
「本当にご迷惑ばかりお掛けして申し訳ありません」
「ギュンター様も気に病まれる事はありません」
こんな口約束でもケータ様の笑顔の材料になれば嬉しいですが、難しいかもしれませんね。
取り急ぎ二階のテラスへ場所を移しましょう。師匠のショーもですが、良い眺めを見れば少しは気が晴れるかもしれません。
「姉、俺、ケータさんの三人を一時的に隔離された場所に案内してほしい」
「姉と過ごしてもらいたい」
彼は国と直接関係なく、事情に詳しい人間が私くらいしか思いつかなかったのでしょう。
加えて、彼は私に対して交渉材料も持ってました。
私が彼からの依頼に応えた理由はその交渉材料もそうですが、このままケータ様と別れるのが惜しいと思ったのが大きいです。
私は彼に叶うはずのない願いを叶えて頂いたように思えてならなかったからです。
もちろん彼にその意図がないのは分かっていますが、彼のためになるならと普段はしないような事をいくつもしております。
私は温室の中でカーラ様が作って下さった衣装を脱ぎ、予め用意しておいたハンガーにかけます。
靴も履き替え、普段出かけるような簡素な服になりました。
この状態で問題が起きた時にすぐに対応出来る準備だけしておこうと思います。
「キーノス殿、事が済みました……と、何故服が変わっているのですか?」
「何事もありませんでしたか?」
「……まぁ、一応は」
温室に入ってきたギュンター様が何か口篭ります。
彼も仮面だけは外し、メガネと交換されています。
私は地面に腰を下ろしていたので立ち上がり、温室の外に出ました。
「あれ、なんでアンタ普段着なの?」
先程まで居なかった猫の仮面を被った長髪の男がいます。
それに、先程までは楽しそうだったケータ様が落ち込んでいらっしゃるようですし、ゾフィ様の表情もかなり冷たい物になっています。
……地面に落ちている何本かのナイフで、何があったかは想像できます。
「姐さんの店行ったら、アンタが自腹で払ったっていうからオレ着ちゃったよ。どう? 似合う?」
軽薄な口調の男は長めのブーツと短めのマントが特徴的な装いをしております。
屋外に出たのを良いことに、私はタバコに火をつけます。
「話には聞いてたけど、タバコ似合うねー。こりゃゾフが惚れるのも分かる気がするわ」
「口を慎みなさい」
「せっかくデートのお膳立てしてあげたのにその言い方なくない?」
彼はこちらの様子を伺っておりましたが、私が反応を示さないことに溜息ついて仮面を外しました。
「ったく、無視はねーだろ無視は」
何か言ってますが、ギュンター様からの手紙の内容から考えると彼はもう無関係のはずです。
せっかくのマスカレードの最終日に衣装を着ているのですから、温室の外の市場で楽しんでくれば良いと思います。
「じゃお別れ会しよっか! 上行こ!」
彼はそう言い、温室の二階へ続く階段に向かおうとします。
立ち去るまで無視するつもりでしたが、流石にこれは看過できません。
「帰れ」
「やっとなんか返してきたよ、最後だし大目に見なよ」
「見るか、帰れ」
「オレこれからあと一ヶ月はここにいるんだし仲良くしようよ」
「お前店は出禁だ」
「えっ、嘘でしょ?」
嘘なわけないでしょう……楽観的すぎませんか?
私達の関係性が思ったより悪いことに気付いたギュンター様が間に割って入ります。
「既にコイツの辞職は了承されてますのでご安心下さい」
「そうは言われましても」
「えー反省はしてるよ? あん時はごめんねー悪い悪い」
「……とりあえずお前はさっさと帰れ」
ギュンター様の手紙によれば。
彼は店で飲み明かした後、本当にマルモワの軍から除隊することにしたそうです。
ただ彼は有能な暗部で父親が軍の上層部におり、簡単にはいかないためいくつか策を用意したそうですが……
「ネウゾロフさんの休暇中は行くつもりだったんだけど、出禁とかマジ?」
彼は師匠と共にヴァローナへ行く事にしたそうです。
師匠は彼が気に入っていましたし、暗部なら情報を多く持ってると睨んだのでしょう。
「用件は済んだのですか?」
「ナイフが失敗の良い証拠です、これでルトの任務は一応済んだとされるはずです」
「本当に良かったのですか? 無関係な私が言うことでもありませんが」
「はい。ルトの愚痴はいつも聞いてましたし、必要であればどこかへご報告して頂いても構いません。どの道俺たちは明日にはマルモワへ帰ります」
もう一つが彼の最後の任務の失敗とその報告をさせる事です。
オランディで問題を起こしすぎている自覚のあったギュンター様は、このもう一つの条件を秘密裏に満たす方法に頭を悩ませたそうでした。
とはいえ……この内容をカズロ様経由で私に手紙で頼むのですから、本当に良い神経をしています。
「ルトはもう何もしませんよ、安心して下さい」
「それは彼が言っているだけでしょう」
「いや……オレも、なんか別に良い……」
ケータ様が悲しそうに呟きます。
「ギュンターから聞いてはいたけど、本当にこんな事になるとは思わなかったから、なんかもう、どうでも……」
仮にも仲間だった方から暗殺の対象にされていたのが余程ショックだったのでしょう。
やはりこのまま暗殺者を置いておくのは悪影響です。
「とりあえずそこの長髪さっさと帰れ」
「えー、じゃあ帰っても良いから出禁解除してよ」
「してやるから帰れ」
「ホント!? あ、ついでにお願いしていい?」
「なんだよ、早く帰れ」
ケータ様が心配です。
彼には本物のマーゴ・フィオリトゥーラのショーを見て欲しいですが、暗殺者と一緒にでは楽しめないでしょう。
「ちょっと笑って見せてよ、アンタの笑顔見たら今日は帰るよ」
「はぁ?」
「いやさ、ネウゾロフさんに『キー坊の笑顔の一つでも拝めるなら大したもんだけどねぇ』とか言われててさー、ゾフとのデートで見れるかと思ったのにマジ顔動かねぇの」
「笑顔を見せたら帰るんだな?」
「お、やってくれる?」
この面倒な男がこの場から消えてくれるなら安いものです。
表情筋の動かし方なら知っています、私の顔ではさぞかし恐ろしい物になるでしょう。
ただこの男にそんな気遣いは不要なので遠慮なくできます。
私は師匠に教わった通りの作り笑顔を見せます。
「帰れ」
彼は私の笑顔を見て硬直しています、夏の別荘での出来事でも敵わない物を目にしている事でしょう。
笑顔を消し、彼が立ち去るのを待ちます。
「いやいやいや、それだけ!? もっとなんかあるでしょ!」
この人本当に面倒ですね、少し嫌がらせをしたくなりました。
そういえば、彼は師匠と共に一ヶ月過ごすとか言ってましたね。
私は再び笑顔を作り彼に告げます。
「朝はまず香水と酒のニオイの換気と消臭、脱ぎ捨てられた服を洗う事から始まる」
「え?」
「昼頃連れてきた女性が帰るから料金を支払うが、たまに延長を強請られる」
「何、どういう」
「夕方頃に起きてくるから飯と特定の銘柄のジンを出す、しばらくしたらまた出かけるがついて行ってもろくな事は無い」
「待て、それまさか」
「話したぞ、帰れよ」
私は再び笑顔を消して彼に言います。
今話した内容は、リモワに来た時の師匠の行動の一部です。
私の部屋を体のいい宿にしたため、今の部屋に引っ越す理由になりました。
今の大家さんと仲良くできているので結果としてはプラスですが。
「いやオレ、別の部屋借りたし」
「同じ宿でか?」
「まーね、面倒だったし」
「なら、お前の部屋が女性を連れ込む部屋になる」
「え」
「話はここまでだ」
とりあえず彼にはさっさとご退場頂きましょう、ケータ様とゾフィ様が心配です。
「オレ、昨日から同じ宿なんだけど……」
「なら明日の朝からか」
彼の顔が分かりやすく青くなります。
一度庁舎で脅されているはずです、結果が分かるのでしょう。
「ギュンター、また連絡する!」
「あ、あぁ。明日以降はマルモワの方に」
「じゃあまた!」
この時期リモワで宿をとる事の難しさに気づいたのでしょう、彼はやっとここから立ち去りました。
ケータ様とゾフィ様の様子を伺います。
「ケータ様、大丈夫ですか?」
「はい……なんか今はルトに同情してます」
「お優しいですね、お気に病む必要はございません」
ケータ様はサチ様と同じように優しい心根の持ち主のようです。
ゾフィ様は……なんとも捉えにくい表情をなさってますが、先程の険のある表情とは違う様子です。
事が済んだようなので、ギュンター様に向き直ります。
「一応ネウゾロフ様に一言相談しておきますのでご安心下さい」
「そこまでしていただかなくても」
「今日はこれからのショーが一番の目玉ですから、明るい気持ちになっていただけるなら安いものです」
「本当にご迷惑ばかりお掛けして申し訳ありません」
「ギュンター様も気に病まれる事はありません」
こんな口約束でもケータ様の笑顔の材料になれば嬉しいですが、難しいかもしれませんね。
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