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小さな友は嵐と共に
#2
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過ごしやすい気温の日々が続く王都では、コスモスの花が植えられているのをよく目にします。
サチ様の国ではコスモスを秋の桜と表現するそうで、桜が好きなサチ様のためこの時期にコスモスの花を植える方が未だに多いです。
夏の華やかさから落ち着いた雰囲気になった王都は、穏やかな空気に包まれています。
昨日ようやく師匠とハーロルトはヴァローナへと旅立ったそうです。
かの帝国の使節団の話を聞いてすぐに帰国するとは、本当に師匠は彼らが苦手のようですね。
もっとも、まともな術士ならあの国を避けるのは当前かもしれませんが。
本日は店で使う材料を購入し、その足で庁舎の受付に来ております。
いつもは中庭から入りますが、正面から入る事はあまりありません。
相変わらず荘厳さを感じさせる装飾は、ここが城である事を再認識させてくれます。
オランディの庁舎は過去に滅んだ王国の城跡を修復したものです。
一部歴史的価値のある部屋などは、観光のために保全されております。
オランディが「王国」と呼ばれる一番の理由がここと言って間違いないではしょう。
庁舎内をゆっくり見るのも楽しいですが、時刻は夕刻を過ぎようとしています。
ビャンコ様宛に相談の手紙を受付の人に託す事ができましたし、このまま開店の準備へ向かおうと思います。
───────
開店のため店の入口の看板を切り替えようと階段を登ったところに、一羽のカラスが私を待ち構えております。
このカラスに出会った時「手品師デビュー記念」と書かれた手紙が添えられていました。
それから屋外でずっと傍にいますが、普通の方には見えず邪魔にはなっていないようです。
しかし師匠が使うカラスが常に身近にいるのは嫌な予感しかしません。
それと高度な術式が組まれているようですが、他はただのカラスにしか見えません。
ビャンコ様に聞けば何か解決の糸口が見えるかと手紙に一言追記しました。
最近の私は以前と比べ、誰かに頼る事が多くなったように思います。
これも人との繋がりが増えた事による変化のひとつなのでしょうか。
開店後少ししてからシオ様が、続いてメル様がご来店なさいました。
シオ様はユドウフを、メル様はカボチャを煮たものをお召し上がりになっております。
店内はとても落ち着いた雰囲気で、静かなピアノ曲がよく合います。
「あの、前から気になってた事を聞いても良いですか?」
「構いませんよ、どんな事ですか?」
「シオさんってどうしてシオさんって呼ばれてるのかなーって」
「苗字がアナスターシオだからですよ」
「名前の方じゃないですよねやっぱり」
「珍しいかもしれませんね、でも子供の頃からこの呼び方なので慣れてしまって」
「子供の頃からですか? 珍しいですね」
「よくアナスターシアと間違えられるので、オを強調して言うようにしてて今のあだ名になりました」
シオ様は穏やかに笑っていますが、子供なら名前であだ名を付けられるのが普通だったはずですので、少し変わった子供だったのかと想像させます。
「この間店長に『どうしてカーラって呼ばれてるんですか?』って聞いて、名前がお兄さんと似てるのが嫌だからって教えてもらったんです」
「それは初めて聞きましたね、確かレウロ、でしたよね」
「カッコイイのにもったいないなぁって思ったんですよ」
「そうですね、それにカロージェロならジェリーとかでも良さそうですよね」
「あ、それもお兄さんがそう呼ばれるから嫌なんだそうです」
「……本当に仲が悪いんですね」
カーラ様の前でお兄様の話題は禁句ですね。
カーラ様の話題が出たためか、話題がメル様のお店の話に移りました。
「メル君はカーラのところの仕事は楽しいですか?」
「はい、元々雑貨屋で働いていてましたしお客さんと話すのは楽しいです! ただ綺麗な人ばっかりで少し緊張はします」
「そうかもしれませんね、オシャレな方が多いでしょうから」
「はい。最近リュンヌの話が出てから、店長素材の買い付けとか新しいデザインとかで大変です」
使節団が来るだけではありますが、長期に渡って滞在する可能性もなくはありません。
流石に留学と同じ期間とまではいかないでしょうけど、一日二日では済まないとは思います。
「あちらでは社交界というものがあって、夜にホールでダンスパーティがよく開かれるそうですよ」
「社交会? ですか。夜にダンスパーティなんて、楽しい人達なんですね!」
「いえ、それが身分制度と呼ばれる文化を再認識させるような意味があるそうなので、かなり緊張するそうです」
「えっ、それを踊ってですか? すごい、どうやるのか全然想像できません」
確かにそれだけ聞くと変わった風習に思えてきますね。
「カマルプールの孔雀の羽って孔雀がすごいオスなんだぞ! ってアピールするためのものって聞きました、そういう感じですか」
「ふふ、似たようなものかもしれませんね。ただ着飾るのは女性の方なのでそこは違いますが」
「へぇ! オシャレは女の戦場って店長がよく言ってますが、リュンヌの社交会でも同じ事が起きてるんですね」
孔雀の生態で例えるのがなんともメル様らしく思えます。
「シオさんはその社交会に行った事はあるんですか?」
「お誘いを受けた事はありますが、行けませんでした」
「そうだったんですか、残念でしたね」
「楽しいものではないと思いますよ、身分制度なら私は一番下ですのですぐに帰りたくなると思います」
「シオさんは踊るのが苦手なんですか?」
「あまり得意ではありませんね」
「うーん、僕も苦手なんで一番下ですね」
何か決定的な誤解があるように思えますが、結論だけは合っているのがなんとも不思議です。
「最近店長がリュンヌの文化に歩み寄った服のデザインをしてるんですけど、その社交会の話聞くと分からなくなってきました」
「どんなデザインを作ってるんですか?」
「男性のはマスカレードの時によく見た感じのなんですけど、女性の方は引きずるくらい長いすごいボリュームのスカートなんです」
「あぁ、そういう服装が主流ですね」
「ホントですか? でも踊って身分制度の差を再認識するなら大変じゃないですか?」
「だからこそでは? 動きにくくて華美な服で華麗に踊れるから、素晴らしいと言われるのかもしれませんね」
「大変だなぁ、僕はリュンヌではずっと一番下なんだろうなぁ」
「ふふ、私もです」
踊るだけではなかったように記憶していますが、縁のない話なのであれば知らない方が良いかもしれません。
身分制度がオランディで登用されることもないでしょうし、他人事と思って話をするくらいの方が楽しいものに思えます。
「そうそう、実は今日ここに来た理由がありまして」
「どんな事ですか?」
「キーノスならリュンヌに関して何か知ってるかと思いまして。仮にも『魔法の国』なんて言われてますし、魔道具といえばあの国じゃないですか」
多分シオ様が求める以上の情報を知っているかと思います。
どの辺りを話すべきなのか少し迷いますが、魔道具と言われる物の話が良いでしょう。
「おそらくご期待される情報とは異なると思いますが、それでも構いませんか?」
「どういう事ですか?」
「術士ではなくても術が使えるものと知られていますが、実際はそんな事はありません」
「え、そうなんですか?」
「はい」
私はカウンターの下の棚から千里眼が使えるメガネを取り出します。
それから背後からグラスを取り出し、見えやすい位置に置いて指を鳴らします。
ーーパチンッ
グラスが視界から見えないように隠匿の術を施します。
「見えなくなりました!」
「別荘で棚が見えなくしていた一部はこの術です」
それからシオ様に先程取り出したメガネをお渡しします。
「普通の方でも、このメガネを掛ければグラスを視認できるはずです」
シオ様は言われるままにメガネを掛けてグラスを見ます。
「確かに、はっきりはしませんがグラスが見えます」
魔力のない方なら私の扱う千里眼より効果の低い状態で見えるはずです。
「これはずっと使い続けられるものですか?」
「お知り合いに術士か魔獣がいれば壊れない限り使う事ができます」
「……なるほど」
シオ様はメガネを外し、小さくため息をつきます。
「リュンヌと取引が出来れば魔道具を使った家具が作れるかと思いましたが、難しそうですね」
「定期的に協力が得られれば可能かもしれません」
「何か心当たりはありませんか?」
「術士の知り合いに頼み続けるか、魔獣に頼むのが常套手段です」
「なるほど……」
シオ様が考えてこんでおります。
それから何かに気付いたのか、メル様に目を向け微笑みます。
「メル君も試しますか?」
「あ、僕は大丈夫です!」
「そうですか」
そう言ってシオ様はメガネを私に差出してきました。
シオ様はメル様がメガネを使おうとしないことに少し疑問を抱いたご様子ですが、別のことの方が気になっているようです。
「しかし、魔道具は評判と随分違うものなんですね」
「聞いた話ですと、装飾品として購入なさる方も多いそうです」
「ここに他にもあるんですか?」
「ございますよ」
それから私はいくつかの道具をお見せしましたが、ハーロルトの置き土産の石は出さないでおきました。
メル様は術が使える事を話すつもりがないご様子です。
その対応が本来は正しいとは思いますので、あの石に関しての話はまた別の機会に相談させて頂きましょう。
サチ様の国ではコスモスを秋の桜と表現するそうで、桜が好きなサチ様のためこの時期にコスモスの花を植える方が未だに多いです。
夏の華やかさから落ち着いた雰囲気になった王都は、穏やかな空気に包まれています。
昨日ようやく師匠とハーロルトはヴァローナへと旅立ったそうです。
かの帝国の使節団の話を聞いてすぐに帰国するとは、本当に師匠は彼らが苦手のようですね。
もっとも、まともな術士ならあの国を避けるのは当前かもしれませんが。
本日は店で使う材料を購入し、その足で庁舎の受付に来ております。
いつもは中庭から入りますが、正面から入る事はあまりありません。
相変わらず荘厳さを感じさせる装飾は、ここが城である事を再認識させてくれます。
オランディの庁舎は過去に滅んだ王国の城跡を修復したものです。
一部歴史的価値のある部屋などは、観光のために保全されております。
オランディが「王国」と呼ばれる一番の理由がここと言って間違いないではしょう。
庁舎内をゆっくり見るのも楽しいですが、時刻は夕刻を過ぎようとしています。
ビャンコ様宛に相談の手紙を受付の人に託す事ができましたし、このまま開店の準備へ向かおうと思います。
───────
開店のため店の入口の看板を切り替えようと階段を登ったところに、一羽のカラスが私を待ち構えております。
このカラスに出会った時「手品師デビュー記念」と書かれた手紙が添えられていました。
それから屋外でずっと傍にいますが、普通の方には見えず邪魔にはなっていないようです。
しかし師匠が使うカラスが常に身近にいるのは嫌な予感しかしません。
それと高度な術式が組まれているようですが、他はただのカラスにしか見えません。
ビャンコ様に聞けば何か解決の糸口が見えるかと手紙に一言追記しました。
最近の私は以前と比べ、誰かに頼る事が多くなったように思います。
これも人との繋がりが増えた事による変化のひとつなのでしょうか。
開店後少ししてからシオ様が、続いてメル様がご来店なさいました。
シオ様はユドウフを、メル様はカボチャを煮たものをお召し上がりになっております。
店内はとても落ち着いた雰囲気で、静かなピアノ曲がよく合います。
「あの、前から気になってた事を聞いても良いですか?」
「構いませんよ、どんな事ですか?」
「シオさんってどうしてシオさんって呼ばれてるのかなーって」
「苗字がアナスターシオだからですよ」
「名前の方じゃないですよねやっぱり」
「珍しいかもしれませんね、でも子供の頃からこの呼び方なので慣れてしまって」
「子供の頃からですか? 珍しいですね」
「よくアナスターシアと間違えられるので、オを強調して言うようにしてて今のあだ名になりました」
シオ様は穏やかに笑っていますが、子供なら名前であだ名を付けられるのが普通だったはずですので、少し変わった子供だったのかと想像させます。
「この間店長に『どうしてカーラって呼ばれてるんですか?』って聞いて、名前がお兄さんと似てるのが嫌だからって教えてもらったんです」
「それは初めて聞きましたね、確かレウロ、でしたよね」
「カッコイイのにもったいないなぁって思ったんですよ」
「そうですね、それにカロージェロならジェリーとかでも良さそうですよね」
「あ、それもお兄さんがそう呼ばれるから嫌なんだそうです」
「……本当に仲が悪いんですね」
カーラ様の前でお兄様の話題は禁句ですね。
カーラ様の話題が出たためか、話題がメル様のお店の話に移りました。
「メル君はカーラのところの仕事は楽しいですか?」
「はい、元々雑貨屋で働いていてましたしお客さんと話すのは楽しいです! ただ綺麗な人ばっかりで少し緊張はします」
「そうかもしれませんね、オシャレな方が多いでしょうから」
「はい。最近リュンヌの話が出てから、店長素材の買い付けとか新しいデザインとかで大変です」
使節団が来るだけではありますが、長期に渡って滞在する可能性もなくはありません。
流石に留学と同じ期間とまではいかないでしょうけど、一日二日では済まないとは思います。
「あちらでは社交界というものがあって、夜にホールでダンスパーティがよく開かれるそうですよ」
「社交会? ですか。夜にダンスパーティなんて、楽しい人達なんですね!」
「いえ、それが身分制度と呼ばれる文化を再認識させるような意味があるそうなので、かなり緊張するそうです」
「えっ、それを踊ってですか? すごい、どうやるのか全然想像できません」
確かにそれだけ聞くと変わった風習に思えてきますね。
「カマルプールの孔雀の羽って孔雀がすごいオスなんだぞ! ってアピールするためのものって聞きました、そういう感じですか」
「ふふ、似たようなものかもしれませんね。ただ着飾るのは女性の方なのでそこは違いますが」
「へぇ! オシャレは女の戦場って店長がよく言ってますが、リュンヌの社交会でも同じ事が起きてるんですね」
孔雀の生態で例えるのがなんともメル様らしく思えます。
「シオさんはその社交会に行った事はあるんですか?」
「お誘いを受けた事はありますが、行けませんでした」
「そうだったんですか、残念でしたね」
「楽しいものではないと思いますよ、身分制度なら私は一番下ですのですぐに帰りたくなると思います」
「シオさんは踊るのが苦手なんですか?」
「あまり得意ではありませんね」
「うーん、僕も苦手なんで一番下ですね」
何か決定的な誤解があるように思えますが、結論だけは合っているのがなんとも不思議です。
「最近店長がリュンヌの文化に歩み寄った服のデザインをしてるんですけど、その社交会の話聞くと分からなくなってきました」
「どんなデザインを作ってるんですか?」
「男性のはマスカレードの時によく見た感じのなんですけど、女性の方は引きずるくらい長いすごいボリュームのスカートなんです」
「あぁ、そういう服装が主流ですね」
「ホントですか? でも踊って身分制度の差を再認識するなら大変じゃないですか?」
「だからこそでは? 動きにくくて華美な服で華麗に踊れるから、素晴らしいと言われるのかもしれませんね」
「大変だなぁ、僕はリュンヌではずっと一番下なんだろうなぁ」
「ふふ、私もです」
踊るだけではなかったように記憶していますが、縁のない話なのであれば知らない方が良いかもしれません。
身分制度がオランディで登用されることもないでしょうし、他人事と思って話をするくらいの方が楽しいものに思えます。
「そうそう、実は今日ここに来た理由がありまして」
「どんな事ですか?」
「キーノスならリュンヌに関して何か知ってるかと思いまして。仮にも『魔法の国』なんて言われてますし、魔道具といえばあの国じゃないですか」
多分シオ様が求める以上の情報を知っているかと思います。
どの辺りを話すべきなのか少し迷いますが、魔道具と言われる物の話が良いでしょう。
「おそらくご期待される情報とは異なると思いますが、それでも構いませんか?」
「どういう事ですか?」
「術士ではなくても術が使えるものと知られていますが、実際はそんな事はありません」
「え、そうなんですか?」
「はい」
私はカウンターの下の棚から千里眼が使えるメガネを取り出します。
それから背後からグラスを取り出し、見えやすい位置に置いて指を鳴らします。
ーーパチンッ
グラスが視界から見えないように隠匿の術を施します。
「見えなくなりました!」
「別荘で棚が見えなくしていた一部はこの術です」
それからシオ様に先程取り出したメガネをお渡しします。
「普通の方でも、このメガネを掛ければグラスを視認できるはずです」
シオ様は言われるままにメガネを掛けてグラスを見ます。
「確かに、はっきりはしませんがグラスが見えます」
魔力のない方なら私の扱う千里眼より効果の低い状態で見えるはずです。
「これはずっと使い続けられるものですか?」
「お知り合いに術士か魔獣がいれば壊れない限り使う事ができます」
「……なるほど」
シオ様はメガネを外し、小さくため息をつきます。
「リュンヌと取引が出来れば魔道具を使った家具が作れるかと思いましたが、難しそうですね」
「定期的に協力が得られれば可能かもしれません」
「何か心当たりはありませんか?」
「術士の知り合いに頼み続けるか、魔獣に頼むのが常套手段です」
「なるほど……」
シオ様が考えてこんでおります。
それから何かに気付いたのか、メル様に目を向け微笑みます。
「メル君も試しますか?」
「あ、僕は大丈夫です!」
「そうですか」
そう言ってシオ様はメガネを私に差出してきました。
シオ様はメル様がメガネを使おうとしないことに少し疑問を抱いたご様子ですが、別のことの方が気になっているようです。
「しかし、魔道具は評判と随分違うものなんですね」
「聞いた話ですと、装飾品として購入なさる方も多いそうです」
「ここに他にもあるんですか?」
「ございますよ」
それから私はいくつかの道具をお見せしましたが、ハーロルトの置き土産の石は出さないでおきました。
メル様は術が使える事を話すつもりがないご様子です。
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