王都のモウカハナは夜に咲く

咲村門

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小さな友は嵐と共に

#3

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 シオ様とメル様はいくつかの道具をご覧になってから、夜が深くなる前にお帰りになりました。
 それから入れ替わるように現在はビャンコ様がご来店されております。
 その内来て下さると思っておりましたが、手紙を出したその日に来て下さるとは思っておりませんでした。

「魔獣か害獣って、入口のアレ?」
「はい。お客様からの指摘がありませんので、見えている方が限られているのかと思います」
「あぁ、アレ普通のカラスが術式のせいで魔獣化してるね」
「術式を解くのも良いのですが、出処を考えると対策がなされていると思いまして。それならカラスそのものをどうにか出来ないかと思い相談させて頂きました」
「たまにいるんよあぁいう魔獣。あのコどうしたの?」
「あれは師匠の置き土産です」
「……なるほど、それならオレも何とかしたいね」

 ビャンコ様の顔が滅多に見ないほど険しくなります。
 彼と師匠の接点は先日の庁舎での出来事くらいしかないと思いましたが、その時に何かあったのでしょうか。

「術式何が組まれてるか分かる?」
「隠匿、幻術、探知と追跡、転移の座標、通信系の何か、あと」
「どんだけあんの」
「術式で組めるものの大半があるように見えます」
「キーちゃんの千里眼リコノシェーレでそこまで分かるなら、サチさんが見たら鼻血出しそうだね」
「そうかもしれませんね」

 師匠は性格以外の大体のものに恵まれた方です。
 性格のせいで人には恵まれない方とも言えますが。

「そんだけ組まれてたら、多分普通のカラスに戻すと死んじゃうんじゃないかな」
「そうなのですか?」
「多分ね。あと使い魔の署名どうなってるか分かる?」
「署名とはどのようなものですか?」
「術式盛られた魔獣だと飼い主……って言い方嫌いだけど、の署名がその獣にされてる事多いんよ」
「どうでしょうか、確認の仕方はありますか?」
「その感じならキーちゃんじゃ無さそうだね。てことはアイツか……」

 ビャンコ様の表情が更に険しいものになります。

「魔獣って見つけたら話して生態と住処の確認して終わるんだけどね、場合によっては前にユメノに付けようとした植物付けたり連れてきたり」
「懐かしいですね」
「ただ元が普通のカラスだと意味ないんだよなぁ、術式何個か解くのも術士がアイツじゃあなぁ……」
「お返しすることはできませんか?」
「出来るけど、どうせ戻ってくんじゃない?」
「……仰る通りかと思います」

 こういう時他の弟子の方に聞ければ良いのかもしれませんが、全く心当たりがありません。

「なんで置いてったか心当たりある?」
「多分、私をヴァローナの術士と考えて暗殺しに来るのが誰か知るためかと思います」
「えっ」
「例の手品師の正体を公然の秘密にしてる理由がそれだと聞きましたので」
「う、わぁ……」

 あくまで推測ですが、一番確度が高いものかと思います。

「それで、どうしたいとかある?」
「カラスの術式を可能な限り解かずに私に干渉させないようにしたいです。一番良いのは、私とは無関係な謎のカラスになるのが好ましいです」
「え、そんな程度でいいの?」
「他に何かありましたか?」
「アイツに関係するものをオランディから除外する結界張るとか」
「それですと私もオランディから除外されるのでは?」
「あ、そうだわ。ごめん今のナシで」

 規模が大きすぎます、それに師匠がそれを許すとは思えません。

「でもキーちゃんの言う条件なら簡単だよ、キーちゃんにカラスの代わりになる使い魔がいればいいと思うよ」
「それで上手くいくのですか?」
「普通なら微妙な方法だけど、カラスなら頭良いから自分の天敵になりそうなものに近寄らなくなると思うよ。それに暗殺者を知るのが目的なら『今後はその使い魔から情報飛ばすんで!』って手紙つけてアイツにカラスを返せると思うし」
「なるほど、確かに仰る通りかと思います」

 確かにビャンコ様の言う通りならカラスに関する問題は解決しそうです。
 それでもいくつか心配な点はあります。

「私が術士だと気付かれる事にはなりませんか?」
「遠くにいるように頼めば良いし、さっきの署名も本当は調べるの大変なんよ? オレはそのコに聞くだけて済むけど、本来は連れて回って『このコの飼い主誰ですかー』って聞かなきゃならんのよ」

 そう言った後で「あ、あとであのコに聞いてみよ」と小さく独り言を言います。

「見ることが出来ないのですか?」
理解カピーレ使いこなせてたらできるかもしれないけとまずいないし。血の契約なら署名なしだけど、獣側がだいたい嫌がるし」
「結構複雑なのですね」
「ま、オレはどれもやってないけどね。グリフォン達ともただ仲が良いだけだよ」

 それが普通ではないから、諸外国で有名になっているのでしょう。

「カラスの天敵になるものの心当たりはありますか?」
「猛禽類か蜂だけど、猛禽類の方がオススメだよ」

 正直蜂の方が私には良さそうに思いましたが、ビャンコ様が仰るならそうなのでしょう。

「では、魔獣で心当たりはありますか?」
「あるけど、この辺にはいないかも。アイツと同じように術式重ねて魔獣にしちゃう方が良いかもね」

 私の都合で魔獣にしてしまうのは気が引けますので、可能であれば最初から魔獣の方が良いかと思いましたが。
 こちらもビャンコ様のご様子ですとそれ程問題ではないように聞こえます。

「掛けられる方に負担にはならないのですか?」
「嫌がるコは滅多にいないし、むしろ喜ばれる事のが多いね」

 先程血の契約は嫌がられると聞きましたが、術式を掛けるのは嫌がられないのですね。
 この辺りの考え方は私にはよく分かりませんが、掛けられる側が同意してくださるなら問題ありません。
 そうなると、どなたに掛けるべきかは少し悩みます。

「猛禽類なら……フクロウグーフォファルコは避けたいですね」
「じゃあニッビオは?」

 鷹の一種だったように記憶してますが、カズロ様の印象とは異なるので問題はなさそうです。
 しかしニッビオは広い空を翼を広げ飛ぶ姿がとても自由な印象です。
 鳴き声も伸びやかな印象が強く、あまり拘束したくないと考えてしまいます。

「仮に術式を掛けたとして、どのくらい拘束させてしまうものなのですか?」
「内容次第だと思うよ。呼んだ時だけ来てねとか、普段は遠くにいて好きにしててねとか、なんとでもなるよ」
「なるほど」

 そうなると近日中にニッビオを探しに行くのが良さそうです。
 簡単に見つかるものかは分かりませんが、魔獣化したカラスが常に私の周りにいる状況を変える方針が見えてきました。

 それからビャンコ様はウラガーノをトックリから注ぎ、一口飲みます。

「……それでさ、手紙にあったミヌレって本当なの?」

 ビャンコ様宛の手紙にカラス以外にハーロルトから聞いた貴族の名前を記載しました。
 今日来てくださった理由はこちらが大きいかもしれません。

「その情報を得た師匠がすぐに帰国するくらいですから、間違いないと思います」
「どうしよう、オレもどっか逃げようかな……」
「一応メル様にもお話しようと考えております」
「そだね、術士ってバレないようにした方が良いよね」
「先日術士を探す手段の対抗策を見つけましたので、そちらも併せてお話しようかと」
「え、そんなのあるの?」
「ございますが、ビャンコ様は有名ですので意味がないかと思います」
「……それもそうだね、でも一応教えてよ」
「分かりました」

 私はカウンターの下から例の宝石を取り出し、先日ハーロルトと話した内容をビャンコ様に告げます。

「へぇ、アイツ結構すごいんね」
「師匠が気に入るのが分かる気がしました」
「ちょっとその石貸して、オレも試してみたい」
「構いませんが、ここでですか?」
「魔力無くせば良いんでしょ? 使い切るからちょっと見ててよ」
「お断りします、お貸ししますので別の場所でやってください」

 魔力を使い切るおつもりなのでしょうけど、彼の場合冗談では済まなそうなので外でやって貰いたいです。

「でも魔力に反応するかぁ、オランディで探すの大変だったろうなぁ。ちょっとアイツに同情するわ」
「そうなのですか?」
「オランディって精霊さん多いんよね。リュンヌはほとんどいないから問題なく使えるだろうけど、オランディならチカチカ光る程度にはずっと反応するんじゃない?」
「ここではそんな事ありませんでしたが」
「だってここ結界張ってるでしょ? そういうとこにはあんまいないの」

 リモワに来てかなり経ちますが、まだ私は知らない事が多いのかもしれません。
 もし今のビャンコ様の話が本当なら、ハーロルトの日記に嘘は無いのかもしれません。

「キーちゃん明後日空いてる?」
「はい、特に予定等ございません」
「じゃあ明後日ニッビオ探しとコレの実験しに行こうよ、オレ休みだし」
「分かりました、明後日ですね」
「うん、この石預かっても良い?」
「構いません」
「あんがと」

 明後日ならかの帝国の公爵が来るまでには間に合うかもしれません。
 しかし、私に使い魔など大丈夫なのか疑問です。
 試してはみますが、ビャンコ様にかなり頼る事になりそうです。
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