王都のモウカハナは夜に咲く

咲村門

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余談集

疑惑の仮面が踊るパレード : ハーロルトのオランディライフ

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一日目、初春

 一応軍事国家の暗部のトップの親父は、派閥争い大好きで信仰深い分かりやすく胡散臭いオッサン。
 そんな親父を見て育ったせいか、オレは派閥争いも宗教も嫌い。
 でもデキる息子に育ったせいで巻き込まれ人生まっしぐら。
 貯金貯めていつか勘当されてやる! と誓うこと十数年。
 目標額には届いてないけど、留学の話聞いて本気で家出を考え始めた。

 留学先でケータの暗殺して来い?
 術士探して連れてこい?
 ケータの術なんとかする方法見つけてこい?

 派閥争いしすぎて脳みそ溶けたか?
 なんでオランディに半年行くだけで解決すると思ってんだよ。
 術士連れてこいって、局長の筆頭術士拉致しろと?

 この辺りをまろやかに伝えてみたら、答えがまさかの「神のお告げ」。
 だったら教義通りあっちで幸せになってくんねぇかね。
  たださすが暗部のトップ、オレ留学の護衛のリーダーだってよ。根回し怖ぇ。
 オレはオレの意思なんか関係なく、マルモワの軍人としてオランディ滞在が許された。こういうのが嫌い。

 前からオランディは「ヌルい国だな」なんて思ってたけど、実際着いて見学済んだあとで認識が変わった。

 グリフォン、でかい!
 キバもクチバシも爪もでかい、なんか目つきも怖い!
 しかも何十頭もいる、でもすごく局長さん達に懐いてる……術士ってみんなこんな?
 それに騎士団も優秀、ギュンターでも勝てなそうな人が何人もいる。
 こりゃ平和だよ! ヌルくねぇ!

 他にもこの国にはかなりの数の魔獣が色んな場所にいるそうだ。
 ウチの坊が腕試しに挑もうとしたサラマンダーもどっかにいるらしい。

 ……マルモワウチの術士、ヤバい。
 害獣倒すの趣味にしてる筆頭術士とかヤバい。
 少しだけ親父の指示の意味が分からなくもない気がする。
 留学初日で色々思い知った、軍事国家なのに商業国に勝てる気がしない。この国ヤバい。


三十三日目、春

 大分オランディ生活に慣れてきたせいか。
 ウチのおバカな次期首相が、お似合いの寝言をオランディの防衛局に言ったらしい。
 模擬戦出たーい、術士でやりたーい!
 ってアホか、ならオレの代わりに出ろよ、なんて思ったけど……コレ、チャンスじゃないか?

 試しに焚き付けて例の局長さんの実力見ようと思ったら、替え玉出してきた。
 手品師? ナメてんの? と思ってけどまさかの圧勝。
 術士ヤバい、一応あの坊やもマルモワではかなり強いんだけど、全然お話にならなかった。
 でもよく考えたら、オレがあの手品師スカウトできたら親父からの課題全部解決だよな。
 ギュンターも賛成するだろうから協力頼めるし。

 手品師の正体で怪しいのはあの団長様のお気に入り君だよな。
 若いバーのマスターが団長と昔馴染みってのが既におかしい、しかもあの店局長が二人よく行くみたいだし? なんかあんだろ。


四十二日目、春

 一応探り入れてみたら、あの人本当に国からの依頼で三ヶ月前女に崖から落とされてた。
 しかも理由が告られたの振ったからとか、可哀想すぎる。
 怪我が完治してたと思えないし、そんな奴に模擬戦の依頼しないよな。
 明らかにマルモワ語の会話理解してるし物凄く怪しいけど、手品師とかそういう事する人にも見えねぇ。
 あんな表情筋死んだ整った顔面で「手品師でございます!」とかどんな顔して言うんだか。

 まーでも模擬戦の時に職員の集まり方見てると、あの手品師有名人なんだろ。
 軍事国家なら分かるっしょ、資料早くこねぇかな。
 そんくらいのサポートは頼んでも良いだろ。


五十一日目、春

 思ったより早く返事が来たけど、内容が本気でヤバい!
 ヴァローナの筆頭術士!? アレが!?
 あるいはその弟子って書いてあったけど、多分弟子だよな? 本物だったら本気でマズい!
 こんなの予想出来るわけないだろ!

「ギュンター! 飲み行こう!」
「え、いまから?」
「じゃあ紅茶でもいい!」
「? あぁ、分かった」

 察しが悪い、堅物メガネ! 今回の人選、親父分かっててやってんの?
 とりあえず外に出て、歩きながら術士の情報を見せた。
 騎士団長の家の中で話せねぇよ流石に。

「……なら、あの手品師はヴァローナの関係者か?」
「そうだろ、ヤバいぞ……今あっちの国境に偵察隊送ってんだろ、バレててあの模擬戦で牽制してきたとかじゃねぇよな……」
「……とりあえず報告しよう。ケータさんの名誉のため黙ってたけど、国境の件が知られてたなら危険だ」
「頼む、オレは術士探す道具もらったからリモワ探るわ」

 送られてきた書簡には光る石が入っていた。
 術士が近くにいると光るらしいけど、今水色に光ってるのはウチの坊か?
 つまりコレでリモワの手品師の正体つかめと。
 この広い上に人の多い都市歩き回れと……。


五十四日目、初夏

 とりあえずあの石、ウチの坊と白い局長さんで色々試してみた。
 ウチの坊は水色、同じ建物にいると光る。
 白い局長さんは白銀色、五メートルくらい近くにいないと光らない。
 どっちも術を使うと光が強くなって、壁越しだと反応が薄い。
 多分訓練とかの差だろうな、それならあの手品師は白い局長さんと同じかな。
 一応伝手を頼って石の反応無くす方法も調べたけど、そっちは何とかなる。

 なんとなく仕組みは分かったけど、点滅するの何?
 点滅ってかで薄く一瞬光って消えるの、しかも決まった色じゃない。
 試しに点滅したのを追っても何も無い。
 何これ、この石壊れてんの?
 マジ親父許さねぇ、例の宗教にハマってんならその通りにしろってんだ。


五十七日目、夏

 点滅の理由、分かった。
 この石、魔獣とか精霊とかにも反応するらしい。
 グリフォンの近くに行けた時試したら、局長さんと似た反応が出た。
 何も見えないけど一瞬光るのは多分精霊がいるからなんだろう。
 謎は解けたけど、手品師探しの難易度が上がっただけかよ!

 いい加減書簡の返事出そう。
 この石使えるのわかったからとりあえず探すって言っとくか……。


八十六日目、夏

 半端に光る石を持ち歩いてリモワをうろつくこと一ヶ月。
 ウチの坊といると反応するから護衛は極力避けるようにした。
 ゾフィが護衛するのが基本になりつつあるけど、苛立ちが溜まってるのは分かる。
 多分今回志願したを探したいんだろうけど、仕事してくれ。
 ギュンターもゾフィかウチの坊と話すのは辛いだろう、あの二人話聞かねぇし。
 でもオレも毎日点滅する石と歩くの辛い。
 光る位置とパターンは覚えた、リモワの魔獣マップ作れる。
 でもそろそろ変化がほしい、暑い。


九十七日目、夏

 ついに変化と遭遇した!
 しばらく黄色く光って消えた。局長さんが通った時と同じ光り方!
 夕方の港は魔獣も人通りも多いけど、可能性高いと思って入口張ってて正解だった。
 この黄色い光はオレにとってすごく嬉しい! 希望の光!
 模擬戦の手品師じゃなさそうだけど、そっちはもう半分諦めてる。
 オランディの暗部なんじゃねぇかな、聞き込みでも何も出てこねぇし。

 それから留学に関すること以外の時間は、この黄色を追って歩き回った。
 結果、娼館とか高級クラブの多い辺りに着いた。
 この辺なら既に調べたし、前は変わった反応はなかった。
 何か情報があればと思って手近のバーに入った。開店してすぐだからか、客も多くない。

 そこで分かった事と言えば、最近ここらですごく長身の派手な格好の旅行者がいるらしい。
 ソイツが随分モテるみたいで、その上金持ち。
 リモワの娼館の女の子は合意無しに関係は持てない、お金払ってもダメはダメ。
 だからちょっとした噂になってるみたいだった。

 派手な男なんて見かけた覚えないけど、時期は一致する。
 もしソイツが術士なら、スカウトするだけでも親父の課題に対応したって言えるよな。
 目立つ男なら探すのは楽だろ、点滅する石頼りに人探しするよりは遥かに。
 リモワで一番大きい娼館によくいるらしいから、明日早速張り込んでみよう。
 本来人探しってこういうのだよね、光る石見ながら歩き回るもんじゃない。


九十八日目、夏

 出てきた……すごく、派手な男が。
 女が腕に絡みついてるよ、すごいなアイツ。
 服のセンスは悪くないしあの長身なら分からなくは無いけど、リモワの優男に慣れてるはずの女があの反応。
 余程性格が良いのかね。

 とりあえず気配絶って尾行して、何か情報得られるか見てみよう。

「あなたの部屋行くの、楽しみ!」
「そう? あ、どこかで飲み直すのも良いけど部屋でにする?」
「お部屋で飲みたーい! ピンクのかわいいシャンパーニュが良いなぁ」
「良いねぇ、途中で買ってこうか」
「嬉しい! ありがとうフロルさん!」

 偽名かどうかはともかく、名前はフロルね。
 それから酒屋に行ってシャンパーニュを数本とグラスを買ってから宿に。
 宿泊先も把握。
 夜も遅いし、受付に人いなくなったら宿帳見てみよう。
 最近来た客でフロルって名前探せば誰かは分かんだろ……って、ここ一ヶ月の中では一番順調だと思ってた。

 は、ネウゾロフ……?
 本物のヴァローナの筆頭術士!?
 あの手品師と特徴が違うから別人なのは分かるけど、偽物探してて本物引き当てるとかありえねぇ!

 ヴァローナの国境どうなったんだ!?
 ダメだ、これはやばい! すぐにギュンターに相談しよう。


百十二日目、晩夏

 オレ、暗部なんだなって改めて思った。
 ギュンター、先に手回してウチの坊の護衛に戦線から小隊引っ張って来てやがった。
 暗部三人くらい送ってくんねぇかなーとは思ったけど、そりゃベルツさんとこの長男の依頼ならそうなっちゃいますね。

 ねぇ、なんでメガネはメガネなの?
 オレ達ただでさえ騎士団長の家に寝泊まりするとか軽く国際問題起こしてるのに、護衛で小隊呼ぶ?
 確かにヴァローナの筆頭術士とか無理だよ、でもアイツも馬鹿じゃないから正面切ってオレたちに喧嘩売るわけないでしょ?

 もうヤダ、ギュンター怖い。
 オレから連絡して基本は小隊に任せよう、ギュンターよりその辺分かってくれるはず。


百二十五日目、晩夏

 来た、来たぞ!
「明日午後、対象、弟子と都外へ出る」
 弟子付き!
 小隊いるのバレたら多方面にヤバいんで潜伏させて正解だった!
 とりあえず小隊のヤツらなら下手なことしないだろうし、弟子の特徴掴んどいてって返しておいた。
 明日楽しみだな、オレのリモワ散歩がやっと終わる!


百二十六日目、晩夏

 ネウゾロフ、怖い。
 帰った頃に連絡あれば良いなぁなんて思ってたらご本人来たよ。
 術士って何、あの手品師と言い白い局長さんと言い、人間? 新しい魔獣じゃないの?

 小隊のヤツら、ネウゾロフ倒そうとしたんだって。
 ギュンターも知らなかったみたいで、ネウゾロフと会った時マジでビビってた。

 小隊、ヴァローナに送ったって。
 休暇だから邪魔すんなって。
 さっきの雷の音聞こえたよねぇ? だって。
 意味分かんねぇけど「ハイ」しか言えねぇよ。

 なんか今日はどっと疲れた。
 解決すると思った問題が悪化するとかある?
 誰がこんなに状況予想できたよ、親父が受けたとかいう「神のお告げ」?
 オレのこの疲れとかやるせなさとかもそのせいなの?

 最近、ウチの坊のアホさが直ってんだよね。
 相変わらず勉強出来るおバカさんだけど、よく分かんねぇこと言わなくなったし、化粧もしなくなった。

 親父派閥ヤバいんじゃない?
 また面倒ふっかけられんのかな……。
 帰りたくねぇな、マルモワ。

 術士探せって言ったのは親父。あと神様?
 例の手品師の模擬戦やるきっかけは坊ちゃん。
 小隊呼んだのはギュンター。
 ネウゾロフ襲ったのは小隊。

 誰のせいとか言いたくないけどさ、ネウゾロフもオレも手品師も巻き込まれてるだけじゃねぇの?

 のんびりオランディ観光したいなぁ、オレ名目上は留学に来てんだよな。


百五十日目、秋

 リモワって飯美味い。
 好みに合うのかな、最近術士探しを理由に色々サボって散歩してる。
 どうせ見つかんねぇけど、探すのやめる訳にいかねぇし。

 夜、たまにネウゾロフ見かけんだよな。
 アイツ目立つしいつも楽しそうだし、マジ休暇なんだな……
 やってる事はオレもほとんど同じだけど、全然違うなぁ。

 前に団長さんに連れてってもらったバー行ってみようかな。
 あそこ白い局長さんと統計局の天才いるらしいんだよな。てか団長もか、報告だけならネウゾロフも?
 ……やめとこ。
 あそこなんか気が緩むんだよな、今行ったらオレ酔っ払っていらん事言っちまいそう。


百六十一日、秋

 留学の最後の日に祭やるってな。
 留学お疲れ様って意味でみんなに貸衣装くらい奢ってやろうかな。
 ゾフィはウチの坊の世話してたし、ギュンターはふざけんなとも思ったけど、オレの代わりに色々してくれたし。
 オレも、結局楽しかったんだよな。目的は達成出来なそうだけど。

 それで「思い出になれば良いかな」くらいの気持ちで入った服屋で、まさかの大当たり。
 光ったよ、石。
 ウチの坊の水色でも白い局長の白銀色でも、ネウゾロフの黄色でもない。
 綺麗な若草色、しかもずっと光ってる。
 光り方は白い局長さんと似てる、術士のソレだ。

 まずは客の中かと思ってほぼ一日店の入口近くで張ったけど、出てくるやつで黄緑の光る奴はいなかった。
 なら店員か。
 閉店して出てくるのを裏口で張ろう。

 出てきた、巻き毛の濃い顔の人と若い兄ちゃん。
 さっき店の中にいたし、今光ってる。
 聞こえてくる会話からすると、これから飲み行くっぽいな。
 尾行して、話しかけられそうなら話しかけてみよ。

 店、団長が紹介してくれたバーかよ!
 まじか、ここ張ってたらすぐ会えたかもしれないのか。
 でもここなら服屋の二人に話しかけやすいから良いかな。
 少し時間置いてからオレも入ろう。

 なんつーかね、やってらんねぇよ。
 ケータと白い局長での実験でさ、術士が二人揃うと向きに応じて色分かれるのは知ってたよ。
 店入ったらさ、黄緑と青紫に光るんだよね。
 そうかいそうかい。
 この無駄に整った顔のマスターさん、術士かよ!
 オレの最初の勘大当たりかよ、てか骨折しててあの模擬戦やったの? 術士って骨くっつくの早いの?
 黄緑は、なんとなくメル君の方だろ。

 しかしあと一ヶ月しかない、どうするかな。
 見つかったは良いけど、マルモワに連れ帰るのもなぁ……最初の頃はヴァローナの関係者だなんて思ってなかったし、この人説得とか無理そう。
 メル君は軍とか向かなそう。
 あ、そういや異世界人消す方法あるとか言ってたな。
 簡単に言うか? 多分突き落としたからじゃねぇの? と思うけど。
 ウチの坊が害獣無駄に殺さないのとか見ると、多分ソレなんだよな。
 この情報の確証得られればいっか。
 一ヶ月したら出てくし、今更手段なんかどーでも良いか。


百六十一日目、秋

 オレ、マルモワ軍辞めるわ。

 昨日メル君みたいな良い子脅迫手段に使って、あっさり回避されて、なんか本当に馬鹿らしくなった。
 それで久しぶりにこれでもかってくらい飲んで、マスターさん相手にヤケクソ気味に粘った。
 「帰れ」と「知るか」しか言われなかったけど、本当にそうだよな。
 親父の事情とか知らねぇけど、帰ったらまた昨日みたいなヤな事を色々やる羽目になる。「知るか」だけど「帰れ」はやだなって思った。

 良い人だよ、あのマスターさん。
 帰れって言うだけだし、結局愚痴聞いてくれてるし。
 まぁ骨折してんのに模擬戦代理で出るくらいなんだから、良い人に決まってるけどさ。

 でもオレが辞めるってなったら、絶対暗部の連中来る。
 オランディの人ら絶対引き渡すよな、今までオレ達がやった事考えると。

 どうしよ、でももう戻る気本当にない。
 ギュンターに交渉しよう、前からちょっと話してたし。


百六十六日目、秋

 今日も全く無意味な術士探し、最近はただの観光になってるけど。
 それが夕方いきなり後ろから声掛けられた。
 暗部のオレに気付かせないとか、例のマスターさん?
 と思ったらネウゾロフ。
 え、何? 怖いんだけど。

「暇でしょ? 飲み行こうよ、つもる話とかあるよねぇ」

 オレもうマルモワ兵辞める気なんでつもる話とかないっす。
 と思ったけど、この人相手に何か出来るわけもない。
 奢りだといいな、金持ちそうだし。

 渡りに船、だっけ? タイミング良く機会が訪れるのって。
 スカウト受けたよ、オレが! 二つ返事で受けたよ!

 きっとマスターさんが何か話してくれたんだ、あの人なんて優しいんだろう。
 表情筋死んでるし目付き怖いけど、あの潔癖ねーちゃんが五年も片思いするの分かるなぁ。


百八十日目、秋

 持つべきものは頼れるギュンター。
「ケータさん暗殺を予定してたオレは今オランディ国内で逃げてます、ヴァローナの筆頭術士と亡命しようとしてます」
 ベルツ父、そして長男。
 ありがとう、本当にありがとう!
 小隊呼んだ事はこれで許す!
 暗殺失敗も手配してくれた、ちょっとした茶番をやってくれって。

 きっとあの優しいマスターさんなら協力してくれるよ。
 口は悪いけど優しいからあの人!
 あの人にはなんか礼がしたいな、ヴァローナから薬草でも送ってやろうかな。

 サヨナラ親父とマルモワ。
 オレ、ヴァローナでネウゾロフさんと幸せに暮らします!

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 キーノス殿、本当に申し訳ありませんでした。
 この日誌は俺に渡されましたが、内容が内容なのでマルモワに持ち帰る事も出来ず廃棄することを考えました。
 しかし、最後に彼からあなたへの感謝の言葉が多かったので、それを伝えたいと思いお渡しすることにしました。
 あなたには俺も感謝が尽きません。
 姉の事をはじめーー


 ……ギュンター様は二通目のこの手紙から、とても実直で真面目な方なのはよく分かりました。
 彼は私ほどではないのかもしれませんが、他の方の感情などの機微に疎いのかもしれません。
 姉であるゾフィ様が隠したい振る舞いをする内容をスラスラお話になったり、ご自身の用が済んだらお会計を済ませて帰ってしまうなど、心当たりはあります。

 これをイザッコ経由で受け取る私の複雑な心境をご想像頂くのは難しいことかもしれません。
 しかし、この日記はどうしたら良いのでしょうか。
 取り急ぎ師匠にでも送っておきましょう、彼への感謝も綴られているようですし。
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