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海辺の桜が夜に舞う
#1
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花が飾られたテーブルの上に青いお茶が四つ並び、小さなドルチェが同じ数だけ各人の前にあります。
イチゴが上に乗った可愛らしい物でしたが、私のドルチェのイチゴは配られた時に奪われています。
「キーノスさん、文句を言って良いかと」
「こうなると思っておりましたので構いません」
「本当にビャンコさんと仲が良いんですか?」
「仲良いよ、髪切ってあげたことあるし」
正確には燃やした事ですよね。
シアン様との会話の途中で、エルミーニ様とビャンコ様の来訪が告げられました。
お二人を案内した侍女の方からドルチェが配られて今に至ります。
その時に私の荷物や上着なども返して頂けました。
「現状のお話をするなら、ミヌレ公爵家の関係者は全員庁舎の牢に移動させてます。キーノスさんに関しては逆にここの方が安全と判断されまして」
「オレが三日で起きて何も無かったし、動かさない方が良いかもしれんし。騎士は常駐させてるし」
「……まずは侯爵は今回の件の協力者だと言うことをきちんと説明すべきかと」
一応シアン様からその辺りは一通り聞いております。
エルミーニ様もビャンコ様と別れてからまともに会話出来たのは今日になってからだそうで、簡単な話はここへの道中で聞いたそうですが、詳細はご存知ないそうです。
「仲良くしている方に毒を飲ませるような作戦など思いつくその神経が信じられません」
「オレが飲んで無事だったからキーちゃんもイける! と思って」
「ビャンコ様も飲んだのですか?」
「そうだよ、委任状書きに帰るまで別邸で気ぃ失ってたみたいなんよ」
そんな簡単に話すような事でしょうか?
「帰宅出来たのなら戻る必要がなかったかと、何故二週間もこちらに?」
「うーん、どう説明したら良いかな……」
眉間に皺を寄せながら、ビャンコ様が順を追って説明を始めました。
きっかけは迷子を見つけた事だそうです。
ビャンコ様は委任状を書きに戻る三日前、かなり冷え込んだ夜の帰り道で、薄着の女児を見つけ家まで送り届けたそうです。
その時彼女からお礼なのか酷く苦い飴を渡され、その場で食べるようにその女児に促されたとか。
「食べますか普通?」
「だって家暗かったし、呼び鈴鳴らしても誰も出ないし。それでも家入らんし、そのまま置いて帰る訳にもいかんし、飴を食べるまでずっとこっち見てるし」
「……それがあなたの気を失わせた毒なら、その子供は末恐ろしいですね」
「今思えばその子奴隷だったんだろうね、オランディにいるわけないから分からんかったんよ」
それから目が覚めたらこの別邸の客室にいたそうです。
この時点で客室を出てくれば良いと思うのですが、そこで彼は自分に起きた変化に驚いたそうです。
「起きてすぐ状況確認しようと思って、精霊さんに声掛けようとしたらいつもより多くて。リュンヌの奴らいるのに変だと思ったら、魔力増えてるって言うんよ」
「なんですかその魔力って」
「術使う時に使う力というか、運動するとお腹空くじゃん? なんかそういうの」
「ロウソクに火をつけるとロウが減るようなものですか?」
「んー、まぁそんな感じの?」
術に縁のないエルミーニ様ならそのご質問は当然かと思いますが、私としてはビャンコ様の仰った内容そのものが気になります。
「魔力量が増えるなどありえるのですか?」
「精霊さんが嘘つくとかありえんよ」
「理由に心当たりはございませんか?」
「あの飴だと思うんよ、てか他に心当たりないし」
相変わらずビャンコ様の精霊に関しては理解が及ばない所が多いです。
今度機会があれば聞いてみたいとは思います。
「それでさ? 状況は一服盛られて拉致監禁されてんだけど、魔力量増えてるし豪華な部屋で寝かされてるし? これで部屋ぶっ壊して逃げてもさ『倒れてた所を介抱してただけ』って言われたらそれまでだと思って」
「そうかもしれませんが」
「むしろ部屋ぶっ壊した分オレが不利になるかもしれんじゃん、今までのこと考えると言い逃れされるの目に見えてるし」
「意外と冷静に考えてたのですね」
「というか、多分どうしてやろうか考えてる内に冷静になったんだと思うわ」
目が覚めてから公爵夫人と軽く会話をしてから、一旦秘密裏に帰宅し部屋に委任状を残してまた戻ったそうです。
ここが一番意味が分かりません、そのまま戻る必要はないと思います。
「でも考え方変えたらコイツら永久追放出来るチャンスって気付いて、オレを二週間軟禁した実績作ってやろうかと思って。ポンちゃんが貴族の奴ら追い返さなかったみたいに」
「否定はしませんが、交流会はなぜ開こうとさせたのですか?」
「一服の証拠ないとオレただ遊びに来てるって話になるよね、その証拠をどう出させるか考えてさ」
ビャンコ様がドルチェの上の苺を口にして話を続けます。
「多分あの飴とは思ったけどさ、クソ貴族が素直に出す訳ねぇし」
「その、まさか、その毒を出させるために? 招待客全員に毒を盛るような事を?」
「そうでもないの! アイツ、オレが目覚ました時に毒の説明してきたんよ」
目が覚めてからその後の方針を悩んでいたビャンコ様の元に公爵夫人が訪れ、妾になるか男娼になるか交渉されたそうです。
それに対し過去の事も含め散々嫌味を言ったところ、激昂した夫人から「あの飴を食べさせる」と脅迫を受けたそうです。
「飴が何? お前飴食ったら気絶すんの? ドルチェが食べられないとか哀れ~! とか煽ったら『術士か魔獣にしか効かないわよ、あの時の女に飲ませてやれば良かったわ!』とかなんとか、マジで頭悪いって思ったわ」
「ありえない話では……最近の事情聴取を聞いてると」
「多分お茶会やりたがってたのは術士探しだろうね、術士だけに効く都合の良い毒飲ませれば良いんだし。狙いがサチさんかキーちゃんか分からんけど、オランディに三人は術士いるのは知ってるはずだし」
確かに過去を振り返ればそうですが、名簿の中に私の名前はなかったはずです。
それなら毒を盛ること自体しなかった可能性も……
「何をしたのですか?」
「お目当ての奴いるかもねとは言ったよ?」
私の参加を促す文章などを考えると、ビャンコ様が何かしたと考える方が自然です。
「つまり、全ては帝国貴族の国外追放と毒の特定のためにあなたが単独で仕組んだ事ですか?」
「あと言い逃れさせない為だね!」
やりすぎです、もう少しやりようがあったように思います。
「ミケさんとドゥイリオさんには説明したよ、キーちゃんは無事だって」
「ビャンコ様自身が危険だとはお考えにならなかったのですか?」
「アイツらの目当てが術士ならオレが殺されることは無いし、逃げようと思えば逃げれたし」
「もう少しご自身の事を考えてください」
「それ、キーちゃんがオレに言うこと? そのまんま言葉返すよ」
「私は……」
オーガだから余程の事が無ければ死ねません、という言葉を飲み込みます。
「有り得た可能性でさ、オレを気絶させたまま帰国するかもしれなかったでしょ? そうしたらキーちゃんどうした?」
「おそらく、師匠か誰かを頼りつつかの帝国に向かうかと思います」
「オレはそれが嫌だったんよ」
「しかし私に毒を飲ませてます」
「魔力量キーちゃんも増えるなら良いかなって」
「せめて委任状に一言添えてくれれば良かったかと」
私達の言い合いにエルミーニ様が参加なさいます。
委任状には交流会の開催と私に参加するように書かれていただけで、毒を盛る可能性など書かれておりませんでした。
「書いたらやらなかったでしょ?」
「当前かと」
「まぁ良いじゃ︎万事上手くいったし! オレの作戦通り!」
何だか、もう何も言う気になれません。
心の底から呆れます、結果だけ言えば成功してますがあくまで結果です。
この楽観的な考え方はどうにかならないものでしょうか。
「とりあえずオランディからミヌレの連中永久追放出来るはずだし、接触禁止も保証されると思うよ。これでキーちゃんがアイツらに隠れて過ごす日々は終わりで大丈夫!」
「侯爵にもキーノスさんが術士と知られてしまいましたが、国として色々と措置することになります」
年末からの騒ぎが、全て私が寝ている間に解決したようです。
色んな思惑も解決したかに見えますが、お二人がここに訪れる前に聞いたルネ様の処遇はどうなったのでしょうか?
出来れば使いたくはない表現ですが、これで伝わるでしょう。
「彼らの所有物はどうなりますか?」
「全て侯爵の判断に委ねる事になりました、後で報告はしてもらう予定ですが」
それではシアン様が望みは叶うのではないでしょうか?
しかしシアン様はビャンコ様とエルミーニ様が来てから青ざめた顔をしたまま言葉を発しません。
「そうですよね、ボイヤー侯爵?」
エルミーニ様がやや語気を強めて仰います。
「は、はい! 逆らわないので安心してください!」
「ビャンコさん、脅しすぎかと」
「そう? 仮にもクソ貴族だからってやりすぎた?」
この辺りになってきますと、私はもはやただの一被害者です。
二日気を失っていたのなら最長で三日はお店を空けた事になります。
体調不良などもありませんし、早く帰らせていただきたいです。
イチゴが上に乗った可愛らしい物でしたが、私のドルチェのイチゴは配られた時に奪われています。
「キーノスさん、文句を言って良いかと」
「こうなると思っておりましたので構いません」
「本当にビャンコさんと仲が良いんですか?」
「仲良いよ、髪切ってあげたことあるし」
正確には燃やした事ですよね。
シアン様との会話の途中で、エルミーニ様とビャンコ様の来訪が告げられました。
お二人を案内した侍女の方からドルチェが配られて今に至ります。
その時に私の荷物や上着なども返して頂けました。
「現状のお話をするなら、ミヌレ公爵家の関係者は全員庁舎の牢に移動させてます。キーノスさんに関しては逆にここの方が安全と判断されまして」
「オレが三日で起きて何も無かったし、動かさない方が良いかもしれんし。騎士は常駐させてるし」
「……まずは侯爵は今回の件の協力者だと言うことをきちんと説明すべきかと」
一応シアン様からその辺りは一通り聞いております。
エルミーニ様もビャンコ様と別れてからまともに会話出来たのは今日になってからだそうで、簡単な話はここへの道中で聞いたそうですが、詳細はご存知ないそうです。
「仲良くしている方に毒を飲ませるような作戦など思いつくその神経が信じられません」
「オレが飲んで無事だったからキーちゃんもイける! と思って」
「ビャンコ様も飲んだのですか?」
「そうだよ、委任状書きに帰るまで別邸で気ぃ失ってたみたいなんよ」
そんな簡単に話すような事でしょうか?
「帰宅出来たのなら戻る必要がなかったかと、何故二週間もこちらに?」
「うーん、どう説明したら良いかな……」
眉間に皺を寄せながら、ビャンコ様が順を追って説明を始めました。
きっかけは迷子を見つけた事だそうです。
ビャンコ様は委任状を書きに戻る三日前、かなり冷え込んだ夜の帰り道で、薄着の女児を見つけ家まで送り届けたそうです。
その時彼女からお礼なのか酷く苦い飴を渡され、その場で食べるようにその女児に促されたとか。
「食べますか普通?」
「だって家暗かったし、呼び鈴鳴らしても誰も出ないし。それでも家入らんし、そのまま置いて帰る訳にもいかんし、飴を食べるまでずっとこっち見てるし」
「……それがあなたの気を失わせた毒なら、その子供は末恐ろしいですね」
「今思えばその子奴隷だったんだろうね、オランディにいるわけないから分からんかったんよ」
それから目が覚めたらこの別邸の客室にいたそうです。
この時点で客室を出てくれば良いと思うのですが、そこで彼は自分に起きた変化に驚いたそうです。
「起きてすぐ状況確認しようと思って、精霊さんに声掛けようとしたらいつもより多くて。リュンヌの奴らいるのに変だと思ったら、魔力増えてるって言うんよ」
「なんですかその魔力って」
「術使う時に使う力というか、運動するとお腹空くじゃん? なんかそういうの」
「ロウソクに火をつけるとロウが減るようなものですか?」
「んー、まぁそんな感じの?」
術に縁のないエルミーニ様ならそのご質問は当然かと思いますが、私としてはビャンコ様の仰った内容そのものが気になります。
「魔力量が増えるなどありえるのですか?」
「精霊さんが嘘つくとかありえんよ」
「理由に心当たりはございませんか?」
「あの飴だと思うんよ、てか他に心当たりないし」
相変わらずビャンコ様の精霊に関しては理解が及ばない所が多いです。
今度機会があれば聞いてみたいとは思います。
「それでさ? 状況は一服盛られて拉致監禁されてんだけど、魔力量増えてるし豪華な部屋で寝かされてるし? これで部屋ぶっ壊して逃げてもさ『倒れてた所を介抱してただけ』って言われたらそれまでだと思って」
「そうかもしれませんが」
「むしろ部屋ぶっ壊した分オレが不利になるかもしれんじゃん、今までのこと考えると言い逃れされるの目に見えてるし」
「意外と冷静に考えてたのですね」
「というか、多分どうしてやろうか考えてる内に冷静になったんだと思うわ」
目が覚めてから公爵夫人と軽く会話をしてから、一旦秘密裏に帰宅し部屋に委任状を残してまた戻ったそうです。
ここが一番意味が分かりません、そのまま戻る必要はないと思います。
「でも考え方変えたらコイツら永久追放出来るチャンスって気付いて、オレを二週間軟禁した実績作ってやろうかと思って。ポンちゃんが貴族の奴ら追い返さなかったみたいに」
「否定はしませんが、交流会はなぜ開こうとさせたのですか?」
「一服の証拠ないとオレただ遊びに来てるって話になるよね、その証拠をどう出させるか考えてさ」
ビャンコ様がドルチェの上の苺を口にして話を続けます。
「多分あの飴とは思ったけどさ、クソ貴族が素直に出す訳ねぇし」
「その、まさか、その毒を出させるために? 招待客全員に毒を盛るような事を?」
「そうでもないの! アイツ、オレが目覚ました時に毒の説明してきたんよ」
目が覚めてからその後の方針を悩んでいたビャンコ様の元に公爵夫人が訪れ、妾になるか男娼になるか交渉されたそうです。
それに対し過去の事も含め散々嫌味を言ったところ、激昂した夫人から「あの飴を食べさせる」と脅迫を受けたそうです。
「飴が何? お前飴食ったら気絶すんの? ドルチェが食べられないとか哀れ~! とか煽ったら『術士か魔獣にしか効かないわよ、あの時の女に飲ませてやれば良かったわ!』とかなんとか、マジで頭悪いって思ったわ」
「ありえない話では……最近の事情聴取を聞いてると」
「多分お茶会やりたがってたのは術士探しだろうね、術士だけに効く都合の良い毒飲ませれば良いんだし。狙いがサチさんかキーちゃんか分からんけど、オランディに三人は術士いるのは知ってるはずだし」
確かに過去を振り返ればそうですが、名簿の中に私の名前はなかったはずです。
それなら毒を盛ること自体しなかった可能性も……
「何をしたのですか?」
「お目当ての奴いるかもねとは言ったよ?」
私の参加を促す文章などを考えると、ビャンコ様が何かしたと考える方が自然です。
「つまり、全ては帝国貴族の国外追放と毒の特定のためにあなたが単独で仕組んだ事ですか?」
「あと言い逃れさせない為だね!」
やりすぎです、もう少しやりようがあったように思います。
「ミケさんとドゥイリオさんには説明したよ、キーちゃんは無事だって」
「ビャンコ様自身が危険だとはお考えにならなかったのですか?」
「アイツらの目当てが術士ならオレが殺されることは無いし、逃げようと思えば逃げれたし」
「もう少しご自身の事を考えてください」
「それ、キーちゃんがオレに言うこと? そのまんま言葉返すよ」
「私は……」
オーガだから余程の事が無ければ死ねません、という言葉を飲み込みます。
「有り得た可能性でさ、オレを気絶させたまま帰国するかもしれなかったでしょ? そうしたらキーちゃんどうした?」
「おそらく、師匠か誰かを頼りつつかの帝国に向かうかと思います」
「オレはそれが嫌だったんよ」
「しかし私に毒を飲ませてます」
「魔力量キーちゃんも増えるなら良いかなって」
「せめて委任状に一言添えてくれれば良かったかと」
私達の言い合いにエルミーニ様が参加なさいます。
委任状には交流会の開催と私に参加するように書かれていただけで、毒を盛る可能性など書かれておりませんでした。
「書いたらやらなかったでしょ?」
「当前かと」
「まぁ良いじゃ︎万事上手くいったし! オレの作戦通り!」
何だか、もう何も言う気になれません。
心の底から呆れます、結果だけ言えば成功してますがあくまで結果です。
この楽観的な考え方はどうにかならないものでしょうか。
「とりあえずオランディからミヌレの連中永久追放出来るはずだし、接触禁止も保証されると思うよ。これでキーちゃんがアイツらに隠れて過ごす日々は終わりで大丈夫!」
「侯爵にもキーノスさんが術士と知られてしまいましたが、国として色々と措置することになります」
年末からの騒ぎが、全て私が寝ている間に解決したようです。
色んな思惑も解決したかに見えますが、お二人がここに訪れる前に聞いたルネ様の処遇はどうなったのでしょうか?
出来れば使いたくはない表現ですが、これで伝わるでしょう。
「彼らの所有物はどうなりますか?」
「全て侯爵の判断に委ねる事になりました、後で報告はしてもらう予定ですが」
それではシアン様が望みは叶うのではないでしょうか?
しかしシアン様はビャンコ様とエルミーニ様が来てから青ざめた顔をしたまま言葉を発しません。
「そうですよね、ボイヤー侯爵?」
エルミーニ様がやや語気を強めて仰います。
「は、はい! 逆らわないので安心してください!」
「ビャンコさん、脅しすぎかと」
「そう? 仮にもクソ貴族だからってやりすぎた?」
この辺りになってきますと、私はもはやただの一被害者です。
二日気を失っていたのなら最長で三日はお店を空けた事になります。
体調不良などもありませんし、早く帰らせていただきたいです。
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