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余談集
ガス灯で煌めく危険な炎:『兄弟』のあり方
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「しかし話に聞いてた弟子が黒オーガだったとはね、フロルは変な奴を拾うのが上手い」
「知ったのは去年だったし、それまでは植物か狼の獣人だと思ってたからねぇ」
「確かに、コレを見てオーガだなんて思わないな」
ルスランが手の中でグラスを弄びながらクスクスと笑います。
私邸の広間に並べられた料理をほとんど平らげ、各々好きな酒を自分で注ぎながら楽しんでいます。
「君は吸血鬼らしさがよく出てるよねぇ、見た目も性格も。ハーフとは思えないねぇ」
「そうかもな、兄弟達の中では一番それらしかったし」
「へぇ、兄弟なんていたの?」
「姉妹もいたな、覚えてるので三十はいた」
師匠の動きが僅かに止まります。
「そんなに? 君が見つかった時一人だったよねぇ」
「そうだが、どの道全員死んでる」
「それは、大変だったねぇ」
「大変? まさか、僕らはクソ野郎の糧食だったんだぞ?」
エサとは、どういった意図による表現でしょうか。
私と師匠が言葉を失った事に気付いたのか、ルスランが口角を上げます。
「あの時僕が一人だったのは外の世界から来たからで、兄弟とクソ野郎が死んだのはそっちの世界での話だ」
口元に薄い笑みを浮かべていますが、ルスランの目は険しいものです。
「ま、酒の肴に話してやっても良いか」
───────
黒い樹木と黒い草、薄汚れた灰に覆われた大地と曇り空。
その中央にそびえ立つ、高さだけはある汚い城。
城壁は黒いツタとコケで覆われ、一歩踏み入れれば枯れた死体と人骨の山。
……こんな場所だと知ったのは、ここを去る直前だったが。
外からは廃城にしか見えないが、城内の床は鏡のように美しい城の姿を映し出す。
城内の整備は糧食の仕事。
元々は人間がしていたようだが、僕が知る限りこの城にいた人間は女が一人。
その女も、用済みとなった時に城の主が召し上がった。
「おい」
主の髪を整えていた時、主から声がかかった。
「お前は俺によく似てるから触れることを許している、分かっているな?」
「勿論です」
「なら良い。だが妻に触れることは許さん、妻に頼まれてもだ」
「承知しております」
主は身支度の際、必ず僕にこの忠告をしてくる。
そもそも城から出ないのだから身支度の必要もないと思うが、彼らなりの矜恃なんだろう。
「御髪は整いました」
僕は数歩下がり礼をする。
その姿勢のまま、主から声がかかるのを待つ。
「ふん、若い赤を用意しろ」
「かしこまりました」
主は最近若い方の女が気に入っているようで、ずっと同じものをご注文されている。
しかし、もう残りの糧食は僕を含めて五人。
女は二人、年上の方は主の奥方のお世話をしている。
奥方は最近若い男が気に入っている。
二人が枯れるのも、そう遠い話でも無いだろう。
主を食堂へお連れし、奥方の世話をしてる女と食堂の外で待つ。
女の顔に大きな傷と痣がある。
奥方から暴力を振るわれているんだろう、そのせいか主は彼女を召し上がろうとはなさらない。
主が僕に忠告をするように、奥方は彼女に傷を付ける。
食堂の中から物が倒れる音がする。
聞こえてくる声の様子から、今は食後の運動中だろうと想像がつく。
「ずっと……奥様、アンタを、注文されてる」
「ふぅん」
「主の付き人だからって断ってるけど、そろそろ……無理、がある」
「それで?」
背を丸め視線を下にさ迷わせながら、時々期待を込めるように僕を見てくる。
「一回で良いからっ、アンタも糧食らしいことしてよっ、あと五人しかいないの、分かってるでしょ?」
「主の許しが無ければ無理だ」
「でもっ……」
まだ女が何か言いたそうにしていたが、その前に食堂の扉が勢いよく開いた。
中から半裸の奥方が、文字通り目を光らせながら出てきた。
顔を左右に振り、僕を見つけると頬を紅潮させて満面の笑みを浮かべる。
「ハァッ……ハァッ……いる、じゃない……」
早足で僕に歩み寄り、腕を掴もうとする。
僕は主の忠告に従うため、その手を躱す。
「な、逆らうつもり!?」
奥方が僕に怒鳴りつけるが、そこへ半裸の主が駆け寄ってきた。
「お前! また食い潰したのか!」
叫びながら奥方の髪を掴み、そのまま床に引きずり倒す。
主は肩で息をしながら、奥方の手首を踏みつけた。
「貴方だってそうじゃない! どうするのよ、もう赤は二本しかなかったのよ!?」
「ついさっき白も二本になっちまっただろうが! だいたいお前は三百年前も」
主達が口論を始める。
最近はずっとこうだった、遂に糧食は三人になったようだ。
「お前達は下がれ! 昼まで俺たちの前に出なくて良い!」
僕と女は礼をした後、それぞれの仕事に戻った。
僕は糧食の食料を温室で調達し、そのまま調理場で料理する担当だ。
出来た料理を乗せた皿に並べ終え、僕は先に食べ始めた。
他の糧食達もその内来るだろう。
僕は糧食としての仕事はしている。
昔僕を少し口にされた第二夫人が亡くなった。
それから僕は主の付き人になった。
主は寝る前に僕を数滴召し上がる、僕の血の耐性を付けているんだろう。
これは僕と主しか知らない話だ。
料理を食べ終えようとした時、大きな音をたてて調理場の扉が開いた。
そこにいたのは半裸で血塗れの奥方だ。
「見つけたわ、ここにいたのね!」
何が起きているのか分からないが、奥方が僕を探していたようだ。
「何か御用でしょうか」
立ち上がり奥方に問うが答えはいただけず、食堂の前で見せたものと同じ表情で僕に早足で向かってくる。
「旦那は死んだわ、だからもう私に触れても良いの」
あの主が?
本当に何が起きているんだ?
混乱していたせいで奥方に両腕を掴まれた。
吸血鬼らしい強い力だ、爪が腕に食い込むのが分かる。
痛みに顔を顰めると、奥方の笑みが強くなる。
「あぁ、ずっと貴方の顔を歪めたかったの……それから私で溶けた顔も……」
奥方が僕の首に思い切り噛み付く。
あまりの痛みに小さく悲鳴を上げるが、奥方は口を離さない。
そのまま奥方の喉が僕の血を嚥下する動きを感じる。
「……いけませんっ……奥様……」
体から力が抜けるのが分かる、奥方はまだ口を離さない。
立っている事が出来ず、そのまま尻もちをついてしまった。
しかし、そのお陰で奥方の口がようやく首から外れた。
口元は血で染まり、喉元を両手で抑えている。
……あぁ、第二夫人の時と同じだ。
「……なっ、こっ……」
掠れた小さな声で呟いた後、全身の血を吐き出す勢いで吐血した。
正面にいた僕を呪うように、その血を浴びせながら、奥方は倒れた。
───────
「あとは死体を食堂にまとめて、そのまま一ヶ月くらい城で暮らしたんだけど暇で暇で。仕方ないから城の外に出たら一面の荒地で何もない」
私も師匠も、凄惨な内容に言葉を失っています。
ルスランはグラスの中身を飲み干し、話を続けます。
「これはもうずっとこのまま暮らすしかないのかって絶望、なのかな? した時、光に包まれてこっちの世界に飛ばされたんだ」
その光というのは、私も知るあの光でしょう。
師匠は額に手をやり、大きなため息をつきます。
「異世界の出身ってのは聞いてたけど、具体的に聞いたのはこれが初めてだねぇ」
「僕もこの話をするのは初めてだ」
空になったグラスをテーブルに置き、ルスランは水差しから水を注ぎます。
「君も苦労したんだねぇ」
「いや、どうだか? 他の兄弟と違って食われる事もなかったし、クソ野郎の世話は嫌いじゃなかった」
「確かに、世話し慣れてるとは思ったけど」
「あのまま残ったら、それこそ大変だっただろうな」
師匠は氷を入れたバケツから数個の氷をグラスへ入れ、ジンをそこへ注ぎます。
「前から君とキー坊が似てるって言ってたでしょ、なんか理由が分かった気がするねぇ」
「え、今の話で?」
「君たち有能なのにやりたくない事はやらないでしょ、でもやらなきゃならなかったらやるでしょ? そういうトコが似てるんだよねぇ」
何を言ってるんだか、と思いますが、特に何も言わずに私も自分のグラスにジンを注ぎます。
「ただその後は真逆だねぇ」
「真逆?」
「ランは順当に考えて筋通りに動くけど、キー坊はそれでも動かない、なのに知らない内に勝手に解決させてるんだよねぇ」
そこまで話すと、師匠は不敵な笑顔で私を見てきます。
「たまに君たちが兄弟みたいに思える時があるよ」
「どこがですか」
流石にルスランと兄弟と言われるのは納得がいかず、口を挟みます。
「僕の兄弟達よりは良いな、卑屈さはないし血も美味い」
「え、君兄弟の血吸ったことあるの?」
「一度な、不味くて口に入れた瞬間吐き出したが」
血の味の善し悪しは分かりませんが、私の血を飲んだ時の彼の様子を思えば、余程不味かったのでしょう。
「そんなもの、よく君の主人は飲んでたねぇ……」
「吸血鬼の血が好きなんだろうけど、飲んだら死ぬから飲めないんだろう」
「あぁ、それで君の血飲んで死んだって事?」
「多分? ま、本当の所はどうだかな」
クスクスと笑いながら、ルスランは横目で私を見ます。
私と彼が兄弟のように見えるのなら、私の普段の振る舞いもこのように見えているのでしょうか。
「黒オーガが美味いのか、変異種が美味いのかは分からないな。そもそも黒オーガなんてどこにいるんだか」
「寒いとこに住むらしいねぇ、あと極度の人間嫌いだから人前に出ないそうだし」
「は、ならキーノスは正に変異種だな」
もう何とでも好きに言えば良いと思います。
それより今夜の本題に入りましょう。
このまま日付が変わってしまいそうな気がします。
「とりあえず、ゲラーシー様はルスランに悪意を持ってはいないようです」
この後、ヴァローナの民が「嘲笑うカラス」と呼ばれる理由を理解することになるとは、私は全く予想などしておりませんでした。
「知ったのは去年だったし、それまでは植物か狼の獣人だと思ってたからねぇ」
「確かに、コレを見てオーガだなんて思わないな」
ルスランが手の中でグラスを弄びながらクスクスと笑います。
私邸の広間に並べられた料理をほとんど平らげ、各々好きな酒を自分で注ぎながら楽しんでいます。
「君は吸血鬼らしさがよく出てるよねぇ、見た目も性格も。ハーフとは思えないねぇ」
「そうかもな、兄弟達の中では一番それらしかったし」
「へぇ、兄弟なんていたの?」
「姉妹もいたな、覚えてるので三十はいた」
師匠の動きが僅かに止まります。
「そんなに? 君が見つかった時一人だったよねぇ」
「そうだが、どの道全員死んでる」
「それは、大変だったねぇ」
「大変? まさか、僕らはクソ野郎の糧食だったんだぞ?」
エサとは、どういった意図による表現でしょうか。
私と師匠が言葉を失った事に気付いたのか、ルスランが口角を上げます。
「あの時僕が一人だったのは外の世界から来たからで、兄弟とクソ野郎が死んだのはそっちの世界での話だ」
口元に薄い笑みを浮かべていますが、ルスランの目は険しいものです。
「ま、酒の肴に話してやっても良いか」
───────
黒い樹木と黒い草、薄汚れた灰に覆われた大地と曇り空。
その中央にそびえ立つ、高さだけはある汚い城。
城壁は黒いツタとコケで覆われ、一歩踏み入れれば枯れた死体と人骨の山。
……こんな場所だと知ったのは、ここを去る直前だったが。
外からは廃城にしか見えないが、城内の床は鏡のように美しい城の姿を映し出す。
城内の整備は糧食の仕事。
元々は人間がしていたようだが、僕が知る限りこの城にいた人間は女が一人。
その女も、用済みとなった時に城の主が召し上がった。
「おい」
主の髪を整えていた時、主から声がかかった。
「お前は俺によく似てるから触れることを許している、分かっているな?」
「勿論です」
「なら良い。だが妻に触れることは許さん、妻に頼まれてもだ」
「承知しております」
主は身支度の際、必ず僕にこの忠告をしてくる。
そもそも城から出ないのだから身支度の必要もないと思うが、彼らなりの矜恃なんだろう。
「御髪は整いました」
僕は数歩下がり礼をする。
その姿勢のまま、主から声がかかるのを待つ。
「ふん、若い赤を用意しろ」
「かしこまりました」
主は最近若い方の女が気に入っているようで、ずっと同じものをご注文されている。
しかし、もう残りの糧食は僕を含めて五人。
女は二人、年上の方は主の奥方のお世話をしている。
奥方は最近若い男が気に入っている。
二人が枯れるのも、そう遠い話でも無いだろう。
主を食堂へお連れし、奥方の世話をしてる女と食堂の外で待つ。
女の顔に大きな傷と痣がある。
奥方から暴力を振るわれているんだろう、そのせいか主は彼女を召し上がろうとはなさらない。
主が僕に忠告をするように、奥方は彼女に傷を付ける。
食堂の中から物が倒れる音がする。
聞こえてくる声の様子から、今は食後の運動中だろうと想像がつく。
「ずっと……奥様、アンタを、注文されてる」
「ふぅん」
「主の付き人だからって断ってるけど、そろそろ……無理、がある」
「それで?」
背を丸め視線を下にさ迷わせながら、時々期待を込めるように僕を見てくる。
「一回で良いからっ、アンタも糧食らしいことしてよっ、あと五人しかいないの、分かってるでしょ?」
「主の許しが無ければ無理だ」
「でもっ……」
まだ女が何か言いたそうにしていたが、その前に食堂の扉が勢いよく開いた。
中から半裸の奥方が、文字通り目を光らせながら出てきた。
顔を左右に振り、僕を見つけると頬を紅潮させて満面の笑みを浮かべる。
「ハァッ……ハァッ……いる、じゃない……」
早足で僕に歩み寄り、腕を掴もうとする。
僕は主の忠告に従うため、その手を躱す。
「な、逆らうつもり!?」
奥方が僕に怒鳴りつけるが、そこへ半裸の主が駆け寄ってきた。
「お前! また食い潰したのか!」
叫びながら奥方の髪を掴み、そのまま床に引きずり倒す。
主は肩で息をしながら、奥方の手首を踏みつけた。
「貴方だってそうじゃない! どうするのよ、もう赤は二本しかなかったのよ!?」
「ついさっき白も二本になっちまっただろうが! だいたいお前は三百年前も」
主達が口論を始める。
最近はずっとこうだった、遂に糧食は三人になったようだ。
「お前達は下がれ! 昼まで俺たちの前に出なくて良い!」
僕と女は礼をした後、それぞれの仕事に戻った。
僕は糧食の食料を温室で調達し、そのまま調理場で料理する担当だ。
出来た料理を乗せた皿に並べ終え、僕は先に食べ始めた。
他の糧食達もその内来るだろう。
僕は糧食としての仕事はしている。
昔僕を少し口にされた第二夫人が亡くなった。
それから僕は主の付き人になった。
主は寝る前に僕を数滴召し上がる、僕の血の耐性を付けているんだろう。
これは僕と主しか知らない話だ。
料理を食べ終えようとした時、大きな音をたてて調理場の扉が開いた。
そこにいたのは半裸で血塗れの奥方だ。
「見つけたわ、ここにいたのね!」
何が起きているのか分からないが、奥方が僕を探していたようだ。
「何か御用でしょうか」
立ち上がり奥方に問うが答えはいただけず、食堂の前で見せたものと同じ表情で僕に早足で向かってくる。
「旦那は死んだわ、だからもう私に触れても良いの」
あの主が?
本当に何が起きているんだ?
混乱していたせいで奥方に両腕を掴まれた。
吸血鬼らしい強い力だ、爪が腕に食い込むのが分かる。
痛みに顔を顰めると、奥方の笑みが強くなる。
「あぁ、ずっと貴方の顔を歪めたかったの……それから私で溶けた顔も……」
奥方が僕の首に思い切り噛み付く。
あまりの痛みに小さく悲鳴を上げるが、奥方は口を離さない。
そのまま奥方の喉が僕の血を嚥下する動きを感じる。
「……いけませんっ……奥様……」
体から力が抜けるのが分かる、奥方はまだ口を離さない。
立っている事が出来ず、そのまま尻もちをついてしまった。
しかし、そのお陰で奥方の口がようやく首から外れた。
口元は血で染まり、喉元を両手で抑えている。
……あぁ、第二夫人の時と同じだ。
「……なっ、こっ……」
掠れた小さな声で呟いた後、全身の血を吐き出す勢いで吐血した。
正面にいた僕を呪うように、その血を浴びせながら、奥方は倒れた。
───────
「あとは死体を食堂にまとめて、そのまま一ヶ月くらい城で暮らしたんだけど暇で暇で。仕方ないから城の外に出たら一面の荒地で何もない」
私も師匠も、凄惨な内容に言葉を失っています。
ルスランはグラスの中身を飲み干し、話を続けます。
「これはもうずっとこのまま暮らすしかないのかって絶望、なのかな? した時、光に包まれてこっちの世界に飛ばされたんだ」
その光というのは、私も知るあの光でしょう。
師匠は額に手をやり、大きなため息をつきます。
「異世界の出身ってのは聞いてたけど、具体的に聞いたのはこれが初めてだねぇ」
「僕もこの話をするのは初めてだ」
空になったグラスをテーブルに置き、ルスランは水差しから水を注ぎます。
「君も苦労したんだねぇ」
「いや、どうだか? 他の兄弟と違って食われる事もなかったし、クソ野郎の世話は嫌いじゃなかった」
「確かに、世話し慣れてるとは思ったけど」
「あのまま残ったら、それこそ大変だっただろうな」
師匠は氷を入れたバケツから数個の氷をグラスへ入れ、ジンをそこへ注ぎます。
「前から君とキー坊が似てるって言ってたでしょ、なんか理由が分かった気がするねぇ」
「え、今の話で?」
「君たち有能なのにやりたくない事はやらないでしょ、でもやらなきゃならなかったらやるでしょ? そういうトコが似てるんだよねぇ」
何を言ってるんだか、と思いますが、特に何も言わずに私も自分のグラスにジンを注ぎます。
「ただその後は真逆だねぇ」
「真逆?」
「ランは順当に考えて筋通りに動くけど、キー坊はそれでも動かない、なのに知らない内に勝手に解決させてるんだよねぇ」
そこまで話すと、師匠は不敵な笑顔で私を見てきます。
「たまに君たちが兄弟みたいに思える時があるよ」
「どこがですか」
流石にルスランと兄弟と言われるのは納得がいかず、口を挟みます。
「僕の兄弟達よりは良いな、卑屈さはないし血も美味い」
「え、君兄弟の血吸ったことあるの?」
「一度な、不味くて口に入れた瞬間吐き出したが」
血の味の善し悪しは分かりませんが、私の血を飲んだ時の彼の様子を思えば、余程不味かったのでしょう。
「そんなもの、よく君の主人は飲んでたねぇ……」
「吸血鬼の血が好きなんだろうけど、飲んだら死ぬから飲めないんだろう」
「あぁ、それで君の血飲んで死んだって事?」
「多分? ま、本当の所はどうだかな」
クスクスと笑いながら、ルスランは横目で私を見ます。
私と彼が兄弟のように見えるのなら、私の普段の振る舞いもこのように見えているのでしょうか。
「黒オーガが美味いのか、変異種が美味いのかは分からないな。そもそも黒オーガなんてどこにいるんだか」
「寒いとこに住むらしいねぇ、あと極度の人間嫌いだから人前に出ないそうだし」
「は、ならキーノスは正に変異種だな」
もう何とでも好きに言えば良いと思います。
それより今夜の本題に入りましょう。
このまま日付が変わってしまいそうな気がします。
「とりあえず、ゲラーシー様はルスランに悪意を持ってはいないようです」
この後、ヴァローナの民が「嘲笑うカラス」と呼ばれる理由を理解することになるとは、私は全く予想などしておりませんでした。
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