8 / 18
1 働いたら神かなと思っている
7
しおりを挟む
7
森へもどると、ワナになにかひっかかっていた。
俺は正直ウキウキになって、ついにやったかと箱を取り外す。
「なんだこいつ……」
そこに寝ていたのは、小鳥でも、ましてやネズミやウサギでもない。
透明に輝く羽根の生えた女の子の妖精だった。大人の手ほどの大きさしかなく、母さんが昔聞かせてくれたおとぎ話とはちがい服はちゃんと着ている。
むにゃむにゃととなえながら妖精は地面から起き上がり、俺と目を合わせる。
「ん? お前はなんだ?」
妖精は最初の第一声そう言ってきた。
「……俺はここで薬草の研究をしている者だ。お前こそだれだ」
「私はマリル! 妖精だぞ」
妙にえらそうに言う。
「そうか。邪魔だからとっとと消えてくれ」
「そうはいかないぞ! お前がこの団子を作ってくれたのだろう! お礼をしなくちゃな!」
は? なぜそうなる。その団子は眠り薬いりのただのトラップなんだが。
「それはただの食料確保のためのワナだ。どこへでも行けばいい」
「どこってどこだ? エサがあるならここにいたいぞ!」
この妖精、髪は銀色でとても美しいのだが、どうやら中身はお察しな感じだ。
「知らん。家にでも帰れ。あのエサはお前用のではない」
「家の方角をわすれてしまって、帰り方がわからん!」
わはは、とマリルは笑う。
「こいつ……。手に負えんな。こっちはケガ人の世話で手一杯なんだ、妖精だか知らんがお礼はけっこうだ」
「お礼させろー!」
マリルは宙に舞い上がり、ぐいぐいと俺のほっぺを引っ張ってくる。
「いらん」
と俺は手ではねのけた。
マリルは不服そうにしている。
「私はすごい力があるんだぞー!」
「興味ない」
「ほんとにすごいんだぞ! ほんとにいいのか!?」
「薬草に関わることか?」
「いや……」
「じゃ、帰れ」
「ま、待て待て!」
ほうっておいて家に帰る。こういう手合いに関わると大変なことになると俺の経験が告げている。
そのとき、後ろから彼女の声がした。今まで聞いていたものとはまるで違う声色のように感じた。
「……【社畜の化身】。おもしろいスキルだな!」
「……なんで、知ってる」
思わず、振り返りながらにらみつけてしまった。
「知りたいか? んん? 知りたいか? お礼させてくれるならいいぞ」
調子に乗るマリルの頭を、俺はわしづかみにして頼んだ。
「教えてくれ」
「お、おう。怖いぞ……」
マリルは羽根を休め、俺が取り外した箱の上に腰かける。
「私は本物の妖精で、妖精はふつうは見えない色んなものが見えるんだぞ。私はそのなかでも、その人が使える技能であるスキルとせんざい能力? をみることが得意なのだ。すごい力だって、妖精の仲間はみんな言ってたぞ!」
「たしかにすごい力だ。だがそれでなんで迷子になるんだ」
「私には妖精の里はせまかったということだな」
「……」
ふっー……。思わず息がもれる。
「じゃあお前には、俺の力が見えてるってことか」
「うむ。ちなみに魔法は、使えば使うほど熟練度があがって効果が増すから、スキルのなかでもお前がどういうものが得意かわかるぞ。それに、全く使ってないスキルも」
「……茶くらいは出してやるか」
しょうがなく、家へと入れてやる。
さすがに妖精に対してなにも出さないのも失礼かと思い、特製の健康緑茶を出してやる。
「このお茶うまいぞ!?」
そうだろう。味をととのえるのにはかなり苦労したからな。
「特製だ。体にもいい」
「それで、さっきの話なんだが。俺でも気づいていない力があったりするのか」
「うむ。これは……なんて読むんだろう。たぶん、【神格】のスキル」
「神格……!」
「【創造と破壊】という魔法がつかえるみたいだな」
「なんだそれは」
「知らん」
創造と破壊? なにかを作れるということか。あぶなさそうなスキルだ。
なにか作れる、というか、欲しいものがあるとすれば、毒をみわけるような能力か。ここはあまりに新種の草花が多すぎて、かなり勉強してきたつもりだったがそれでもわからないことがよくある。
それにマリルの力みたいのがもし俺にもあったら、かなり便利なんだが……。
これなんだ? 自分自身の力が見える。
【神眼】という魔法が発動しているのが自分の腕を見るとわかる。体から発せられる魔力に、文字が混じっている。
「マリル、お前が言ってた魔法をつかったら、俺にもお前と同じことができるようになったぞ」
フェアリーアイという魔法の文字がマリルの周囲に浮かんで見えた。
「ええ!? すごいなー。仲間だなー」
「お前ほんとうに妖精だったんだな」
「だからそう言ってるぞ!」
「ああ、疑ってすまん」
「ね、ねえタクヤ。あと妖精さん。ぼくも見てもらえないかな」
モスに言われ、彼の魔力に目を凝らす。
「モスは無属性魔法が得意だな。透明化? 魔法吸収という技がある」
「透明? すごい! でも魔法吸収って?」
「うむ。食べた魔法を使えるようになるみたいだ」
俺の代わりにマリルが解説してくれる。
「魔法を、食べる!?」
「いわゆるラーニングというやつか」
「ぼくにもそんな力が……!?」
「うむ。でも、角が折れてるのと、病弱なせいで、今までは使えなかったみたいだな。でも魔力がものすごく高いから、使えなくはないんじゃないか」
と、マリルが言う。薬の治療の効果は出ているようだな。
「魔力……魔法なんて使えたことないのに。……もしかして」
俺の顔を見るモス。まさかあの魔力をあげる薬が役に立っているんだろうか。あれも趣味でつくったものなのだが。
「うん。がんばってみるよ。ありがとうマリル」
モスは顔を明るくさせて言った。
「いいってことよ」
マリルはそう答えて、突然立ち上がる。
「よし決めた! お茶もうまいし、私もここに住むぞ!」
「何勝手に決めてんだ」
「いいじゃないか、もう仲間なのだし」
「いつ仲間になった……!?」
いや、待てよ。こいつはおそらく俺と同じで毒を見分けることができる。いたらいたで便利かもしれないな。
条件付きでなら、すこしのあいだこの山に勝手に住まわせるのも悪くないかもしれない。
家を遠くに作ってやれば、つきまとわれることもないだろうしな。
マリルがいきなり外に出て、天に拳をつきあげて言う。
「これから三人でがんばろう!」
俺はがんばらないぞ。いつになったら静かに隠居できるのだろう。
やれやれ。めんどうなことになりそうだ。
森へもどると、ワナになにかひっかかっていた。
俺は正直ウキウキになって、ついにやったかと箱を取り外す。
「なんだこいつ……」
そこに寝ていたのは、小鳥でも、ましてやネズミやウサギでもない。
透明に輝く羽根の生えた女の子の妖精だった。大人の手ほどの大きさしかなく、母さんが昔聞かせてくれたおとぎ話とはちがい服はちゃんと着ている。
むにゃむにゃととなえながら妖精は地面から起き上がり、俺と目を合わせる。
「ん? お前はなんだ?」
妖精は最初の第一声そう言ってきた。
「……俺はここで薬草の研究をしている者だ。お前こそだれだ」
「私はマリル! 妖精だぞ」
妙にえらそうに言う。
「そうか。邪魔だからとっとと消えてくれ」
「そうはいかないぞ! お前がこの団子を作ってくれたのだろう! お礼をしなくちゃな!」
は? なぜそうなる。その団子は眠り薬いりのただのトラップなんだが。
「それはただの食料確保のためのワナだ。どこへでも行けばいい」
「どこってどこだ? エサがあるならここにいたいぞ!」
この妖精、髪は銀色でとても美しいのだが、どうやら中身はお察しな感じだ。
「知らん。家にでも帰れ。あのエサはお前用のではない」
「家の方角をわすれてしまって、帰り方がわからん!」
わはは、とマリルは笑う。
「こいつ……。手に負えんな。こっちはケガ人の世話で手一杯なんだ、妖精だか知らんがお礼はけっこうだ」
「お礼させろー!」
マリルは宙に舞い上がり、ぐいぐいと俺のほっぺを引っ張ってくる。
「いらん」
と俺は手ではねのけた。
マリルは不服そうにしている。
「私はすごい力があるんだぞー!」
「興味ない」
「ほんとにすごいんだぞ! ほんとにいいのか!?」
「薬草に関わることか?」
「いや……」
「じゃ、帰れ」
「ま、待て待て!」
ほうっておいて家に帰る。こういう手合いに関わると大変なことになると俺の経験が告げている。
そのとき、後ろから彼女の声がした。今まで聞いていたものとはまるで違う声色のように感じた。
「……【社畜の化身】。おもしろいスキルだな!」
「……なんで、知ってる」
思わず、振り返りながらにらみつけてしまった。
「知りたいか? んん? 知りたいか? お礼させてくれるならいいぞ」
調子に乗るマリルの頭を、俺はわしづかみにして頼んだ。
「教えてくれ」
「お、おう。怖いぞ……」
マリルは羽根を休め、俺が取り外した箱の上に腰かける。
「私は本物の妖精で、妖精はふつうは見えない色んなものが見えるんだぞ。私はそのなかでも、その人が使える技能であるスキルとせんざい能力? をみることが得意なのだ。すごい力だって、妖精の仲間はみんな言ってたぞ!」
「たしかにすごい力だ。だがそれでなんで迷子になるんだ」
「私には妖精の里はせまかったということだな」
「……」
ふっー……。思わず息がもれる。
「じゃあお前には、俺の力が見えてるってことか」
「うむ。ちなみに魔法は、使えば使うほど熟練度があがって効果が増すから、スキルのなかでもお前がどういうものが得意かわかるぞ。それに、全く使ってないスキルも」
「……茶くらいは出してやるか」
しょうがなく、家へと入れてやる。
さすがに妖精に対してなにも出さないのも失礼かと思い、特製の健康緑茶を出してやる。
「このお茶うまいぞ!?」
そうだろう。味をととのえるのにはかなり苦労したからな。
「特製だ。体にもいい」
「それで、さっきの話なんだが。俺でも気づいていない力があったりするのか」
「うむ。これは……なんて読むんだろう。たぶん、【神格】のスキル」
「神格……!」
「【創造と破壊】という魔法がつかえるみたいだな」
「なんだそれは」
「知らん」
創造と破壊? なにかを作れるということか。あぶなさそうなスキルだ。
なにか作れる、というか、欲しいものがあるとすれば、毒をみわけるような能力か。ここはあまりに新種の草花が多すぎて、かなり勉強してきたつもりだったがそれでもわからないことがよくある。
それにマリルの力みたいのがもし俺にもあったら、かなり便利なんだが……。
これなんだ? 自分自身の力が見える。
【神眼】という魔法が発動しているのが自分の腕を見るとわかる。体から発せられる魔力に、文字が混じっている。
「マリル、お前が言ってた魔法をつかったら、俺にもお前と同じことができるようになったぞ」
フェアリーアイという魔法の文字がマリルの周囲に浮かんで見えた。
「ええ!? すごいなー。仲間だなー」
「お前ほんとうに妖精だったんだな」
「だからそう言ってるぞ!」
「ああ、疑ってすまん」
「ね、ねえタクヤ。あと妖精さん。ぼくも見てもらえないかな」
モスに言われ、彼の魔力に目を凝らす。
「モスは無属性魔法が得意だな。透明化? 魔法吸収という技がある」
「透明? すごい! でも魔法吸収って?」
「うむ。食べた魔法を使えるようになるみたいだ」
俺の代わりにマリルが解説してくれる。
「魔法を、食べる!?」
「いわゆるラーニングというやつか」
「ぼくにもそんな力が……!?」
「うむ。でも、角が折れてるのと、病弱なせいで、今までは使えなかったみたいだな。でも魔力がものすごく高いから、使えなくはないんじゃないか」
と、マリルが言う。薬の治療の効果は出ているようだな。
「魔力……魔法なんて使えたことないのに。……もしかして」
俺の顔を見るモス。まさかあの魔力をあげる薬が役に立っているんだろうか。あれも趣味でつくったものなのだが。
「うん。がんばってみるよ。ありがとうマリル」
モスは顔を明るくさせて言った。
「いいってことよ」
マリルはそう答えて、突然立ち上がる。
「よし決めた! お茶もうまいし、私もここに住むぞ!」
「何勝手に決めてんだ」
「いいじゃないか、もう仲間なのだし」
「いつ仲間になった……!?」
いや、待てよ。こいつはおそらく俺と同じで毒を見分けることができる。いたらいたで便利かもしれないな。
条件付きでなら、すこしのあいだこの山に勝手に住まわせるのも悪くないかもしれない。
家を遠くに作ってやれば、つきまとわれることもないだろうしな。
マリルがいきなり外に出て、天に拳をつきあげて言う。
「これから三人でがんばろう!」
俺はがんばらないぞ。いつになったら静かに隠居できるのだろう。
やれやれ。めんどうなことになりそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる