8 / 12
第八話 イザーネの誤算
しおりを挟む
イザーネが少し顔を青白くして客間へと入ると、果たしてそこには精悍な顔を曇らせて待つレイオンがいた。
「お待たせしまして申し訳ございませんでした。お元気そうで何よりでございます。畏れながら何のおもてなしのご用意もできて──」
「挨拶はいらぬ! お前などと長話をするつもりはない。用件だけ伝える」
レイオンは野心家であるイザーネの事を嫌悪していた。それゆえアリシアの父、つまりレイオンにとっては弟になるのだが、後妻としてイザーネを迎えると言った時は反対もしている。
「この度、ドラゴンの襲来に際し我が姪でありロマーダ伯爵家の正統継承者であるアリシアを、お前の一存でドラゴンの花嫁としたことに間違いはないな?」
「は、はい、ですがそれは……」
「間違いでなければそれ以上申すなっ! 本来そのような重要な決定は本家に相談してしかるべきである。しかも私の可愛い姪であるアリシアを、生け贄とするなど言語道断だッ!」
いまやイザーネの顔面は蒼白へと変わりはて、気を失いかねないほど緊張していた。
それほど凄まじい怒りがレイオンから伝わってくるのだ。
「この場でお前の素っ首を刎ねて、子供たちを追放してやりたいところだわっ!」
「お、お待ち下さいませっ! そ、そのような事になればブロイド様の面目が潰れましょう。ブロイド様はブロウペン侯爵家のご三男です、彼の家と禍根を残すこととなりますれば……!」
レイオンはイザーネのその言葉を聞き、ひとつ鼻を鳴らすと「女狐め」と吐き捨てた。
「お前の悪知恵には反吐がでるわ。だが儂とてそんな事はすでに承知しておるし、ブロウペン家ともすでに話はつけてあるのだ」
「えっ!……」
「聞けイザーネ! アリシアはまだ生きておる! 儂の放った間者がその目でしかと確認しておるゆえ疑う余地はない」
「そ、それは真で……」
「くどいっ、ブロウペン家の顔を立てブロイドによるアリシア救出の機会をやる。今すぐ兵を整えドラゴンを討伐してまいれッ! 失敗は許さぬぞっ」
「は、はいっ……し、しかし、もしすでにアリシア、様の身がご存命でなかったら……」
「それは先ほど申したであろう。その時はお前の首を刎ね、子供たちは追放のうえロマーダ伯爵家はとり潰す」
この期に及び、イザーネの企てた強引な伯爵家乗っ取り計画は完全に頓挫した。
それどころかアリシアを何としてでも生きてドラゴンから取り戻さねば、自分が処刑されるのだから言葉もなかろう。
話を終えるとレイオンは伯爵家の兵を見て回り、命に代えてもアリシアを助け出すようにと厳命して帰って行った。
「それでレイオンは僕の帰りを待たずに帰ったと?」
ブロイドは王国騎士団仲間と昼間から酒を飲み、酔いを残したまま夕方近くに伯爵邸へと戻ってきたのだ。
「なんだか面倒な事になったなあ。父上とも話がついているようだし、今さら逃げ出すことも出来ないかあ……」
「に、逃げ出すなんてとんでもありません! どうかドラゴンからアリシアを取り返して下さいまし!」
「ハハハ、必死ですね」
「当たり前ですっ!」
ブロイドは酒臭いゲップをすると、いかにも軽蔑した目でイザーネを見た。
「僕にはあなたの生き死になんて興味ないんですよ。でも仕方ない、本当に面倒だけどアリシアは取り返してきます」
イザーネが惨めに涙を流しブロイドに懇願するその姿は、野心家であった頃の傲慢な生気はもはやなく、ただ憐れな中年の婦人でしかない。
「それにしても隣国にいるはずのレイオンは、なぜこの国にいるのだろう? イザーネ夫人はご存じですか」
「え、ええ、何でもレイオン様には小飼いの間者がいるそうで……アリシアがドラゴンの花嫁になったとの報告を受けてすぐに戻ってきたと」
「わあ、これゃレイオンもかなり本気ですね。あ、でも、ってことは上手くアリシアを助けられたら、褒美にもう一度婚約できるかもしれませんか……まあ、騎士団の仲間にも手伝ってもらってドラゴンを殺してきますよ」
こうしてブロイドは騎士団の仲間二人に助勢を乞い、伯爵家の兵士三十人を連れて翌日の昼にはドラゴンの棲む山へと出立した。
「お待たせしまして申し訳ございませんでした。お元気そうで何よりでございます。畏れながら何のおもてなしのご用意もできて──」
「挨拶はいらぬ! お前などと長話をするつもりはない。用件だけ伝える」
レイオンは野心家であるイザーネの事を嫌悪していた。それゆえアリシアの父、つまりレイオンにとっては弟になるのだが、後妻としてイザーネを迎えると言った時は反対もしている。
「この度、ドラゴンの襲来に際し我が姪でありロマーダ伯爵家の正統継承者であるアリシアを、お前の一存でドラゴンの花嫁としたことに間違いはないな?」
「は、はい、ですがそれは……」
「間違いでなければそれ以上申すなっ! 本来そのような重要な決定は本家に相談してしかるべきである。しかも私の可愛い姪であるアリシアを、生け贄とするなど言語道断だッ!」
いまやイザーネの顔面は蒼白へと変わりはて、気を失いかねないほど緊張していた。
それほど凄まじい怒りがレイオンから伝わってくるのだ。
「この場でお前の素っ首を刎ねて、子供たちを追放してやりたいところだわっ!」
「お、お待ち下さいませっ! そ、そのような事になればブロイド様の面目が潰れましょう。ブロイド様はブロウペン侯爵家のご三男です、彼の家と禍根を残すこととなりますれば……!」
レイオンはイザーネのその言葉を聞き、ひとつ鼻を鳴らすと「女狐め」と吐き捨てた。
「お前の悪知恵には反吐がでるわ。だが儂とてそんな事はすでに承知しておるし、ブロウペン家ともすでに話はつけてあるのだ」
「えっ!……」
「聞けイザーネ! アリシアはまだ生きておる! 儂の放った間者がその目でしかと確認しておるゆえ疑う余地はない」
「そ、それは真で……」
「くどいっ、ブロウペン家の顔を立てブロイドによるアリシア救出の機会をやる。今すぐ兵を整えドラゴンを討伐してまいれッ! 失敗は許さぬぞっ」
「は、はいっ……し、しかし、もしすでにアリシア、様の身がご存命でなかったら……」
「それは先ほど申したであろう。その時はお前の首を刎ね、子供たちは追放のうえロマーダ伯爵家はとり潰す」
この期に及び、イザーネの企てた強引な伯爵家乗っ取り計画は完全に頓挫した。
それどころかアリシアを何としてでも生きてドラゴンから取り戻さねば、自分が処刑されるのだから言葉もなかろう。
話を終えるとレイオンは伯爵家の兵を見て回り、命に代えてもアリシアを助け出すようにと厳命して帰って行った。
「それでレイオンは僕の帰りを待たずに帰ったと?」
ブロイドは王国騎士団仲間と昼間から酒を飲み、酔いを残したまま夕方近くに伯爵邸へと戻ってきたのだ。
「なんだか面倒な事になったなあ。父上とも話がついているようだし、今さら逃げ出すことも出来ないかあ……」
「に、逃げ出すなんてとんでもありません! どうかドラゴンからアリシアを取り返して下さいまし!」
「ハハハ、必死ですね」
「当たり前ですっ!」
ブロイドは酒臭いゲップをすると、いかにも軽蔑した目でイザーネを見た。
「僕にはあなたの生き死になんて興味ないんですよ。でも仕方ない、本当に面倒だけどアリシアは取り返してきます」
イザーネが惨めに涙を流しブロイドに懇願するその姿は、野心家であった頃の傲慢な生気はもはやなく、ただ憐れな中年の婦人でしかない。
「それにしても隣国にいるはずのレイオンは、なぜこの国にいるのだろう? イザーネ夫人はご存じですか」
「え、ええ、何でもレイオン様には小飼いの間者がいるそうで……アリシアがドラゴンの花嫁になったとの報告を受けてすぐに戻ってきたと」
「わあ、これゃレイオンもかなり本気ですね。あ、でも、ってことは上手くアリシアを助けられたら、褒美にもう一度婚約できるかもしれませんか……まあ、騎士団の仲間にも手伝ってもらってドラゴンを殺してきますよ」
こうしてブロイドは騎士団の仲間二人に助勢を乞い、伯爵家の兵士三十人を連れて翌日の昼にはドラゴンの棲む山へと出立した。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです
藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。
――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。
妹は父の愛人の子。
身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、
彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。
婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、
当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。
一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。
だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。
これは、誰かが罰した物語ではない。
ただ、選んだ道の先にあった現実の話。
覚悟のなかった婚約者が、
自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
真実の愛を見つけた王太子殿下、婚約破棄の前に10年分の王家運営費1.5億枚を精算して頂けます?
ぱすた屋さん
恋愛
「エルゼ、婚約を破棄する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」
建国記念祭の夜会、王太子アルフォンスに断罪された公爵令嬢エルゼ。
だが彼女は泣き崩れるどころか、事務的に一枚の書類を取り出した。
「承知いたしました。では、我が家が立て替えた10年分の王家運営費――金貨1億5800万枚の精算をお願いします」
宝石代、夜会費、そして城の維持費。
すべてを公爵家の「融資」で賄っていた王家に、返済能力などあるはずもない。
「支払えない? では担保として、王都の魔力供給と水道、食料搬入路の使用を差し止めます。あ、殿下が今履いている靴も我が家の備品ですので、今すぐ脱いでくださいね?」
暗闇に沈む王城で、靴下姿で這いつくばる元婚約者。
下着同然の姿で震える「自称・聖女」。
「ゴミの分別は、淑女の嗜みですわ」
沈みゆく泥舟(王国)を捨て、彼女を「財務卿」として熱望する隣国の帝国へと向かう、爽快な論理的ざまぁ短編!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる