7 / 12
第七話 ある日の花嫁
しおりを挟む
真夏の日射しが木漏れ日となって降り注ぐ森にアリシアはいた。その森には綺麗な泉があり沐浴するにはちょうどよく、今日もアリシアは汗を流し髪を洗っていたのだ。
透き通る肌は白くてラフィンドルの白銀の鱗に負けず劣らずの美しさである。
野の花々を摘んで洞窟へ帰るとすぐに、心配そうなラフィンドルの声が飛んできた。
「アリシア、何事もなかったか?」
「はい、ラフィさま、泉の水が冷たくてとても気持ちが良かったです」
「そうか、ならいいのだが……」
ラフィンドルはそう応えたが、その顔はどこか浮かない。
「どうもな、我々を探ろうとしている気配があるものでな……少し気になっているのだよ」
「まあ、一体なんのためにでしょう?」
アリシアの声に不安が混じったのを感じたラフィンドルは、努めて明るく答えた。
「なに、ドラゴンが棲みついているのだ、監視をしておきたいと思う人間は多かろう。よくある事だ」
「そうですか……」
「それよりその花はどうした? 美しいな」
「あ、そうなんです! あまりにも美しかったもので、ちょっと可哀想だとは思ったのですが摘んできてしまいました!」
そう言ってはしゃぐアリシアをラフィンドルは目を細めて眺めている。なんだか心が温かくなるのを感じて、とても心地がよい。
「私、いいことを思いつきましたの。ラフィさまの鱗の隙間に、こうして一輪ずつ差していきますと……ほら! とっても素敵ですわ」
正直誰かが見たら花の活けられたドラゴンの姿は、滑稽に映ったかもしれない。
だがアリシアとラフィンドルは、そんな他愛もない遊びを心から楽しんでいた。
「アリシア、なんだか花を差したところが痒くなってきたぞ? 取ってもいいかね」
「駄目です! もう少し私、ラフィさまの綺麗なお姿を見ていたいですもの」
最近のアリシアは少女らしい我が儘を言えるようにもなっていた。そしてその我が儘がラフィンドルには嬉しいのである。
──もう少し日射しが弱くなってきたら、アリシアを背に乗せて大空で散歩をしよう。きっと喜ぶに違いない。
そんな些細な幸せに、彼らはもう遠慮することはなくなっていたのであった。
♢*♢*♢*♢*♢*♢
「お母様、私、そんな地味なドレスは嫌ですわ、もっと刺繍を増やしてレースも多く使ったものにして下さいな」
「メリーザ、ドレスにいくらかけるつもりさ、ただの一回しか着ない花嫁衣裳にもったいない」
「あら、私はロマーダ伯爵の妻になる身ですのよ? ブロイド様に恥をかかせるおつもりですの?」
ロマーダ伯爵家の屋敷ではイザーネとメリーザが仕立屋を呼び、花嫁衣裳選びの真っ最中であった。
「よろしいでしょうか、イザーネ奥様」
ドアをノックし断りを入れたのは家令である。
「なんだい? おはいり」
少し慌てた様子をみせながら部屋の中に入った家令は、訪問者があったことをイザーネに告げる。
その人はレイオン・ロマーダ侯爵。アリシアの伯父にあたる人物で、ロマーダ本家の当主でもあった。
「えっ! レイオン様が!?」
イザーネが慌てたのも当然だろう。これが突然の訪問である事もさることながら、ロマーダ本家の当主ともなれば、この伯爵家の相続に関して絶大な影響力を持つ。
だがしかし、レイオンはいま国王の命により貿易条約作成のため、隣国へ長期滞在しているはずなのである。
むろんその不在を狙ってイザーネは、娘のメリーザとブロイドの婚姻を急いでもいた。
なのに何故……
イザーネは自分のその背中に、気持ちの悪い冷や汗がいく筋も流れていくのを感じていた。
透き通る肌は白くてラフィンドルの白銀の鱗に負けず劣らずの美しさである。
野の花々を摘んで洞窟へ帰るとすぐに、心配そうなラフィンドルの声が飛んできた。
「アリシア、何事もなかったか?」
「はい、ラフィさま、泉の水が冷たくてとても気持ちが良かったです」
「そうか、ならいいのだが……」
ラフィンドルはそう応えたが、その顔はどこか浮かない。
「どうもな、我々を探ろうとしている気配があるものでな……少し気になっているのだよ」
「まあ、一体なんのためにでしょう?」
アリシアの声に不安が混じったのを感じたラフィンドルは、努めて明るく答えた。
「なに、ドラゴンが棲みついているのだ、監視をしておきたいと思う人間は多かろう。よくある事だ」
「そうですか……」
「それよりその花はどうした? 美しいな」
「あ、そうなんです! あまりにも美しかったもので、ちょっと可哀想だとは思ったのですが摘んできてしまいました!」
そう言ってはしゃぐアリシアをラフィンドルは目を細めて眺めている。なんだか心が温かくなるのを感じて、とても心地がよい。
「私、いいことを思いつきましたの。ラフィさまの鱗の隙間に、こうして一輪ずつ差していきますと……ほら! とっても素敵ですわ」
正直誰かが見たら花の活けられたドラゴンの姿は、滑稽に映ったかもしれない。
だがアリシアとラフィンドルは、そんな他愛もない遊びを心から楽しんでいた。
「アリシア、なんだか花を差したところが痒くなってきたぞ? 取ってもいいかね」
「駄目です! もう少し私、ラフィさまの綺麗なお姿を見ていたいですもの」
最近のアリシアは少女らしい我が儘を言えるようにもなっていた。そしてその我が儘がラフィンドルには嬉しいのである。
──もう少し日射しが弱くなってきたら、アリシアを背に乗せて大空で散歩をしよう。きっと喜ぶに違いない。
そんな些細な幸せに、彼らはもう遠慮することはなくなっていたのであった。
♢*♢*♢*♢*♢*♢
「お母様、私、そんな地味なドレスは嫌ですわ、もっと刺繍を増やしてレースも多く使ったものにして下さいな」
「メリーザ、ドレスにいくらかけるつもりさ、ただの一回しか着ない花嫁衣裳にもったいない」
「あら、私はロマーダ伯爵の妻になる身ですのよ? ブロイド様に恥をかかせるおつもりですの?」
ロマーダ伯爵家の屋敷ではイザーネとメリーザが仕立屋を呼び、花嫁衣裳選びの真っ最中であった。
「よろしいでしょうか、イザーネ奥様」
ドアをノックし断りを入れたのは家令である。
「なんだい? おはいり」
少し慌てた様子をみせながら部屋の中に入った家令は、訪問者があったことをイザーネに告げる。
その人はレイオン・ロマーダ侯爵。アリシアの伯父にあたる人物で、ロマーダ本家の当主でもあった。
「えっ! レイオン様が!?」
イザーネが慌てたのも当然だろう。これが突然の訪問である事もさることながら、ロマーダ本家の当主ともなれば、この伯爵家の相続に関して絶大な影響力を持つ。
だがしかし、レイオンはいま国王の命により貿易条約作成のため、隣国へ長期滞在しているはずなのである。
むろんその不在を狙ってイザーネは、娘のメリーザとブロイドの婚姻を急いでもいた。
なのに何故……
イザーネは自分のその背中に、気持ちの悪い冷や汗がいく筋も流れていくのを感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる
鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳――
それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。
公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。
だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、
王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。
政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。
紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが――
魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、
まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。
「……私が女王? 冗談じゃないわ」
回避策として動いたはずが、
誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。
しかも彼は、
幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた――
年を取らぬ姿のままで。
永遠に老いない少女と、
彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。
王妃になどなる気はない。
けれど、逃げ続けることももうできない。
これは、
歴史の影に生きてきた少女が、
はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。
ざまぁも陰謀も押し付けない。
それでも――
この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。
白い結婚をご希望ですか? 良いですよ。私はジャガイモと筋肉を育てますので!
松本雀
恋愛
「……いいか、エルゼ。あらかじめ言っておくが、私は君を愛するつもりはない」
「願ったり叶ったりです! 実は私、国境警備隊に幼馴染の恋人がいまして。この結婚が決まった時、二人で『体は売っても心は売らない』って涙ながらに誓い合ったんです。閣下が愛してくださらないなら、私の貞操も守られます! ありがとうございます、公爵閣下!」
「……こいびと?」
◆
「君を愛するつもりはない」
冷徹な公爵ギルベルトが新婚初夜に放った非情な宣告。しかし、新妻エルゼの反応は意外なものだった。
「よかった! 実は私、国境警備隊に恋人がいるんです!」
利害が一致したとばかりに秒速で就寝するエルゼ。彼女の目的は、愛なき結婚生活を隠れ蓑に、恋人への想いを込めた「究極のジャガイモ」を育てることだった!
公爵家の庭園を勝手に耕し、プロテインを肥料にするエルゼに、最初は呆れていたギルベルト。だが、彼女のあまりにフリーダムな振る舞いと、恋人への一途(?)な情熱を目の当たりにするうち、冷徹だった彼の心(と筋肉)に異変が起き始めて……!?
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
殿下、私以外の誰かを愛してください。
ハチワレ
恋愛
公爵令嬢ラブリーは、第一王子クロードを誰よりも愛していました。しかし、自分の愛が重すぎて殿下の負担になっている(と勘違いした)彼女は、愛する殿下を自由にするため、あえて「悪役令嬢」として振る舞い、円満に婚約破棄されるという前代未聞の計画を立てる。協力者として男爵令嬢ミリーを「ヒロイン役」に任命し、準備は整った。
いつも唐揚げ弁当しか頼まない彼の秘密
加藤ラスク
恋愛
まさか私が異世界転生するなんて!
転生先は何度もやり込んだゲーム『みんな勇者〜ラブ&ピースは世界を救う〜』の世界。
けれども転生したのはチート能力なんてない、なんなら特殊スキルもない、ただのモブ一般人。
だから大人しく前世で得意だった料理スキルを活かしてお弁当屋さんを始めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる