祝福されしドラゴンの花嫁

灰色テッポ

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第十一話 アリシアが守ったもの

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 アリシアはいま酷く混乱していた。なぜここにブロイドがいるのかと、なぜ自分に剣を向けているのかと……

「ブロイドさま? これは一体?……」

「やあアリシア、君をねドラゴンから取り返しに来たんだけど、でもなんかずいぶんと奇妙な事になっている様だねえ」

「よせ人間、アリシアを傷つけるな!」

 ラフィンドルは動きを止めた。ラフィンドルだけではない、いまこの場にいる者すべてがブロイドを見つめ成り行きを見守っている。

「ごらんよ、ドラゴンが本当に焦っている。君を花嫁にしたとか言っていたから半信半疑で人質にとってみたけれど、こりゃ驚いた!」

「は、離して下さい! 私は疑いもなくラフィンドルさまの花嫁です、帰るつもりもありません!」

「おいおい、何だかこれじゃあ僕が悪役みたいじゃないか。君のレイオン伯父さんに頼まれて助けに来たというのにさ」

「伯父さまに? なら伯父さまにもお伝え下さい、私とラフィンドルさまの事はもう放っておいて下さいって」

 ラフィンドルはいま怒りを覚えていた。死んでこいと自分たちで送りだしたアリシアを、今度はまたそれを返せという人間たちの身勝手さにだ。
 アリシアをまるで物か何かの様に扱うその態度が不快極まりない。こやつらは一度でもアリシアの気持ちを考えた事があるのだろうか。

「人間よ、もう一度言う、アリシアを離せ」

「ほう、ドラゴンさん、そんなにこの娘が大事ですか?」

「己の花嫁を大事に思わぬ者がどこにいる」

「アハハ、こいつは傑作だ。ドラゴンと人間の夫婦とか、気持ち悪すぎる!」

 ブロイドはこう話している間にも次の一手をどうするかと考えている。アリシアを人質にしたまま脱出するのが一番無難ではある。だがその後がどうなるか……

 それに、このドラゴンのアリシアへの感情を利用しないのは惜しい。上手く利用してドラゴンを殺せたならば自分は英雄だ、そうなれば出世は思いのままだろう──

 愚鈍な者が欲に囚われれば、それは無謀と化する──いまのブロイドがまさにそれであった。

「そうですね……そんなにアリシアが大事なら、ドラゴンさん、あなた死んで下さい」

「…………」

「なっ? 何を仰るのですかブロイドさま、馬鹿なことを!」

 ブロイドはアリシアの首筋に当てた剣に少し力を込め、その薄皮一枚を破って細い血を流させた。

「ドラゴンさん、僕は本気ですよ? いまアリシアを生きて連れ戻せても、あなたがあとで花嫁を取り返しにでも来たら僕たちなんて簡単に殺されてしまう。ならいまアリシアを道連れに死んでも同じことです」

「人間よ、アリシアを離せ。そして立ち去れ、それで話は収まる」

「収まりませんよ、あなたが現れたおかげで僕は冷飯食ひやめしぐいの三男に逆戻りだ。だが死んでくれれば僕はドラゴン殺しの英雄になれるんです」

 アリシアは悲しいなと思った。あんなに明るくて一緒にいると嬉しかった人だったのに、ブロイドの心にも闇があったのかと思うと心が痛んだのだ。

 だからと言って自分が犠牲になるのはもう嫌だった。
 そうだ、やっと見つけた自分の幸せを、やっと見つけた未来への希望を奪われてなるものか! たとえ運命に逆らってでも──

「さあドラゴンさん、あなたが死ぬかアリシアが死ぬか、どちらか一つを選んで下さいよ」

「そんなのどちらも選ばせませんッ!」

 そう拒絶したアリシアはラフィンドルに教わった魔法で火球を作りだすと、それをブロイドの顔へと叩き付けた。

 不意をつかれ顔の半分を焼かれたブロイドは叫び声を上げ、思わずアリシアを手放す。
 その一瞬の隙を見逃さずアリシアはラフィンドルへと駆け出した。

 しかし、焼かれなかった方のブロイドの目がその後ろ姿を捉えていて──

「何をするかっ、この女ッ!」

 アリシアの背中を剣で深々と斬り裂いたのである。

「アリシアッ! おのれ人間めッ!」

 ラフィンドルの口から真っ赤な炎がこぼれた途端、それが一閃となってブロイドの身体を包み込む。

「ギャアアッ!」

 そして一瞬のうちにその身体は灰塵かいじんとなって消え果てた。
 それを見た騎士と兵士たちは悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出して行ったようだ。

「アリシアっ、大丈夫かっ!?」

 ラフィンドルは巨体揺らしながらアリシアの元へと急ぐ。

「ラフィさま……」

「ここだっ、俺はここにいるっ! 今すぐ魔法で治療をしてやるからな? 気をしっかり持つのだ、よいなっ?」

「ふふ、そんなに慌てたラフィさまを見るのは初めてです……私、何だかちょっと嬉しいかも……」

「今は話すな、気力を保つことに集中せよ、それで魔法の効果が変わってくる」

「はい……」

 だがアリシアの意識はその返事とは裏腹に遠退いてゆき、そのまま気を失ってしまったのであった────
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